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第二百四十七話「林間学校」


 藤花学園の五年生には林間学校がある。林間学校とは言われているけど必ずしも山に行ってキャンプをするとは限らない。毎年その学年の生徒達に事前にアンケートが実施されて、いくつかの行き先候補からその学年の行き先が決定される。


 普通の学校だったら年毎にいくつかの行き先をローテーションで変えるとか、学校側が勝手に決めている場合も多いんだろうけど、藤花学園ではアンケート方式だ。


 恐らく四年生にももう来年の林間学校での行き先のアンケートが実施されているんじゃないだろうか。はっきりいつだったかは覚えていないけど一年くらい前にはアンケートがあったような気がする。四年生達がどこを選んでいるかわからないから、来年も俺達と同じ行き先かもしれないし、まったく別の所かもしれない。


 アンケートの候補の中には海外も含まれているし、日程も必ずしも同じとは限らないようだ。海外で二泊四日とかになるかもしれないし、国内で二泊三日になるかもしれない。俺達の行き先は国内で二泊三日の予定であり、海と山が近い場所で行事としてもキャンプも水泳もあることになっている。


 学校行事なのに夏休みの真っ最中に行くなんて休みじゃないじゃないかとも思うけど、藤花学園では色々な行事や日程の問題もあるし、夏休みでもないと日が確保出来ないんだろう。それに泳ぐ可能性もあるから夏でなければならない。


 伊吹が学園に無茶を言ったお陰で平年ならクラス内で班分けをしていたのに、今年はクラスも人数も滅茶苦茶な班分けになってしまった。これはあくまで『伊吹が勝手にやったこと』であり、他の生徒達は巻き込まれただけだ。そう……、俺達もな!


 別に俺達が伊吹にそうさせたわけでもないし、伊吹が無理やり勝手に決めたことだということは全校生徒に周知しておきたい。俺達も結果的には利益を得たとしてもだ。それは俺達には関係ない。


 班分けが終わってからは色々と班行動を決めたり、予備知識を習ったり、様々な確認を班で行なっていった。海や山に行けばそれなりに危険も伴うから学園も準備は入念に行なっている。生徒達も色々と注意事項などを覚えて、緊急時には対応出来るように最低限のことは覚えなければならない。


 まぁ……、危険と言っても海で溺れるとか流されるとか、山で迷子になるとか崖下に転落するとか、そんな程度の話だ。ちゃんと注意していれば滅多にそんなことにはならないし、学園や学園が雇ったライフセーバーが万が一に備えている。ただ本人達が迂闊なことをしないように注意しているような話にすぎない。


 良い所のお坊ちゃんお嬢ちゃんを預かっている以上は学園だって安全対策は万全にしている。海で流されたり溺れたりといっても、沖側には船やボートや水上スキーが待機して見回っているだろうし、溺れている者がいないか常に監視の目も光っているはずだ。その上で生徒同士も気をつけるように指導したり、緊急時に慌てずに対応する方法を教えている。


 山で遭難したり転落、滑落と言うけどそれだってそんな場所にホイホイ連れて行くはずがない。野生動物の危険もほとんどない場所で、事前に周辺も動物を追い立てているだろうしハンターも近くに待機しているだろう。勝手に変な所に行かないように封鎖されていたり、監視している者もいるはずだ。


 生徒の方だって無茶なことをする馬鹿な子供もほとんどいない。むしろ山や海になんて行きたくない子も多いんじゃないだろうか。日に焼けたり、虫がいたりするしな。しかも自分達でキャンプしたりもしなければならないし、勝手に沖まで行ったり、山に入って行ったりする子はほぼいないと思う。


 そんな事前の予習や指導も受けて、班行動なども話し合っているうちにあっという間に終業式を迎えた。そして終業式を終えて少しするとすぐに林間学校の日が来てしまった。


「おはようございます咲耶様!」


「御機嫌よう薊ちゃん」


 林間学校の目的地へは学園のバスでの移動となっている。バスなんてまた酔う子が出るんじゃないかと思うけど……。俺だって体調が悪ければ酔う可能性もないとは言い切れないしな。普段は平気でもあの日だったら酔う可能性もある。女子はそういう日があるから大変だ。


 まぁ幸い今の俺は次が来るまでまだ先だろうし特に体調面で不安はない。ただあの日が始まって間もない子供などは日が安定しないこともよくあるらしい。だから俺も油断はしない方が良いだろう。普通の安定している女性より早かったり遅かったりすることもあるみたいだからな。


