表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
821/1418

第八百十五話「宣戦布告?」


 始業式の日、体育祭の出場競技も無事に決まって放課後になった。薊ちゃんと皐月ちゃんと三人で並んで久しぶりの五北会サロンへとやってきた。


「御機嫌よう」


「「「…………」」」


 ん?何かサロン内の空気が変だな?いつもなら嫌われている俺が挨拶をしても返事くらいはしてくれるというのに、今日のサロンでは俺が声をかけてもほとんど挨拶が返ってくることはなかった。一部は挨拶を返してくれている子もいるけど、それは九条派閥とか二条派閥の子くらいのようだ。


「何かあったのでしょうか?」


「詳しくはわかりませんが恐らく近衛様では?」


「あぁ……」


 後ろに居る皐月ちゃんと薊ちゃんに小さな声で聞いてみたら思ったよりもあっさりと答えが返ってきた。そういえばいつもなら鬱陶しいくらいの伊吹が黙っている。俺達がサロンに来たらすぐにでかい声でうるさく返事をする伊吹が黙っているから、他のサロンメンバー達も何となく黙っているのかもしれない。


 伊吹がいちいち他のメンバー達に俺達に返事をするなと言ってるわけじゃないだろう。ただいつもなら一番に返事をする伊吹が何も言わなかったから、伊吹が最初に返事をするのを待っていた他のメンバー達は返事をするタイミングを逃してしまったとかそんな所かな。


 当の伊吹は槐と一緒にいつもの席に座っている。ただ両腕を組んでこちらを睨んでいる。あの様子からすると何かにご立腹で俺達に返事をするのは嫌だと態度で示しているのかもしれない。


「まぁいいでしょう。席へ向かいましょうか」


「はーい」


「そうですね」


 伊吹が何にへそを曲げているのか知らないけどいちいち相手なんてしていられない。俺達は伊吹を無視していつもの席に向かった。


 まぁ……、何故伊吹が不機嫌そうにしているかは想像がつく。たぶんだけど未だに近衛家のパーティーでのことを怒っているんじゃないだろうか。あれからもう何日経ったと思ってるんだと言いたいところだけど、性格が面倒臭い伊吹は一度でもああいうことがあったら中々機嫌が直らない。


 仮に俺の予想通りパーティーのことでまだ怒っているんだとしても俺の知ったことじゃない。俺は伊吹に怒りを向けられるようなことはしていない。それどころかむしろ近衛家のパーティーにとってプラスになることをしたくらいだ。それで俺に感謝しろと言うつもりはないけど逆恨みされる謂れもない。


 伊吹のことを放っていつもの席に座って皐月ちゃんと話していると伊吹がチラチラとこちらを見ていた。何か言って欲しいのかもしれないけど、こちらは声をかけないし向こうからこちらに声をかけてくるつもりはないからどうすればいいか困っている感じだろうか。


 あるいはいつもだったらこちらが折れて声をかけてやる時もあるかもしれない。でも今回は別に俺は何も悪いこともしていないし、伊吹のご機嫌を取らなければならない理由もない。完全無視で皐月ちゃんと話して、薊ちゃんも派閥のメンバー達との話を終えてこちらにきた。


