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第百四十四話「発覚」


 良いことをした後は気分がいい。ルンルン気分で床に就き、翌朝も良い気分のまま学園へと向かった。


「御機嫌よう」


「「「「「――ッ!?」」」」」


 三年一組の教室に入って挨拶をしてもスルーされる。でも別に気にならない。今の俺はとても気分が良い。愛し合う二人を導いた俺は今とても寛大な気持ちになっている。お前達の無礼も許してやろう!はっはっはっ!


 気分良く教室で待っていると伊吹も登校してきた。前までのような鬱陶しい伊吹とは違うようだけど、この前までの根暗王子とも違うようだ。それなりにしっかりした足取りで、普通に教室に入ってきて、普通に挨拶して、普通に席に着く。


 俺様王子や残念王子じゃなく、そして根暗王子でもない。何か新しいキャラに生まれ変わったような雰囲気だ。どうやら俺の説得と説明が効いたようだな。これは今日がどうなるか楽しみだ。




  ~~~~~~~




「九条さん!ちょっっっっといいかな?」


「はい?何でしょうか?鷹司様?」


 二時間目の休憩時間に、槐が飛んできた。朝は伊吹は登校してきてから教室にいた。一時間目の休み時間にいなくなっていたから、その時に槐と会って話しをしたんだろう。そして二時間目の休み時間に槐がこれほど飛んで来るということは、きっと二人はうまくいったに違いない。やっぱり良いことをするとこちらも気分が良い。


「いいから!来てもらうよ!」


「はぁ……」


 槐に手を掴まれて教室から連れ出される。伊吹がこちらを見ていたけど良いのかな?槐が俺にこんなことをしていたらまたあらぬ誤解を受けるんじゃないかな?二人は付き合うことになったんだろうし槐も伊吹に誤解されるようなことをしちゃいけないよ。


 良い所のお坊ちゃんとは思えないほどドカドカと歩いている槐は、いつものバルコニーに出て俺に向き直った。


「ああ、お礼は結構ですよ」


「はっ!?お礼!?何の!?」


 俺が先に断ったら槐が凄い形相をしていた。おいおい。折角綺麗な顔をしているのに台無しになっちゃうぞ?あまり変な顔をしてたら恋人の伊吹にも呆れられちゃうぞ?


「近衛様と鷹司様の仲がうまくいったお礼を言うために呼び出されたのでしょう?」


「違うよ!?っていうかやっぱりあれは九条さんの差し金なんだね!」


 違うのか?じゃあ何で俺は槐に呼び出されたんだ?それに差し金とはどういう意味か。俺はただ二人が真実の愛に目覚めるようにお互いの気持ちを気付かせてあげただけだ。


「私はただ近衛様にご自身のお心に気付いてもらっただけですが?」


「やっぱり!伊吹の様子がおかしいのは九条さんのせいじゃないか!」


 何か様子がおかしいな……。何で槐はこんなに怒鳴ってるんだ?槐は伊吹のことが好きなんだから、俺のお陰で晴れて二人は両想いになれて感謝されるのが当たり前じゃないのか?


「一体近衛様の何がどうおかしいと言われるのですか?」


「そっ……、それは……、妙に僕にベタベタしてきたり、じっと顔を見詰めてきたり、顔を赤らめたり……」


「よくわかりませんね。もっと詳しく、具体的に」


「うぅ……」


 困った顔をして視線を逸らした槐を追及する。黙っていても話が進まないと思ったのか、槐も徐々に状況を話し始めた。


 一時間目の休憩の時に、伊吹は二組の槐を訪ねてきたらしい。そしてじっと真っ直ぐに槐を見詰めたり、手を握ったり、槐が何か言うと顔を赤らめて視線を逸らしたり、それはもう恋する乙女のような反応だったらしい。


 しかも二人で席を立った時に槐が躓くと、慌ててそれを受け止めてくれたと……。その時の反応が凄かったようだ。


『だっ、大丈夫か槐!?』


『うっ、うん。大丈夫。ありがとう伊吹』


 躓いた槐を伊吹が受け止めて二人で抱き合い見詰め合う。


『――ッ!?わっ、悪い……』


 それに気付いた伊吹は顔を真っ赤にして槐から離れた。そのあとも視線をソワソワとさまよわせながら赤い顔でモジモジとし続けていたらしい。


「よかったではありませんか鷹司様」


「何がよかったんだよ!?」


 いや?全部だろ?そんなノロケ話までわざわざ俺にしに来るなんて槐もよっぽど舞い上がってるんだな。


「長年の思いが通じ合って、両想いになれたのですからよかったではありませんか」


「九条さん、絶対何か勘違いしてるよね?それともわざとなの!?」


