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第四百四十二話「真相編 一触即発」


 計画は非常に順調に進んでいる。先日も廊下で鬼灯と鈴蘭と柾を見かけた。あの三人が裏で結託していることは把握している。表向きは関係ないような顔をしながらコソコソと三人で会って話し合いをしているらしい。


 別にあの三人が結託していようと、協力していようと俺には関係ない。むしろあの二人を柾が助けてくれているのなら俺にとっても好都合だ。


 花梨からの報告でも、他の『目』や『耳』からの報告でも鬼灯達の状況は改善されていると聞いている。実際二人の表情も明るくなってきた。いくら負けん気が強く、図太いといっても二人もまだ中等科一年生の女の子だ。あんなイジメを受ければ辛くないはずがない。


 その二人が元気になり、ついでに柾とも接近して俺にとっての危険人物達が纏まってくれるのなら、こちらにとっても監視も楽になるし行動も読みやすくなる。良いこと尽くめで順調に作戦は推移している……、と思っていた。


「……こんな朝から電話?」


 朝の登校時間に急に電話が鳴り始めた。相手を見てみれば『吉田花梨』となっている。花梨から俺に、それもこんな時間にわざわざ連絡をしてくるなんて只事ではないだろう。花梨には俺達の繋がりがバレないように、学園では極力俺と直接関わらないようにと示し合わせている。それでもこんな時間に急に電話してくるくらいなのだから相当緊急に違いない。


「もしもし?」


 俺は人目につかないところに移動してから電話に出た。周囲に聞かれないように細心の注意を払う必要がある。


『九条様!このようなお時間に申し訳ありません!実は今朝教室で外部生貴族の方達があの二人を……。それで、私はどうすれば良いでしょうか?あの二人が何をされるかわからない状況なんです!どうか……、どうかすぐに策を!次なる作戦を!』


 焦った様子の花梨が早口にそう捲くし立てた。あの大人しくて人の良い花梨がここまで声を荒げて慌てているのだから相当ショッキングな光景を見せられたのだろう。


「吉田さん、まずは落ち着いて。はい、深呼吸、吸って、吐いて、吸って、吐いて」


『すぅ~……、はぁ~~~……、すぅ~……、はぁ~~~……』


 素直に言うことを聞いてくれた花梨が深呼吸を繰り返す。これで少しは落ち着いただろうか。


「まずは周囲の状況を確認して。誰もいませんね?」


『…………はい。大丈夫です』


 最初は慌てていたようだけど、少し落ち着いたら状況を理解してくれたらしい。あまり大声で話していると誰に聞かれているかわからない。俺達の関係は学園内では秘密だ。いくら俺が注意しても花梨が注意してくれなければ意味がない。


「それでは周囲に気をつけつつ、順番に状況を説明して頂戴」


『はい……。えっと……』


 気が動転していた花梨もようやく冷静さを取り戻し説明をしてくれた。その内容を聞いて俺は『やはり』と頷くしかなかった。


 花梨の報告ではどうやら外部生貴族達が鬼灯達に嫌がらせを始めたらしい。俺もいつかはそうなるだろうと思っていた。それが早かったというべきか、遅かったというべきかは難しいところだけど……。


 鬼灯と鈴蘭は外部生貴族でありながら内部生達と仲良くなった。本来それ自体は何ら非難されることではない。そもそも外部生貴族達が内部生と仲良くしたければ自分達も内部生達に話しかけて親しくなれば良い話だ。だけどそれは出来ない。


 四組の状況は外部生一般、外部生貴族、内部生の三つ巴になっている。さらに外部生一般からイジメられていた鬼灯達が内部生達と親しくなったことで、外部生貴族達は余計に内部生と接触しにくくなるという自業自得を演じた。


 鬼灯達がイジメられているのに、元々二人に近しい位置にいた自分達は二人を見捨て、そして内部生達が二人を救ったとあっては一緒になって仲良くしようなどという空気にはならないだろう。これらは外部生貴族達の自業自得なのだが……、だからといって外部生貴族達が黙っているかと言えばそうはならない。


 人というのは妬みや逆恨みをするものだ。我が身の不幸を人のせいにしてしまいたくなる。鬼灯達を見捨てたのも自分達。その二人が内部生達と仲良くなって、自分達が内部生に近づきにくくなったのも自分達のせいに他ならない。でもそうやって鬼灯達が内部生達と仲良くしていれば恨みつらみが積み重なっていく。


