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第五百二十話「冬休みの家族旅行」


 この年の九条家の家族旅行は海外旅行だった。寒い国を飛び出して海外の暖かい島でのんびりと過ごす。しかし海外と言ってもほとんど母国語が通じる高級ホテルとその周辺の治安の良い場所にしかいかない。気候や建物が違うだけでまるで母国にいるかのようにリラックスして過ごすことが出来る。


 ただそれが良いか悪いかはわからない。折角の海外に来ていても、結局国内のリゾート地にいるのとそう変わらないのであればわざわざ海外に来た意味があると言えるかはわからないからだ。


 人生経験としては折角なので海外を味わってみるというのも良いものだと誰もが考えるだろう。しかし咲耶達の旅行は全て整えられ段取りされた旅程通りにただ過ごすだけとなっている。咲耶はこれまで何度となく海外旅行に行っているが、結局それはきちんと海外を味わったり、経験出来たかと言えば微妙なのかもしれない。


「ふわぁ!暑いですねぇ……」


 空港から出た咲耶は目の上に手を置いて影を作りながら空を見上げた。現在冬の真っ只中である母国とは違う暑い気温に咲耶の白い肌がジリジリと焼かれていた。


「咲耶様!早くお車へ!日に焼けてしまいます!」


「椛ったら……、このくらい平気ですよ」


 コロコロと笑いながら『やぁねぇ』というおばちゃんのように一度片手を扇ぐように動かしてから咲耶は車に乗り込んだ。


「暑いわね……」


「さすがにこれだけ落差があると仕方ないだろう」


 車の中で頼子様の言葉に道家様が答えられる。真冬直前だった母国から常夏の島へとやって来ればその落差は大きなものだろう。体が慣れていないので余計に暑く感じてしまう。


 真冬に外から帰ってきて二十数度の室内に入っただけでも暑いくらいに感じる。それなのに真夏の深夜や早朝などで二十数度では寒く感じる。二十度でも暑いくらいに体が慣れていた所で急に三十度も四十度もあるような場所へ行けばそれは暑く感じてしまうのも当然だ。


「まぁお母様は元々暑いのが苦手ですからそれもあるでしょうけれど」


 咲耶が苦笑いで頼子にそう言うと頼子は子供のように少し膨れて拗ねたような顔をした。


「暑いと大変なことばかりでしょう。私には暑い方が好きな人の気持ちはわかりません」


「お母さんは寒いのも苦手だと思うけど?」


「もう!良実まで!」


 皆にそう言われて頼子は頬を膨らませた。皆で苦笑いしながら妻や母の機嫌を取り始めた。そこには普通の家族の姿があった。九条家と言えば母国では家格第二位の家であり、家の資産や関連会社を含めた社会的な地位や影響力というのは計り知れない。それでもそんな一家もこうして家族の団欒の時は普通の家とそう変わらない。


 椛はそんな仕える家の団欒を、自分の気配を消して少し距離を置いて見ている。部外者である自分はそこに首を突っ込むべきではない。それが椛なりの主人とメイドの距離感だった。しかし……。


「ほら椛!そんな隅っこに座っていないでこちらに来て一緒にお話ししましょう」


「ぁ……」


 狭い車の中で椛は出来るだけ家族の団欒の邪魔にならないように控えていた。それなのに咲耶がそんな椛の手を引き寄せてしまった。


「まさか椛まで私が暑がりで寒がりだなどと言いませんわね?」


「いえ、あの……」


「遠慮せずに言えば良いぞ。椛までこちら側の意見だったらさすがの頼子も考えを改めてくれるだろう」


「私は……」


「椛は私達の家族なのですから。ね?」


「――ッ!~~~~~っ!」


 九条家の人々から本当の家族のように受け入れてもらっている。そのことで椛の胸は喜びで一杯になった。九条家にとっては仇敵とも言える一条家の非嫡出子である自分のような者が、一条家には居場所がなく母親の血筋だからと九条家に引き取ってもらってメイドをしている自分のような者が……。


