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第五百十八話「二学期成績」


 テストが終わって、週の後半がダラダラ過ぎて土日を挟んで翌月曜日の朝、学園にやってくると玄関口に人だかりが出来ていた。集まっている生徒達は貼り出されている成績上位者を確認しているんだろう。


 本当なら俺も貼り出されている順位に興味がある。でもそちらには見に行かずに一直線に教室に向かった。どうせ教室に行けば皆で玄関口の貼り出しを見に行くことになるはずだ。どうせ見るのなら皆と一緒に見たいと思って一度目はあえてスルーしてきた。


「御機嫌よう」


「咲耶様おはようございます!」


「御機嫌よう咲耶ちゃん」


 教室に入るとやっぱり皆集合していた。こういう時は皆早いからわかりやすい。最近では遅れてくる子も減ってきた。そういう所も大人になってきたのかなぁとしみじみ思う。


「咲耶様!それじゃ早速掲示板の成績を見に行きましょう!」


「ふふっ、そうですね」


 やたら張り切っている薊ちゃんに押されて皆もゾロゾロと掲示板へと向かった。さっき通り過ぎた所なのにもう戻ってくるくらいなら、さっきここで立ち止まって皆を呼んだ方が無駄な移動をせずに済んだ。でもこうして皆でワイワイ言いながら移動するのも楽しい。


 ただ効率的に動けば良いのではなく、多少無駄や遠回りでもこういう何でもない日々がやがて良い思い出になっていくんだろう。そんなことを考えながら掲示板までやってくると何故か集まっていた人の波がサーッと割れてしまった。


「九条様だ……」


「おい、もっとこっちに寄れ!」


「シッ!聞こえるぞ!」


 んん~?何か……、あるぇ?俺、避けられてる?


「何か私、皆さんから避けられていませんか?」


 掲示板を見るために集まっていた生徒達が割れて俺達の前だけ綺麗に空いてしまった。あまりに不自然すぎるからコソッと隣にいた皐月ちゃんに聞いてみる。


「咲耶ちゃんが来たら前を譲るのは当然のことでしょう?」


「え?そう……、なのですか?」


「そうなのですよ」


 う~ん?そうなのか?皐月ちゃんがあまりに自信満々にそう言うから何かそんな気がしてきた。これが薊ちゃんだったらまた薊ちゃんの変な自信のせいかなと思うけど、賢くて慎重な皐月ちゃんがそう言うのならそれで良い気がしてしまう。


「咲耶様!凄いです!また千点満点で一位ですよ!」


 俺の思考ははしゃいでいる薊ちゃんによって中断させられた。


「ええ……、まぁ……」


 何と言えばいいのか反応に困ってしまう。俺は自己採点で点数の予想が出来ていたから驚きはない。五教科の中間・期末の合計点だから千点満点中で順位が貼り出されている。俺の自己採点では全て満点だったからある意味当然の結果だ。ただあまりそうやって騒がれると自慢しているようで嫌な気がする。出来ればやめて欲しいけど薊ちゃんはかなり大きな声で騒ぎ続けていた。


「そっ、それよりも!他の子も見てみましょう!」


「は~い!って言っても咲耶様のすぐ隣に皐月の名前がありますけどね」


「あっ……、そうですね。皐月ちゃんおめでとうございます。よく頑張りましたね」


 薊ちゃんに他の子も探せと言いつつ、俺も自分の名前の隣に皐月ちゃんの名前をすぐに見つけている。むしろあれだけ隣に書いているのに気付かないわけがない。前回三位だった皐月ちゃんは今回は二位に躍り出ている。点数や順位は大きく上がっていないけど、これだけの順位や点数を取っている子が成績を上げるのは並大抵の努力じゃないだろう。


「咲耶ちゃんに勉強を教えていただいたからですよ」


「いいえ。この結果は皐月ちゃんが頑張ったからです」


 お互いに見詰め合って相手のことを褒める。こっちまで褒められて何かくすぐったいような感じがするけどこの結果はやっぱり皐月ちゃんが頑張った結果だ。


「他の知り合いは~……、あっ!芹が十位以内に入ってますよ!やるわね芹!」


「あっ、ありがとうございます」


 何かじとーっとした顔で俺と皐月ちゃんのやり取りを見ていた薊ちゃんはそう言って新しい話題を振ってきた。いつまでも皐月ちゃんのことばかり言っていられないのは確かなので俺も下の順番を確認していく。


 薊ちゃんは『他の知り合い』枠から除外していて何も言わなかったけど、七位に槐、八位に伊吹が入っている。薊ちゃんにとってはあの二人はもう『知り合い』カテゴリーからすら除外されてしまっているのかもしれない。俺も特に興味はないんだけど一応俺の破滅に関わる二人だし気に留めておく必要はある。


