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第百九十話「準備」


 勝手に学園であちこち約束してしまったけど、まだ一番肝心な問題をクリアしていない。それはズバリ両親の説得だ。もうすぐしたら九条家主催の大規模パーティーが行なわれるというのに、それが終わって間もなしにまた俺が個人的に小規模パーティーを行いたいと言えばどうなるだろうか。


 上流階級ではパーティーを開いてお互いに交流したり、結束を深めたり、そういう付き合いは必ずある。だからパーティーそのものは否定されない、……と思う。


 だけど今日急に言って、いくら小規模パーティーとはいえ一ヶ月以内くらいで準備を済ませて、しかも呼ぶのが地下家や一般生徒も多いとなったら両親は何と言うだろう。


 まぁ……、グループはほとんど堂上家だし、竜胆や榊のような五北会メンバーも含まれているんだからかなりの面子ではあるんだけど……、中には杏や芹ちゃん、秋桐やそのお友達のような地下家や一般生徒も含まれている。


 何とか両親を説得出来そうな要素としては、七清家が三家、他にも五北会メンバーの家が二家いることだろうか。それにグループの子達は五北会にこそ入っていないけど皆堂上家だ。他の子達は地下家や一般生徒になるけど、呼ぶ面子はかなり豪華だと思う。


 家に帰ってからもあれこれ入念に予行演習をした俺は夕食の席で両親に小規模パーティー、ホームパーティーを開きたい旨を伝えた。


「……というわけで、九条家主催のパーティーが終わった後に、お友達を呼んでホームパーティーを行ないたいのですが……」


「ホームパーティーに呼ぶというのはいつもの堂上家の子達ですか?」


 いつものようにジロリと睨まれるかと思ったけど、母は食事を続けながら静かにそう聞いてきた。何だか肩透かしというか、思った反応と違いすぎて、予行演習してきたものが全て一瞬にして使い物にならなくなってしまった。


「春休みに一緒にお出掛けした方は全員に招待状を出したいと思っております。他にはクラスメイトの地下家の方と、新入生達です」


「クラスメイトというのは今度のパーティーにも呼びたいと言っていた子でしょう。新入生というのもパーティーに呼ぶと言っていた子ですか?」


 芹ちゃんと秋桐を九条家のパーティーに呼ぶことは、俺が招待客リストを出す時に言ったことだ。だから当然両親もそのことは考えているだろう。そしてこの面子だけならばホームパーティーを開く意味はない。何故ならばこの面子は皆九条家のパーティーに参加するからだ。


「確かにそれらの方は全て招待するつもりです。ですが新入生にはまだ他に呼びたい子達がいるのです」


「それは?」


 ようやく母は手を止めて俺の方を真っ直ぐ見た。俺が変な子と付き合いをしていたら止めようとでもいうのだろうか。まだ確実に呼べるとは限らない子も多数なんだけど……、とりあえず候補という形で呼ぶつもりの子を全員言ってしまうか。


「先に述べた方も含めて、まだ参加が確実というわけではありませんが、招待状を出そうと思っているのは他に……、久我家、中院家、清岡家、そして羽林家である樋口家の分家の方と塩小路家、熊谷家です」


「ほう!咲耶は久我家、中院家と繋がりを作ったのか」


 今の名前を聞いて父はさっそく五北会メンバー、七清家に食いついて来た。父からすれば門流や派閥以外の家との付き合いは仕事にも直結する。今まで付き合いの薄かった相手との付き合いが出来るのはチャンスでもあるだろう。


「貴女が久我家や中院家と繋がりが出来たのは五北会のことを考えればあり得ない話ではありません。ですが……、何故その中に清岡家が入っているのですか?そもそも……、久我家や中院家は当然パーティーの招待状を送って参加の返事をいただいております」


 少し目を細めた母が俺を試すかのように見ている。清岡家は一条門流だ。例の一件以来一条とは明らかに敵対関係になっている。そんな状況で近づいてくる一条門流ともなれば疑うのは当然の流れだろう。


 そして五北会メンバーの家は全て招待状が出されている。それは当然新入生も含まれているわけで、今度の九条家のパーティーには久我家、中院家も呼ばれている。俺のホームパーティーに呼ばなくとも両家と顔を合わせる機会はすでに用意されているわけだ。


