第三百三十六話「俺は何をしちゃったの!?」
食事を終えて皆でまったり寛ぐ。平日とは違うからお昼休みとか、午後の授業開始の時間とかはないけど、やっぱりお昼休みは自然とお昼休みになってしまう。
まぁ……、午後の授業の開始時間というのはないけど、午後の催しの開始時間というのはあるしね。露店や食堂はずっと開いてるけど、体育館や講堂で催される出し物は時間が決まっている。それがいつもの午後の授業開始時間と同じというわけだ。
「咲耶様、午後からはどうされますか?」
「午後も最初と最後はもう決まっていますから……、その間をどう過ごすかですね……」
午後からの予定の最初と最後はもう決まっている。それは外せないからその間の時間をどう使うかが問題だな。
「でしたら咲耶お姉様、午後は私と一緒に回りましょう?」
「竜胆ちゃんだけずるい!咲耶お姉ちゃん!秋桐も一緒に行く!」
「私も~!」
竜胆が俺と一緒に回ろうと言うと他の三年生達も自分も自分もと言って群がってきた。とても可愛い……。俺を萌え死させる気か!お姉ちゃんお姉ちゃんと言いながら集まってくるこの子達の可愛さときたらもう……。連れて帰ってしまいたい!
俺もこの歳になったらわかった。茅さんがどうしてあんなに俺達を可愛がってくれているのか。この秋桐や竜胆達を見れば一目瞭然だろう。歳の離れた後輩は可愛い!これは真理だ!
「咲耶ちゃん!ここに居たのね!さぁ行きましょう!」
「えっ!?ちょっ!?茅さんっ!」
俺達が空き教室で寛いでいると突然茅さんがやってきて俺を引っ張って教室を出た。向かう先は講堂だろう。何しろ最初から午後一番の予定は決まっていた。そう……、何故か初等科をとっくに卒業しているはずの茅さんと杏が開催している織姫・彦星コンテストだ。
午後一番に講堂で催されるこのコンテストもすでに七夕祭の定番となっており、今年も俺達に出場しろと茅さんからのお達しがあった。第一回、第二回と出ているのだから今更だろう。なので元々ちゃんと出るつもりだったし出ると茅さんにも伝えている。それなのにもう迎えに来たらしい。
「ちょっと!正親町三条様!」
「突然すぎるでしょう!こちらでも準備が出来次第向かう予定でしたのに!」
薊ちゃんや皐月ちゃんが俺達の後を追いながら抗議してくれるけど茅さんには効かない。
「いつ連れてくるつもりだったのかしら?五分前?十分前?はっ!甘いわよ!咲耶ちゃんに恥をかかせるおつもりかしら?リハーサルも含めて少なくとも三十分は必要でしょうに!どうして早く連れてこないの!」
「それは……」
逆に茅さんに言い包められた二人はしょぼんとした顔で視線を逸らしてしまった。いや、二人の方が正しいよ?何で三十分も前からリハーサルなんてするんだよ。それじゃ出来レースですって言ってるようなものだろう?他の出場者はそんなリハーサルとかないはずなのに、俺だけ事前にリハーサルとか特別扱いはずるい。
「茅さん、私だけリハーサルなどおかしいでしょう?私も他の出場者と同じように……」
「いいえ!咲耶ちゃんは第一回、第二回の女王なのよ!だから相応の演出も待遇もあって当たり前でしょう!」
「うっ……、う~ん……?」
そうなのか?そりゃ例えば前回優勝者は予選でシードになるとか、別枠扱いとか、あるいはタイトルホルダーは挑戦者を受けるだけとか、色々と待遇が違って当たり前と言われればそうなのかもしれない。このコンテストは茅さんと杏が仕切ってるから、二人がそういうルールで運営しているのだと言うのならそうなんだろうか……。
「咲耶ちゃ~ん!待ってー!」
「私達も……」
「咲耶お姉様!」
「咲耶お姉ちゃん」
茅さんに抱えられた俺を、教室にいた皆が追ってきていた。保護者達は後からゆっくり来るようだ。午後一番はここにいる皆でコンテストに出て、保護者達も講堂に観に来ることになっていた。ちょっと講堂に向かうのが予定より早くなってしまったけど、どうせこうなった茅さんは止められない。
結局俺達はこのまま講堂でコンテストのリハーサルをすることにしたのだった。
~~~~~~~
『さぁ皆様!お待たせいたしましたっす!第三回織姫・彦星コンテスト開催っす!』
わーっ!という歓声と拍手が講堂の席から響き渡る。前まではこんなに盛り上がってなかったと思うんだけど……、これって茅さんと杏の演出なんじゃないかな?という気がする。
