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第百八十一話「仮面舞踏会」


 さて、二月もぼちぼち日数が過ぎてきたけどパーティーについての妙案はまだない。そもそも四月か五月に九条家がパーティーを開くことはまだ秘密だ。だから皆にも相談出来ないし、かといってパーティーを企画したことなんてない俺がそんなすぐに何かを思いつくはずもない。


「咲耶様、春休みのお出掛けはどこにしましょうか?」


「う~ん……、そうですねぇ……」


 そしてもう一つ俺の頭を悩ませている問題がある。それが春休みのお出掛けだ。全員家に許可を貰ってお出掛け出来るようになったのはよかった。でも問題はどこへ出掛けるのかということが決まっていないことだ。


 九人もで集まって出掛けるというのは難しい。それぞれに好みも違えばしたいことも違う。茅さんと杏は行き先はどこでもいいと言ってくれているけど、中学生や高学年である二人が幼児向けの所に行っても面白いはずがない。そう考えればある程度は誰でも楽しめるような所に行く必要があるだろう。


 まぁうちのグループの子達はませている子が多いから、皆だって幼児向けの所に行きたいとは言わないだろうけど……。今まで出た候補の中で一番子供向けっぽい所はニャンちゃんランドだ。でもニャンちゃんランドはもう前にも行ったし皆あまり乗り気じゃない。茜ちゃんだけがやたら推しているだけだ。


「やはり誰でも楽しめるとなるとお買い物でしょうか?」


「う~ん……。ですがそれでは結局行き先がいつもと同じになってしまうのでは?」


 椿ちゃんの言葉に皐月ちゃんが答える。確かにその通りだ。お買い物に行くなんて定番中の定番なわけで、今までも皆と一緒ではなくともそれぞれとお出掛けで一度や二度は行っている。確かに人数やメンバーが変われば同じ場所に行くとしてもまた意味が違うかもしれないけど、毎度同じ所へお買い物に行くというのは味気ない。


 折角皆で集まって行けるんだからやっぱりいつもと違うことがしたいというか、いつも行かない所に行きたいというか……。


「春といえばやっぱり花見とかいちご狩りとかじゃない?」


「季節的にはそうかもしれませんが……、お花見やいちご狩りに行きたいですか?」


「それは……」


 蓮華ちゃんの的確な突っ込みに薊ちゃんは視線を泳がせる。別に俺達が子供だから花見の良さがわからないとかそういう話じゃない。


 俺達はそれぞれの家やその付き合いで花見だの紅葉狩りだのというイベントは毎年たくさんこなしている。それこそ俺達のような上位の家ともなれば、シーズン中に何度もあちこちに呼ばれて顔を出す。いい加減うんざりするくらい毎年あちこちに出向いているのに、折角友達同士で集まった時までまた同じことをしたいか?という話だ。


 それももちろん家の都合で呼ばれたイベントと、気の置けない友達同士での集まりでは意味が違うけど、結局花を見るということに変わりはないわけで、わざわざ一日を使ってまで折角集まれたお友達と花見で時間を潰すというのもどうかという所だろう。


「じゃあどうするのよ!」


「「「「「う~ん……」」」」」


 結局ここで堂々巡りになる。お買い物に行くとしても結局行き先がいつも通りの定番になってしまう。季節のイベントは家の事情であちこちに参加しているから友達とまでするのは何かもったいない気がする。遊びに行くとしても一日では行けるのは精々近場くらいだ。泊りがけなら行きたい場所があっても、日帰りとなると行ける所にも限りがある。


「まぁまだ時間もありますから焦らず考えましょうか」


「そう言ってもう何日も過ぎていますよ。一ヶ月くらいあっという間に経ってしまいます」


 それはそうだけどな……。前は割と簡単にお買い物とニャンちゃんランドで決まったけど、今回は中々決まらない。お買い物は皆揃ってじゃないけどバラバラとはいえ何度も行っているからスポットも定番になりつつあるし、またニャンちゃんランドに行くというのもどうかと思う。


 かといって他にテーマパークとかに行こうと思ったら一日では辛い。行けなくはないけど一日じゃ楽しめないし忙しないだろう。水族館とか動物園もなぁ……。結局これというものがなく決め手に欠ける。