 やがて外部生貴族達も二人への当たりがきつくなり敵対してくるかもしれないとは思っていたけど、まさか本当にしてくるとは……。


 内部生達と懇意にしている二人を攻撃すれば、ますます内部生とお近づきになるのが難しくなる。普通に考えたらそれくらいわかるだろう。それでも怒りや妬みに目が曇っている者達はそれにも気付かない。あるいはあの二人さえいなくなれば、今度は外部生貴族と内部生達で仲良くなれるとでも思っているのかもしれない。


 本当に愚かなことだけど……、愚かだなと言っている場合じゃない。確かに花梨が慌てている通り、このまま放っておけば碌な事にならないだろう。外部生一般のイジメが固定化しないように急いで手を打ったように、この問題も固定化される前に先手を打って解決した方がいい。


「私は出来るだけ早くその状況を打開出来る策を考えます。吉田さんは状況が悪化しないように注意しつつ二人を匿っておいてください」


『はい!』


 う~ん……。外部生貴族は曲りなりにも貴族なんだから外部生一般生徒達ほど無茶はしないと思いたいけど、すでに実力行使に出ているし、中央の社交界にいる貴族達と同じとは思わない方が良さそうだ。まぁそれでも貴族相手なら有効な手段というのはある。出来ればついでに一般生徒達にも貴族達の実力というものを肌で感じてもらいたい。


 ……少し協力者が必要だな。あまりあちこちに協力者を作ると秘密が漏れる可能性が高まるけど、あまりのんびりもしていられない。あの二人、いや、花梨も含めて三人の身の安全が最優先だ。自分のことを気にしている場合じゃない。


 それから……、この作戦実行には暫く時間がかかる。大急ぎでやるとしても多少の準備は必要だ。それまでの間三人の護衛を強化しておかないと……。外部生貴族まで加担し始めたとなると、外部生一般生徒達がさらなる実力行使に出ないとも限らない。


