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第百四十五話「たらし」


 杏の悪事に気付き、捕えたのは良いけどそれで終わりじゃない。むしろ実行犯とはいえ恐らく命令されてやっていただけの杏を捕まえても解決じゃない。その背後にいる者……、ロコロー氏、茅さんを捕まえなければ……。


 放課後、俺と皐月ちゃんはサロンで茅さんを待つ。薊ちゃん達は写真・新聞部という杏一人の部活動の部屋で待機中だ。全員でこっちに来ることは出来ないし、他の皆は五北会のメンバーがいる時にサロンの中に入るのは嫌みたいだったしね。そんなわけで俺と皐月ちゃんだけ代表でサロンで待っている。


 それにしても杏が勝手に写真・新聞部というのを立ち上げて学園に部屋まで借りているのは驚いた。写真現像用の暗室まで備えた本格的なものだ。機材、設備は杏が持って来たものらしいけど、あんな怪しげな活動をしている杏に一部屋与えるとは、学園の体制にも問題があるんじゃなかろうか。


 まぁ……、杏の今大路家だって近衛諸大夫の上に……、恐らくだけど五北会メンバーの正親町三条家の口添えもあるんだろうとは思う。茅さんが杏を後押ししているのは間違いない。


 それに杏が配ってる『藤花学園ライフ!』も今ではかなりの部数になっているし、影響力もかなり大きい。あれを楽しみにしているという生徒も増えたようだ。学園にとってもそういう背景から大きな影響力があって、あまり蔑ろには出来なかったんだろう。それに機材は自前だから部屋を使わせてるだけだしな。


 そんなことを考えていると少ししてから茅さんがやってきた。俺達よりは遅いけど、初等科からここまでと、中等科からここまでの移動距離を考えたらむしろ早過ぎる。たぶん終わりのホームルームとかを無視して飛び出しているんじゃないだろうか?掃除とかも絶対してないよね?


「御機嫌よう茅さん」


「まぁ咲耶ちゃん?どうしたの?お姉さんを待ってくれていたの?」


「はい。茅さんをお待ちしておりました」


 茅さんは冗談のつもりで言ったのかもしれないけど本当にその通りだ。俺達は茅さんを待っていた。


「まぁ!何かしら?どんな用かしら?さぁ!さっそく行きましょう!私達のおうちへ!」


 その余裕がいつまでもつのか……。


「それではまいりましょうか。正親町三条様」


「……何故貴女まで?」


 俺と茅さんの間に立つように皐月ちゃんが現れたから、茅さんはすっと冷めた表情になって静かにそう言った。


「茅さん……、皐月ちゃん……、まいりましょうか」


「……」


 俺がそう言うと茅さんは何か察したのか黙ってついてきた。三人でサロンを出て写真・新聞部の部室?に向かう。その間茅さんの表情とかは特に変わった様子はない。たぶん学園に杏に教室を与えるようには言ったけど、それがどの場所なのかは知らないんだろう。


 茅さんは学園に圧力をかけて杏の後押しをしただけで、実際杏がどこでどういう活動をしているかまでは知らない。ただ俺達のあんな写真を撮ってくるように命令して、撮れた成果だけ見ていたんだろう。だから今杏の部室に向かっているということすらわかっていなんだ。


「写真・新聞部……。ここは……」


 部屋の前のプレートを見てようやく俺達がどこへ向かっていたのかわかったらしい。でも特に動揺したりという様子はない。あくまでいつも通りの堂々とした茅さんのままだ。


「来ましたね」


「ごめんなさいロコロー氏~~!」


 部室に入ると正座させられている杏とそれを囲むように立っている薊ちゃん達。この状況を見てさすがに茅さんも……。


「どうやらドジをしたようですね」


「うぅっ……。申し訳ないです……」


 動揺していなかった。実に堂々と、腕を組んで、足を肩幅に広げて、ドドーン!とかデデーン!とか音がしそうな感じに仁王立ちして杏を見下ろしている。


「それでは杏さんが盗撮していたのは茅さんの命令だったとお認めになるのですね?」


「盗撮?私は盗撮などさせていません。私はただ咲耶ちゃんを観察し、咲耶ちゃんを見守り、咲耶ちゃんを助ける。そのために遠くから咲耶ちゃんの邪魔をしないように待機しなさいと言っただけです。その際に証拠も一緒に確保していますがそれの何が悪いというのですか?」


 いや……、ほぼ全部じゃないですかね?勝手に付け回して、勝手に撮影してたらそれは全部悪いと思いますけど?


「茅さん……、どうしてこのような……」


「今言った通りです。全ては咲耶ちゃんのため……。咲耶ちゃんを見守り、助けるためです」


 さも当然とばかりにそう答える。でも本当にそれが本音かな?この強気の茅さんは本当の茅さんを隠すための仮面なんじゃないかな?