「一先ず継続審議ですね……」


「「「「「はい」」」」」


 今日も決まらず話し合いはまた持ち越しとなったのだった。




  ~~~~~~~




 皆とのお出掛けも大切だけどパーティーの方も考えなければならない。両親や兄に丸投げして知らん顔、というわけにはいかないだろう。そもそもパーティーの一番の問題は俺が地下家の子も呼びたいと言っていることだ。それがなければ適当に無難なパーティーにまとめるのはそう難しい話じゃない。


 パーティーだって招待客の都合もあるから一ヶ月前には招待状を出さなければならない。もっと早くてもいいくらいだけど最低でも一ヶ月前には日程を知らせる必要がある。だからこちらはもっと早くから日程を決めて段取りを進めなければならない。


「とにかくどうやって地下家を呼んでも不自然にならない理由をつけるかだよね」


「そうですね……」


 パーティーの内容なんて大した問題じゃない。どこのパーティーだって似たようなもので、精々料理が凝っているパーティーだったり、ダンスに力を入れているパーティーだったりと、ほんの少しの特色をつけているだけの違いでしかない。それより問題はどうやって地下家を誘っていてもおかしくないパーティーにするかだ。


 近衛のように片っ端から呼びまくるスタイルだとコンセプトが被る上に、呼びたくない相手までたくさん呼ばなければならなくなる。いくら主催者というのが名目だけのお飾りだとしても挨拶くらいはしなければならない。呼びたくもない余計な客をたくさん招待するということは、それだけ俺や兄の負担が増えるということだ。


 限られた者だけを呼びながら、なおかつこちらは呼びたい相手を呼んでもちゃんと理由があるような……。


 もういっそ『俺が呼びたい者を呼んだだけだ!何が悪い!』って開き直りたいくらいだけど……、さすがにそういうわけにもいかないしなぁ……。


 派閥だけで集まっているパーティーだというのなら家格に関係なく派閥を全て招待すればいい。でも派閥以外の家も呼ぶパーティーなのに、主催者が呼びたい者だけを呼ぶのでは五北家が開いている大規模パーティーの意味がない。それなら友人知人だけでやっている身内パーティーだ。


「う~ん……」


 何か良い方法はないかなぁ……。そろそろ正式に決めて、それに向けて準備していかないと準備期間が足りなくなってくる。


 いっそ誰が誰だかわからなければなぁ……。


「…………あっ!」


「え?どうかしたのかい?」


 急に声を出した俺に兄が驚いた顔をしていた。そうだよ。誰が誰だかわからなければいいんだ。地下家も堂上家も五北家も関係なく、誰が誰かわからない。そんなパーティーにすればいい。


「誰が誰かわからないパーティーにすればいいではありませんか」


「「「誰が誰かわからないパーティー?」」」


 両親と兄が揃って首を傾げる。こんな説明じゃわからないか。それでは一つ説明を……。


「参加者はお互いに誰か名乗らず、お互いの正体を明かさずにパーティーに参加するのです」


「いや……、そんなことをしてもほとんどの人は顔見知りだろう?直接の知り合いじゃなくても顔を見れば誰が誰かほとんどわかってしまうよ」


 そうだな。上流階級は縦横問わず繋がりが重要だ。自分と同格やそれ以上の家の人は大体覚えているだろう。どこかで会った時に挨拶をするのを忘れてしまったら大変だからな。だから特に繋がりの強い相手や格上の家のことは良く覚えている。


 また同格でもお互いに争いあったり、牽制しあったりしているからよく覚えているものだ。そういう敵対的な理由だけじゃなくて、親しくしておいたらいつか役に立つかもしれないと思ってあちこちに良い顔をしている者も多い。


 格下もまた然り。同じ派閥や門流なら格下の家が相手でも付き合いもあるし覚えてもいる。派閥が違っても様々な理由で相手を覚えているだろう。上流階級にとって重要なのは人脈だからな。


 だからいくら名乗らないとしても顔を見られたらほとんどの場合はどこの誰だかすぐに特定されてしまう。顔見知りばかりのような状態だったら、それこそ自分の友達ばかりの状態だったら名乗りあわなくても誰が誰かわかるだろう。


「顔を……。そうか……。咲耶、面白いことを考えたね」


 どうやら兄は気付いたらしい。これをコンセプトにすれば他のパーティーとの差別化も図れる。九条家のパーティーは珍しいパーティーとして話題にもなるだろう。


「どういうことだい?パパにも説明しておくれ」


 父は降参とばかりに手を上げて答えを聞いてきた。もったいぶっていても仕方がないので説明することにしよう。


「九条家のパーティーのコンセプトは『仮面舞踏会』です」


「「仮面舞踏会!?」」


