第七百四十三話「中等科卒業旅行 後編」
昨晩は凄い経験をしてしまった……。そんなことを思いながら悶々としていたけど夜はぐっすり眠って良い目覚めだ。何日も百地流の修行をしていないと体が鈍って体力も有り余って寝付けなくなるけど、たまの一日二日くらいなら良いリフレッシュになる。
「おはようございます咲耶様!」
「おはよう薊ちゃん」
同室のメンバー達と朝の準備をしてから別室に泊まったメンバー達とも合流する。今日も予定は一杯なので早速動いていくことにしよう。
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朝食を済ませた俺達は荷物を郵送してからホテルを出た。今日は西海岸に沿うように走っている電車で結構な距離を移動する。ただ目的地に向かって電車で移動するだけならば二~三時間もあれば最寄駅までは到着するだろう。でも俺達の場合はただ移動することが目的じゃない。途中で観光もしていくから朝から出かけても今晩泊まるホテルに着くのはそれなりの時間になるだろう。
「それじゃあ電車に乗ってしゅっぱーつ!」
「おーっ!」
皆でキャッキャ言いながら電車に乗り込む。途中で観光したり休憩したりしながらやってきたのは湾の対岸との間を行き来しているフェリーの乗り場がある駅だ。まぁ俺達はフェリーには用はない。俺達が向かうのはフェリー乗り場ではなくロープウェー乗り場だ。
駅から沿岸沿いを移動してロープウェー乗り場へとやってきた。何かロープウェーを見るだけで少しテンションが上がる。
「うぉーっ!ロープウェーだーっ!」
「まぁ!譲葉ちゃんったら。ふふっ」
海を見れば『海だー!』。ロープウェーを見れば『ロープウェーだー!』って譲葉ちゃんは本当に元気で面白い子だ。蓮華ちゃんのことはいじりまわしてるからたまに怒られてるけど、やっぱり薊ちゃんや譲葉ちゃんみたいに喜怒哀楽がはっきりしていて感情表現が激しい子は一緒に居て面白い。
もちろん感情表現が苦手な子と居ても面白くないという意味じゃない。ただこうまで元気で無邪気にはしゃがれるとこちらまで楽しい気分になってくる。
「うわぁ!」
「凄いですね!咲耶様!」
「ええ。本当に凄い景色ですね」
俺もボキャブラリーが貧相になっている。でもそうなるのも頷ける。人はあまりに感動したりすると同じような言葉しか言えなくなってしまうものだ。
昔から盛んに採石されたために露出した岩肌が鋸の歯のように見えることで有名な山へとやってきた。ロープウェーの山頂駅から見える景色だけでも本当に凄い。湾が一望出来る。
山頂から移動していくと綺麗に切り取られている岩肌が見える。その間を通って狭い場所へと入っていくと……。
「おー!これかー!わははー!」
「凄いですね」
もう皆凄いしか言えていない。でもその気持ちもわかる。石切の跡に百尺もある観音が彫られている。これを見るだけでも圧倒されるのは間違いない。でもここでの楽しみはまだ先だ。百尺の観音様を見てからさらに進むと……。
「こっ……、怖いです……」
「うひゃーっ!」
「ひぃっ!」
まさに地獄をのぞくという言葉通りの切り立った先へと行けるようになっている。一応手すりがあるけど確かに怖い。
「咲耶ちゃん、よく先まで行けますね……」
「私は無理です……」
「私も……」
「う~ん……。折角ですので先に立ってみるのも良いと思いますが……。無理はしない方が良いでしょうね」
結局先まで行ったのは俺と皐月ちゃんと芹ちゃんだけだった。他の子達は前に出ようとしない。折角の機会だから見ておけば良いのにとは思うけど、怖がっている子に無理強いするのは良くない。怖いというのなら無理をしないのが一番だ。
「ここは何だか不気味です……」
「あははっ!こわーい!」
地獄をのぞいた後は石仏がずらりと並んでいる辺りを通る。これほど石仏が並んでいると皆が言うように何となく気味の悪さがある。羅漢道を通って次にやってきたのは……。
「でっけーっ!」
「譲葉ちゃん……、何か段々言葉遣いが悪くなっていますよ」
「あははっ!ごめんごめーん。あんまりすごくてさー!」
