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第四十六話「友達とは」


 皐月ちゃんと親しくなろうと決めたのは良いけどどうすれば良いのかわからない。薊ちゃんの時もそうだったけど、この現実となった世界ではゲームの時の知識やエピソードがあてにならない可能性が高いからだ。そしてそもそも咲耶お嬢様とその取り巻き達のエピソードはほとんど語られていない。


 多分だけど……、現時点でもすでに俺と薊ちゃんの関係はゲーム『恋に咲く花』の二人とはズレてきていると思う。というか冷静に考えたら明らかに登場時の薊ちゃんのポジションは咲耶お嬢様のポジションだったはずだ。


 俺は今までずっと考えていた。明らかに薊ちゃんの立ち位置がゲーム『恋花』の時とあまりに違いすぎたからだ。そこで何がどう違うのか。どうして違うのかずっと考えていた。俺だってただぼーっと生きてるわけじゃないんだぞ。ちゃんと考えてるんだ。


 俺の推測だと……、今の薊ちゃんのポジションは本来咲耶お嬢様が座るはずだったポジションだと思う。そこに薊ちゃんが座ってしまった。


 今薊ちゃんはクラスの中心であり、取り巻き達を引き連れて学園でも一目置かれた存在だ。そして登場時は伊吹の許婚候補なんて言われていた。今は伊吹の許婚候補って話はどこにいったんだってくらい薊ちゃんは伊吹に興味を示していないけど、最初に会った時はそんな話があちこちから聞こえていたはずだ。でもそれってゲームの時は咲耶お嬢様の役割じゃなかったか?


 咲耶お嬢様は取り巻き達を引き連れて、実はアンチもいっぱいいるけど表面的には皆に恐れられ、クラスでも学園でも中心的存在だった。伊吹の一番の許婚候補として付き纏っていた。まさに最初の頃の薊ちゃんそのものだ。いや、逆なんだけどね。薊ちゃんがゲームの咲耶お嬢様そのものだった。


 じゃあ何故俺はこんな日陰者になっていてゲーム時の咲耶お嬢様のポジションに薊ちゃんが座っているのか。それは恐らく俺のせいだ。そして考え方が逆なんだ。


 上流階級の子供達は小学校に上がる前からあちこちのパーティーでお披露目されて、社交界デビューを済ませている。だからほとんどの子達は顔見知りだ。薊ちゃんとその取り巻き達も藤花学園初等科に入る前から顔見知りだった。いや、顔見知りどころか最初から取り巻きだったからな。


 それはどこで知り合ってそういう関係になったのか?考えるまでもないだろう。社交界デビュー以降のパーティー等で知り合い、取り巻きとして取り込んだんだ。


 じゃあ何故咲耶お嬢様には取り巻きがいて周囲から恐れられ敬われていたのに、俺は友達の一人もおらず皆から遠巻きに見られていただけなのか。答えは俺が社交界デビューもせず全て断っていたからだ。


 恐らくゲームの咲耶お嬢様は他の子供達同様に年頃になったら社交界デビューして、あちこちのパーティーに出て、色んな子達と知り合い、時に敵対し、時に手下にしながら成長していったんだろう。でも俺はそれをしなかった。社交界デビューを避けてパーティーに顔を出さなかった。


 当然誰とも出会うはずがない。だってそんな場に行ってないんだから……。だから俺は本来出会って友達や取り巻きや手下になっていたはずの子達と一切親しくなっていなかった。当たり前の結果だ。そして……。


 『俺が咲耶お嬢様のポジションに座らず空けてしまったことで調整が入った』…………。


 本来咲耶お嬢様が社交界デビュー後にするはずだった行動、親しくなるはずだった相手、手に入れるはずだった地位、周囲の評価…………。そういったものが全て空白になってしまった。空白になったからとそのまま別の進行になるわけじゃなく……、代わりの者がその位置に座ることになってしまったんだ……。


 薊ちゃんが取り巻き達にゲーム時の咲耶お嬢様のように扱われていたのは当然だろう。だってそれは咲耶お嬢様の代わりにその位置につけられてしまったんだから……。周囲からある程度評価され、ある程度恐れられ、ある程度敬われ、そして伊吹の許婚候補に収まる。全て本来咲耶お嬢様が座るはずだったポジション……。


