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第二百六話「祭りの後の反省会」


 七夕祭も終わって翌日、今日は生憎の雨だった。昨日晴れてくれただけでもよかったと思うしかない。でもやっぱり梅雨は嫌だな。何より今年は慣れないブラが蒸れて辛い……。


 まぁ俺の個人的な問題は置いておくとして、昨日の七夕祭は概ね大好評のうちに幕を閉じたと思う。一部思い出したくない黒歴史も出来てしまったけどそれについては目を瞑ろう。今日はきっと皆七夕祭の話題で持ち切りだな。そんな風に考えながら藤花学園初等科の玄関へ入ると……。


「なっ!なん――っ!」


 なんじゃこりゃー!と叫びかけて慌てて口を噤む。いくら人の少ない朝とはいえ、前までよりも登校時間も遅いし、その分人も増えている。俺がこんなところでなんじゃこりゃー!なんて叫ぼうものなら色々と問題になるだろう。というわけで、慌てて口を噤んだのは良いけど……。


「何なのですかこれは……」


 玄関口の掲示板にはデカデカと変なポスターが貼られていた。いつの間に撮ったのか、藤花学園七夕祭の風景を写した写真をポスターにしているようだ。中にはプリントされた写真もあちこちに貼られている。小さいプリントは普通の生徒達や保護者達が楽しそうに祭りを楽しんでいる姿が写っている。それはいい。それはいいけど……。


「これはどういうことですか……」


 拡大されて煽りなどもつけられたポスターは……、どれも被写体が俺だ。プロの仕事かと思うほど手の込んだ加工がされたポスターには色々な謳い文句などや煽りが入れられ、まるで別人かと思うほどにキラキラしている俺が写っていた。


 あっちも……、こっちも……、どれもこれも俺が写っている。もちろん俺だけじゃなくて薊ちゃんや皐月ちゃん達グループの子達と写っているものもある。さらに一年生達とのショットもあり、写真そのものは良い出来で是非記念に欲しいくらいのものばかりだ。


 ただ問題なのは何かいかにも藤花学園七夕祭の中心が俺と言わんばかりの、このキャッチコピーや煽りや謳い文句がおかしすぎる。色んな子達のポスターがある中で俺のも入っているのならここまで思わないけど、全ての大型ポスターが俺が中心だったら恣意的すぎる。まるで俺がやらせたみたいで最悪だ。


「ふんふふ~ん!ふんふふ~ん!」


「あっ……」


「え?」


 そして俺は見つけた。そのポスターやプリントを貼りまくった張本人。今も滅茶苦茶でかいポスター、いや、これはもう某国の国家主席の巨大肖像画とかを飾っているみたいなものを張ろうとしている少女を……。


「杏さんっ!何をしているんですか!?」


「やばい!バレたっす!」


 そういうと杏は脚立から下りて……、逃げ出した……。


「…………え?」


 どうすんのこれ?何かまだ作業の途中だったみたいであれこれ残されたものがある。その貼りかけのポスターやプリントの前に俺が一人突っ立っている。これって傍目には俺がこれを貼ってたように思われないか?


 自分のポスターや、こんなでかい幕のようなものまで……、自分で……。


 恥ずかしすぎる!こんな所を誰かに見られたら何を言われるかわかったものじゃない!とにかく杏を追いかけないと!




  ~~~~~~~




 結局俺は……、杏を見つけることが出来なかった。しかも玄関に戻ったら全ての作業が終わっていた。きっと俺から逃げ出した杏はまた現場に戻って作業を完了させたんだろう……。俺が一人でウロウロと杏を探している間に……。


 生徒もたくさん登校してきているし、いつもより時間が遅くなってもう教室に向かわなければならない。諦めた俺は自分の教室に入ると声をかけた。


「御機嫌よう」


「おはようございます九条さん」


「「「「「…………」」」」」


 何か物凄い見られている気がして仕方がない。皆玄関のポスターやプリントを見て色々と俺に対して『あぁ……』みたいな感じなんだろうか。俺は居た堪れない……。何故杏はこんなにも俺を苦しめるのか。


「今日は遅かったですね。やっぱり写真やポスターのことで?あれは凄かったです」


「えっ!?芹ちゃんも見たんですか?」


 芹ちゃんの登校時間は相当早い。そんな時間からもう貼ってあったのか?


「はい。他の方達が噂していたので先ほど見てきました」


「あぁ……」


 そうか……。噂で聞いて、ね……。どんな噂なのやら……。


 色々と言いたい事や追及したい事はあるけど、とにかく今日はもう時間がない。朝の準備をするために自分の席に急いだのだった。




  ~~~~~~~




 今日は一日七夕祭の話題で持ち切りだった。もちろんうちのクラスに集まってくるグループの皆もそうだし、うちのグループ以外の生徒達もそうだ。あれこれと話をしているうちにあっという間にお昼になってしまった。


「昨日は楽しかったねー!」


「そうですね」


 皆休み時間の度に同じことを言う。でもそう言いたくなるのもわかる。確かに楽しかった。一部黒歴史があるけど……。


「来年はきちんと準備して、私達も出し物をしたいですね咲耶ちゃん!」


「…………え?」


「え?」


 来年?