 伊吹はずーっとこちらをチラチラ見ては何やら咳払いとかをしていたけど、俺達はまったく意に介さず全てスルーしてサロンでの時間を過ごしたのだった。




  ~~~~~~~




 いつもの時間になったので三人で帰る。伊吹のことは完全に無視してたけどそれは別にどうでもいい。それよりも今日は百合達が来ていなかった。別に毎回全員が参加しなければならないわけじゃないけど百合達が三人とも揃って来てなかったのは珍しい。


 躑躅がいなかったんだから皐月ちゃんが無理に俺と一緒に帰る必要はない。高等科に入るまでは皐月ちゃんと薊ちゃんは俺が帰ってもサロンに残っていた。今日くらいは百合や躑躅達がいないんだからゆっくりしていても良かったんだけどな……。


「今日は一条様や西園寺様が居られなかったので皐月ちゃんや薊ちゃんも残っておられてもよかったのですよ?」


「う~ん……。正直に言うとサロンに居ても咲耶様が居られないなら意味ありませんし!」


「そうですね。躑躅がいないとしても一条派閥や西園寺派閥は私が居ては居心地も悪いでしょうから」


 なるほど……。これまで九年間も親しくしていた西園寺派閥の子達なんかは、躑躅が帰国して皐月ちゃんが追放されたからといって掌を返した形になっている。いくら本人達が進んでやっているわけじゃないとしても、家がそういう方針で指示を出しているのなら皐月ちゃんと親しくするわけにもいかない。


 そんな皐月ちゃんがサロンに残っていたら西園寺派閥の者達も気を使うということだろう。皐月ちゃんを裏切った者達のためにそこまで皐月ちゃんが遠慮する必要もないと思うけど、百合や躑躅がいないとしてもあんな場所に居てもあまり良い気持はしないか。


 そんな話をしながらサロンからロータリーに向かって歩いていると後ろから足音が聞こえてきた。かなり早足で歩いている男二人の足音だ。


「ふんっ!」


「……」


 後ろからやってきた足音の主は俺達を追い越し様に鼻を鳴らしていった。


「ごめんね」


「…………」


 そしてその鼻を鳴らした人物、伊吹の後を追って槐も頭を下げながら俺達を追い越していく。別に伊吹や槐のことなんてどうでもいいけど……、何がしたいのかわからない。そう思いながらも俺達は今見たものをさっさと忘れて話しながらロータリーへと向かった。するとそこには……。


「げっ……」


 ロータリーには伊吹と槐の他に欅も居た。そう、ロータリーに……。つまり藤花学園の敷地内だ。どうやら伊吹がまた欅を校内に招き入れたらしい。伊吹の客だというのなら勝手にすればいいけど欅は明らかにこちらをじーっと見ている。


「ふふんっ!欅は俺様をあれだけ苦戦させたライバルだからな!」


「「「…………」」」


 俺達がロータリーに近づくとまるでそれを待っていたかのように聞こえよがしにそんなことを言ってきた。でもお前ぶっちゃけ欅に負けてたじゃないか……。苦戦させられたっていうか伊吹の負けだったよね?ただ欅が止めを刺さなかったから有耶無耶になっただけだよね?


「…………」


「…………」


 そして欅は伊吹が何やら言っているのも聞かずに俺の方をじーっと見ている。まずこっち見んな。それからちょっとは伊吹の話を聞いてやれ。俺は関係ないけど一人でしゃべってる伊吹があまりに憐れだ。


「俺様と欅はもうマブだからな!」


「……そうだな」


 おぉ……、一応聞いてたんだな。あれで『マブ』と言ったことまでスルーされてたら本当に伊吹がピエロになるところだった。せめてそこだけでも返事をしてもらえてよかったな。それじゃ後は伊吹と槐と欅の三角関係を楽しんでくれ。俺達は帰るから。


「それでは御機嫌よう、皐月ちゃん、薊ちゃん」


「ええ。それではまた後で、咲耶ちゃん」


「咲耶様さようなら!」


 伊吹達とはサロンを出る時に挨拶をしたし、その時もこちらは声をかけたのに無視されてしまった。ロータリーで再びこいつらに声をかける理由はないので皐月ちゃんと薊ちゃんとだけ挨拶をして、俺達はさっさとそれぞれの車に乗り込んで帰ったのだった。




  ~~~~~~~




 高等科二学期の二日目。今日は朝からあちこちが騒がしかった。俺達には関係ないと思って騒がしい理由も気にしていなかったけど噂話が流れてきた。


「咲耶様!どうやら留学生が来たらしいですよ!」


「へぇ……。そうなのですか」


 正直あまり興味がない。そりゃ学校だったら留学生くらい来てもおかしくはないだろう。


 ……いや、待て。待て待て待て……。ゲーム『恋に咲く花』では留学生なんて単語すら登場しなかったぞ。これはまた何かのフラグじゃないだろうな?


 もちろんゲーム中にも本当は留学生も居たけどゲームに関わらないから登場しなかっただけという可能性はある。ゲームなら容量やシナリオや文字数の問題で余計な人物や出来事は全てカットされている。だから藤花学園にも留学生が居たけど、シナリオ上関係がないから名前も登場しなかったとしても不思議ではない。


 この世界は現実の世界となったから、ゲームでは語られていなかったそれぞれの人生や日常が人の数だけ送られている。だからゲームでは未登場だった留学生の話題が俺の耳にも入って来ただけ……、というのなら何の問題もないだろう。でもそうじゃなかったら?


