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第六百九話「全てが繋がる」


 現生徒会役員達はうちの黒服達によって連行されていった。彼らの処遇はよくて退学。最悪の場合は一家丸ごと行方不明というところだろうか。


 別に殺してしまうわけじゃない。でも九条家のご令嬢に対していたずらとはいえ改造エアガンを向けたんだ。最低でも両親は職を失い、今住んでいる場所に住み続けることも出来ないだろう。学園は退学になり、職も家も失う……。実質死刑宣告にも等しい。でも身から出た錆なので仕方がない。


 多少は可哀想だと思う所もないでもない。だけどこの手の相手に甘い顔をしていたら貴族としてやっていけない。あんなことをしても許されて甘い顔をしてもらえるのだと思われたら『失敗してもデメリットがないならやるだけやってみるか』という輩が増える。『九条家に手を出したらただでは済まない』と思わせておくことは大事なことだ。


 教室に戻ってから投票が行われたけど、現生徒会役員しか立候補していない副会長は空きになってしまう。それにもしかしたら他の役でも現生徒会役員が当選する可能性がある。彼らは恐らく退学だろうからこれは下手をすると来週にもまた再選挙かな……。


 そんなことを考えながら投票を終えると次の時間までの休み時間に棗がやってきた。教室には入って来ずに表で他の生徒に頼んで俺を呼び出してきた。廊下に出るとあとでゆっくり話がしたいと言われたので放課後に空き教室で待ち合わせの約束をする。