 絶対に……、三人の身の安全は守らなければ……。




  ~~~~~~~




 俺はまず準備のために協力者を呼び出した。ある意味因縁の相手だけど……、それでもこの子に頼むしかない。


「九条様……、一体今頃私に何の御用でしょうか?」


「急に呼び出してしまってごめんなさい。来てくれてありがとう、萩原紫苑さん」


「…………」


 どこかこちらを探るような、言葉とは裏腹にこちらを警戒しているような様子が見て取れる。まぁそれも無理からぬことだろう。それなりに美人だろうけど性格のきつそうな顔で厳しい視線をこちらに送っている。


 萩原紫苑……。初等科一年生の運動会の時に、錦織柳を突き飛ばし転ばせ、事情を聞こうと呼び出した俺にあんなことを言い、さらにその騒動を桑原桂や洞院青木に利用されて大変な騒ぎになってしまった。


 萩原紫苑自身は別に桑原桂や洞院青木と協力関係だったわけじゃない。萩原紫苑はただ近衛門流として、間違っていたとしても、純粋に近衛伊吹を守ろうとしていただけだ。それを桑原や洞院に利用されたに過ぎない。


 でもあれだけ大騒ぎになってしまった上に、レース中に錦織を突き飛ばすなんてことをしてしまったために萩原紫苑の評判は地に落ちた。自業自得とはいえそれからの学園生活は大変なものだっただろう。一部には彼女に厳罰や退学を求める声もあったほどだ。


 そんな萩原紫苑を、因縁の相手とも言える俺が、それも六年近くも経ってからいきなり呼び出したとあっては警戒しないわけがない。今まで何の接触もなかったのに、何故今更呼び出されたのかという彼女の言葉はまさにその通りだ。でも今回呼び出したのは以前の話を蒸し返すためじゃない。


「先に断っておきますが、今日来ていただいたのは昔の話を蒸し返そうと思ってのことではないのです。ですから萩原さんもそのことはお気になさらず、思った通りにお話してください。実は本日お招きしたのは私から萩原紫苑さんにお願いがあったからなのです」


「……お願い?」


 まだ警戒している顔で訝しむようにこちらを見ていた。そもそも前の話を持ち出しつつ『お願い』などと言っても、前のことをたてにして脅しているようにも受け取られるかもしれない。でも俺は本当に前の事件のことを蒸し返す気はない。嫌なら断ってもらってもいい。ただ俺の話を聞いてもらいたい。それから本心から判断して欲しい。


「萩原さんに……、是非協力していただきたいことがあるのです。一年四組の生徒を招いて二週間……、いえ、出来れば一週間以内にパーティーを開いていただけませんか?」


「なっ!?いっ、一週間っ!?」


 萩原紫苑が驚くのも無理はない。本来堂上家のパーティーなんて年単位で準備していてもおかしくはない。今日言って、じゃあ来週、なんて言えるようなものじゃないのは明らかだ。それでも俺は一週間以内に準備して欲しいと言っている。それがどれほど無茶なのかは重々承知でだ。


「もちろん私も、九条家も、出来る限りの支援は行います。ですからどうか……、無茶なお願いだということはわかっていますが、どうか萩原家が主催ということで近々にパーティーを開いていただけませんか?」


 俺は萩原紫苑に向かって精一杯の誠意を込めて頭を下げた。俺に出来ることはこうして頭を下げて人に頼むことだけだ。


「何故……、私なんですか?」


 最初は驚いた顔をしていた萩原紫苑だったけど、少し声のトーンを落としてそう聞いてきた。当然の疑問だろう。堂上家にパーティーを開かせるだけなら他にいくらでも家がある。それこそ九条家が無茶を言うのならば九条門流の堂上家にでもやらせれば良い話だ。それなのに何故近衛門流で、しかも過去に因縁のある萩原紫苑に頼むのか。疑問に思わない方がおかしい。


「すでにご存知かもしれませんが、四組は現在あまりよくない状況にあります。特に外部生は一般生徒も貴族も、少し内部生に対して攻撃的になりつつあるのです。このままでは四組の内部生のみならず、学園中で外部生と内部生の対立に繋がりかねません。そこで……」


「内部生の……、特に堂上家の力を示して外部生達に手出しさせないようにしようと?」


「…………掻い摘んで言えばその通りかもしれません」


 萩原紫苑も伊達に財力の大きい堂上家の一員ではないということか。人を黙らせる方法も、支配する方法も理解している。


 はっきり言えば萩原家は七清家のほとんどをも超えるほどの財力を持つ。吉田本家もそれに近いほどの財力だ。卜部氏は全国の神社の上に立つ家であり、その官位や家格以上に圧倒的な財力を有している。単純に金を持っていても成金では上にはなれない貴族社会ではあるけど、萩原家や吉田家の財力を侮る者もまたいない。


「それこそ私でなくとも九条様がご自身でされれば良いじゃありませんか。わざわざ私にそうやって頼まれる理由がわかりません」


 協力を頼む以上は……、言えることは伝えておく方がいいだろう。それで断られて、言い触らされたら困るけど……、その時は俺に人を見る目と人望がなかったと諦めるしかない。


「もちろん理由はいくつかあります。まず対外的に見れば萩原家は半家です。その半家ですらとんでもない実力を有しているとわかれば牽制の効果が高まるでしょう」


「……」


 紫苑はややむくれたような表情をしつつも『それはそうだ』というような顔をしていた。財力や家の規模から言えば萩原家は半家どころかほとんどの堂上家を上回る。でも結局半家は半家だ。ならば内情に詳しくない者からすれば『堂上家の中でほぼ最下位に近い位置にいる萩原家ですらこれほどの力があるのか!?』と思えば、堂上家全体への畏れや遠慮が芽生えるだろう。


「それから……、実は四組に私の協力者がいます。吉田花梨さんです。今回の件は私が関係していると表に出したくないのです。そこで吉田花梨さんを通じて自然に四組をパーティーに誘えて、なおかつそれだけの実力がある家となれば萩原家しかないのです」


「なるほど……」


 まず四組を全員パーティーに呼ぶというのが唐突すぎる。仮に五北家がいきなりそんなことをすればおかしいだろう。だから半家である萩原家が『元々計画していたパーティー』に、『偶然親戚である吉田花梨を招待し』、『その繋がりで四組全員を招待する』流れにしたい。


 四組全員を呼ぶようなパーティーを、今から一週間でセッティング出来るような家といえば限られる。さらに花梨を通じて自然と四組をパーティーに誘い出せるのは萩原家か錦織家しかない。錦織にはすでに色々と頼んでいる上に、錦織家は堂上家といっても財力に優れる家じゃない。


 いくら九条家がバックアップして負担を負うとしても、形の上では主催となっている家が一切何も出さない、しないというのは無理だろう。そうなれば錦織家に重い負担を負わせてしまう。じゃあ萩原家は負担を負わせて良いのかって、良くはないんだけど……、萩原家の財力ならパーティーの一つや二つはそれほど負担でもないだろう。


「そんなことを話して、私が……、裏切って情報を漏らすとは考えないんですか?」


「その心配もあるかもしれません。ですが私は萩原紫苑さんを信じたい。その上でもし断られ、情報を流されてしまうのであれば、それは私の不徳の致すところでしょう」


 俺は紫苑を真っ直ぐ見てそう言った。確かに俺達の間には確執があるかもしれない。その復讐に紫苑がこれを利用するかもしれない。でも俺は頼んでいる方だ。ならばまずはこちらが誠意を見せて、本当のことを話して頭を下げるしかない。


「九条様がバックアップしてくださる上に、九条様が関わっているということは伏せて、吉田花梨と協力すれば良いんですよね?吉田花梨はこのことを?」


「いいえ。吉田さんには知らせません。彼女にも協力していただいておりますが、彼女の身の安全も考えて余計なことは出来るだけ伝えないようにしております。萩原家がパーティーを計画しているという話を彼女にし、彼女の方から萩原家に、紫苑さんにパーティーに加えてもらうように頼むように伝えます」


「そうですか……」


 萩原紫苑がニヤリと隠すこともなく口元を歪める。何か悪いことを考えてそうな顔にも見える。悪役顔って損だよね……。萩原紫苑が悪いことを考えているとは限らないのに、悪役顔というだけでそういう風に見えてしまう。俺もそう思われている側だからその苦労はわかるよ……。


「それでは私も九条様にお願いがあります。それを聞き届けていただけるのなら協力しましょう」


「わかりました。私に出来ることならばどのようなことでも……」


「言いましたね。『どのようなことでも』と……。その言葉、忘れないでくださいね」


 ますますニヤリと悪者顔で笑う萩原紫苑は、どう見ても悪役令嬢にしか見えない。昔のことでちょっとお互いに接近しづらい空気があったけど、俺は何だか萩原紫苑に親近感を覚えたのだった。