 椿ちゃんの言葉に首を捻る。椿ちゃんも首を傾げる。何を言ってるんだ?今回は桜がわけのわからないことを言い出したから、何とか桜を宥めようと思ってやっただけだ。来年なんてあるわけが……。


「さくやおねえちゃん!」


「「「こんにちは!」」」


「まぁ、皆さん、御機嫌よう」


 考え事をしていると秋桐や蒲公英達がやってきた。結局食堂でもいつもの皆で集合となり、話題は昨日の七夕祭ばかりになる。皆が楽しんでくれたのはよかったけど……、何か俺はとても嫌な予感がしていた。




  ~~~~~~~




 放課後にいつもの三人でサロンに向かう。サロンに入ると伊吹が腕を組んで仁王立ちしていた。


「おう!来たな!それじゃ始めるぞ!」


「……は?」


 何か今日の俺はずっと間抜けな声を漏らしてばかりの一日のような気がする。でも本当に意味がわからない。伊吹は何を言っているんだ?


「ごめんね九条さん。伊吹が昨日の反省会をしようって言うからさ」


「はぁ……?」


 槐も伊吹の横に立って補足してくれた。でも誰もそんなことは聞いていない。こいつらが何をしたいのかさっぱりわからない。


「まず今回の七夕祭はまぁまぁまずまずだったと思う!しかし!いくら時間が足りなかったとはいえ五北会の総力を挙げて行なえばもっと良い祭りが出来たはずだ!俺達は少し弛んでいた!そこで今回の反省を活かし、来年により良い祭りが開けるように反省会をする!」


「……え?来年って……?」


 いきなり皆の前に立って話し始めた伊吹の言葉の意味がわからない。こいつは何を言ってるんだ?こんなもん今年限りに決まってるだろ?反省を活かすとか来年とか何を言って……。


「来年以降も藤花学園七夕祭を開催することについてもう学園の許可は貰ってあるんだ。だからこれから毎年開かれるんだよ」


「なっ!?」


 そんな話俺は聞いてないぞ。そもそもこんな面倒臭いこと毎年やる気なんてサラサラない。学園祭や文化祭がしたければ中等科まで待てばいい。中等科以降は嫌でも毎年やることになる。それなのに何故この歳でそんなことをしなければならないのか。俺は余計な仕事を増やして喜ぶ趣味はないぞ。


「まずは今年あったトラブルとその解決方法から話していくぞ!え~……、一年生が転んで怪我をした?知るか!勝手に気をつけて歩け!以上!次!え~、露店で食べ物をひっくり返して服を汚した?知るか!自分で気をつけろ!以上!他は……」


 駄目だこりゃ……。伊吹にやらせてたら何も解決しない……。どうせやるなら本当にちゃんとためになるようにしたい。でなければまた来年苦労することになる。もう来年以降も開催が決まっているのなら……、せめて俺が無駄な労力を使わなくて良いようにしておかなければ……。


「近衛様ではお話になりません。代わってください」


「あっ!おい!俺が……」


「代わりなさい!」


「はい……」


 一瞬ゴネかけた伊吹を一喝すると大人しくなったので前に立つのを交代する。丁度その時扉が開いて茅さんと杏も入ってきた。丁度良い。どうせやるなら皆を集めてちゃんとやろう。その方が結果的に俺の労力が少なくて済む。


「丁度茅さんと杏さんも来られたようですので、ここからちゃんと始めましょうか。まずは気付いた反省点や改善点を洗い出しましょう。どなたか意見がある方はおられますか?」


「「「…………」」」


 俺が声をかけても皆お互いに顔を見合わせるだけで誰も意見を言おうとしない。あるいは急にそんなことを言われても考え付かないのだろうか。ならばまずはいくつか俺の方で意見を出そう。それで誰かが何かに気付けば新しい意見も出てくるだろう。


「それではまず私から何点か挙げたいと思います。まず、七夕コンテストですが、全学年同時ではさすがに高学年が有利すぎます。低学年・中学年・高学年のように部門を分けるのが良いのではないでしょうか?」


「なるほど……」


「確かに……」


 俺の意見を聞いて皆もチラホラ考え始めてくれたようだ。


「今年は急なことだったので時間が足りず業者やプロに任せた部分が多くありましたが、もし来年も開催するというのなら今のうちから準備を計画し、生徒主導による催しをもっと増やした方が良いと思います」


「何でだよ!金ならある!生徒にやらせるよりプロにやらせるべきだろ!」


 伊吹……、まだ子供の癖に何というか……、とても嫌な大人みたいな奴だな……。


「こういった催しはいかにお金をかけて派手に行なうかではありません。いかに生徒達が自主的に行事に参加し、積極的に活動して、より良い思い出を作るかということが肝心なのです。全てお金でプロを雇ってやらせるのであれば学校行事で行なう必要はありません。それがしたければ近衛家のパーティーとして開いてください」


「なっ!」