 それにしても……、伊吹は順位が低すぎやしないだろうか?ゲーム『恋に咲く花』では伊吹はほとんど一位、二位の常連だった。ゲームの主人公(ヒロイン)に成績を抜かれるイベントや、ルートによってイベントで成績を落とす以外ではほぼその辺りが定位置だ。槐も入れて一位、二位、三位の常連のはずなのにこちらでの伊吹と槐の成績は悪すぎる。


 ゲームでは主人公、伊吹、槐の三人が僅かに前後するだけで上位三位独占状態だったのに、こちらの伊吹と槐は一学期よりさらに成績を落としている。もちろんゲームの時は高等科であり中等科とは違うのかもしれない。ここから一念発起して勉強に励んで成績を上げるのかもしれないけど、何だかこのままズブズブと沈んで行きそうな気もする。


 まぁそれはともかく槐と伊吹に次いで九位に芹ちゃんがランクインしていた。前回は十一位以下二十位以上の場所だったから少しランクアップだ。順位としては少ししか上がっていないけど、この辺りの成績で点数や順位を上げるのは本当に大変だからとても凄いことだと思う。


「おめでとうございます、芹ちゃん」


「ありがとうございます」


 俺が芹ちゃんを褒めて頭を撫でてあげると顔を赤くしてモジモジしながら照れていた。かぁいいなぁ……。ギュッ!てしたいけどさすがにこんな人前でご令嬢がそんなはしたない真似をするわけにはいかない。まぁ誰もいなくても俺は女の子に対してはヘタレだからそんなこと出来ないんですけどね!妄想の中だけですけどね!


 他はず~っと見ていってもあまり親しくない子の名前が並んでいる。初等科六年間を一緒に過ごしただけでも内部生の名前は結構覚えているけど、前世の時のように小学生くらいなら同級生全員が友達!というようなことはない。顔や名前は知っていてもほとんど話したこともない子がたくさんいる。外部生なんてまだ顔と名前が一致しない子もいるし……。


 そんなランキングを見ていくと十一位以下の場所に鈴蘭と柾の名前があった。これは一学期の成績と同じだ。多少点数や順位は変わっていても鈴蘭、柾という順番は変わらない。そして二十位……、発表されている最後の所に……。


「まぁ!椿ちゃんおめでとうございます!二十位に入っていますよ!」


「あっ!ありがとうございます!これも偏に咲耶ちゃんのお陰です!」


 いや、だから俺は何もしてないじゃん?皆俺のお陰お陰っていうけど勉強を頑張った本人の努力の成果であって俺が何かしたわけじゃない。どうしてうちのグループの子達は皆こうも謙虚なんだろう。


「この結果は椿ちゃんが頑張ったからですよ。もっと自分を誇ってください。自分を褒めて認めてあげてください。ね?」


「うぅ……、咲耶ちゃん!」


 珍しく椿ちゃんが感極まったように俺に抱きついて来た。胸に顔を埋めて……、泣いているのかな?背中や頭を撫でたりポンポンと軽く叩いて落ち着かせる。きっと椿ちゃんは今回のテストのために相当頑張ってきたんだろう。その成果が目に見える形となって現れたらそりゃ感極まるに違いない。


 今生では俺は前世の記憶と知識を持っていて、幼少の頃から先々の勉強をしてきたというイカサマをしている。俺が中等科の勉強で良い成績を取るのはある意味当然だ。むしろこれで点数や順位が低ければ俺はどれだけ勉強していないのかという話になる。だけど前世では自分の成績に一喜一憂したことだってある。


 頑張って勉強したつもりなのに思ったほどの成績が取れずに悔しかった。それでさらに必死になって勉強しても少ししか成績が上がらなくて自分の限界を感じたこともあった。それでも少しでも成績や順位が上がってうれしかったことだってある。誰だって自分が努力して、その成果が目に見える形で返ってきたらうれしいものだ。


「あれー?おかしいなー?私の名前はー?」


「そうよね!私の名前がないなんておかしいわ!咲耶様!この順位間違ってるんじゃないですか?」


「いやぁ……、そんなことはないと思いますよ……?」


 この譲葉ちゃんと薊ちゃんの自信は何なんだろうか?譲葉ちゃんは薊ちゃんと茜ちゃんよりは成績がよかったとはいえ、二十位以内に入るどころか下手をすれば赤点くらいだったじゃん……。それでよく二十位以上の成績発表に自分の名前があると思えるよね……。


