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第七百九話「逆接待……、逆介護?」


「御機嫌よう、皆さん」


「おはようございます咲耶様!」


「御機嫌よう咲耶ちゃん」


 翌日いつも通りに登校してきたら何故か皆もう集合していた。昨日は別に大きなイベントがあったわけでもなく、今日も朝から何かあるわけではない。それなのに皆が集まっているので最初は驚いた。でも席に着いて荷物を片付けていると皆の会話が聞こえてきて、何故早く来ていたのか理解出来た。


「昨日のお茶会は楽しかったですね」


「今日の放課後が待ち遠しいです」


 皆昨日のキャバ……、の話題で持ち切りだ。今日の放課後のことも楽しみにしているらしい。


 正直俺は小さなイベントだと思っていた。ただ放課後の勉強会の時間に、昨日と今日だけ少し遊びを入れる程度のものという認識だった。でも皆にとってはこの放課後のキャバ……、もといお茶会はとても楽しみで大きなイベントだったようだ。


 時間の短さやイベントの規模的にそれほど大したイベントではないと思ってしまっていた。でも皆にとっては時間の長短や規模の大小は問題じゃなかったんだ。皆で集まってああやって遊んだことそのものが大切で重要だったんだな……。


 それなのに俺はまるでキャバ……、のようだと邪なことを考えたり、小さなお茶会のようだと軽く考えてしまっていた。皆はこんなに真剣に、そして純粋に取り組んでくれていたというのに……。俺って奴は最低だ。自分の欲望に流されてこんな純真無垢な子達を性的な目で見ていたなんて……。


「(ぐへへっ!昨日の咲耶ちゃん、とても可愛かったですね!)」


「(接待してもらうのもよかったですけど、こちらが接待した時の初心な咲耶ちゃんの反応も最高でした)」


「(今日もまた咲耶ちゃんの痴態が見られるかと思うと……、ジュルリ)」


 皆が楽しそうにおしゃべりしている。きっと昨日のことを思い出したり、今日のことについて話しているんだろう。俺も皆を性的な目で見るようなことは抑えて、純粋に皆とお茶会を楽しむつもりで放課後の逆接待を満喫しよう。




  ~~~~~~~




 あっという間に放課後になり、今日もまたいつもの空き教室で、いつもとは違うお茶会を開く。普通のお茶会と違ってまるで夜のお店の接待のようだけど、純粋無垢でお嬢様育ちの皆はそういうことは考えていない。たまたまこういう形式になったのがそういったお店と似ている形になっただけだ。


「さぁ咲耶ちゃん」


「「「いらっしゃいませ」」」


「はぅっ!」


 手を取られて入った空き教室は昨日以上に完全に夜のお店のようになっていた。エスコートされて空き教室に入ると女の子達が両側にズラリと並んで俺を出迎えてくれる。全員で綺麗に整ったお辞儀をされて少し気分が高揚したのは内緒だ。


「咲耶様、お席へご案内いたします」


「はい」


 椛に案内されて昨日と同じコの字型の席の奥の真ん中に座った。俺を案内してくれた椛がそのまま隣に座り、俺の後ろからついてきていた紫苑が逆の隣に座る。


「今日は椛と紫苑からですか」


「はい。お飲み物はいかがいたしましょうか?」


 俺を案内した椛が飲み物の用意を進めている。どうやら椛が入れてくれるようだ。カクテルの腕前は知らないけど椛のお茶の腕前は把握している。椛なら変な大失敗をすることなくカクテルも入れてくれるだろう。


「やっぱり私が咲耶様に飲み物を入れます!」


「萩原紫苑……、今更何を言っているのですか?事前に話し合って決めたことで、貴女も同意したはずでしょう?」


「でもやっぱり私が咲耶様に入れたいの!」


「あ~……」


 俺を挟んで椛と紫苑が揉め始めた。どちらが飲み物を入れるとか入れないとか……。何故今更になってそんなことで揉めるのかと思うけど、紫苑は紫苑だからなぁ……。


「そもそも貴女はまともな味に作れないでしょう?だから貴女は省かれたのです」


「そんなことない!私だってちゃんと出来るんだから!」


 う~ん……。確かにジュースのカクテルを作るなんて簡単だと思う。でも紫苑とかだと失敗しそうだというのは何となく納得出来る。実際に紫苑の料理の腕とかは知らないけど、日ごろの言動から考えたら紫苑も料理とかお菓子作りとか失敗しそうなタイプに思える。


「それじゃ咲耶様に飲んでいただいて決めてもらえば良いでしょ!ね?咲耶様!」


「えっ……。え~……、ですがそれでは他の諦めた方々も不公平ということになるので、他の方々の分も作って試飲してみなければならなくなるのではありませんか?」


 二人一組で六組作って、そのうちの一人がカクテルを作って出すという約束の下で全員が合意したはずだ。それなのに紫苑だけ今更特別扱いで作ってみて、俺に試飲させようというのなら他の子達だって黙っていないんじゃないだろうか?


 こういうのは公平性とかが担保されているから、選ばれなかった者達も泣く泣く引き下がるのであって、その前提が崩れるのなら『自分も』『自分も』という話になってしまうような気がする。


 もちろん世の中の全ての人がそうではないだろうけど、少なくともペアのうちのどちらかという前提があったから我慢して引き下がった子は、その前提が崩れるのなら黙っていないだろう。


「そう思うのならばまずは自分の分を作って飲んでみなさい。それを飲んだ上で咲耶様にお出し出来るものだと思うのならば私も試飲してあげましょう。それで私も納得出来るものだったならば咲耶様にお出ししなさい」


「いいわよ!やってやろうじゃないの!」


 俺をおいてけぼりにして勝手に話が進んで行く。椛の言葉に紫苑は自信満々に胸を叩いてカクテルを作り始めた。だけど……、見ているだけで失敗だというのが明らかにわかる。あれは絶対においしくない……。


「出来たわ!」


「それではまずは貴女が飲んで御覧なさい」


「いいわよ!私が咲耶様のために作ったおいしいカクテルに驚きなさい!………ブハッ!」


「きちゃない……」


 一気にカクテルを呷った紫苑は盛大に噴き出した。そりゃあれだけレモンを入れたらむせるだろう。それもゆっくり吸い込まずに飲めばむせなかったかもしれないけど、あれだけ勢い良く吸い込むように飲めば誰でもむせる。


「これでわかったでしょう?貴女には咲耶様にお出しするカクテルは……」


「もう一回!今のは少し間違えただけよ!もう一回やれば絶対おいしいから!」


「「「…………」」」


 そして紫苑はまた明らかに失敗だとわかるカクテルを作り始めた。ん?今日も俺を接待してくれるイベントの日だったよな?誰だよ……、紫苑と椛を組ませた奴は……。こんな組み合わせ絶対失敗するってやるまでもなくわかりきってるじゃん……。