 父と母が声をそろえて驚いた顔をする。とりあえず説明しないことには話が進まないので気にせず続きを話す。


「九条家の仮面舞踏会では相手の素性を探ることは禁止です。知り合い同士ならば多少顔を隠してもすぐにわかるでしょうけれど、相手の素性をしつこく聞くことや、自らの家を誇ることは一切禁止とします。コンセプトは身分、家柄に捉われず誰とでも対等にパーティーを楽しむこと。日頃敵対派閥の人であっても、家格に差がある人でも、誰もが対等な一人としてパーティーを楽しむのです」


「なるほど……」


 父はふんふんと俺の話を聞いてくれている。今の所否定されたり反対されている様子はない。


「パーティーに呼ぶのは五北家や堂上家だけに限らず、地下家や、何なら一般生徒からもゲストを呼びましょう。そして上位の家は家格などを理由に相手を貶めるようなことは禁止です。それを破る方にはご退場いただき今後呼ばないこととしましょう。それが耐えられない方は招待した時点で不参加にしていただけば良いです」


「ふ~む……」


「確かに面白いけど難しい所もあるね」


 父と兄は色々と考えているようだ。上位の家は上位の家としてチヤホヤされることを当たり前と思っている。それを下位の家と対等に振る舞えと言われても我慢ならない人もいるだろう。


 それに下位の家も九条家のパーティー中は対等だと言われても、それを本気にしてパーティーで対等に振る舞って上位家の機嫌を損ねれば、後でどんな仕返しをされるかわからない。結局正体を隠していようが、名乗らなかろうが、その場では対等だと言われていようが、そんな約束は守られないと考えるだろう。


「パーティー中は上位の家が我慢したとしても、パーティーが終わった後で報復されないようにと九条家が保障しなければならないぞ」


「そこは上位の家の自尊心をくすぐるしかありませんね。度量の大きい所を見せて、多少は無礼講として許せる器の大きさを示して欲しいとでも言えば、自尊心の強い家ほど案外多少のことには目を瞑っていただけるのではないでしょうか。あとは下位の家が相当な無礼を働かないようにある程度気をつけるしかありません」


 多少問題はあるだろうけど、それは普通のパーティーだって同じだ。九条家が仮面舞踏会じゃなくて普通のパーティーを開いたって、下位の家が失礼を働いた!と言って怒る人はいるだろう。そんなことまで気にしていたらそもそもパーティーが出来ないわけで、ある程度はお互いに許しあうことと気をつけあう必要がある。それはどこでも変わらない。


「では招待状にそれぞれに注意点を書いたり、マナーや作法に自信がない下位の家には事前のレクチャーなども用意せねばならんな」


「そうですね。そういうフォローがあればかなりのトラブルは未然に防げると思います。それに九条家がそういうフォローやレクチャーをしてくれるとなれば、礼儀作法をきちんと習っている人でも習いに来てみようと思う方も増えるかもしれません。初心者向けのものから上級者向けのものまで、簡単なレクチャーを用意しておくと良いのではないでしょうか」


 そう言うと父と母と兄は三人で色々と話し始めた。下位の家や一般生徒には上位の家と触れ合う良い機会になるだろう。そこで多少なりともマナーを覚えて、上位の家と接する機会を得れば、今後の人生で色々役に立つ可能性もある。


 まぁあまりに無礼を働いて睨まれて人生を壊す可能性もあるけど……。そういうことを心配する者なら最初から招待しても参加を断るだろう。


 あとは適当に地下家や一般生徒に招待状を送ればいい。どういう基準で選ぶかは難しい所だけど……。あと何人くらいに招待状を出して、何人くらいが参加してくれるのかも未知数だ。


 俺が呼びたい堂上家より下の家の相手は三人。杏と、来春入学してくる秋桐ちゃん、そして……、クラスで唯一と言っても良い挨拶を返してくれるあの娘……。他は呼びたくない相手はいても呼びたい相手はいない。


 両親も兄も仮面舞踏会の案には乗り気なのか、真剣にどうやって開催するかを話し合っている。これなら俺が呼びたい相手も呼べそうだと俺も一緒になってどうやって開催するか話し合ったのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] あと数年もすればニャンちゃんランドに行かなくてもニャンニャンするようになるんだろうなぁ(ゲス顔)
2020/07/02 17:19 リーゼロッテ
[気になる点] そういえば挨拶してくれるあの子の名前はまだ一度も出てなかったね [一言] きっと茅さんなら完璧に変装した上で仮面を付けた咲耶ちゃんでも匂いで当てそう(
[一言] 面白い案だなぁ
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