  ~~~~~~~




 萩原紫苑に頼んで協力してもらえることになり暫くが経った。準備は急ピッチで進めているけどまだ暫くはかかりそうだ。そう思っていると放課後に電話が鳴り響いた。発信相手を見てみれば……、三人の護衛を頼んでいるSPからだった。何故SPがわざわざこんなタイミングで俺に?


「――ッ!もしもし?」


 何か嫌な予感がした俺は慌てて電話に出た。普通の報告なら家に帰ってからでも良い。それなのにわざわざ俺に電話してくるということは緊急事態だろう。


『申し訳ありません。緊急事態のため電話をおかけしたこと、お許しください』


「どうしました?何かあったのですか?」


 謝罪なんてどうでもいい。とにかく何があったのかと先を促した。そんなSPから知らされた情報は……。


「……わかりました。引き続き警戒してください」


『はい。それでは失礼いたします』


 切れた電話を見詰めて一気に力が抜けた。何か大変なことになったのかと思ったけど、一応何事もなく済んだらしい。どうやら帰りに外部生一般生徒達があの三人に絡もうとしたようだ。何をするつもりだったのかはわからないけど、放課後に待ち伏せして人気のない所で姿を現したというんだから、何らかの実力行使をするつもりだった可能性が高い。


 SP達が外部生一般生徒達を抑えていると、そこへ柾が通りかかったらしい。まぁそれも言い訳で、柾があの二人をつけ回して……、一応護衛しているつもりになっていたことは報告を受けている。柾が通りかかったことで外部生達は逃げ出し、今日の所は何もなかったということだけど……、このままじゃまずい。


「急ぐ必要がありますね……」


 パーティーは失敗出来ない。急いで用意してチンケなパーティーになってしまっては本末転倒だ。だけど早く内部生の力を見せて牽制しておかないと、今後さらにどんな事態に発展するかわからない。とにかく急いで進めないと……。



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― 新着の感想 ―
[一言] 何を要求するのかな~ あのCDとかだったりして( ˘ω˘ )
[一言] 紫苑嬢の要求する報酬とは? ふぅむ…普通によろしくないことなのか、近衛への口利きか、九条への接近か… もしくはそれこそ、お嬢のところに入り込むか? 入り込むとしたらそれはどんな感情からだ? …
[一言] たいへんだなぁ そして紫苑 たぶん普通に悪いこと考えてそう
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