小話集04
いつも読んでいただきありがとうございます。
本日更新の『小話集』は本編とは関係ない話です。外伝的なものや、パラレル的なものであり、本編と時系列が連続しているとは限りません。設定や展開的に本編とは異なるパラレル世界である可能性があるかもしれません。漫画でいう四コマギャグ回とかそういうノリで読んでいただければと思います。
本編と矛盾する話があったり、時系列的にいつの話であるか前後していたり飛んでいたりしているかもしれませんがご了承の上お読みください。
高等科に入学して初めての夏休みに入って間もない頃、椿は自宅の窓際で外を見ながら『ほぅっ』と溜息を吐いていた。
「はぁ……。咲耶ちゃんに会えないと世界が色褪せて見えますね……」
まだ夏休みに入ってそれほど経っていないというのに、椿にはもう何年も経ったかのように一日一日が長く感じられた。
咲耶ちゃんと会いたい、咲耶ちゃんと話したい、咲耶ちゃんの息遣いを感じたい。思いは募るばかりで、しかし会えない時間が過ぎてどんどん胸が苦しくなる。
「嗚呼……、咲耶ちゃんに会いたい……。咲耶ちゃん……。咲耶ちゃん咲耶ちゃん咲耶ちゃんっ!」
カリカリカリカリと窓の縁を爪で引っかく。興奮状態にあるのか頭に血が昇ってやや赤くなり、ハァ、フゥと呼吸が少し荒くなっている。しかしそれも少しの間のことで、スーッと表情を和らげた椿はグリンッ!と首を回して扉の前に控えるメイドに声をかけた。
「気分転換にお出かけしましょう!もしかしたら出先で『偶然』『咲耶ちゃんとばったり出会える』かもしれないわ」
「……かしこまりました」
控えていたメイドは平静を装いそう答えて頭を下げた。しかし内心ではそれどころではない。部屋を出たメイドは急いで諜報部に『今日の九条咲耶様のご予定』を照会して椿お嬢様をお連れする場所を確認したのだった。
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気分転換に出かけた椿は家から少し離れた高級店街を歩いていた。お付きのメイドが引き攣った笑みで椿を先導する。
「こちらです、椿お嬢様」
「そんなに早く歩いてははしたないわ」
「もっ、申し訳ありません!」
椿お嬢様の言葉にメイドは慌てて頭を下げた。しかし急ぐ必要がある。いくら予定を確認していると言ってもいつどう動くかわからない。先ほど問い合わせた時点ではこの先の店に居ることは確認したがこうしている間にも移動してしまっているかもしれないのだ。もし今向かっている場所から移動してしまっていては大変なことになる。
「本日のお買い物ですがこちらのお店はいかがでしょうか?」
「そうね……。ここにしましょうか」
椿お嬢様はにっこり笑って頷かれた。しかしメイドにとっての勝負はここからだ。もし……、万が一にも入店してあの方が居られなければ……、それを想像してブルリと震えたメイドは覚悟を決めて店に椿お嬢様を案内した。
「あら?椿ちゃん?」
「まぁ!咲耶ちゃん!御機嫌よう」
「御機嫌よう。椿ちゃんもお買い物?」
「そうなんです。何か必要なものを買いに来たわけではないんですけど、少し気分転換もかねて……」
果たして店内には……、九条咲耶様が居られた。それを見てメイドはホッと胸を撫で下ろす。諜報部の情報は確かだった。その情報に何度も救われている。しかしそれでも実際に相手が居ることを確認出来るまで不安はなくならない。今日も情報通り居てくれてありがとうと行動が素直な九条咲耶様に感謝する。
予定外の行動ばかりされる徳大寺様や、時間を守られない河鰭様などを探している時はもっと大変だ。ただしそれらの方を探している時は椿お嬢様も普段の淑女然とした椿お嬢様なので、万が一予定の場所に居なかったとしてもそれほど問題にはならない。
しかし九条様だけは違う。もし椿お嬢様が九条様にお会いしたいと言っているのに見つけることが出来なければ……。
「~~~っ!」
北小路家のメイドは再びブルリと体を震わせた。思い出したくもない。思い出してはいけない。
「それにしても偶然同じ時間に同じ店に来て出会うなんて、今日は椿ちゃんに会えてとても幸運な日です」
「――ッ!」
咲耶のその言葉を聞いた瞬間、椿は瞳をハートマークにしてゾクゾクと背中を震わせた。顔を手で覆っているがその下の口元はだらしなく半開きになり緩んでいる。しかしそれは一瞬のことですぐに表情を引き締めた椿はにっこり微笑んで咲耶の言葉に応えた。
「咲耶ちゃんに出会えて幸運なのは私の方ですよ。……あの、それで……、お時間があればで良いのですが一緒にお買い物をしませんか?」
「ええ。そうですね。折角椿ちゃんと出会えたのですし一緒にお買い物をしましょう」