 班はクラスを越えた自由な集まりになってしまっているけど、バスはクラスごとの集まりで移動となっている。俺達のバスに乗っているのは三組の生徒だけだ。


 バスの席も自由に……、とはいかず、決められた席順に座っているから面倒臭い。こういう時学校の言い分としては特定の仲の良い子だけで集まらずに、色々な子と交流するために学校指定の班行動だの席分けだのに従えという。


 確かに綺麗事だけで言えばそうなんだろうけど、仲が悪い者同士を学校が指定したからと無理やり一緒にさせたり、学校が把握していない、あるいは把握していても無視して知らん顔をしているいじめっ子といじめられっ子が固まったりすることもある。


 所詮学校が皆と仲良くなって交流するように学校指定の班や席を守れというのは、ただ学校側が生徒を管理しやすいための言い訳にすぎないだろう。本当に生徒のことを考えているわけじゃない。だからほら見てみろ……。俺の隣に座っているクラスの男子が完全に固まってしまっている。明らかにここに座っていたくないという態度だ。


 学園指定の席順は出席番号順かつ男子と女子が隣になるようになっている。俺の周りには仲の良い子もほとんどいないし、座席を越えて話したりするのもあまり良くないだろう。バスが急ブレーキや急ハンドルをしてひっくり返って怪我をする可能性もある。


 移動中は暇だけどバスガイドさんがあれこれと暇つぶしの解説をしてくれたり、音楽を流したり、カラオケをしたり、映画などを流したり、色々と工夫しながらバスは走る。俺はどれも特に興味がなかったから外をずっと眺めていた。


 そして……、俺はバス酔いは平気だったんだけど……、俺の隣に座っていた男子は酔ってリバースしてしまっていた。備え付けの袋にうまく出してくれたから俺がかぶるなんてアクシデントはなかったけど、さすがに隣でゲロゲロやられて気分の良いものではない。


 体調不良の時もあるだろうし仕方がないことだから責める気はないけど……、まぁうれしくはない出来事だった。前の席の方が良いだろうと他の男子と席を代わって、リバースした男子は前に行ったんだけど……、交代してきた男子が再び俺の横でリバースし、三人目の犠牲者が出た所で俺の横は空席になることが決定したのだった。




  ~~~~~~~




 途中で何度か休憩を挟み、ようやく目的地へと到着した。三人も俺の横でリバースしたことで途中から俺の横は空席になった。お陰でのんびり旅を楽しめたんだけど……、何か俺の横に座ると皆リバースしてしまうというわけのわからない噂が広まることになってしまった。解せぬ……。


 そもそも何故わざわざ俺の横に来てリバースするというのか。気分が悪いのなら交代して来ずに元の席に居ればよかったのに、交代してきては俺の横でリバースを繰り返す。お陰で何か俺のせいで皆リバースしたみたいに思われている。


「咲耶様、災難でしたねぇ……」


「まったく……。咲耶ちゃんにかかったり、臭いが移ってしまったらどうするつもりなんでしょう!」


「そうですね。許せませんね」


「まぁまぁ……。体調不良や車酔い、船酔いなんて誰にでもあることですから……」


 何かグループの皆が不穏な空気だから止めておく。もしリバースした者達の所に文句でも言いに行こうものなら俺がやらせたと思われてしまう。確かにあまり気分の良いものではなかったけどああいうのは仕方がないことだろう。別に俺は責めるつもりはない。リバースしたものをかけられていたらブチ切れていたかもしれないけどな。


 幸い俺にはかからなかったし、途中から俺の隣は空席になってくれたお陰でゆっくり出来た。何も悪いことばかりじゃなかったし、そもそもバス移動を選択している学園が悪い。もっと揺れない乗り物なんていくらでもあるだろう。何故こんな酔いやすいバスを使っているのか。何なら現地集合でも良いんじゃないのか?


「さすがは咲耶様ですね!あのような者達にまでお慈悲をお与えになるだなんて……、素敵です!」


 薊ちゃんやめてぇっ!そんなでかい声でそんなことを言わないで!まるっきり逆効果だから!ますます傲慢お嬢様と思われちゃうから!


「薊、いつまでも遊んでいないで!さぁ行きましょう咲耶ちゃん」


「ええ、そうですね……」


 皐月ちゃんが薊ちゃんの暴走を止めてくれたお陰で移動を開始した。でも薊ちゃんが言い触らした言葉へのフォローはなかったために俺は何やらコソコソと言われていたのだった。




  ~~~~~~~




「それではそれぞれ自分達のコテージに荷物を置いてくるように」


「「「「「はーい」」」」」


 教師の言葉で目的地に到着した生徒達がバラけ始めた。バスを降りてからしばらく山道を歩いた俺達が到着したのは立派なコテージが並んでいるキャンプ場だった。


 うん……、色々言いたいけどまぁいいか?