「清岡家の、李という子なのですが……、少々素行に問題があります。このままでは一年生の中で揉める可能性もあります。ですので私が開くホームパーティーに新入生の有力者なども集めて清岡李ちゃんと少しお話をしたいと思ったのです」


「つまりホームパーティーで清岡家を潰そうというのですね?」


 俺の言葉を聞いて母がとんでもないことを言い出した。潰すとか何だよ。俺はそんなこと考えてないぞ。この母はちょっと考えが怖すぎる。多少圧力をかけるような形にはなってしまうかもしれないけど、俺はただ話し合って仲良くなったらもうあんなこともなくなるかなと思っただけのことだ。


「潰すとか争うというつもりはありません。ただお互いのことをもっと良く知って仲良くなれば、将来的な争いもなくなるのではないかと思って企画したことです」


 最初はただ秋桐とそのお友達を招待しようと思っていただけだけど、何かいつの間にか李を説得するための場みたいな話になってきている。もちろん竜胆や榊と秋桐達が仲良くなってくれたらなと思った。そこに李も加えて、あの時のような態度も改めてくれたらなとは思った。


 でも決して李の周囲を囲んで圧力をかけて言う事を聞かせようとか、大人しくさせようというつもりはない。


 たぶん李だってまだこれから次第では真っ当な人になれるはずだ。このまま育ってしまったらひねくれた人間になってしまいそうだけど、今ならまだ間に合う。清岡家やその周りの大人が何をしているのか知らないけど、どうしてちゃんと李を育ててあげないのか。


 壁新聞の件でもわかる通り、桑原や洞院の子達は滅茶苦茶な人間に育ってしまっていた。あれは周囲の大人達が悪い。このままでは李もあんな大人に育ってしまう。


 俺が心配することではないんだけど……、俺がとやかく言うのも筋違いかもしれないけど……、それでもこのまま黙って放っておくことは出来ない。


「パパとしてではなく、九条家当主としては咲耶のホームパーティーは応援してあげてもいい。七清家や五北会メンバー、堂上家との繋がりが出来るのは九条家として費用よりも得る物がある。地下家といえども無視して良いものではなく、それも九条に所縁のある地下家ならばなおさら付き合いは必要だ」


 父はいつものヘラヘラした顔ではなく、経営者の顔になってそんなことを言った。そう、これは遊びじゃない。いくら小規模なホームパーティーとは言ってもその費用を出すのは父だ。父は経営者として数百万、数千万の出費に見合うだけの成果があるのかどうかを考えなければならない。


 その父の判断では、小規模ホームパーティーで数千万くらい使ったとしても、五北会メンバーや堂上家、そして九条門流などの地下家と交流することは出費に見合うと判断したということだろう。


 実際今までは徳大寺とも西園寺とも会社としては大きな繋がりはなかった。でも俺達が同級生として、友達として付き合いが出来たことで両家との関係もかなり接近している。ここに正親町三条や久我や中院が加わればそれはかなり大きな人脈となる。それだけでも元が取れるだろう。


「私も……、強く反対という理由はありません。ですが咲耶、相手は一条門流です。取り扱いを間違えれば取り返しのつかない事態になる可能性もあることは忘れてはいけませんよ」


「…………はいっ!」


 そうだな。母の言う通りだ。一条家とはまだ手打ちになっていない。実質もう戦争状態とすら言える。そこで一条以外の有力な家を集めて、清岡家に対して皆で囲んで圧力を加えるようなことをすれば、最悪の場合は一条も出てきての全面戦争に発展しかねない。


 もちろん俺はそういうつもりで呼ぶわけじゃないけど、相手がそういう風に受け取って、そういう風に対応してくれば……、元が誤解だろうが言いがかりだろうが関係ない。いきなり全面戦争の始まりだ。