「ありがとうございます咲耶ちゃん」
「いいえ。私も椿ちゃんと一緒の方がうれしくて楽しいですから」
「~~~~~っ!!!」
咲耶の言葉を聞いた瞬間、再び椿は瞳をハートマークにして下腹部を押さえた。よだれが垂れそうになるのを手で隠して必死に堪える。下腹部がキュンキュンして切ない。
「咲耶ちゃんは何を買いに来られたんですか?」
これ以上ビックンビックンしていては咲耶に怪しまれてしまう。何とか取り繕って平静を装いそれらしく問いかける。それに咲耶は何も疑問も持たずににっこり笑顔で答えてくれた。
「夏物のインナーを少し……。お恥ずかしながらまた少しきつくなりまして……」
「~~~~~っ!!!」
恥ずかしげに頬を染めて、口元に手を当てて視線を逸らしながらそう言う咲耶に椿は再びビックンビックンと震えた。あれだけ大きな胸だというのにまだ成長しているらしい。しかもそれを恥らいながら報告している咲耶に椿の興奮はとどまる所を知らなかった。
「それは大変でしょう。一緒に選びましょう?」
「はぃ……」
恥ずかしそうにしながらも素直に頷いている咲耶が可愛すぎる。もうとっくに夏の季節だというのに、本来なら堂上家のお嬢様が今更夏物など慌てて買うことはない。だがサイズが合わなくなってきてしまったのなら止むを得ない。
事前に用意していたインナーが入らなくなっているなんて一体どれほど急激に膨らんでいるというのか。それを想像するだけで椿の瞳はハートマークになり、下腹部がキュンキュンしてよだれが垂れそうになる。
「これなんてどうでしょう?可愛いと思いませんか?」
「かっ、可愛いとは思いますが……、私には少し可愛すぎませんか?」
椿はあえて可愛すぎて咲耶が日頃着用しないようなインナーを選んで薦めた。別に咲耶が着ていてはおかしいということはない。しかし咲耶はこの手の可愛すぎるデザインのものは着用しない。だからこそ椿はあえてそれを薦めたのだ。咲耶が恥ずかしがることがわかっていたからこそ!
「そんなことはありませんよ。そうだ!折角ですから試着してみてはいかがですか?一度試着してみれば案外気に入るかもしれませんよ」
「……え?でも……」
「さぁさぁ!試着したからといって買ったり今後も着用しなければならないわけではありませんから!」
「あっ!椿ちゃん!」
椿は強引に咲耶に試着を薦める。実際に咲耶が買うとか、今後はこういう可愛い物を着用するようになるとは思っていない。ただ試着させてそれを自分が見たいだけだ。これまでもそうだったように咲耶は試着を薦めて強引に着せれば一応着てくれる。そしてそれを品評するという体で見ることが出来るのだ。
「咲耶ちゃん、着替え終わりましたか?」
「はぃ……」
試着室に押し込むと咲耶は渋々着替えてくれた。しかしいつまで経っても出てくる気配がないのでこちらから積極的に声をかけていかなければならない。
「わぁっ!可愛い!とても良く似合ってますよ!」
「うぅ……」
咲耶が試着したインナーはレースのヒラヒラなものだった。薄く透けているので下がうっすら見えている。もちろんブラやパンツは脱いでいないので局所が丸見えというわけではないが椿の狙い通りのショットだった。
「やはり私にはこういったものは……」
「それではこちらはどうでしょう?これも良いと思いますよ。これも試着してみましょう!」
「あっ!うっ!ちょっ!?」
椿は手を緩めない。次々と試着させるための際どいインナーを持ってきては咲耶に押し付ける。一応抵抗しようとする咲耶ではあるが、椿が善意で薦めているのに無下に断るのは心苦しく結局全て試着していく。
「(ハァッ!ハァッ!さっ、咲耶ちゃん!もう駄目ぇ~~~っ!)」
散々咲耶に際どいインナーを試着させた椿は、ついに咲耶の目が向いていない瞬間にガックンガックンと体を震わせたのだった。
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気分転換に買い物に出かけた椿は出先で『偶然咲耶と出会って』一緒に買い物を楽しんだ。椿は元々何か買いたかったわけではないのでほとんど大した物は買っていない。ただ気分転換に出かける前のドロドロとした空気から一転してとても上機嫌なことがその表情から窺える。
「ふふっ……。うふふっ!今日はとっても良い日でした……。あっ!そうです!日記に書きましょう!」
『今日は気分転換に買い物に出かけるとお店で偶然咲耶ちゃんと出会いました。そこで咲耶ちゃんと一緒に買い物をすることになり、咲耶ちゃんのたくさんの試着姿を見ることが出来ました。またこんな幸運な偶然があると良いな』
「ふっ……、ふふっ……、うふふっ!あはははっ!」
「…………」