 俺が避けたためにその全てのしわ寄せが薊ちゃんにいってしまった。俺が背負うはずだったものを全て薊ちゃんに背負わせてしまった……。


 薊ちゃんにそう言っても別に怒らないだろうし理解もされないだろう。この世界の薊ちゃんはなるべくしてそうなったんだ。俺の代わりにそうされてしまったという自覚もないし、むしろそんなことを言ったら逆に怒られるだろう……。


 この世界の薊ちゃんは自分で選択して生きてきた。それに自ら周囲と親しくなりその関係性を作り上げてきた。俺の代わりにその位置についたんですなんて言おうものなら、それは薊ちゃんと取り巻きの子達の関係も友情も否定することになる。そんなことを言えば怒るに決まっているだろう。


 でもゲーム『恋に咲く花』を知っている俺からすれば、俺が逃げたせいで全てを薊ちゃんに背負わせてしまったということになる。


 別に後悔しているとか、責任を感じているとか、どうにかしなくちゃという話じゃない。ここはもうそういう世界になってしまった、というだけの話だ。それが良かったか、悪かったか、責任がどうこうという話をするつもりはない。


 ただその結果本来なら社交界デビュー以降、あちこちのパーティーに出て手下や取り巻きを作り、一目置かれる存在になるはずだった咲耶お嬢様はいなくなってしまった。薊ちゃんや取り巻きの子達との関係性がおかしくなったのはそのせいだ。


 じゃあ……、俺と皐月ちゃんの関係は?


 薊ちゃんと皐月ちゃんは当初随分仲が悪かった。ゲームの『恋花』の時に最初の出会いや関係性がどうだったのかはわからない。ただゲームスタート時、高等科に入った時点では二人は親友だった。


 咲耶お嬢様が普通に社交界デビューしていたとしたら薊ちゃんや皐月ちゃんとはどうだったんだろう?もし俺が咲耶お嬢様と同じように振る舞っていたら藤花学園入学時には、この世界の薊ちゃんと皐月ちゃんのように仲が悪かったんだろうか?それともゲームの咲耶お嬢様は最初から二人とも取り巻きの側近にしていたんだろうか?


 いや……、それはもう考えても意味のないことだな……。何の参考にもならないしわかりようもない。そしてわかった所で意味はない。ただの俺の無用な好奇心というだけのことだ。それより考えるべきはこれからの皐月ちゃんとの付き合い方だろう。


 薊ちゃんとは仲良くなれた。恐らくゲームの時とは関係性が変わっていると思うけど、親しい友達になるという意味では達成出来たと言えるだろう。取り巻きの子達もまだちょっと距離を感じるけどそれはこれから徐々に親しくなればいい。もうその兆しは見えている。


 皐月ちゃんとはどうやったら仲良くなれる?というか小学校一年生の女の子と仲良くなるにはどうすればいいんだ?


 元々人付き合いが苦手な上にオタク寄りな俺が女児とどうやったら仲良くなれるかなんて知るはずがない。むしろそんなことを知っていたら事案になりかねない……。


 どうしたらいい?