 棗がどういうつもりで選挙をふざけて行っていたのか。今回呼び出してきたのは一体どういうつもりなのか。それは放課後になればわかるだろう。一条家側の呼び出しということで少し警戒した方が良いかと思ったけど、かなり顔色の悪かった棗を見てその心配はないだろうと思って放課後を待つことにしたのだった。




  ~~~~~~~




 放課後に棗と約束していた空き教室で待っていると少し後から棗がやってきた。別に遅れたわけではないのでそのことを責めるつもりはない。だけど棗は教室に入るなり跪いた。


「くっ、九条様のお怒りはご尤もです。ですが聞いてください!」


 俺の方が先に来ていたから座って待っていたけど大した時間じゃない。別に怒ってもいないので頭を上げるように言おうと思ったら棗がマシンガンのように話し始めた。


 棗が生徒会役員選挙に立候補したのは一条家からの指示であり、翌日に柾が立候補し俺が柾を支持していることを知り、俺達と敵対する意思がないから選挙活動も本気でせず、最後の演説もあのようにふざけたような演説を行ったという。


 そう言われれば確かに棗の選挙活動も本気とは思えないようなものだったし、最後の演説のふざけっぷりの説明にもなる。あれが俺達に敵対する意思がないことを表明するためにやったというのなら納得も出来る。だけど主家である一条家の命令で立候補したのならそんなことをしたら大変なことになるだろう。


「貴方がそうしたところで今度は一条家やご両親からお叱りを受けるのではありませんか?」


「――ッ!はっ、はい……」


「私との敵対を避けた所で派閥の長から見捨てられることになれば難波家は消えることになるでしょう。難波家も貴族家なのですからそんなことになれば貴方を切り捨ててでもお家を守るのではありませんか?」


「一条様や両親なら必ずそうするでしょう……」


 一条家はこれまで堂上家ですら切り捨ててきた。地下家など切り捨てることに何の躊躇いもないだろう。そして難波家は家を守るために棗を切り捨てるに違いない。棗が勝手にふざけて選挙を行い負けたとなれば難波家は棗に責任を押し付け切り捨てる。一条家がそれで納得するかどうかはともかく、間違いなく棗は一条家と難波家から責任を追及されるだろう。


「九条咲耶様!どうか!どうかこの俺を咲耶様の駒としてお使いください!一条の内情も多少とはいえ知っております!必ずや咲耶様のお力になります!ですからどうか!」


 棗はあまり掃除されていない空き教室の汚れた床に額を擦り付けていた。地下家とはいえ従三位である難波家の嫡男としてそれなりに育てられてきたはずだ。そんな人物がプライドを捨ててでもこうして俺に頭を下げている。


 正直に言えば俺はグループの子達以外のゲーム『恋に咲く花』の登場人物達とは関わりたくなかった。どんなちょい役でも端役でもどんな影響があるかわからない。それに作中ではほとんどの登場人物達は咲耶お嬢様に良い感情を抱いていない。咲耶お嬢様が断罪される時も喜んでいたような連中ばかりだ。


 でも……、鬼灯も、鈴蘭も、まぁ一応桜とか、柾とか……、ゲームの登場人物でもこちらの世界ではそんなに悪い奴や嫌な奴じゃない奴も確かにいる。伊吹や槐はこちらでも嫌な奴だし、相変わらず咲耶お嬢様に向かっての態度が悪いと思う。難波棗だってそういうタイプの可能性はある。だけど……、このまま見捨てるのはそれはそれで寝覚めが悪い。


「…………」


「……」


 俺が見下ろすと棗は捨てられた子犬のような目でこちらを見上げていた。主家に無茶な命令をされ、それに逆らえば実家からも見捨てられて全ての責任を背負わされる。それはきっと相当心細いことだろう。俺はそこまでの状況になったことはないけど、もし咲耶お嬢様がお家お取り潰しで追放されるとしたらきっと今の棗と同じような気持ちなのだろう。


「わかりました。良いでしょう。貴方の身の安全はこの九条咲耶が保障いたします。その代わり……、しっかり働いてもらいますよ?」


「はっ、はいっ!お任せください!」


 もしかしたら俺のこの選択は失敗だったと後で思う時が来るかもしれない。でももし咲耶お嬢様が追放された時に誰かを頼り、その人に無下にされたらどんな気持ちになるだろうか。元々敵対派閥だった相手にですら藁にも縋る思いで頼み込んで……、その手を振り払われたら……、きっと相当辛いに違いない。


 原作に関わる棗とあまり関わりたくないというのは本音だけど、ただ選挙に出ろと主家と両親に命令されて、選挙で落ちたから粛清されるというのではあまりに不憫すぎる。


 原作……。原作か……。そう言えば生徒会副会長は現生徒会役員しか立候補していない。恐らく来週には他の役も含めて再選挙か補欠選挙が行われるだろう。ならば高等科と中等科の違いはあるけど原作通り柾を生徒会長、棗を副会長にしてみるのも良いかもしれない。生徒会長にはなれなくとも副会長に通ったとなれば難波家や一条家も棗を許してくれないだろうか?無理か?


「貴方には来週早速働いてもらうことになるでしょう」


「……え?」


 とりあえず来週また選挙があれば棗を副会長に立候補させよう。それで当選して難波家や一条家が納得すればよし。納得しなければ棗だけ九条家でどうにか保護しよう。一条派閥の内情を多少なりとも知っているというのも今後役に立つかもしれない。


 そんなことを考えながら棗との密談を終えて五北会サロンへと向かったのだった。




  ~~~~~~~




 翌日土曜日、俺は二条家の呼び出しによって二条邸へとやってきていた。俺の他に既に稲田家と松本家、それから直接会ったのはこれが初めての男が座っていた。特に稲田家と、初めて顔を合わせた男は顔を青褪めさせている。この先に起こることを理解しているのだろう。


「あぁ咲耶ちゃん!よう来てくれはりましたなぁ」


「御機嫌よう栄子様」


 お前が呼び出したから来たんだろとは思うけど言ってはいけない。栄子様も五北家の夫人というのは伊達ではない。古都風の方言で普段はニコニコしているように思えるけど裏ではかなりえげつないことも平然と行う怖い人だ。