 ゲーム中に留学生なんて特異なキャラがいれば何の言及もないのはおかしい気がする。ということはゲーム『恋に咲く花』には本当に留学生なんていなかったということにならないだろうか?ならば今聞いた留学生というのはゲームには登場しなかった要素ということになる。そういう『この世界特有の要素』が出てくると大体碌なことになっていない。


 もし……、万が一……、その留学生というのがこの世界特有のものであり、しかも俺達にとって碌でもないことだったとしたら……。


「咲耶ちゃんも留学生に興味がありますか?」


「え?あぁ……、いえ、そういうわけではありませんよ」


 ちょっと考え事をしていると皆に俺が留学生に興味を持っていると勘違いされてしまったようだ。確かに意識はしているけど興味とは少し違う。むしろ不安材料というか心配事とかその辺りの気持ちだろう。俺の考えすぎで何もなければいいんだけど……。




  ~~~~~~~




 お昼休みに皆で食堂へとやってきた。俺達が座って間もない頃、こちらに凄い勢いで近づいてくる人物が……。


「オーウ!アナタがサクヤデース?」


「それでは伝わらないでしょう。貴女が九条咲耶さんですね?」


「はぁっ?貴女方は一体……」


 ステレオタイプの似非アメリカ人みたいなしゃべり方の金髪碧眼の大きな女の子と、シルバーかグレーかという色素が薄くて消えてしまいそうなほど儚い雰囲気の、西洋人にしては小柄に思える女の子が俺の前にやってきた。どこからどう見ても外国人という風貌と今まで見たこともない相手だ。どう考えても件の留学生というのはこの二人だろう。


「間違いないデース!」


「ええ。事前の情報通りね」


「情報?」


 俺の問いかけには答えずに二人の留学生が不穏な言葉を口にした。『事前の情報通り』ということは、この二人は最初から俺の顔も、恐らくここにいるであろうことも分かってやって来たということになる。顔や日頃の居場所まで知っていてやって来たということは俺はこの二人からマークされているということだ。


 会ったこともない外国人の少女二人にマークされている理由……。それは……。


「ワタシはデイジー・ロックヘラーデース!」


「私はガーベラ・ロスチルドです。どうぞよしなに。……これから長いお付き合いになるでしょうから」


「――ッ!」


 ロックヘラーにロスチルドだって!?この世界に生きていてその名前を知らない者はいないだろう。


 この国では近衛家がナンバーワンの大財閥だ。でもそれは世界的に見ても飛び抜けてナンバーワンなわけじゃない。むしろ世界的には近衛家を超えるような大財閥は他にもいくつもある。その中の一つがロックヘラーとロスチルドだ。


 新大陸で巨万の富を築き上げた大財閥ロックヘラー……。個人資産という意味では長者番付に出てくる他の人物達の方が資産を持っているかもしれない。しかし財閥としての資産や影響力という意味においては新興の資産家などとは比較にならない影響力とグループ企業を抱えている。


 旧大陸時代から世界の富を集めている大資産家ロスチルド……。古い時代から旧大陸で圧倒的な資産と影響力を持っていた一族だ。今でこそ表向きの陰は薄くなったようにも思えるけど、現在でもブイブイ言わせている新興勢力に資金提供しているとも言われている。今や自分達は表に出ず、常に裏から世界を牛耳っているとも言われている。


 ロックヘラーもロスチルドも表向きの資産や影響力や抱えている企業だけでも近衛家を圧倒している。しかし彼らの本領はそんな表向きの資産や企業ではなく、裏の世界にまで根を張っているといわれる影響力や資金力だ。


 実際に公表されている資産や影響力よりも、裏で見えない所で動かされている資産や影響力の方が遥かに強いとさえ言われている。そんなロックヘラー家とロスチルド家の子女が何故このタイミングで藤花学園に現れる?もしゲームでこんな人物が居たのなら絶対に触れられているはずだ。それがなかったということはゲーム中には登場していない。


 彼女達はこの世界が現実になったから出てきたゲームにまったく登場しなかった人物達ということになる。


「お~っほっほっほっ!お久しぶりですわね!九条咲耶!」


「え……、はぁ……?お久しぶりです、一条様」


 まぁ久しぶりと言えば久しぶりなのかもしれないけど……、何ともこのタイミングで現れた百合に気が抜ける。でも今百合がやってきたということは……。


「デイジーとガーベラはわたくしのお友達ですのよ!そして九条咲耶!貴女はわたくし達の前にひれ伏すことになるのですわ!お~っほっほっほっ!」


 あぁ……、やっぱりか……。これまでの一条家の不可解な動き……。それは五北家の残り四家を同時に相手にしても絶対に勝てるという勝算があったから……。それはすなわちロックヘラー家、ロスチルド家と連携して協力しているという根拠があったからなんだな。


 これはつまり……、一条家とロックヘラー、ロスチルド両家による宣戦布告というわけか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 絶対この後百合達は咲耶ちゃんを話題に女子トークとかやる流れなのでは(゜ω゜)
[一言] え、えらいことや 戦争じゃ 世界を股に掛ける百合大戦の始まりじゃ
[一言] 一条百合の言ってる「ひれ伏す」は意味が違うと思うんだ。きっと。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