「さぁ、残りは先生が成績を返してくれますので教室に戻りましょう。私達がいつまでもここにいては邪魔になりますよ」


「「「はーい」」」


 何か知らないけど他の生徒達が俺達の周りから離れている。俺達は楽でいいんだけど、一番見やすい真ん前を俺達がずっと占拠していたら他の生徒の邪魔になるだろう。掲示板に順位が貼り出されていない下位の子も、この後先生が成績の順位や点数が書かれた順位表を配ってくれる。それを見て残りの子達の成績も確認しよう。




  ~~~~~~~




「どうだったぁ?」


「私は前より順位下がってるの~」


 順位表が配られてクラスは成績の話題で持ち切りになっていた。見せ合っている子もいればこっそり隠している子もいる。そんな中で俺達はというと……。


「見てください咲耶様!前よりも物凄く順位が上がってますよ!」


「薊ちゃんよく頑張りましたね」


 薊ちゃんはまるで子犬がじゃれついてくるかのように凄い勢いで俺にまとわり付いて順位表を見せてきた。確かに凄く順位が上がっている。


「私も上がってるよー!」


「私がこんなに良い順位だなんて……」


 譲葉ちゃんは元々下の二人より頭一つ抜けていた。そこからさらに順位を上げているからもう十分普通の成績と言える。そして茜ちゃんは薊ちゃんより上になっていた。一学期はほぼ同率だったことを考えると薊ちゃんはちょっと差をつけられてしまった感じだ。


 ただ二人とも十分に成績も順位も上がっている。前までは本当にやばい最下位付近という感じだったけど、今なら平均以上は取れているという感じだろうか。


 この後他の知り合いやクラスの成績も教えてもらって把握した限りでは蓮華ちゃんがかなり上位に食い込むようになっていた。一学期は花梨と鬼灯の下だった蓮華ちゃんが今回は二人の上になっている。


 二十位未満の下位の順位は蓮華ちゃん、花梨、鬼灯、譲葉ちゃん、茜ちゃん、薊ちゃんの順だ。そして前回は譲葉ちゃんより上だった錦織柳は薊ちゃんより下になっている。譲葉ちゃんと茜ちゃん・薊ちゃんの間だった紫苑は知り合いの中で最下位に転落している。


 ただ錦織や紫苑は本人の成績が落ちているわけじゃない。前回と同じような成績はキープしているけど、うちのグループの子達が皆成績を上げているから相対的に下になっているだけだ。花梨や鬼灯だって決して成績が落ちているわけじゃない。


「こんなに成績が上がったのは咲耶ちゃんのお陰です!」


「蓮華ちゃん……、ここまできたら次は二十位以内を狙いましょうか」


「いいわね!蓮華!次は二十位以内で名前を載せちゃいなさいよ!私もそのうち追いつくわ!咲耶様グループ全員で二十位以内を独占しましょうよ!ね!いい考えですよね?」


 薊ちゃんのこの自信はどこからくるんだろうか……。確かに成績は劇的に上がっているけど、前回まではグループ内で茜ちゃんと並んで同率最下位だったのが今回は単独最下位になったようなものなのに……。


 学年全体で言えばかなり順位を上げたけど、グループ内では一番成績が悪かったわけで、確かに薊ちゃんが二十位以内に入れば全員入っているかもしれないけど、それって一番ハードルが高いのは薊ちゃんなのに……。


「これからも今まで通り定期的に勉強会をしていきましょう。それだけでも皆さんの成績はある程度は上がるはずです」


 俺は知っている。いくら勉強しても越えられない壁というのは本当に存在する。もちろんそれを越える方法というのもまたあるだろう。でもただ普通に勉強をしているだけでは越えられない壁だ。あくまで『絶対に越えられない壁』ではなく『普通にしていては越えられない壁』という意味だけど確かに存在する。


 それを越えるためには全てを勉強に捧げるくらいの覚悟と努力がなければならない。そうして初めて超難関の高校や大学に入れるようになる。ただ普通に授業を聞いて、塾や家庭教師に少し勉強を教えてもらう程度では越えられない。


 皆はまだそこまで達していないから簡単に成績が上がっていくだろう。でもいつかその壁にぶち当たってしまう。その時にそれを乗り越えられるか、諦めて妥協するのか、それは本人達次第だ。ただ俺はその時まで皆と一緒に勉強会をして、せめて皆がそこに立つことが出来るようにしてあげたい。その先の未来を皆が自分で選べる場所までは……。



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― 新着の感想 ―
[一言] 途中で寝落ちた上に誤ってページを閉じてたから読み損ねてたでござる。 みんなで20位独占……咲耶ちゃん達なら普通にできそうなんだよなぁ
[良い点] おい男どもしっかりしろ〜!これじゃあせっかくのスパイスがかけても薄味になっちまうだろうがぁ〜。 [一言] あー壁っすね。確かに自分も中学の頃はそんなテスト勉強って張り切らなくてもそこそこの…
[一言] 壁、かぁ…わからんでもないなぁ なんだってそうなんだけどさ 基礎のコツを掴むのが上手い人がいてさ 最初はそれで成績が上なんだよ だけど、応用ができなくてさ で、毎テストごとに段々と点数落ちて…
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