「この面子で呼び出しということは……」


「咲耶ちゃんのお察しの通り、稲田家の処分について話し合お思いましてなぁ」


 その言葉を聞いて稲田夫人がビクリと肩を跳ね上げさせていた。二条家が直接動くということはもう証拠固めだけでなく根回しも全て終わっているということだ。この場に呼ばれた時点で稲田家の命運は尽きている。そして二条派閥内の問題なのでそのことについては俺が口を出す権限はない。


「一度は融資して会社の経営難も救ったはずやねんけど……、まさかまた放漫経営をして会社を傾けた上に一条家に融資してもらうなんて……、あんたら二条を舐めてんの?」


「「ヒィッ!?」」


 栄子様の口調が変わりジロリと稲田家の両親を睨み付けた。二人は震え上がっているけど俺も怖い。栄子様は普段は古都風の訛りでしゃべっているけどあれは本来のしゃべり方じゃない。栄子様は元々さらに南にある商人の街の訛りがある方だ。そしてそっちの『地』が出てる時はマジギレしてる時だ……。


「何とか言わんかい!どういうこっちゃって聞いてんちゃうんかい!」


「はっ、はいっ!違います!お聞きください!」


 稲田家の当主が慌てて弁明を始めた。どうやら今回の横領については稲田当主も知らなかったらしい。稲田夫人の横領の手口は以前よりも巧妙になっており、当主が気付いた時にはもう手遅れの状態だったという。それはそれで当主として失格ではあるけど多少は同情の余地もある。


 その横領の補填のために当主はどうにかしようと駆けずり回ったけど結局どうにもならず、そんな時に一条派閥の者が接触を図ってきたということだった。そこで赤字の補填として融資してもらえることになり、代わりに一条派閥のスパイ活動をすることになったと……。


 稲田家の隣に座っている男は海桐花が転落事故を起こした時に病院に来たという弁護士の男だ。この男と直接顔を合わせるのは初めてだけど報告は受けているから顔は知っていた。弁護士事務所を開いているのは事実でありその身分に間違いはない。ただこの男は一条派閥の仕事を請け負っている一条系列の事務所の弁護士だ。


 一条派閥から稲田家への融資などについてはこの弁護士の男、悪徳(あのり)弁護(べんもり)が間を取り持ち契約書などを用意していた。稲田家やその会社の優良資産についてはすでに先に融資していた二条派閥の者達に押さえられている。実質的には一条派閥の融資は回収不能な不良債権だろう。それでも一条派閥は稲田家に融資していた。


 その目的は稲田家が自身で語っている通り一条のスパイとしての活動だ。一条家にとっては稲田家に融資した金額などはした金に過ぎず、それによって得られる稲田家というスパイやそこからの情報、二条派閥内部に嘘の情報を流すなどのことの方がよほど利益があると判断されたのだろう。


 そして転落事故の情報を得た一条家は稲田家にそれをネタにして学園で騒ぎを起こすように指示を出した。その結果学園も生徒会も評判を落とし、棗に命令して次の役員選挙で一条関係者を生徒会に送り込もうとした。


 今回の現生徒会の動きと、その結果起きた事故、そして一条家の稲田家への命令と難波家への命令。どれも微妙に繋がっているようで繋がっていない。それぞれがその状況を利用して行動した結果、今回はこんな複雑なことになってしまった。


 生徒会の陰謀だけを追っていても真相はわからず、一条派閥の動きだけでも説明がつかなくなる。今回は多くの人物達がそれぞれの思惑に従って動いた結果ここまでややこしい事態になってしまった。今から聞いてみれば簡単でわかりやすいような気がするけどそれは結果論だ。当事者として全体が見えない場所にいるととんでもない陰謀や謎でもあるのかと思ってしまっても止むを得ない。


 ただ……、それだと一つだけ腑に落ちないことがある。そしてそれは未だに解決していない。


「それで……、松本家はどうして稲田家の言葉に乗ったのでしょうか?」


「…………」


 俺の言葉に松本家の当主は静かに目を瞑った。これだけが今でもどうしてもわからない。稲田家や一条家や悪徳弁護、現生徒会役員達のことは調べればすぐに裏が取れた。稲田家に賛同して学園に押しかけた他の家は我が子が危険かもしれないと稲田夫人に言われて乗っかっただけだ。でも松本家だけどうにもよくわからない。


