第三百話「次世代」
二条家のパーティーも終わったしようやく平穏な日常が戻ってきた。今日も皆で食堂へと向かう。
さすがに十一月も過ぎれば寒くなってくる。テラス席では辛いと思う所だけど、実は少し前からテラス席の回りを透明なシートで覆っている。しかも暖房までかけられているからまったく寒くない。ただそれだと最早テラス席じゃなくて室内とほとんど変わらないんじゃ?と思うけど……。
でも家とか店でもテラスやテラス席なのにガラスに囲われていて室内と変わらないという所もある。建築や店舗の問題上そこがテラス扱いなのか、室内扱いなのか、色々と基準や決まりはあるだろうけど、藤花学園が法律に疎いはずがない。なので法律上は問題ないんだろう。
まぁ……、透明なシートだから外の様子は見れるし、俺達だって別に吹き曝しの中、寒い思いをして外に居たいわけじゃない。席が確保出来て快適に過ごせるのならそれが一番だ。
「さくやおねーちゃん!こんにちは!」
「御機嫌よう秋桐ちゃん、皆さんも御機嫌よう」
「くじょーさまごきげんよう!」
「こんにちは、さくやさま!」
いつも通り可愛い二年生達と合流して……。
「咲耶様!おはようございます!」
「御機嫌よう、李ちゃん。今日は李ちゃんも一緒なのかしら?」
何か……、昼に会っても夜に会っても元気よく『おはようございます』って言われたら誰かさんを思い出すな……。誰とは言わないけど俺と会ったら一番最初は『おはようございます』だといつも言う誰かさんを……。
それと、李を食堂で見るのは初めてのような気がする。いつも外食なのかお弁当なのかは知らないけど、秋桐達が食堂に来ても李や、それから竜胆達も見たことがない。竜胆と榊は七清家と大臣家だし食堂になんて来ないか……。それで言えば李も今まで来てなかったんだし来るつもりもないのかと思っていたけど……。
「はい!食堂に来たら咲耶様とご一緒出来ると聞いたので、これからは私も食堂を利用しようと思います!」
「そうですか。それではご一緒しましょう」
今まではどうしていたのかと尋ねたら、外食しに出掛けたり、お昼頃に家の者にお弁当を届けてもらったりしていたらしい。
一時、家が傾いていた頃の清岡家ではそれも厳しかったようだけど、やっぱり堂上家としての体裁とかもあるからということで多少無理をしてでもそういう生活をしていたようだ。そのお陰で余計に家が傾いていたんじゃないかとも思うけど……。
まぁ最近は九条グループとの取引が増えて会社も持ち直したみたいだし、この程度の出費ですぐに傾くような状況からは脱したらしい。だから今までは食堂を利用していなかったようだけど、秋桐達と話していると食堂で俺達と一緒だと聞いて、それなら自分も一緒に食事をしたいとやってきたようだ。
「私達は予約席の方も利用しているので、予約席の日は一緒にはなれませんよ」
「そうなんですか……。予約席というのも利用したことがないのでよくわかりません」
今日が食堂デビューの日である李に色々と教えてあげる。通常席の方は特に何の問題もないだろうけど、予約システムや予約席については教えてあげないとわからないだろう。……ん?でも学園でも毎年のように説明したりプリントを配ったりしてるはずだけどな……。李はそういうものはあまりきちんと読んでいないんだろう。
「む~っ!さくやおねーちゃん!すももちゃんとばっかりお話してる!」
「ああ、ごめんなさいね。それじゃ秋桐ちゃんも、蒲公英ちゃんも、お話してくれるかな?」
「うんっ!えっとね!今日のじゅぎょうでね!」
後ろからスカートを引っ張られたと思ったらむくれた顔の秋桐が俺のスカートを握り締めていた。可愛らしくヤキモチを焼いているから秋桐の話も聞く。李はヤレヤレとばかりに肩を竦めたけど、自分の方が折れて食堂の話から秋桐達が持ち出した授業の話に切り替えて一緒に話し始めた。
李も最初はあんな感じだったからもっとわがままな子かと思ったけど、こうしてちゃんと周囲にも気が配れるし、実は良い子だというのがよくわかる。最初の時に徹底的に排除してしまわなくてよかった。
やっぱり皆最初は色々と立場の違いとか、家の状況とか、何かしらの事情があって対立しているだけで、いざこうして仲良くなってみれば皆そんなに根っからの悪い子なんていないんだろう。もしかしたら俺が排除してしまった子達も、違う形で出会っていれば普通にお友達になれて、普通に良い子だったのかもしれない。
「でも……、李ちゃんも竜胆ちゃんも薊ちゃんタイプのような感じですね」
「えっ!?どういうことですか咲耶様!?私はこんな生意気じゃありませんよ!」
つい独り言が漏れてしまっていたらしい。どうやら本人である薊ちゃんに聞かれたらしく、すぐに全力で否定されてしまった。
「咲耶ちゃんが言われる通り、薊と李はタイプが似ているんじゃないでしょうか?」
「ちょっと!皐月までっ!?やめてよね!絶対違うから!」
何で薊ちゃんはそこまでムキになって否定するんだろう。もしかして薊ちゃんは李のことがあまり好きじゃないのかな?