  ~~~~~~~




 俺が皆に接待されるイベントだと思っていたけど、何故か最初の一組目は自分達でカクテルを作っては飲んで噴き出すということを繰り返していた。そんなことをしている間に紫苑が七杯目を作って噴き出した所で時間切れとなって交代になった。


「ちょっ!?待って!まだ咲耶様に何もしてない!」


「はぁ……。申し訳ありません咲耶様……。こんなことならば私が最初に無理やりにでもカクテルをお作りしておけばこのようなことには……」


 まだ居座ろうとする紫苑はグループの子達にがっちり掴まれて席から強制退去させられていた。結局何も接待してもらえず、カクテルを作っては噴き出す紫苑を眺めただけだった一組目はお終いとなり、二組目が俺の両隣に座った。


「咲耶ちゃんきたよー!」


「しっ、失礼いたします……」


「はい。よろしくお願いしますね」


 今度のペアは譲葉ちゃんと花梨だった。この組み合わせも珍しいけど、そうなると残った最後の一組は薊ちゃんと蓮華ちゃんだ。この二人だけは二周目までの時と同じ組み合わせなのは偶然なんだろうか?それともあえてなんだろうか?


「それじゃジュース作るねー!」


「えっ!?」


 そういうと譲葉ちゃんは俺に希望も聞かずに適当にフレーバーや果汁を混ぜ始めた。これは……、紫苑と同じパターンなのでは?


「はい!」


「いや……、あの……?」


「「「…………」」」


 俺が困惑しながら皆を見ていると皆も黙って俺の方を見ていた。どうやら今回の場合は紫苑のような暴走ではなく最初から譲葉ちゃんがカクテルを作る予定だったようだ。これも明らかに失敗なんじゃないかと思うけど出されたら飲むしかない。


「いっ……、いただきます……」


 ドキドキしながら少しだけ口に含む。たくさん飲んだり、一気に吸い込んだら紫苑の二の舞になりかねない。だけど……。


「あら……?思ったよりも……」


 紫苑のように噴き出すことを覚悟していた俺だけど、飲んでみれば意外とイケてしまった。特別おいしいということはないけど噴き出すほどまずいとか酸っぱいということもない。混ぜ方は滅茶苦茶だと思ったけど案外大丈夫だったようだ。


「ほっ……。よかった……」


「譲葉ちゃんのは勘で作ってるから当たり外れの落差がね……」


「えっ!?」


 俺にそんなものを飲ませたのか?もし大失敗だったらどうするつもりだったんだ!?