 駄目だ……。一人で考えていても埒が明かない。ここは……。




  ~~~~~~~




「お友達になろうと思ったらどうすれば良いのでしょうか?」


「う~ん……?そんなことを言われてもよくわからないけれど……」


 俺の数少ない友達で頼れるお姉さんの茅さんに相談してみることにした。というかここの所ずっとサロンに行ったら茅さんは絶対に俺の近くに座りに来る。だからどうせ近くにいるなら相談してみようと思ってきいてみた。


 もうあと一ヶ月ちょっとで夏休みになってしまう。これは非常にまずい。藤花学園に通うような上流階級の付き合いとして今日約束して今日行きますなんてことはまずあり得ない。事前に約束を取り付けて十分に準備してからというのが常識だ。


 だからもし俺が皐月ちゃんと何か約束しようと思ってももう今から約束したら夏休みに入ってしまう可能性もある。夏休みになればなったで色々と予定もあるだろう。旅行もあるだろうし、パーティーや催しも多く参加するはずだ。そんな時期に会おうと思ったら大変だし負担をかけてしまう。一学期中に親しくなるにはもう日数がない。


 もちろん一学期中に絶対仲良くならなければならないということはない。それこそ無理をして負担をかけるより二学期以降までかかってもゆっくり仲良くなる手もある。ただもう少しで夏休みに入ってしまうので出来れば夏休みまでにある程度でも距離は縮めておきたいところだ。


 親しい相手でも長期間会わなかったら何だか距離を感じたり遠慮が出てしまったりする。それが大して親しくもない相手だったらもっとすごい距離になってしまうことだってあるだろう。


「正直に言えばよく作り物であるみたいな『お友達になってください』とかいう言葉は言ったことがないわよね……。自己紹介して話しているうちにいつの間にかお友達になっているのが普通だと思うし……」


「そう……、ですね……」


 それは俺だってわかってる。前世を合わせたって友達になろうなんて言葉は言ったことがない。特に小学生くらいの子供だったら、クラスが一緒になって毎日会ってしゃべって遊んでいる間にいつの間にか友達になっているものだ。その時にいちいち友達になろうとか友達だよなとか言ったりしない。


 でもたぶん皐月ちゃんとはそれじゃ駄目だ。それだけなら今までしてきた。でも皐月ちゃんとの仲は進展していない。ちょっと挨拶したり言葉を交わすだけの顔見知り……。今の二人はそんな感じだ。


 どうやったら親しくなれるだろう?普通友達を作る時は何故出来る?


 でも……、そもそも友達になるには一方からの気持ちだけじゃ駄目だ。お互いに友達になる気がなければなれない。つまり俺が皐月ちゃんと友達になりたいと思っているだけじゃ永遠になれない。皐月ちゃんも俺と友達になりたいと思ってくれなければ……。


「やっぱり……、一緒に何かすれば良いんじゃないかしら?」


「…………え?」


 茅さんの言葉にそちらを見てみれば茅さんは真剣な顔で言葉を続けた。


「仲良くなりたければ……、その人と一緒に何かをするの。二人で達成することでもいいし、きっとただ遊ぶだけでも良いはずよ。とにかくその人と何かをやれば少しは仲良くなれると思う」


「何かを……、一緒に……」


 茅さんの言葉を考えてみる。確かにその通りだ。俺は今椿ちゃんとかなり仲が良い。それは茶会をしてからだ。もちろん椿ちゃん以外の子達ともあれ以来随分親しくなれたと思う。薊ちゃんと打ち解けたのもあの噂に対処しようと一緒にあれこれしだしたのが大きいとも言える。


 そうだよ。一緒に遊ぶだけでもいいんだ。それがその相手の興味のあることだったらなお良いというだけのことだ。茶会は椿ちゃんにとってツボだった。だから椿ちゃんとは一気に仲良くなれた。でも他の皆だってあの後かなり砕けた関係になってきた。


 一番効率的に効果を上げようと思ったらその相手が興味あることを一緒にすればいい。でもそこまでかたく考えなくても一緒に遊ぶだけでも十分効果があるはずだ。そう!つまり友達になるってことはお互いに知り合えば良いんだ!一緒にいて、遊べばそれだけでお互いのことが少しはわかる。


 一発で完全に仲良くなろうなんて方が無理があるんだ。徐々に、何度も、一緒に遊んで、色々なことをして、乗り越えて、それでようやく友達になれるものだろう。


「わかった気がします!ありがとうございます茅さん!」


「うんうん。良いのよ。ただお姉さんとも今度遊んでくれたらいいの」


「……え?」


 茅さんの言葉に俺が首を傾げているのに茅さんはニコニコしたままだった。これは冗談なんだろうか?


「いつ空いてるのかな?」


「……え?」


 そして茅さんはスケジュール帳を出して確認し始めた。あれ?本気なのか?これは……、俺は茅さんと遊ばなければならないんだろうか?


「咲耶ちゃんのスケジュールを教えて?いつなら大丈夫?ねぇ?」


「ひぃっ!」


 怖い!俺がずっと答えていないと茅さんの笑顔が段々迫力のあるものになってきた。どうやら冗談じゃなくて本気で遊ぶつもりのようだ。


 おかしい……。俺は皐月ちゃんと仲良くなる方法を考えていて、皐月ちゃんと遊ぼうと思ったはずなのに、何故か茅さんと遊ぶことになってしまった。だいたい六年生が一年生と遊んで楽しいか?何をすればいいんだ?お手玉か?あやとりか?小学校六年生の女の子って何をして遊ぶんだ?


 前に聞いたのは何かを観に行ってから食事やショッピングをするって言ってたっけ……。まさかまた茶会なんてことはないだろうけど、俺の経験の中には小学校六年生の女の子とどうやって遊ぶかなんてものはない。一体どうすればいいんだ……。



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― 新着の感想 ―
[良い点] やっと一番大事なことを気づいた
[一言] 咲耶ちゃんは押しに弱いというか、総受け体質ですな
[一言] 逆にお誘いを受けてしまった!
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