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第一話「悪役令嬢にTS転生」


 明日は俺がずっと楽しみにしていた乙女ゲーム『恋に咲く花2』の発売日だ。俺は男だから乙女ゲームになんて興味はない。言っていることが矛盾していると思うかもしれないけどそんなことはない。


 俺が好きなのは女の子達がキャッキャウフフで百合百合しているのを見ること!だから乙女ゲーでも攻略対象の男なんて相手にせずにライバルの女の子や友達の女の子の所に行って会話しているのを、脳内でキャッキャウフフしているのに変換して楽しんでいる。


 それなら素直に百合ゲーを買えば良いと思うか?でも残念ながら男性向け百合ゲーだと性描写とかに主眼が置かれている場合が多い。俺が求めているのはそうじゃない!いや、確かにそれも嫌いじゃないんだけどそうじゃないんだ!


 もっとこう……、ただ百合の性描写が見たいんじゃなくて……、あぁ!うまく言葉には出来ないけど伝われ俺の思い!


 確かに男性向け百合ゲーも買っている。俺の部屋にはそれはもう百合系統の物が大量に置かれている。ただ俺は乙女ゲーで脳内百合プレイをするのも大好きだ。特に『恋に咲く花』という乙女ゲーはよかった。何しろ悪役令嬢が俺と漢字違いの同名だったから余計にな。


 『恋に咲く花2』は単純な続編ではなくキャラクターも一新されている。だから俺と同じ読みで漢字違いの悪役令嬢『九条くじょう咲耶さくや』は出てこない。俺は久遠くおん朔矢さくやだから何だか苗字まで微妙に似ている気がする。


 九条咲耶は悪役令嬢とは言っても悪辣な悪役令嬢じゃない。主人公への嫌がらせもせず堂々と勝負を挑んではコテンパンにやられるコミカルな役どころだ。そんな悪役令嬢だから女性プレイヤーにはすこぶる評判が悪い。


 真面目な恋愛乙女ゲーをしたい女性プレイヤーからすればギャグみたいなお笑い担当である九条咲耶は鬱陶しいキャラらしい。俺は自分と名前も似ているしとてもコミカルで良いキャラだと思っている。何より九条咲耶は物語全体で他のキャラクター達を良く見ていると思う。


 ただ嫌なだけの悪役令嬢でもなければ高慢なご令嬢でもない。ほとんどのルートで冗談みたいな感じで不幸になる。それでもめげずにどのルートに行ってもほとんどのキャラと関わって、何だかんだで皆をうまく動かしている。九条咲耶という悪役令嬢がいるお陰で『恋に咲く花』は名作になっていると俺は思っている。


 そんな『恋に咲く花』の続編が出るとあって俺は楽しみにしていた。もちろん1でどのルートに行っても九条咲耶は不幸になるか故人になるから2では当然出てこない……、と思う。他の主要キャラクター達は総入れ替えだから九条咲耶だけ出てくるなんてことはあり得ないだろう。


 九条咲耶が出てこないのは残念だけど……、1が名作だっただけに2にも期待せざるを得ない。そして明日の発売日で一番に手に入れるために有給を取れるように寝ずに仕事を頑張り朝一番で店に並ぶ。超ブラック企業の勤め先で何とか有給を貰うために、明日のためだけに一週間ほとんど寝ることなく仕事をしてきたんだ。今日は夜から並んで朝一番で予約しておいた『恋に咲く花2』を手に入れて徹夜でゲームを……。