「奥様は暑がりで寒がりです」


「まぁ!椛まで!もう知りません!」


 椛まできっぱりと断言したことでついに頼子はヘソを曲げてプイッと外を向いてしまった。そして皆で頼子に謝りながら笑い合う。その輪の中に椛も含まれていたのだった。




  ~~~~~~~




 常夏の島の高級リゾートホテルにて、咲耶と良実はプールに来ていた。


「折角海が目の前にあるのにプールというのも味気ないと思いますが……」


「駄目だよ。咲耶は無茶をするからね」


 目が笑っていない笑顔の良実に釘を刺されて咲耶がシュンとした。咲耶を海で泳がせると遠泳で見えない所まで行ってしまったりすることがある。まさか溺れたかと全員で必死に探していたら遠くの無人島を回って戻ってきたなどという逸話がいくつもあるのだ。当然広すぎる海で咲耶が泳ぐことは禁止されるようになった。


「それでは咲耶様、日焼け止めを……」


「駄目ですよ、椛。プールでは日焼け止めは禁止です」


 椛は緩みそうになる顔を必死で隠しながら日焼け止めを塗ろうと咲耶に迫った。しかし咲耶は涼しい顔で椛をかわす。ここのプールは日焼け止めを塗っての遊泳は禁止されている。泳ぐ気満々の咲耶は日焼け止めを塗らずにプールに入るつもりだった。


「ですがそれでは咲耶様のお肌が……」


「少しくらい大丈夫ですよ。グランデをやめてからあまり泳ぐ機会もありませんし今日くらいは自由に泳がせてください。ね?」


 咲耶が少しかがんで下から覗き込むように首を傾げてそう言ってきた。その仕草の可愛らしさ。そして何よりも寄せられ強調されている胸が目に飛び込んでくる。椛はつつつーっと鼻の奥から垂れてきているものを感じて、ちょっと鼻を吸い込みながら咲耶の言いなりになることしか出来なかった。


「わっ、わかりました……。ですが少しだけですよ?あまり長時間はお肌に悪いので私が管理させていただきます」


「ありがとう椛!」


 ありがとう椛……ありがとう椛……ありがとう椛……


 頭の中でその言葉と美しい笑顔がリフレインされている間に咲耶はきちんと準備体操をして、水に体を慣らせてからプールに飛び込んだ。他の人はいちいち本格的な準備運動や体を水に慣らせたりしないというのに、咲耶一人だけそんなことをしていては周囲から注目の的になる。


 小さな東洋人がそんなことをしているとプールサイドのセレブ達がクスクスと笑っていたのも束の間……、飛び込んだ咲耶は猛烈な勢いで泳ぎだした。


 その速さは同世代の女子記録どころか男子記録にも迫るほどで、もしここでタイムを計っている者がいたら大変な騒ぎになっていたことだろう。しかも咲耶にとってはこれはまだ慣らしでありスピードを追求した全速力ではない。


 咲耶は長距離を出来るだけ速く安全に泳ぐ術を叩き込まれている。ゆえに短距離を全速力で泳ぐスピードを競うという感覚がそもそもない。だが仮に咲耶が本気で決められた距離を全速力で泳ぐと大変なことになってしまう。各記録が次々に塗り替えられ、メダルラッシュとなり、一躍時の人として水泳界のスターに躍り出ることになる。


 しかしここにはそんなことを理解する者もいなければ、きちんとタイムを計っている者もいなかった。


 結果、咲耶はすぐにプールの監視員に怒られてつまみ出されてしまった。ここのプールはホテルの宿泊客が水遊びをするためのプールだ。ガチで水泳をするためにあるプールではない。当然そんな場所で物凄い速度で泳ぎまくる子がいたならばどうなるか……。今の咲耶を見れば説明するまでもない。


「うぅ……、怒られてしまいました……」


「そりゃぁあれだけ泳げばね……」


 一緒にプールに来た良実も苦笑いしか出来ない。セレブ達が浮き輪やフロートに乗って優雅に浮かんで遊ぶプールで、同学年の男子記録に迫るほどの速さで泳ぐ者がいればそりゃつまみ出されるだろうと思っていた。


「まったく……、うちの妹様は中等科生になってもやんちゃなままかい?」


「むぅ……」


 そう言われて咲耶は頬を膨らませたが、実際に怒られてプールから放り出されたのは事実なので反論は出来ない。諦めてプールサイドで休むことにして下がろうとした。そこへ椛から待ったがかかる。


「お待ちください、咲耶様。もうプールへ入らずプールサイドでお休みならば日焼け止めを塗りましょう」


「……そうですね。仕方がありません……。プールでは泳ぐことを禁止され、海へ行くことも禁止では……。それでは椛に任せましょう」


 咲耶が折れた瞬間椛はガッツポーズをした。これで堂々と咲耶様の全身を堪能することが出来る。


「それでは咲耶様こちらへ。柚も手伝いなさい」


「え?ここで良いでしょう?」


「駄目です!さぁ咲耶様!こちらへ!」


 咲耶が何か言う暇もなく椛は咲耶の手を取ってプールに併設されている個室に向かった。そこは着替えたり、休憩したり、涼んだり、様々な用途のために使える個室だ。九条家が貸し切っている個室に入った椛は早速咲耶に迫った。


「咲耶様!水着を脱いでください!」


「えっと?出ている手足に塗れば済む話でしょう?」


 咲耶はビキニを含めたツーピースの水着は絶対に着用しない。咲耶が着るのは必ず競泳水着のようなものだ。それも本格的な競泳選手のようなハイレグではなくかなり露出度の低い物しか着用しない。だから日焼け止めは出ている手足だけで良いのではないかと咲耶が考えるのは当然だった。しかし椛がこのチャンスを逃すはずがない。