 そのことを肝に銘じた俺は力強く母に頷いた。母もこちらを真っ直ぐ見て頷いてくれた。これでホームパーティーは開ける。後は俺がうまくやれるかどうかだけだ。




  ~~~~~~~




 両親に許可を貰ってから数日、俺は色々と準備に忙しかった。いくら小規模ホームパーティーとはいえ九条家が開くパーティーに不備や失敗があってはならない。その上で俺にパーティーの主催の経験を積ませたいらしい両親の指示により、今度のパーティーの段取りは俺が行うことになっている。


 もちろん段取りといっても場所の確保とか、飾りつけとか、料理とか、そんなものは業者がしてくれる。俺がするのは、どこで、どういうパーティーをするのか。何を出すのか。簡単に言えば九条家主催のパーティーの時にコンセプトを決めたようなものを考えると思えばいい。


 カジュアルか、フォーマルか、立食なのか、座食なのか。


 細かいことから大きなことまでたくさん決めなければならないことがある。もちろん業者に丸投げでもいいけど、それでは味気ないし主催者の意味がない。


 あまり堅苦しいのは嫌だから出来るだけカジュアルで、食事も立食形式の方がいいかもしれない。別に九条家のパーティーのように仮面舞踏会とか、変わったコンセプトをつける必要はない。ただ皆でおしゃべりしながら気軽に料理を楽しむような……、そういうのが良い気がする。


 ホームパーティーってそういうものじゃないの?って思うかもしれないけど欧米ではまったく異なる。家に招くというのは最上のもてなしということであり、相手を自分のプライベートな場所に呼ぶというのは相応に重いことだ。


 だから日本のホームパーティーと言えば友達が集まってバーベキューでもしようぜ、というのをホームパーティーと言ったりするのに対して、欧米では参加者はフォーマルを着て、主催者は最上位のおもてなしをしたりする。もちろん欧米でも日本と同じ友達が集まって騒ぐだけのパーティーもあるけど……。


 俺が開くホームパーティーは日本式の、お友達を呼んでワイワイという感じがいい。そういうスタイルでやりたい。業者とも打ち合わせをしてある程度具体的な相談もしていく。


 そんなことをしているうちにあっという間に日数が経ってしまい、予定していた日の一ヶ月前に招待状を出せなかった。一応日取りは決めていたけど、まだパーティー内容が固まっていないのに先に招待状は出せないからな。


 まぁ大規模パーティーでもないし、堅苦しいパーティーでもないからどうしても絶対に一ヶ月前に招待状を出さなければならないということもない。それはいいんだけど……。


 色々と話している暇もないうちに竜胆と榊を呼ぶことにしたことや、李も呼ぼうと思っていることを皆に相談するタイミングを逃してしまった。別に俺が主催者なんだから、主催者が好きな招待客を呼べばいいんだけど……、何というか今更言い難いというか……。


 実はまだ李には招待状を出していない。いや、出せていない。皆に招待状を出したのはホームパーティー開催の三週間前だ。


 四月最後の土曜日に九条家のパーティーが行なわれる。ホームパーティーは二週間後の五月の第二土曜日だ。皆には先週に招待状を送ったけど……、竜胆と榊を呼ぶことは言えていないし、李も呼びたいということも言ってないし……。李にはまだ招待状も出してないし……。


 まぁ最悪の場合は李には招待状を出さないという手もなくはない。状況次第では今回は李は呼ばないというのも一つの手だ。だけど出来れば李も呼んで新入生の俺の知り合い達が皆うまくいって欲しい。あんなギスギスした学園生活じゃ登校するのも楽しくないだろう。


 俺はグループの皆がいるから救われている。流石に一人ぼっちだったら学園に通うのも嫌になっていただろう。でも俺にはグループの皆がいてくれたから今まで学園に通ってこれた。


 秋桐達には上位の家の子にあれこれ言われて嫌な思いはして欲しくないし、李ももっと真っ当な子に育って欲しい。今ならまだ間に合う。


 やっぱり……、今回李を呼ばないというのはないな。絶対呼ぼう。


 皆には話していないけど……、李も呼ぼうと覚悟を決めた俺は清岡家に招待状を送った。どんな返事があるかはわからない。もしかしたら向こうから断ってくるかもしれない。それにあと二週間ちょっとだから急な招待だ。来たくても都合が合わない可能性もないとは言い切れない。


 ただ……、出来れば李も来て欲しい。一度皆でゆっくり話をしてみたい。俺は招待状にそう願いをかけたのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] この時間差が問題になったり
[一言] 咲耶様ぽやぽやしてるのに結果的に複数の派閥まとめ上げたり敵対関係の派閥崩して取り込んだりめっちゃがんばってるな・・・ 九条家の後継者に兄要る?(辛辣)
[一言] まず断れないでしょ
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