まぁその気持ちはわかる。やってきたのはこの国で一番大きい大仏だ。有名な鎌倉や奈良の大仏よりも遥かに大きい。奈良の大仏より二倍以上大きいのだからその大きさがどれほどのものかわかるだろう。
他にも色々と見所がたくさんある。あちこち参拝したり見学したりしながら俺達は駐車場へとやってきた。ロープウェーで登ってきた俺達だけど、ここの見学をした後また電車に乗るために駅へ向かわなければならない。同じ駅へ戻るのではなくここで用意してあった車に乗って次の駅へと向かう。
「あ~……、歩き疲れましたね!咲耶様!」
「う~ん……。皆さん少し体力や筋力がなさすぎなのでは……?」
何だか皆疲れているような気がする。昨日も思ったけどいくら中等科の女の子とはいえ体力や筋力がなさすぎじゃないだろうか。ここからはマイクロバスに乗って駅へ向かうのである程度休める。昨日のように無理に休憩をする必要はなさそうだけど、皆ももうちょっと鍛えた方が良いんじゃないだろうか。
そんなことを考えているうちにバスは動き始めて次の目的地へと向かっていった。また電車に乗り、時々沿線付近の観光をしてグルリと半島を南下して東側へと回る。たまに観光しながらやってきたのはとある島へと渡る渡船の乗り場だ。
「え?島ってこんな近くなんですか?」
「泳いで渡れそうですね!咲耶様!」
「見た目は近くてすぐに渡れそうですけど、海流などもあるでしょうし下手に海に下りては危険でしょうね」
半島の東海岸のすぐ近くにある島だけど近いからと思って泳いで渡ろうとしたら危ないかもしれない。もちろん皆は海に入って泳いで渡ろうとは思っていないけど、簡単に渡れそうだと思ってしまう距離だ。渡船に乗って島へと渡った俺達は何もない島を散策する。
「岩肌が凄いですね」
「ほんとだねー!」
「あっ!向こうがさっきの乗り場ですね!」
渡ってきた本州の見える端までやってきた。本当にすぐそこで簡単に渡れそうに見える。まぁわざわざこんな寒い時期に濡れてまで泳いで渡ろうとは思わないけど……。弁財天と寿老人が合祀されているらしい祠を参拝してから逆に進む。
「へぇ?こんな所、通っていいの?」
「何か普通に民家の中を通っているみたいですね……」
普通の民家の庭を通り抜けるように進んでさらに奥へと向かう。とある宗祖が朝日を拝んだと言われる変な形の岩を見て、とある幕府を開いた人の馬蹄石を見た。小さな島だけど結構見所がたくさんある。そりゃ観光名所、名勝として有名なんだからそれなりに色々とあるだろう。あと景色が凄い。もう何度も凄いしか言ってないけど本当に凄い。
「侵食の跡が凄いですね」
「本当ですね。隙間に何か棲んでそうです」
本州とは逆の海の方へ進んでいくとかなり岩が侵食されていた。こういう海岸もあちこちで見られるけど同じものは二つとない。あちこちを見てみればその場所その場所それぞれの特徴や違いがある。
島の見学を終えた俺達は再び半島側へと戻って北上を続けた。とはいえ電車の旅は一旦終わって車に乗り換えてスカイラインを走る。スカイラインと言っても社長が犯罪を犯して逃げた某自動車メーカーの車種じゃない。山の上を走る道路のことだ。
この辺りはダムが多いけど道路上にあって通り過ぎたりしたのは二つだけだ。二つ目のダムのダム湖湖畔にあるホテルにやってきた。今日はここで泊まることになっている。
「ついにこの時がきましたね!」
「咲耶ちゃんと温泉だー!」
「え~……、皆さん落ち着いて……」
今日は昨日同室じゃなかったメンバーと同室になっている。薊ちゃん、茜ちゃん、譲葉ちゃん、芹ちゃんと一緒に三階のダム湖が見渡せる広い部屋だ。
「それじゃ早速行きましょう!」
「あっ!ちょっ!」
薊ちゃん達に手を引かれ、背中を押され、やってきたのはこのホテルを選んだ理由でもある温泉だった。ここのホテルを選んだのは二つの理由がある。そのうちの一つがこの温泉だ。
「チョコレート色の温泉!」
「チョコレート……」
「「う~ん?」」
このホテルの温泉はチョコレート色の源泉掛け流しが売りとなっている。貸切半露天風呂から見えるダム湖は絶景だ。でもこの温泉……、チョコレート色……、なのか?