 野外訓練のために来たはずなのに立派なコテージに泊まって何の意味があるというのか……。それならそこらの旅館やホテルに泊まるのと変わらない。藤花学園に通うようなレベルの家の子に何かあってはいけないだろうからこのくらいの配慮は当然なのかもしれないけど……。


 このコテージは男女別々で、(当たり前か……)、本来は二班で一つを借りる形になっていた。一班に男子、女子がそれぞれ二~三人だから、二班で四~六人ということになる。一クラスで六班だから男子用コテージが三、女子用コテージが三でトータル一クラスで六軒だ。


 だけど俺達は八人で一軒を使うことになっている。コテージの広さや収容力的に十人くらいは大丈夫らしい。今年は伊吹のせいで班やクラスが滅茶苦茶になってしまっている。俺達はコテージを別れるのが嫌だったので八人で一軒にしてもらった。


 他のグループもコテージの収容人数を超えないように分けられているはずだから不便はないはずだ。むしろ俺達は三班分で一軒なんだから他に余裕が出来ているくらいだろう。


「思っていたよりは良さそうですね」


「虫とか出ないかしら……?」


 皆興味津々という感じでコテージを見ながら荷物を置いていく。キャンプ場のコテージということになっているけど、ここはかなり高級な部類に含まれるだろう。俺達が泊まるようなホテルとしては論外だけど、コテージとしては十分設備も整っているし、様々な対策も取られている。


 絶対何の問題も起こらないなんて不可能だけど、出来る限りは虫などの対策も行なっているようだし、コテージ内も綺麗に掃除されている。藤花学園のお坊ちゃんお嬢ちゃんが泊まっても大丈夫なように手を尽くしてあるんだろう。


「さぁ、それでは荷物を置いたら外に集合しましょう」


「あまり早くに行くと虫に襲われるのでは……」


 皆可愛いなぁ……。普段あれだけしっかりしててもやっぱりお嬢様なんだな。虫が怖いだなんて可愛いけど本人達にとっては必死なんだろう。


「日焼け止めや虫除けはされているのでしょう?」


「それはもちろんしていますけど……」


 バスを降りてからキャンプ場へと入る前に日焼け止めと虫除けを塗る時間はちゃんと取られていた。学園だって今まで何十年とこういうことを繰り返してきたんだから、どういう問題が起こるか、どう対処するかは熟知している。近年では皆日焼け止めと虫除けを使うからそういう時間もちゃんと用意してくれているというわけだ。


「まぁ多少は仕方がありませんよ。人が多い所へわざわざ寄ってくる虫も少ないでしょうし覚悟を決めましょう」


「うぅ……」


「「はい……」」


 皆諦めたようでゾロゾロとコテージから出て行く。他の生徒達も同じことを考えていたのか集まりが悪い。ギリギリまでコテージで粘りたいみたいだ。


「ちょっと!コテージで粘ってるあんたたち!さっさと出てきなさい!皆待ってるでしょう!」


 あまりに出てこないから……、薊ちゃんがコテージに向かって一喝した。それを聞いて残っていた者達も慌てて出て来たようだ。さすがは薊ちゃん。でもそれって薊ちゃんは自分が外で虫に晒されているから怒っただけだよね?最初は自分もコテージで粘ろうとしてたし……。


「え~……、それではこれより班に分かれて飯盒炊爨を行なってください」


「「「「「はーい」」」」」


 全員揃ってから色々注意事項を聞かされて、班ごとに分かれて昼食の準備に取り掛かることになった。それぞれ決まっている場所に向かって班で集まる。


「おう!ようやく班行動になったな!」


「皆よろしくね」


 今まではほとんどクラスで集まっていたけどようやく班行動となって伊吹と槐が合流してきた。それ以外は皆三組だからこの二人だけ別行動だったようなものだ。それは良いけど……、果たして本当にこんな面子で飯盒炊爨が出来るのだろうか……。不安しかない……。



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― 新着の感想 ―
[一言] そして大量廃棄されるカレー……
[一言] 可哀想に 咲耶ちゃんと名も知らぬ男子達 幸先悪いなぁ
[気になる点] 前からだけど、薊ちゃんが咲耶様に心酔するあまり、無用な太鼓持ちを盛大にやってしまってるね…。 そんな中、いつも皐月ちゃんは何気に然り気無くフォローしてるから素晴らしいね。皐月ちゃんは、…
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