「茅さん、本当のことをおっしゃってください」


「本当も何も『これも』理由なのは本当です」


 『これも』?じゃあ他にも何か理由が……。


「ですが……、ずるいではないですか!」


「ずるい……?」


 何が?急に声を荒げた茅さんに驚きながらその真意を聞いてみる。


「この子達だけこのような楽しそうなことをして!間近で咲耶ちゃんといつも一緒で!私だって……、私だって咲耶ちゃんとおパンツ見せ合いっこがしたい!さぁ!見て頂戴!咲耶ちゃん!そして私にも見せて頂戴!」


「ちょっ!ちょっ!茅さん!?」


 急に自分のスカートを捲りだした茅さんに慌てる。何か言ってることは滅茶苦茶な気がするけど今はそれどころじゃない。


「そうですよ!私達だけ除け者にして!ずるいっす!私達も混ぜて欲しいですよ!それなのに私達には内緒にして、自分達だけ楽しんでるからせめてそれを遠くから眺めて楽しんでただけなのに!それも駄目って言われたら私達はどうしたらいいんですか!ほら!私のも見てください!」


「杏さん!?落ち着いて!」


 杏まで自分のスカートを捲って見せてくる。杏は下にスパッツを穿いているから下着丸出しではない。でも茅さんは何かシルク素材のような艶々した……、フリルのようなものがついたものが見えている。パンツ丸出しではないんだろうけど、あれも何か見えてはいけない下着の一種じゃないだろうか。