「どうして薊ちゃんはそこまでムキになって否定するのですか?李ちゃんのことが嫌いですか?」
「やっ……、それは……、嫌いではないですけど……」
そう言いながらごにょごにょと口篭ってしまった。もし仲が悪いとか反りが合わないというのならはっきりさせておいた方が良いだろう。そして出来ることならグループの皆には仲良くしてもらいたい。俺達で間を取り持てるというのなら何とかしたいところだ。
「徳大寺様は私のことがお嫌いなのですか……。わかりました……。私はこれで失礼しますね……」
李がシュンと悲しそうな顔をしながら食堂から離れようとする。
「ちょちょちょっ!違うって言ってるでしょ!早とちりしないでよ!」
そんな李を薊ちゃんが慌てて止めた。どうやら本当に嫌いとかそういうわけではないようだ。だったら何故薊ちゃんと李のタイプが似ていると言ったらあんなに嫌がったのかますますわからない。
「薊がはっきりしないからでしょう?李もこのままでは誤解してしまいます。もうはっきり言ってしまいなさい」
「うぅ……、だから……」
皐月ちゃんに怒られて薊ちゃんが困った顔をしながら視線を逸らせ、またごにょごにょと口篭る。でも覚悟を決めたのか口を開いた。
「李は咲耶様とあんなことがあったでしょう?それなのに私と李が同じだって言われたらまるで私まで咲耶様に逆らったって言われているみたいで……、だから違うってムキになっちゃったのよ……」
「何ですか……。そんなことですか……」
「そんなことってねぇ!」
理由を聞いて今度は皐月ちゃんがヤレヤレという顔をした。それに薊ちゃんが食ってかかったけど、皐月ちゃんは決定的な言葉を放ってしまった。
「実際薊だって一年生の頃は咲耶ちゃんに逆らって食って掛かっていたじゃありませんか。まさか違うとか、なかったことにするというおつもりではないですよね?」
「うぅ……」
また薊ちゃんがシュンとして視線を逸らした。そんなことを気にしてたのか。そりゃ一年生の頃は主導権争いとかそういうことも起こるだろう。地下家の子達ならそんなに気にしないかもしれないけど、堂上家、ましてや俺達は五北会のメンバーだったわけで、同学年での主導権争いが起こるのは当然だ。
「まぁまぁ……。五北会メンバークラスならば入学してすぐは主導権争いくらいあるでしょう?それに薊ちゃんは少し言葉がきつかっただけで、決して嫌な子ではありませんでしたよ」
「咲耶様ぁ~~~っ!」
ワッと薊ちゃんが俺に抱き付いてきた。どうやらこれで一件落着かな?