 一体俺が何を勘違いしているというのか。そもそも俺はお前達が致している現場を目撃したんだぞ?言い訳のしようもないだろう?


「鷹司様……、貴方は昔から近衛様のことを愛しておられましたよね?」


「はぁっ!?ちっ、違うよ!僕はただ……」


「いいえ、違いません。鷹司様は近衛様に憧れ、恋焦がれ、愛しています」


「…………」


 俺が槐の言葉を遮ってそう言うと黙った。反論のしようもない事実を突きつけられて認めるしかないんだろう。これで……。


「確かに伊吹は僕の憧れだったよ。これは……、そうだね……。ヒーロー……。ヒーローに憧れる子供かな……」


 ん?槐が何か言い出した。あれか?ヒーローへの憧れがいつしか恋心に変わり、そして愛にまで発展してしまったというノロケ話かな?


「僕は昔病弱で……、あまり外に出たり、派手に運動したりすることが出来なかったんだ」


 それは……、鷹司母を見ればそんな感じはする。とても儚げな美人だ。病弱とか虚弱と言われても納得する。むしろあんな人が元気に走り回っていたらその方が違和感が凄い。その血を引き継いでいる槐だって似たようなものだろう。色白だし、体つきも貧相だし、表立って暴れるタイプじゃない。


「そんな僕にとって、外で思いっきり遊んで……、何でも出来て……、スポーツ万能で……、人を惹き付けて皆を引っ張っていく伊吹はヒーローだったんだよ」


「なるほど……。それがいつしか恋心に……」


「だから違うってば!」


 槐にしては珍しく、本気で怒っているかのような声を上げた。そんなに恥ずかしがることないのに……。


 俺は堂々と言える。女の子が好きだ。俺も女の子だけど女の子が好きだ。何度でも言える。皐月ちゃんや、薊ちゃんや、グループの皆、茅さんも、椛も、菖蒲先生も……。最近で言えばあのお騒がせな杏だって……、皆、皆大好きだ。


 だから槐だって恥ずかしがることはない。槐が伊吹のことを愛していても俺は笑ったりしない。積極的に関わろうとは思わないけど、二人がそれで良ければ良いじゃないか。誰のことも気にすることはない。


「伊吹のお陰で僕はこうして外に出られるようになったんだよ。伊吹は僕のヒーローで……、恩人で……、親友なんだ!だから伊吹が元気になって欲しいと思ったんだよ!伊吹が好きな九条さんとうまくいって欲しいと思ってるんだよ!」


 う~ん……。つまり……、伊吹が俺のことを好きだと思ったから、潔く身を引いて俺と伊吹をくっつけようと思っていたと?それはとんだ勘違いだ。


「鷹司様……」


「わかってくれた?九条さん」


 わかった……。よくわかった。


「鷹司様、私は近衛様のことをお付き合いしたり、ましてや結婚する相手として一切魅力を感じておりません。私達の立場上多少の政略結婚は止むを得ないとしても、私は近衛様と結婚するくらいなら自ら命を絶つ方がマシとすら思っています」


 俺の言葉に槐は驚いた顔をしていた。槐にここまで言うのはまずいかとも思ったけど、二人の仲を取り持つためだ。仕方がない。


「ですからもし仮に、近衛様が私とのお付き合いを望まれていたとしても、それを強制されてもお互いに不幸になるだけです。真に愛し合う二人がお付き合いをしない限りは幸せになどなれません」


「それは……」


 槐の視線が泳いだ。よし!もう少しだな。


「ですから私と近衛様をくっつけるために身を引かれるというのは間違いです。近衛様は長らく尽くしてくれた鷹司様の愛に気付き、そしてご自身の心にお気付きになられたのです。近衛様もいつしか鷹司様のことを愛していたのです!ですから私のために鷹司様が身を引くのは間違いです!本当に心から愛し合う二人が結ばれるべきなのです!」


「だから違うって言ってるだろぉーっ!僕が……、僕が好きなのは……、九条さんのばかー!」


 顔を真っ赤にした槐はそんな言葉を残して駆けて行った。あんなに叫んだり、ばかー!なんて言えるなんて、槐も年相応の所もあるじゃないか。腹黒王子かと思ったけど、恋愛で図星を突かれたらああなっちゃうのかな。何かほっこりした。




  ~~~~~~~




 やっぱり良いことをした後は気分が良い。今日は普通の食堂で食事をしているけど、気分が良いお陰かそんなにまずいという気がしない。心なしか世界も色鮮やかに見える気がする。


「咲耶様、今日は随分とご機嫌ですね!」


「うふっ、わかりますか?」


「はいっ!」


 薊ちゃんには俺のご機嫌もお見通しらしい。


 カシャッ!カシャッ!カシャッ!