扉の前で控えていたメイドは、上機嫌に日記を書いている椿お嬢様を後ろから見ながら、次はあと何日もつだろうかと思いながらキリキリ痛む胃を押さえていたのだった。
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高等科一年の夏休みのある日、茜は北小路邸へと遊びに来ていた。
「椿ちゃん、遊びに来たよ」
「いらっしゃい茜ちゃん。どうぞ、かけて」
北小路家の家人に案内されてきた茜は椿の部屋へとやってきた。二人は幼少の頃からこうして遊んでいるので勝手知ったるというやつだ。家人達も茜などの古くからの友人が訪ねてきた場合は軽く対応している。堅苦しい対応をするのはかえって失礼になるという認識だった。
「今日も暑いねぇ……。それで今日はどうする?」
「茜ちゃん!?女の子がそんなことをしてはいけないっていつも咲耶ちゃんも言ってるでしょう!?」
外からやってきた茜は椿の部屋で腰掛けるとスカートを扇いでいた。それを見て椿が悲鳴に近いような声を上げて茜を止める。
「え~?ここには私と椿ちゃんだけだし平気でしょ?」
移動は車で、家の中に入ってからは快適な空調が効いている。しかし少しでも外に出たり歩いてきた茜には暑く感じられた。だから無意識にスカートを扇いでしまったわけだが、ここは椿の部屋で今は室内に二人しかいない。さらに咲耶グループの暗黙の了解としてインナーまで穿いているのだ。
ここでスカートを扇いだからといって誰に見られるわけでもない。そして仮に見られても茜もちゃんとインナーを穿いている。インナーを穿いているからこんなことをしてしまうほどに暑いのだという気もしなくはないがそれは言わない。
「普段の心構えや行動が咄嗟の時に出てしまうんです!そうやって扇ぐ癖がついていては他の人が居る場所でもつい扇いでしまったりするかもしれません。それに『誰もいないから』や『見られても大丈夫だから』は理由になりませんよ!」
「も~……。椿ちゃんまでそういうことを言う~……」
茜は少しげんなりした顔で肩を竦めた。咲耶グループでは咲耶や皐月の小言が多い。ご令嬢としての振る舞いだとかそういうことにうるさい。薊や茜や、場合によっては譲葉辺りはそういったことにルーズだ。咲耶や皐月、椿辺りは厳しい方だろうか。
椿と茜は昔からの仲良しで二人で遊ぶことも多い。性格はお堅いタイプ寄りの椿と、ルーズ寄りの茜で逆のタイプ同士とも言えるかもしれないが、むしろだからこそ二人は馬が合うのかもしれない。
ただこういう時にお小言を言われるのを茜は嫌う。椿もこんなことを言いたくて言っているわけではないが、茜のためを思えばこそ注意している。それなのにちゃんと聞いてくれなければ椿の方も考えがあるというものだ。
「そうですか……。私になら見られても良いと?」
「いいよ別に。どうせ体育とかでも一緒に着替えてるし」
「へ~……。そうですか。では遠慮なく……」
「え?ちょっ!?椿ちゃん!?」
そう言った椿はかぶりつきで茜のスカートを覗き込んだ。座ってスカートを扇いでいた茜の前に膝をついて座り、顔を近づけ、スカートの中を覗き込む。
「なっ!?なっ!?椿ちゃん!それはいくら何でもちょっと……」
さすがに目の前でスカートの中を覗き込まれて茜は顔を真っ赤にしてスカートを手で押さえた。しかし椿は容赦しない。
「どうしたんですか?私に見られても平気なんでしょう?さぁ、見せてください」
「ちょっ!?捲らないで!スカート捲っちゃ駄目!」
椿が茜の手をどけて無理やりスカートを捲る。自分の前に跪いている椿がスカートを捲ってその中を覗こうとしているのだ。いくらインナーを穿いていると言っても恥ずかしすぎる。茜は必死にスカートを押さえようと抵抗するが椿の力は思いの外強かった。
「駄目っ!だめぇっ!椿ちゃん!もう許してぇ!」
「どうしてですか?見られても良いんでしょう?見せてください。茜ちゃんの全てを……」
「椿お嬢様、お茶をお持ち……、あっ」
「「あっ……」」
椿が『よいではないか、よいではないか』とやっていると部屋の扉が開かれてお茶とお菓子を持ったメイドが入って来た。椅子に座って無理やりスカートを捲られている茜と、跪いてスカートを捲りながらその中に顔を突っ込んでいる椿、そしてお茶とお菓子を持ったまま固まっているメイド。
「…………」
メイドは何も言わずに黙って扉を閉めた。
「「…………」」
「ちょっ!ちがっ!」
「待ちなさい!貴女は勘違いをしていますよ!これは違うんです!」
扉を閉めて何も見なかったことにしようとしたメイドに向かって茜と椿は慌てて追いかけ必死に弁明した。しかし弁明しようとすればするほどメイドは生温かい目を二人に向けて一言『私は何も見ておりません』と言ったのだった。