「徳大寺様も咲耶様に挑まれたことがあったんですね……。私と違って九条咲耶様と知って挑まれたなんて凄いです!」
そして、何故か李は薊ちゃんに尊敬の眼差しを向けていた。どうやら……、本当に薊ちゃん二世になりそうな感じだな……。
……あれ?そう言えば俺達の学年の主導権争いっていつの間にかなくなってるな。五北会は俺達が一年生当時の六年生が卒業してから伊吹が会長だし、全体としては伊吹が主導権を握ってるんだろう。同学年に五北家の槐まで従えているんだから伊吹に逆らえる者はいないわな。
でも……、咲耶お嬢様グループも薊ちゃんとか皐月ちゃんとか、七清家が集まってるし、実は結構発言力とか大きいのかな?そう言えば薊ちゃんとか皐月ちゃんも周囲から畏れ敬われているし、俺は気付かなかったけどもしかしたら結構大物グループと思われていたのかもしれない。
「さくやおねーちゃん!今日はどれにするの?」
「え?そうですね……。私は今日は……」
秋桐達に今日のメニューを何にするか聞かれている間に、俺はいつの間にか何を考えていたのか忘れていたのだった。
~~~~~~~
「うわぁ!良い席じゃないですか!」
「そうでしょう?ここは穴場なのよ。何故かあまり人が来ないけれど……」
注文を終えてテラス席に出ると李がちょっとはしゃいでいた。ここのテラス席は結構お洒落で見た目も悪くない。景色も綺麗だし、暑い寒いもある程度考慮されている。皆あまり利用してくれていないのが寂しいくらいだ。
「いただきます!」
いつもの席に着いてから食事を始める。味はまぁいつも通り普通だ。せめてこれがもう少しおいしければ何の文句もないんだけど……。
「えっ!?おいしい!?食堂のメニューってこんなにおいしかったんですか?もっとまずいのかと思ってました」
「そうですか?食堂を建て替えた時にメニューも改善されたのでそのお陰かもしれませんね」
俺達にとっては普通だけど、初めて食べた李にとっては想像していたよりは味が良くて驚いたのかもしれない。
「予約席は料理も事前予約なのでもっとおいしいですよ。是非李ちゃんも利用してみてください」
「そうですね!これなら今度から利用してみようかと思います!申し込みが当たればですけど……」
そこだよなぁ……。席に限りがあるのに、最近ではますます申し込みが殺到していて抽選になっているらしい。俺達は優先的に席を貰えているけど、うちのグループの子達以外は皆運次第だ。俺達だけズルイと言われるかもしれないけど、建て替え費用や食堂運営の予算を補填しているからちょっと大目に見てもらいたい。
「やっぱり竜胆は薊タイプではなく咲耶ちゃんタイプでしょうね」
「そうよね!それはそう思うわ!」
「ん?」
俺の名前が聞こえたから薊ちゃんと皐月ちゃんの会話の方に入ってみる。
「私がどうかしましたか?」
「ええ、先ほど咲耶ちゃんは李も竜胆も薊タイプだと言われましたけど……」
「竜胆はどちらかと言えば咲耶様タイプだと思うんですよ」
う~ん?そうかなぁ?俺は絶対違うと思うぞ。
「竜胆ちゃんは口調も厳しいですし、私達の前では礼儀正しく猫を被っていますが、本来はやんちゃな性格でしょう?」
「咲耶様……、それって私が口調が厳しくて性格がやんちゃってことですか……」
あ~……。それは否定出来ないな……。薊ちゃんも俺の前ではこうして大人しいフリをしているけど、結構やんちゃだしね。でもその分リーダーシップもあるし周囲にも気が配れる。とても良い子だということもわかっている。
「確かに咲耶ちゃんはずっと丁寧な口調で慌てたり、怒ったりされることも滅多にありませんけど……、気が強くて負けん気の塊で……、そして本当はやんちゃですよね?」
「「「「「うんうん……」」」」」
皐月ちゃんの言葉に皆もしみじみ頷いていた。
「えぇ……。そんなことはないでしょう?私は借りてきた猫よりも大人しいと評判のはずです」
「いえ!それはないです!」
「虎も熊も咲耶ちゃんの一睨みで逃げ出すよねー!」
「咲耶ちゃんたらもう……、そんなわけないでしょう?」
「ねぇ?」
「「「「「あははっ!」」」」」
えぇ……。何これ?俺ってそんな風に思われてたの?それともこれは皆なりの冗談なんだろうか?
「私達が卒業した後は五北会を引っ張っていくのは竜胆でしょうし……」
「それまでにきちんと咲耶ちゃんの後継者になれるように育てなければなりませんね」
「私も久我さんを支えられるように頑張ります」
うん……。それはそうかもしれない。俺達が卒業した後っていうのは一年気が早い。一学年下に五北家の桜がいるから、竜胆が頂点に立つとしたらその後だろう。だけどいずれ竜胆が藤花学園を背負って立つというのはその通りだと思う。そのために協力してあげようというのは良い。良いけど……。
「それではやはり私とはまるで違うではありませんか……」
俺は学園を背負って立つような人間じゃない。そんなリーダーシップもないし……。
でも俺の言葉は誰にも届かず、皆はこれからどうやって竜胆を鍛えようかという話題に進んでいたのだった。