 俺にピシャリと言い切られて伊吹が絶句している。でも知ったこっちゃない。いちいちこんな奴相手にしていられない。時間は有限だ。限られた時間の中でいかに成果を出していくかを考えなければならない。ダラダラと無意味な話し合いがしたければ後で自分達だけで勝手にやってろ。


「それから茅さん、運営委員会にも内緒で勝手なイベントは行わないでください」


「あれは咲耶ちゃんを驚かせようと思って……」


 ああ、驚いたよ。物凄く驚いたよ。でもそうじゃないだろう?皆で行事として行なっているのに、個人が勝手なことをしていたら纏まるものも纏まらない。サプライズをしたいというのならもっと他に迷惑のかからない方法ですればいい。


「サプライズをしたいというお気持ちはわかります。ですが運営委員も知らないイベントを講堂を貸し切って行なわれては、それらへの対処やその後の出し物にも影響します。事故やトラブルの原因にもなりますので出し物については必ず届け出てくださいと事前に申し上げたはずです。例外は認められません」


「はい……」


 俺に叱られると茅さんも少しシュンとなっていた。何だか可哀想な気がしてしまうけどここで甘い顔をしてはいけない。良いものは良い。悪いものは悪いと言っておかないと、もし来年もあんなことをされてトラブルでもあったら大事だ。


「他にはありませんか?なければまた私から出しますよ?気付いたら早く言っていかないと全て私が言ってしまうかもしれませんよ?」


 ちょっと待つけど皆また顔を見合わせるだけで誰も意見を言わない。『そんなこと言われても……』とか『他に何かある?』という者ばかりだ。


「それではいきますね。まず露店の食べ物ですが包みが悪いのです。本当に世間の露店そのままなので簡易な器で済まされています。これが原因で零したり人とぶつかって汚してしまうのです。来年度は露店の器を見直し、ぶつかっただけで簡単に他の人の服を汚してしまったりしないようにすれば解決します」


 もちろん完全に包む方法はない。伊吹が言うように本人が気をつければ済む話だ。それでもどうしてもひっくり返してしまったり、人にぶつかって相手を汚してしまうかもしれない。そういうことを少しでもなくすように努力する必要はある。


「一部の通路などは一方通行として人混みを緩和しましょう。あと今年はグラウンドを自由に開放していましたが、露店の前は幅を規制し、一方に通りぬけるだけにしましょう。自由に露店の前をウロウロしてとても混雑していました。一度店を通り過ぎてしまったら、一度先まで通り抜けて、また一方から入ることで混雑緩和になるでしょう」


 もちろん面倒臭くはなる。ほんの少し通り過ぎてしまっただけなのに、戻るのは禁止で一度通り抜けてからまた最初から入れというのでは面倒臭いだろう。でもそうでもしないと人でごった返して非常に混雑してしまう。何かのお祭りに行ったことがある人ならわかるだろう。露店前をウロウロしている人が右に左に進むから非常に混む。


 転んだというのも人混みが原因とも言える。食べ物を人にぶつけてしまって汚してしまったというのも混雑が原因だ。混雑が減ればかなりのトラブルは未然に防げる。


「お金をかけるべきは安全対策です。次回は警備員などを雇い、人の誘導や立ち入り禁止場所の規制などを行なってもらいましょう。特定の校舎内の廊下なども一方向への通り抜け専用にすれば混雑緩和と人の流れを作ることに役立ちます。あとは……」


 結局この日、ほとんど誰も意見を言ってくれず、俺が思ったことや不満をぶちまけるだけの反省会となってしまった。一部、薊ちゃんや皐月ちゃんは意見を出してくれていたんだけど……、伊吹も茅さんも凹んだままだったし、槐は笑ってるだけだし、他の五北会メンバーは『なるほど』くらいしか言わないし……。


 こんなことならもう来年以降もするのはやめておいた方がいいんじゃないのか?



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― 新着の感想 ―
[一言] 小学生にそれを求める方が無茶だ・・・と言いたい所だけど、彼ら・彼女らはそれを出来るようにならなければならない立場ですからねぇ。 近衛家、跡継ぎにどんな教育してるんだか。まさか、咲耶ちゃんを…
[良い点] いや、咲耶ちゃんがしっかりし過ぎてるだけだから( そんなんだから近衛母にロックオンされるんや( ˘ω˘ ) [気になる点] こういう話し合いに教員がいないのがそもそも(
[一言] これは女帝ですわ でも小学生高学年程度で運営側に急に回って改善点や意見言える人って少ないよね 五北会だから将来はそういう立場に慣れなきゃいけないので予行練習にはなるかも
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