「あっ……?」


 あっ、やべ……。ここの所寝不足だったから足がふらついて……、階段を踏み外し…………。




  ~~~~~~~




「あいたぁ~~~っ!」


 ゴチンッ!と頭に衝撃を受けて俺は正気に戻った。そうだ。確か明日が『恋に咲く花2』の発売日だから早く帰って夜から店に並ぼうと家に帰る途中階段で……。


「どうされましたか?咲耶お嬢様!?」


「……え?」


 辺りを見回す。まず隣にでかいベッドがある。俺の部屋には絶対に置けないような大きなベッドだ。どうやら俺はこのベッドから滑り落ちたらしい。確か家に帰ろうとしていて階段から足を踏み外したはずなのに……。


 あの後倒れて病院に運ばれてここが病院か?そんなわけないな。どう見ても病院には見えない。この大きなベッドだけじゃなくて部屋が明らかに病室じゃない。もっとこう……、漫画やアニメみたいな、まるで作り物のような冗談のような『いかにも高級な部屋です!』というのを体現したかのような部屋だ。


「咲耶お嬢様!大丈夫ですか?」


「うわっ!でか!」


 俺はそんなに身長が大きいというほどではないけど現代日本人の平均的な大きさくらいはある。それなのにそんな俺の両脇に手を入れて持ち上げる巨大な女が現れた。その格好もまるで作り物みたいな見るからに『メイドです!』と言っているかのような格好だ。


 そもそもさっきから俺のことを『さくやお嬢様』って……。どこからどう見ても男である俺がお嬢様に見えるなら目の病気だと思う。というかこの巨人のようなメイドの格好をした女は何者だ?俺をどうしようっていうのか。


「おっ、俺をどうするつもりだ?」


「え?……咲耶お嬢様?」


 メイドさんはキョトンとした顔で俺を見て床に下ろした。どうやら取って食われるということはないようだ。それにしてもでかいな。俺の倍近くはあるんじゃないだろうか。まぁ倍はさすがに言いすぎでも相当なでかさだろう。


「もしかして咲耶お嬢様……、また寝ぼけておられるのですか?」


「だいたい朔矢お嬢様って……」


 さっきから気安く朔矢お嬢様、朔矢お嬢様って言ってくれるけど俺のどこをどう見たらお嬢様に見えるのか。


「は~……。まったく……。それでは朝の支度をしましょうね」


「あっ!ちょっ!」


 一度俺を下ろした巨人メイドは再び俺を抱え上げると歩き出した。何だ?どうするつもりなんだ?やっぱり俺を食うつもりか?


「それではお召し替えの前にお顔を洗いましょうね~」


「ちょっ……、まっ……、何を……」


 手馴れた様子でパチャパチャと顔を洗われて温かいタオルで拭かれる。それから今度は乾いたタオルで拭かれて……、そこで俺は目の前にいる幼女と目が合った。その幼女は俺が手を動かすと同じように手を動かし、視線を動かすと同じように視線を動かす。って、これは目の前に人がいるんじゃなくて鏡なわけで……、それはつまりここに映っているのは……。


「なっ、なんじゃこりゃああぁぁぁぁ~~~~~っ!!!」


 俺の叫び声が木霊したのだった。




  ~~~~~~~




 あの後俺が叫び声を上げたことで他のメイドさんや執事の格好をした人まで部屋に乗り込んできた。皆俺の倍ほどでかいのかと思うほど大きかったけどそうじゃない。俺が小さいんだ。皆に色々と心配されたけど最初のメイドさんが何とか取り成して大事には到らずに済んだ。


 その後最初に来たメイドさんに怒られて顔を洗われて着替えさせられて全ての支度が整い部屋を出た。


 周り全てが大きく見える。だけどそうじゃないことはわかった。俺が小さく、幼児くらいになっているんだ。さっき鏡に映っていたのは女の子、幼女だった。俺は今この幼女の体の中にいる。そして落ち着いて見てみればこの幼女の顔には見覚えがあった。メイドさんがさくやお嬢様とも呼んでいた。つまりこれは……。


 俺は今乙女ゲーム『恋に咲く花』の九条咲耶の幼い頃の体に憑依しているんじゃないのか?


「うっ!」


「え?咲耶お嬢様?大丈夫ですか?」


 そう思った瞬間頭が割れるように痛くなった。そして蘇ってくるのは……。


「大丈夫よ、もみじ


 あぁ……、わかった……。憑依なんかじゃない。俺は……、確かにこの六年間九条咲耶として生まれ育ってきた。これは憑依じゃなくて転生だ……。何故かそう確信出来る。たった今前世の記憶を思い出しただけで俺は間違いなく九条咲耶として生まれて育ってきたんだ……。


「本当ですか?さっきはお叱りしましたがどこか体調が悪いのでしたらおっしゃってくださいね?」


「本当に大丈夫だから……」


 さっきは俺を怒ったけど今は心配してくれているこのメイドさんは一条いちじょうもみじだ。俺、九条咲耶つきのメイドさんで記憶のある範囲ではずっと一緒にいてくれた。『恋に咲く花』のゲーム中でもよく咲耶お嬢様と一緒に行動していたな……。


 あぁ……、俺は……、本当に『恋に咲く花』の世界に転生してしまったんだ……。


「…………」


 プルプルと体が震える。抑えようと思っても抑えられない。これは……。この気持ちは!


「ぃやっほぉ~~~う!!!」


「咲耶お嬢様!?」


 やった!大好きな『恋に咲く花』の世界に来れたんだ!現世に未練?あるわけない。毎日毎日過労死寸前まで働かさせられるブラック企業勤めが惜しい奴なんていないだろう?