去年までこんなにこのコンテストは盛り上がってなかったし、今年はリハーサルとかもやってたし、この盛り上がりは仕込みなんじゃないだろうか?テレビ業界の人に言わせればこれは所謂やらせではなく仕込みや演出と言われるものだ。だからセーフ!何がセーフなのかはわからないけど……。
『それでは今年の出場者のご紹介からっす!エントリーナンバー一番!……』
杏が読み上げて番号を呼ぶと出場者が順番に表に出て行く。簡単な紹介がされて、次々に交代して、最後に呼ばれたのが……。
『そしてぇぇぇっ!最後に登場するのは真打ち!二年連続織姫に輝いたディフェンディングチャンピオン!美を愛し!美に愛された美少女女神!くじょ~~~~~うぅっ!さ~~~くや~~~~さま~~~~~っ!』
もうやめてぇぇぇぇっ!とっくに俺のライフはゼロよ!
杏は俺に何か恨みでもあるのか!?何だこの紹介は!?しかも会場中からパチパチと盛大な拍手が響いている!これは仕込みだ!やらせだ!恥ずかしすぎる!絶対他の普通の観客からは『九条咲耶がやらせをしているよ』と思われてるよっ!もう恥ずかしすぎて表を歩けない!
でも舞台裏でもじもじしているわけにもいかず、仕方なく舞台袖から壇上へと躍り出る。そうだ。堂々としていよう。恥ずかしがってモジモジすると余計に駄目だ。俺は舞台女優だ。女優になりきれ!これはそういう仕事だ!これはこういうものなんだ!
『堂々と歩かれる姿は凛々しく美しい!その表情には余裕の笑みすら浮かんでいます!今年も九条咲耶様の優勝間違いなし!一切の死角なし!藤花学園が誇る完璧女帝!九条咲耶様の入場です!』
あああぁぁぁ~~~~っ!あんずぅぅぅぅっ!覚えてろよぉっ!なんで……、なんで止めを刺すんだよぉ!俺に何の恨みがあるんだよぉ……。
『それではもう一度全ての出場者の方々に出てきていただきましょう!』
俺が壇上で待っていると今年の出場者達が再び舞台袖から出てきてズラリと並んだ。でももう恥ずかしさで頭が真っ白になっていた俺はこの後のコンテストの内容を何一つ覚えていなかった……。
~~~~~~~
「はっ!?こっ、ここは……」
「咲耶様?どうかされましたか?」
「薊ちゃん?」
あれ?ここはどこだっけ……。俺は何故こんな所に……。今まで何をしていたんだ?
「咲耶ちゃんの特技凄かったねー!」
「本当ですね!スピーチも完璧でしたし!」
「あれならば誰も文句なく織姫三連覇に納得ですね」
「え?え?」
皆の話している内容の意味がわからない。ここは……、あっ!講堂の裏だ。そう言えば俺は午後から茅さんと杏のコンテストに出ようと思って……。
「咲耶お姉ちゃん凄かった!」
「本当に……、咲耶お姉様にあのような特技がおありとは存じませんでした」
「あの……?」
「咲耶ちゃん!有終の美を飾っての織姫三連覇おめでとう!お姉さんもこの企画を頑張った甲斐があったわ!」
何か……、よくわからない。もうコンテストは終わって、俺がまた織姫に選ばれたみたいな感じだな……。
「え~っと……、コンテストは誰が?」
「え?彦星は二条桜様、織姫は九条さんですよ?」
隣にいた芹ちゃんにコソッと聞いたら怪訝そうな顔をされてしまった。……えっ!もう終わったの?駄目だ。コンテスト中の記憶がまったくない。また去年までのように組織票や不正や斟酌が働いていたのか?でなければ俺が選ばれるはずがない。
「また茅さんが何か不正をされたのでは……」
「まぁ!咲耶ちゃん、ひどいわ!ひどいわ!私が不正をしているなんて……。私は投票用紙をきちんと数えさせています!証拠の投票用紙も残っているわ!」
そりゃ投票用紙はあるかもしれないけど、そこに書く内容を投票者に圧力をかけて決めさせていたら不正ですよね?何も票の数え方や票そのものが偽物じゃなくても、投票先を強制するのも不正だよ……。
「いいえ咲耶様!今年は間違いなく咲耶様が優勝でしたよ!観客の反応も最高でした!」
いや……、そういう反応とかも仕込みというかやらせが出来るじゃん……。
「それにあんな素晴らしい特技のパフォーマンスをされれば咲耶ちゃんが優勝で誰も異論はありませんよ」
っていうか、さっきから俺の特技がどうとか、披露したものが凄かったとか言ってるけど、俺一体何をしたの?全然記憶にないんですけど?