「チョコレートというよりは……」
「薄めた赤ワインのようですね」
皆はちょっと期待しすぎたようだ。大人なら確かにチョコレートと言えばそうも言えるかもしれないと納得出来なくもない。でも子供だったら期待しすぎてちょっとがっかりするかもしれない。ただ面白い色がついているのは確かであり、ダム湖を望む半露天風呂は確かに良いものだった。
ただ五人で入るには少々狭かったけど……。
昨日に引き続き皆に背中どころか手足の指の間まで綺麗に洗われてしまった俺はもう夜は半分呆けていた。こんなことを味わってしまってよかったんだろうか……。俺は何かいけないことをしたような気がして落ち着かない。でも落ち着かないけどふわふわと天国にいるような感じもして呆けてしまう。
「明日の朝は早いので早く寝ましょう」
「「「はーい!」」」
明日には帰るけど起きてすぐに帰るわけじゃない。明日は早朝から行くところがある。早く寝て明日に備えよう。
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俺にとってはそれほど早くはないけどそれなりに早い時間に起きて皆で出かける準備をする。ホテルから出て帰るわけじゃなくてちょっとしたイベントだ。
「おはようございます咲耶様!」
「おはようございます咲耶ちゃん」
「おはよう皆さん。それでは向かいましょうか」
「「「はーい!」」」
皆で朝から出かける。車で十分ほどと言われていたけど少し早めに向かう。来る時に走ってきたスカイラインを戻ってやってきたのは洞窟と滝が有名な場所だ。
ある程度舗装された道を歩いてくると鐘があった。薊ちゃんや譲葉ちゃんは鐘を鳴らしたそうにしていたけど早朝だしやめておく。鐘があるところからすでに洞窟が見えている。
「あれですね!」
「早く降りましょうよ!」
「あまり走ってはあぶないですよ」
皆で川へと下りていく。もう川の中かと思うような場所から岩をくりぬいた洞窟を見てみれば……。
「あっ。これが噂のハートでしょうか?」
「う~ん?まぁ……?見えなくもない?」
「ハートだー!」
特定の時期、三月と九月に丁度この洞窟から太陽の光が差し込み、水面の反射で横に向けたハート型のように見えると言われている。俺達は見ごろより少し早めに来てしまったけどそれでも一応ハート型っぽく光が反射していた。
ただチョコレート色の温泉もそうだったけど、あまり過度な期待をしすぎてはいけない。大人ならこれでもまぁそう見えるかと思って満足するだろうけど、子供にあまり期待させすぎるとちょっとがっかりしたりするかもしれない。
「限られた時期の限られた時間しか見れないということに価値があるのでしょうね」
「そうですね」
日の出や日の入りなどの特定の時間に丁度良く光が差してはじめて見ることが出来る。今日もこのために近場のホテルに泊まり、朝早くからわざわざここまでやってきた。見ごろは一時間ほどしかない。天気が悪くても時間外でも見られない景色を目に焼き付けて写真を撮る。
「さぁ、それでは戻りましょうか」
「「「はーい」」」
皆も満足したのか何も言わずにぞろぞろと帰る。帰りは湿地の上にかかった橋の上を歩いた。下も歩けないほどの湿地ではないように見えるけど色々な生物もいるらしい。シーズンになれば蛍が飛ぶそうだ。洞窟のハート型は今しか見れないけど、蛍だとか、紅葉だとか、他のシーズンも色々と見所があるらしい。
蛍の棲む湿地を抜けた俺達はホテルへと戻ってきた。朝食を済ませて荷物を郵送に出したら帰宅だ。でもすぐに帰るわけじゃない。ホテルの近くからまた別の路線に乗って電車に揺られ、いくらか観光をしながら半島の西海岸へと戻ってきた。
車に乗り換えて海底トンネルを通るのも悪くなかったけど今回のコンセプトは出来るだけ電車の旅だ。車を使うしかない場合以外は出来るだけ電車を使う。帰りも電車に揺られてぐるっと湾の沿岸を通って帰った。
「もう帰ってきてしまいましたね……」
「二泊三日なんてあっという間でしたね……」
「咲耶ちゃーん!今夜はうちに泊まりにおいでよー!」
「あはは……。まぁ皆さんもお疲れでしょうし明日からはまた学園ですから……」
本当にあっという間の二泊三日だった。まだまだ遊び足りないとか、帰るのが惜しいという気持ちはある。でもまた明日から皆で一緒に学園に通える。これでお別れというわけじゃない。
「それでは皆さん……、御機嫌よう」
「御機嫌よう咲耶ちゃん」
「さようなら咲耶様!」
皆と手を振ってから別れて、俺は迎えに来ていた車に乗って家へと帰った。
……はて?何か忘れているような?
いつも読んでいただきありがとうございます。
アメリカ修学旅行はもう終わったつもりで、今回の千葉卒業旅行の旅程や行き先の詳細が知りたいかどうかと思ってお聞きしたのですが、思わぬ所でアメリカ修学旅行の詳細が知りたいという意見がありましたのでここにアメリカ修学旅行の詳細を書きます。
でもアメリカのルートが知りたいとは言われていましたが今回の卒業旅行のルートも知りたいとはなかったので千葉卒業旅行のルートは必要ないということなんでしょうか……。
それとアメリカ修学旅行は随分前で作者も参考データを残していないので、解説が抜けていたり順番が前後していたりする箇所もあるかもしれませんがご了承ください。
都内出発→ダレス国際空港到着→移動と時差のためホテルへ向かいながら軽く観光だけしてポトマック川とロック川の近くのホテルで一泊目
翌朝モール地区へ→リンカーン記念堂→ワシントン記念塔→タイダルベイスン→スミソニアン博物館郡、国立航空宇宙博物館→ホテルへ戻って二泊目
前日と別ルートでホワイトハウスへ→アメリカ合衆国議会議事堂→スミソニアン博物館郡、国立自然史博物館→ホテル三泊目
ホテルを出て空港方面へ→空港に隣接しているスミソニアン博物館郡、国立航空宇宙博物館別館、ウドバーハジーセンターに立ち寄り、ダレス国際空港から帰国
移動時間と時差のため合計三泊五日