 まぁ未練と言えば俺の大事な百合グッズと『恋に咲く花2』がプレイ出来なかったことだけどそれはいいだろう。何しろ今俺は『恋に咲く花』の世界にいるんだ!


「あっ……」


 でも待てよ?『恋に咲く花』、通称『恋花』の中で九条咲耶お嬢様はほとんどのルートにおいて不幸な結末になるか、場合によっては故人になる可能性すらある。これは非常にまずい。


 この世界で主人公や主人公に味方する友達、咲耶に付き従う取り巻き達、咲耶以外のライバル令嬢達、そういう女の子達とキャッキャウフフ出来るのはとても素晴らしい。是非脳内で妄想していたシチュエーションをこの世界で現実にしてやろうと思う。


 問題なのはこのままゲームの進行通りに進めば俺はよくて不幸な目に遭い、最悪の場合は死ぬことになる。その結末だけは回避するんだ。


 そう!これはよくある悪役令嬢もののラノベや漫画だと思えば良い。先人達は皆色々と頑張って悲惨な結末を回避していたはずだ。それを参考にすれば俺もきっとバッドエンド回避が出来るに違いない!


「咲耶お嬢様?本当に大丈夫ですか?」


「あっ……。大丈夫大丈夫。さぁ行きましょう」


 椛に怪訝な顔をされている。いつまでもこうしているわけにはいかない。さっさと用事を済ませてこれからのことについて考えなければ……。




  ~~~~~~~




 前世の記憶を思い出してから暫くして母に連れられてやってきたのは……、藤花とうか学園初等科……。『恋花』のメイン舞台は藤花学園高等科であり、ここは同じ学園の付属小学校ということになる。今日はその面接の日だ。


 藤花学園は頭が良ければ入れるわけでもなければ、お金があれば入れるわけでもない。名家でなければ入れないという庶民にとってはかなり面倒臭い学園だ。ただしそれも中等科までの話であって高等科と大学は外部の受験生が入ってこれる。ただし外部生は相当成績が良くないと入れないわけで簡単に言えば学園のレベルを上げるために高校、大学だけ外部生を取り入れているというわけだ。


 メイン舞台となる藤花学園高等科に主人公が外部生として入学してくる所から『恋花』が始まるわけだけど、俺の戦いはその前、むしろ今から始まっているとすら言える。


 ゲーム中では描写は出てこないけど設定上では九条咲耶はこの初等科の時から『恋花』の主要攻略対象達と一緒に育つことになる。そしてその攻略対象のことが好きであり、主人公と攻略対象がお互いに意識し出すのを邪魔しようと色々と頑張ることになるというわけだ。


「おい、どけよ」


「げっ……」


 偉そうな子供が俺にどけと言ってきた。その子供はまだ小学校にも入学する前だというのにとてつもなく偉そうだ。


「あら九条様、御機嫌よう」


「これはこれは近衛様、御機嫌よう」


 今俺に偉そうに『どけ』と言ってきたのが……、攻略対象の一人であり九条咲耶と許婚候補となる本筋のメインキャラクター近衛このえ伊吹いぶき。通称『俺様王子』。


 こんな奴のどこが良いのか俺には理解不能だけど『恋花』で一番の攻略対象であり、ゲーム中の九条咲耶が許婚候補としてベッタリくっつき主人公と奪い合うことになる。


 『恋花』は現代日本風の世界観だから本当に王子様というわけじゃない。ただ名家の生まれで何でも出来る俺様系ハンサムだから俺様王子と呼ばれているだけだ。


 さっきも言ったけどこんな奴のどこが良いのか俺にはさっぱりわからない。ただ一つわかることはゲームの九条咲耶と同じようにこいつの追っかけをしていたら高等科で主人公と激突することになり俺が破滅することになるということだけだ。


 俺がこの世界で無事に百合百合して生き残るためにはこいつはどうにかしなければならない。まだ入学前だっていうのに早速現れた俺の最大の天敵であろう近衛伊吹をどうしてくれようかと頭をフル回転させたのだった。



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[良い点] はじめまして、作者さん! Google翻訳をご利用いただき申し訳ありません。 それでも私の考えがきちんと伝わっていくことを願っています。 私はこのスタートが本当に好きです。 百合を探すの…
[気になる点] あら九条様ご機嫌よう 誰のセリフだ?
[気になる点] 花に咲く恋 なのか 恋に咲く花なのか。 1ページ目のタイトルがおかしいことになってますよ
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