「ちょっと落ち着いてください二人とも!」


 完全に興奮状態の二人を抑えるのに随分苦労させられることになったのだった。




  ~~~~~~~




 何とか二人を落ち着かせて再び話しを始める。あのままじゃ話しをするどころじゃないからな。


「つまり私達が咲耶様とあのように見せ合いっこをしていたのがうらやましいから、参加出来ないのならせめて遠くからでも写真を撮ってそれを見て楽しもうとしたと?」


「まぁ……、そんな所っす……」


 薊ちゃんの追及に杏がしゅんとなってそう答える。


「例えそうだとしても盗撮は犯罪ですよ。それに見せ合いっこ以外の盗撮写真もありますよね?これはどう言い訳されるおつもりですか?」


「いつも遠くから見守り、何か決定的瞬間があれば撮影して記録する。それが私の役目っす……」


 皐月ちゃんの追及にもスラスラ答える。嘘をついている感じではない。それに茅さんにそういう風に指示されていたんだろう。


「それで……、この私達の写真はどうしていたのですか?何に利用していたのですか?」


 蓮華ちゃんがゴミを見るような目で杏を見下ろす。どうやら蓮華ちゃんはまだ杏のことを許していないようだ。


「流出とかどこかに流したりはしてないですよ!私が撮影したものは全てロコロー氏に渡していました。その中でロコロー氏が次の新聞に載せても良いものだけ選んで渡されてました」


 う~ん……。まぁ……、杏の瓦版は毎回確認してたけど、確かにそんな変な写真は使われていなかった。裏でどこかに俺達のいや~んな写真を流していなかったという証拠にはならないけど、少なくとも瓦版の写真は健全なものだっただろう。


「これに懲りたらもう盗撮なんてしちゃ駄目だよー?」


「「「「「…………」」」」」


 一人能天気な譲葉ちゃんに皆が無言になる。何というか……。いや、やっぱりやめとこう……。


「うっ……、ぐすっ……。だって……、咲耶ちゃんがお姉さんを除け者にするから……。こうするしかなかったのよ……。すんっ……」


「あああああ……、かっ、茅さん!泣かないでください!怒ってませんから」


 いきなり茅さんが泣き出したから慌てて宥める。女の子に泣かれたらどうすればいいのかわからない。とにかくどうにかして泣き止んで……。


「本当?それじゃこれからお姉さんもおパンツ見せ合いっこに呼んでくれる?」


「いや、それとこれとは……」


 何か言ってることがおかしい。茅さん達が悪いことをしたはずなのにどうして……。


「ぐすっ……、ひっく……」


「あああぁぁ!わっ、わかりましたから!呼びますから!」


 でもそう思ったけど再び泣き出した茅さんに負けて了承する。でも……。


「そう!よかったわ!それじゃ早速見せ合いっこしましょ」


「……え?嘘泣き?」


 もしかして……、騙された?


 一瞬でケロッとした茅さんが元気良く立ち上がってこちらに迫ってきた。ちょっとそのワキワキさせた手の動きをやめませんか?何か怖い……。っていうか、茅さんやっぱり嘘泣きだったんだ!騙された!ずるいぞ!女の涙なんてずるい!


 …………あっ、そう言えばこの前俺もこの手を使ったわ……。


 そっかぁ……。された方はこうなるのかぁ……。そりゃずるいよなぁ……。女の涙に逆らえる男なんていないよな。それをわかった上でこんな風に悪用するなんてよくないね。これからは俺も気をつけます。危うく悪女になるところだった。


 それじゃ茅さんは悪女なのか?って言えばどっからどう見ても悪女だろ。まさに悪女の鑑だ。それに俺は気をつけるとは言ったけど、二度と使わないとは言ってない。そこは勘違いするなよ。


「茅さん……、ちゃんと反省しておられますか?」


「そうね……。反省しているわ……。やっぱり最初から望遠で撮影した写真なんかで満足しないで、直接咲耶ちゃんのお御足を生で見るべきだったわ!さぁ!さぁ!見せて頂戴!」


 茅さん……。折角美人だし、良い所のご令嬢だし、性格はちょっときつくて言いたい放題言ってくるけど、それは頼りになるということでもあって、とても強いリーダーシップも持ってるのに……。


 何でこんなに残念な人になっちゃったんだろう……。


 嫌いじゃないよ?むしろ好きだよ?大好きだよ?でもさ……、こんな風に迫られてもドン引きしちゃうだけだよね?


 もっとこう……、普通にさ……、二人でおしゃべりしたり、ゆっくり何かを飲んで落ち着いたり、そうしてる間に徐々にお互いの距離が縮まって、そして……、という流れなら多分流されちゃうよ?こんな綺麗なお姉さんになら襲われてもいいってなっちゃうと思うよ?


 でも現実はこれじゃん?何ていうか……、そう!男性的?男性の性欲みたいな感じでこう……、強引に迫られたらさ……。やっぱりこっちが引いちゃうんだよ……。茅さんはそれがわかってない。俺が普通の女の子だったらまた違ったのかもしれないけど、中身男である俺が男性的に迫られるとどうしても逃げてしまう。


 まぁ……、茅さんに良い雰囲気で襲われたからって、流されて身を委ねてしまうのはよくないと思う。そういう意味では茅さんがこうして自爆して失敗してくれてるのは助かってるけどね。これでもし茅さんが妖艶に、うまくこっちを誘ってきたら我慢出来るかわからないし……。


「ロコロー氏!その時は記録係りとして私もいれてください!私も咲耶たんの生足が見たいです!」


「はぁ……」


 杏よ……。君もどうしてそんなに道を踏み外してしまったのか……。何で俺の周りの女の子ってこんな変わった子ばっかりなんだろう……。


 杏なんて最初は俺を貶めようとしていたはずなのに、いつの間にかこんなことになってるなんて、人生はわからないものだな。俺もいつ自分がどういう方向に転がるかわからないということを肝に銘じておかなければならない。


 どうしたらいいんだろう。もう何かわけがわからなくなってきた。


「これならいっそ可愛い女の子は全員私の彼女にしてしまいましょうか……」


「「「「「「「…………」」」」」」」


「あっ……」


 ボソッと声が漏れてしまった。そして俺の声を聞いて皆が変な顔でこっちを見てる。しまった。完全に失敗した。これじゃ俺が同性愛の変な女の子だってバレてしまう。何とかしなきゃ……。


「咲耶様……、本当ですか?」


「え?」


 俯いた薊ちゃんばプルプルとしながらそんなことを言った。やばい。どうすればいいんだ。


「もちろん咲耶ちゃんの正妻はお姉さんよね?」


「いや、あの……」


 茅さんが俺の腕を抱いてくっついてくる。何だ?これは一体どういう展開……。


「私は別に順番も立場も気にしませんよ?正妻でなくとも、愛人でも妾でも」


「皐月ちゃん……」


 逆の腕を皐月ちゃんが抱き締める。女の子に密着されて頭が回らない。


「ずるーい!私もー!」


 譲葉ちゃんが背中から抱き付いてきて……。


「全員ということは……」


「私達もよろしいのですよね?」


 蓮華ちゃんと椿ちゃんもそっと寄り添ってくる。


「…………」


 そして茜ちゃんが遠くから俺のスカートの裾を摘んでいた。顔は背けて一人離れているけど……、それでもそっとスカートを摘んでいる。


「え~っと……」


「おおおおっ!咲耶たんの百合の園いただき!」


 カシャッ!カシャッ!カシャッ!


 と杏のカメラのシャッター音とフラッシュだけがしばらく続いていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 言ってはならない一言を・・・ 咲耶ちゃん、もう彼女達に美味しく食べられてしまってください。
[良い点] いよいよ百合ハーレムが認定( ˘ω˘ )! [気になる点] えっ現像!?フィルムカメラだったの!? [一言] 桜君は男として育てられたけど実は女の子だったとか言う裏設定あったりしない?
[良い点] この発言は後に百合園宣言と呼ばれ、咲耶様の百合ハーレムの始まりとして歴史書に記載されるのである(
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