 二組目はその話題で持ち切りとなった。どうやら譲葉ちゃんは勘だけで毎回ランダムに混ぜてカクテルを作っていたらしい。ただそれが微妙に大失敗はなく、何となく飲めたり、そこそこおいしいのが出来る率が微妙に高いとのことだった。


 たまに大成功でおいしいものが出来たり、逆にとんでもなくまずいものが出来たり……。作った時によって味がまちまちになってしまう。それでも何故か今回は譲葉ちゃんに賭けようということになったらしい。別に毎回安定して普通のものを入れてくれる子にしてもらってよかったんだよ?


「はい!交代!交代!」


「ふっふっふっ……。やっとこの時が来ましたね……」


「最後は薊ちゃんと蓮華ちゃんですか……」


 譲葉ちゃんが入れるランダムなカクテルの話をしているとあっという間に交代の時間になったようだ。そして出てくるのはこの三周目の原因ともなった真打……、薊ちゃんと蓮華ちゃんだった。この二人だけはペアも変わらずそのまま出てきた。きっとこの三周目にかける意気込みも違うことだろう。


「それじゃやるわよ!蓮華!」


「うん!薊ちゃん!」


 席を交代した二人は俺にフレーバーを聞くことなくカクテルを作り始めた。この二人は協力して二人でカクテルを作ってくれるようだけど、何か昨日とは打って変わって今日はまったく俺の意見が反映されていない。誰も俺にフレーバーを聞くことなく勝手に作っていく。


 昨日はキャバ遊びって何て楽しいんだと思ったけど、今日は最初から今までずっとハラハラしっぱなしだ。


「さぁ咲耶様!」


「召し上がれ!」


「…………いただきます」


 二人とも分量も量らずに滅茶苦茶にフレーバーや果汁を入れていた。あまり良い予感はしないけど譲葉ちゃんの例もある。もしかしたらこれも飲めるのでは……。


「コフッ!」


 一口含んだ瞬間むせた……。お酢を吸った時みたいなむせ方だ。そりゃ何の果汁かよくわからないものを滅茶苦茶に入れてたもんね……。こうなるよ……。むしろ予想通りだよ。譲葉ちゃんのがそこそこ飲めたことの方が奇跡だったんだ……。


「咲耶様!おいしいですか?」


「おかわりしますか?咲耶ちゃん!」


「ぅ……」


 薊ちゃんと蓮華ちゃんがキラッキラした目でこちらを見ている。でも最初に一口含んだ時の俺の反応で察してもらいたい。これはきつい……。吸い込まずにそーっと流し込めば何とか飲めるかも?という代物だ。


「え~……、薊ちゃんと蓮華ちゃんも飲んでみてください……」


「えっ!?咲耶様の飲みかけをいただいても良いんですか!」


「うひっ!」


 あるぇ?何か二人とも悦んでないかな?たぶん飲んだら大変なことになると思うんだけど……。


「じゃあ蓮華!そっちのグラスに分けて注いであげるわ。この咲耶様が使われたグラスは私が使うから!」


「むぅ……。仕方ありませんね……。今回はそれで手を打ちましょう」


 二人で何か相談をすると俺の飲みかけ、いや、飲みさしのグラスから別のグラスへと分けて注いでいた。そして薊ちゃんと蓮華ちゃんはそれを勢い良く……。


「これが咲耶様の……」


「飲みかけを間接キスで!」


「あっ!そんな飲み方をしたら……」


「「コフッ!!!」」


「「「あ~ぁ……」」」


 勢い良く吸い込んだ二人は盛大にむせていた。そしてテーブルの上に大量にぶちまける。お酢とかレモンを思いっきり吸った時になるやつだ。でもこうなることはわかっていただろう?だからちゃんと注意しただろう?それなのにこんなにやらかすなんて……。


「あ~ざ~み~ちゃ~ん?」


「ケホッ!カハッ!ひぃっ!さっ、咲耶様!ちがっ……、これは違うんです!」


「問答無用です!薊ちゃんは徳大寺家のご令嬢でしょう!いくらむせることや吐き出してしまうことがあるとしても、こうなることがわかっているカクテルを吸い込んでこれほどぶちまけてしまうなんて駄目ですよ!」


「コホッ!まっ、まぁまぁ咲耶ちゃん……、このままじゃまた二周目の時の二の舞に……」


「何を自分は無関係のように言っているのですか?蓮華ちゃんもですよ!」


「ヒェッ!?ごっ、ごめんなさい……」


「いいえ!今日という今日は許せません!しっかり聞いてもらいます!」


 この後……、皆に五北会サロンへ行く時間だと止められるまで、俺は薊ちゃんと蓮華ちゃんにもっときちんと良家の子女らしく振る舞うようにお説教をしてしまったのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 薊ちゃんと紫苑ちゃんはいつもなんかやらかすね笑
[一言] 後半組は大体散々……
[一言] 前半組がそつなくこなしてたから、後半組のお笑い要素がさらに際立つ感じ。 紫苑ちゃんと組むとこうなるのが割と見えてたのに、組んであげる椛さんやさしいな・・・やさしいか? 魔のワード、「二人一組…
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