 松本家としては蕗が海桐花の上に落ちたから稲田家に負い目があったから?それだけでは何だか理由が弱い気がする。松本家は別に一条派閥に取り込まれてもいないし、ヒステリックになっていた他の賛同した家のようにもなっていなかった。


「当家の行動は全て九条家のために……。それだけでございます」


「……」


 松本家当主はそう言って頭を下げた。その顔は自分達が助かろうという打算があるようには見えない。どちらかと言えば自分達の処分は覚悟した上で、それでも主家に尽くす忠臣のように見える。


「今回の騒動で松本家が関わったことは事実。当家はどのような処分を受けようとも全て受け入れます」


 覚悟を秘めた顔でそう言って再び俺に向かって頭を下げた。この騒動に加担することが『九条家のため』?松本家が自分の家を潰す覚悟をしてまでこんなことをして何のメリットが?


「ええ家やないの咲耶ちゃん。うちのとこのボンクラとは大違いでうらやましいわぁ」


「はぁ?」


 栄子様は松本家の真意がわかったのか?俺にもどういうことか説明して欲しい。


「稲田家が一条に取り込まれてることもわかった上でそっちに入って監視して、一条の目的がわかったらそれを先回りして潰す。裏切り者の謗りを受けても咲耶ちゃんのために動いて、一条の目的やった生徒会に咲耶ちゃんの影響力を拡大させて防ぐやなんて、ほんまの忠臣やないとできひんのと違う?」


「あぁ……」


 そうか……。やっとわかった。松本家は稲田家の裏を知っていたのか。そしてあえて稲田家側に立つかのように見せかけた。稲田家、そしてそれを裏で操る一条派閥の目的を探り、生徒会役員選挙が目的だとわかると現生徒会も、稲田家や松本家や一条家の評判も下げて俺の影響力を拡大させた。


 俺はそんなことは望んでいなかったけど結果的には俺が体育祭を成功させ、俺の息がかかっていると思われている柾を生徒会長として送り込んだ。これは傍から見れば一条派閥の野望を未然に防ぎ、俺の影響力を拡大したことになる。


 松本家は自分達が裏切り者の謗りを受けることになっても、九条家のために、俺のためにそこまでしてくれたということだ。そして自分達が罰を受ける覚悟も出来ている。確かに忠臣でなければ出来ないことだな……。


「松本家への処分は私が預かります」


「くっ、九条様!それは……」


 松本家当主が慌てて顔を上げたけど俺がそれを手で制する。このままただ無罪放免となれば、実は松本家が九条家のために働いてくれたのだとしても周囲に対して示しがつかない。だけどこんな松本家をただお家お取り潰しにするというのはあり得ない。忠義には報いなければ上に立つ者として失格だ。


「稲田家と弁護士は覚悟しいや」


「「「ヒイィッ!」」」


 また表情をクワッ!と変えた栄子様に三人は恐れ戦いていた。稲田家の処分は二条家に任せるしかない。だけど海桐花は悪い子じゃなかった。家や周囲に振り回されてあんな良い子が路頭に迷うなんてことがあってはいけない。


 松本家の処分と海桐花の身の安全だけは俺がどうにかしよう。



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― 新着の感想 ―
[一言] 悪徳弁護ww そして女の子をゲットするために動き出す………
[一言] 悪徳弁護の直球なネーミングとか、二条夫人とか、ここだけナ○ワ金融道とかミ○ミの帝王・・・w どうやら花ちゃんは助かる模様。九条家のメイドさん見習いが一人増えるのかな。
[良い点] 咲耶様慕われてるなあ。松本家のような人達を大事にする限り咲耶様も九条家も安泰ですね。 [気になる点] 桜はともかく柾が咲耶様に認められているとは思わなかったなあ。まあ良くも悪くも柾は生徒会…
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