「あの……、私は一体何を披露したのでしょうか?」
「あぁ!思い出すだけでも感動で震えてしまいます!」
「そうだねー!咲耶ちゃん凄かったねー!」
「いえ、ですから一体何を……」
「咲耶お姉ちゃんまた見せてね!」
「咲耶お姉様は素晴らしいです」
だから何をやったの?俺!気になる!滅茶苦茶気になる!でも誰も教えてくれない!あぁぁぁぁ~~~っ!
~~~~~~~
コンテストが終わってからブラブラと時間を潰して、七夕祭も終わりが近づいてきた頃、俺達は再び講堂を訪れていた。今の催しが終わったら講堂での最後の催しが始まる。それは……、俺達のライブコンサートだ。
「皆さん、練習通りに力を出し切りましょう。射干ちゃん、真弓ちゃん、薺ちゃんは初めてだから緊張するかもしれないけれど、練習の成果を皆さんに見てもらいましょう」
「「「「「はいっ!」」」」」
俺達は……、今年も七夕祭の出し物でコンサートをすることにした。去年と違って今年は講堂で、いや、体育館の出し物も終わって暫く後、全体で最後の出し物、大取りを飾ることになっている。
去年はこのコンサートのせいで後で大変なことになったし、もう二度と人前で演奏なんてするか!という気持ちもあったけど……。俺達は今年で卒業だ。このメンバーで人前で演奏出来るのは今回が最後になるだろう。それに射干達は去年のコンサートの時はまだお友達になっていなかった。だから……、皆での最後の思い出に……。
「咲耶様……、泣いておられるのですか?」
「え?あぁ……、いえ、違うのよ……」
薊ちゃんが言う通り、少し目に涙が浮かんでいた。でもこれから皆で演奏をするというのに泣いているわけにもいかない。
「このメンバーで揃って演奏出来るのは今日が最初で最後でしょう……。皆さん、悔いのないように頑張りましょう!」
「「「「「はいっ!」」」」」
皆も気合が入った顔で頷いてくれた。さぁ、最後の舞台に立とう!