「いいえ!紫外線というのは水着の生地を貫通して水着で覆われている部分にまで到達します!全身くまなく塗らなければなりません!」


「う~ん……。そういうものですか……」


 チョロい!


 椛はそう思った。咲耶様はチョロすぎる。少しそれらしく説明するとあっさり納得してしまう。人を疑うということを知らないのかと思うほどに純真で無垢すぎる。頭はとんでもなく良いのに人が良すぎて簡単に騙されてしまうタイプだ。簡単に騙されるのは心配だが騙すのが自分であるのなら簡単に騙されてくれるのはありがたい。


「そういうものです!私は奥様より咲耶様のお世話を仰せつかっているのですから、万が一にも咲耶様が日焼けでもしてしまっては私が奥様に叱られてしまいます」


「そう……、ですね……。それでは椛にお任せします」


 疑うことを知らない天使がニッコリ笑ってくれる。その天使を騙していかがわしいことをしようとしている自分のことを思うと……、椛はもう興奮が抑えられなかった。何も知らない子供に丸出しの裏ポルノを見せつけて穢してしまうような、そんな背徳感が背中を駆け上ってゾクゾクしてしまう。


「それでは咲耶様、まずは水着を脱がせますね」


「あっ……」


 咲耶が何か言うよりも早く椛はその水着を脱がせにかかった。水に濡れて貼り付いている水着を脱がせるのは手間がかかる。体に貼り付いているので直接体に触って脱がせるしかない。無抵抗の咲耶の体を堪能しつつ水着を脱がせると個室のマットに寝転がらせて本格的に日焼け止めを塗り始める。


「さぁ、咲耶様……、めくるめく快楽の世界へ……」


「んっ……、冷た……、ひぅっ!」


 まずは背中から楽しもうと日焼け止めを手で塗り広げていく。ヒンヤリ冷たい椛の手と日焼け止めがくすぐったくて咲耶はモジモジと動いている。その動きがまた椛の劣情を刺激する。


「ここも……、こちらも……」


「んっ!んくっ!くっ、くすぐったいですよ……」


 背中から肩や腋へと手を伸ばしていくと咲耶がビクビクと反応していた。その反応を見るだけでもう椛は堪らない。椛の後ろからハァハァと荒い息が聞こえた。そう言えば柚も一緒だったと椛もようやく思い出す。


「それでは咲耶様……、前も……」


「いえ、前は自分で出来ますから」


「駄目です!柚!」


「はいっ!」


 少し紅潮した顔で断ろうとした咲耶に機敏に反応した椛は柚にも協力させて咲耶を仰向けに転がした。その瞬間咲耶の肢体が目に飛び込んできた。中等科一年生にしては大きい胸。くびれていて細いというのに割れているお腹。そして未だ生えていない……。そこにはつんつるてんの無毛地帯があった。


「咲耶様!この谷間や胸の下もよ~く塗っておかなければならないのですよ!さぁ!私に身を委ねてください!」


「椛師匠だけずるいです!私も!咲耶お嬢様!ここも!ここもいいですよね?もっと……、もっと塗りますよ!」


「ちょっ!?やっ!ふっ、二人とも激し……、あぁっ!」


 完全に暴走機関車と化した椛と柚の四本の手によって咲耶が翻弄されていく。胸の谷間、下、果ては足の指の間に至るまで全身をくまなく日焼け止めを塗られてしまった。


 その作業が終わるまでにはたっぷりと長い時間がかけられ、全身あますことなく堪能され、終わった時には咲耶はくったりしていた。そして椛と柚はテカテカしていた。


「椛師匠、今日は鼻血を噴かなかったんですね!」


「いいえ、ダラダラです」


 とても良い笑顔で、全てをやり切った椛は本当に良い笑顔でそう言った。しかし柚が色々な角度から見てみてもやはり椛は鼻血を垂らしているようには見えなかった。


「出てませんけど?」


「もし咲耶様に日焼け止めを塗っている最中に鼻血を噴き出しては途中で中止になってしまうでしょう?ですから……」


 そう言って椛は鼻から鼻栓を引き抜いた。すると鼻栓と一緒にドバッ!と鼻血が垂れた。


 椛はかつて同じ失敗を何度もしたことがある。もうちょっとという所で鼻血を噴き出し、咲耶に止められて想いを遂げられなかったことが何度も……。だから今回はそうならないように、絶対に鼻血が噴き出るとわかっていたから先に鼻栓で塞いでいたのだ。これで鼻血を垂らして咲耶様に止められることはなくなる。まさに椛の狙い通りそうなった。


「椛師匠の執念……、お見逸れいたしました!」


「ふふん!」


 無理やり鼻栓をしても鼻血は垂れ、鼻に溜まり喉まで逆流してくる。それを我慢しても咲耶の全身に日焼け止めを塗るため椛はこれだけの覚悟があったのだ。その椛の覚悟と執念に柚は素直に敬意を払ったのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 家族でイチャイチャパラダイスですね。 鼻血が出たときは冷やすと良いですよ。
[良い点] 咲耶ちゃん、ちゃんと家族出来てる…… [一言] もっとヤレ!と言いたいところだけど今回の大丈夫?消されない? メッチャ不安
[良い点] ワクワクテカテカですねw [一言] いいぞ、もっとやれw
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