俺達が舞台袖から出ると万雷の拍手が鳴り響いた。去年のまばらな観客に盛り上がらないお世辞の拍手とは違う。これが仕込みだとは思えない。大勢の、いや、ほとんどの人が集まってくれているのではないかと思えるような大観衆が詰め掛けていた。
『咲耶様とその仲間達による最後の演奏っす!』
演奏も担当しているけどマイクも担当してくれている杏の言葉に観客のボルテージは最高潮に達した。そして始まる最後の演奏……。
去年のコンサートが終わってから、もう二度と人前でなんて演奏をしたくないと思っていた。でも、射干達も加えて皆で最後に出来ることと言えばこんなことしか思い浮かばなかった。そして……、こうしていざ舞台に上がって演奏してみれば……、楽しい……。
確かにまだ人に見られるのも、拙い演奏を披露するのも恥ずかしい。だけど、こうしてメンバーの皆とも、観客とも一つになっているのはとても楽しい。ただ恥ずかしいだけじゃなくて、こういう一体感がライブの良さなんだろう。俺は今までこんなものを知らなかった。前世でも経験してこなかった。それが……、今、皆のお陰でこうして味わえる。
時々誰かが失敗しても、皆で笑い合って、フォローし合って、一つのものを作り上げる。あぁ……、最高だ。恥ずかしいとか全部投げ捨てて、ここに立ってよかった……。
~~~~~~~
「楽しかったねー!」
「そうですねぇ」
「たくさん間違えて皆様の足を引っ張ってしまいました……」
舞台裏で心地良い疲れに浸っていると射干達が申し訳なさそうに謝った。確かに射干達はポツポツ間違えていたけどそれは仕方がない。射干達が楽器の練習を始めたのは最近だし、練習時間も十分に取れなかった。他のメンバーと練習量が違うんだから失敗しても当たり前だ。
「射干ちゃん、足など引っ張っていませんよ。あれが私達の作り上げた一つの作品なのです。もう二度とない、今日だけの、たった一度でたった一つの作品なのですよ。ですから顔を上げてください」
「うっ……、ぐじょうざまぁ~~~っ!」
「ああぁぁ~~ん!」
「ひぐっ!うっ!」
射干、真弓、薺は泣きながら俺に抱き付いてきた。だから俺はただそっと抱き締めてあげる。いくら俺にそう言われても悔いは残るだろう。悔しいだろう。もっと練習しておけばよかったと思ったかもしれない。もっと良い演奏に出来たかもしれないと思ったかもしれない。
「悔いが残ったのなら……、それを次に活かしましょう。そうすれば今日のこともいつか笑って話せる思い出になります」
「あああぁぁ~~~っ!」
俺達が何か言ってもアドバイスは出来ても結局決めるのも自分を許せるのも自分自身だけだ。射干達が泣き止むまで、俺達は暫く皆で三人を慰めてあげたのだった。
~~~~~~~
最後の出し物も終わって全ての予定を終えた。皆の願いを乗せた笹は天に昇り空へと消えていった。そして最後に飾りつけコンテストの結果が発表される。低学年の部は二年二組、中学年の部は四年三組、高学年の部は六年三組が優勝と発表された。でも本当にそうなのかな?
俺は正直六年三組がそんなに優れていたとは思えない。自分のクラスだからこそ余計にそう思う。特別悪かったとは言わないけど、他のクラスと比べてよかったか?というと疑問だ。もしかしてここでも斟酌が働いているんじゃないだろうかという気がしてならない。これも今回の問題、反省点だな……。
まぁそれはまた後で考えるということで……。
「皆さん、今日はお疲れ様でした。皆さんの頑張りのお陰でとても楽しい一時が過ごせました」
「いいえ!咲耶様のお陰です!」
「そうです!咲耶ちゃんのお陰です!」
皆でワッと声を掛け合う。でも……。
「でも……、咲耶お姉ちゃんと一緒にお祭りが出来るのも……」
「これで最後……」
三年生達が暗い顔になってしまった。こんな顔をさせてしまって申し訳ないやら、色々な感情が湧いてくるけどこればっかりはどうしようもない。
「確かに来年は私は卒業してしまっていません。ですが……、今度は秋桐ちゃんが、蒲公英ちゃんが、桔梗ちゃん、空木ちゃん、李ちゃん、射干ちゃん、真弓ちゃん、薺ちゃん、そしてそれを率いる竜胆ちゃんが、次からは後輩達を引っ張っていってあげなければならないのですよ」
「「「「「…………」」」」」
「これまで私達と一緒で楽しかったと思ってくれるのなら、それを次の子達に教えてあげてください。次は秋桐ちゃんや竜胆ちゃん達が後輩達を導いてあげてください。ね?」
「うん!」
「咲耶お姉ちゃんに教えてもらったことを……」
「今度は私達が下の子達に教えてあげる!」
「ええ、お願いね」
素直に頷いてくれた秋桐達の頭を撫でてあげる。こうしていくうちに、俺達の方も次第に卒業ということを自覚してくんだろう。前世ではぼーっとしているうちに次々卒業と進学をしていた。でも今生では……、もっと一日一日を大切に生きていこう。