「咲耶たんの良い笑顔萌えーーーっ!」


 うん……、杏のことは気にしないでおこう……。いや……、待てよ?あまりに変な場面を撮られたり公表されても困るし……、そろそろ杏にも常識とかを教えておくべきか?盗撮とかされてたら困るしな。


「杏さん?無断で撮影するのは犯罪行為ですよ。もしや……、私達のことを知らない間に盗撮などしていないでしょうね?」


「ギクゥッ!?しっ、してないっすよ!?全然?おパンツ見せ合いっこなんて盗撮してないっす!皆さんのおパンツ見せ合いっこ集会の写真をロコロー氏と楽しんだりなんてしてないっす!」


「…………何故そのことを知っているのか、じっくり話し合う必要がありそうですね?ねぇ皆さん?」


「そうですね……」


「ちょっと身柄を預かりましょうか」


 簡単に口を滑らせた杏に皆が詰め寄る。良い気分だったのが一転して爆発寸前の火山のようになった。もし……、もし杏が口を滑らせたようにあの密会の写真が撮られているのだとしたら……、黙っていられない。あんな場面が公表されようものなら咲耶お嬢様が終わってしまう。今までのスキャンダルの比じゃない。


 食事を途中で中断した俺達は杏を連れて食堂を出て行った。暢気に飯なんて食ってる場合じゃない。その後締め上げた杏からあの密会を盗撮した写真やデータを回収した。


 どうやら杏は日頃から俺達、いや、俺か?を盗撮していたようだ。他にもあの密会以外にも撮られた覚えのない写真がたくさん出て来た。これらは全部確実に盗撮だ。ちょっと際どい写真や、インナーパンツとはいえパンチラ写真まである。いや、それどころか体育の着替えまで盗撮されている。これはさすがに笑えない。


 どうやら杏は望遠レンズとかも使って様々な所から盗撮していたらしい。学園の色んな場所が盗撮できるスポットも随分調べ上げていたようだ。


 データや写真は外部には流出させていないと言っていたけど、こんな簡単に盗撮されているというのは非常に危険だろう。やっぱり杏を野放しにしていたのはよくなかった。


「皆さん……、この盗撮魔はどうしてくれましょうか……」


「警察に突き出しましょう!」


「ちょっ!まっ!待ってください!お助けを!」


 俺の言葉に薊ちゃんが死刑宣告をする。例え立件されなくても、藤花学園に通うようなクラスの家の子供が、同性ということを利用して盗撮をしていたなんてことになったら破滅だろう。本人だけじゃなくて家まで潰れることは確実だ。


「まぁまぁ……。落ち着きましょう。警察に突き出せば警察に咲耶ちゃんや私達のこの写真やデータが流れてしまいます」


 皐月ちゃんが薊ちゃんを止める。でもその顔は悪魔の顔だ。悪い顔になって笑っている。写真やデータが流出したら恥ずかしいとか困るという顔じゃない。絶対何か悪いことを考えている顔だ。


「ですがこのような方を野放しにしていては……、安心して学園生活が送れません……」


 蓮華ちゃんが汚物を見る目で杏を見ている。普段大人しい蓮華ちゃんがここまで言って、しかもこんな態度というのは相当だろう。


「そうですね。今までのように野放しというわけにはいきません。ですから……、これからは私達の管理下に入っていただきましょう?撮影も全て私達の許可を得てから、居場所も全てこちらで把握させていただきます。写真やデータも全てこちらで管理させていただきます」


「ちょっ!待ってください!それはあんまりじゃないですか!?」


 悪魔のような顔をして笑う皐月ちゃんに杏が縋りつく。でも皐月ちゃんは一瞬杏に見えないようにニヤリと笑うと、表情を変えて杏に言葉をかけた。


「貴女がそのようなことを言える立場だとでも?この犯罪者!それが嫌なら警察に突き出しても良いのですよ?どちらがお好みですか?さぁ!選ばせてあげましょう!どちらにするというのですか!すぐ答えなさい!」


「ひいぃっ!わっ、わかりました!全て西園寺様の言われる通りにします~~~っ!」


 杏は可哀想になるくらい泣きながら土下座をした。皐月ちゃん怖い……。グループの皆もさぞドン引き……、してないね。俺だけかな?皆はむしろ当然という顔をして杏を見下ろしていた。


 自業自得とはいえ何か杏も可哀想になってくる。それにたぶん杏の後ろには茅さんがいるんだろうしな……。全部の責任を杏一人のせいにするのは可哀想だけど……。


「咲耶ちゃん、これで目と口を手に入れましたよ」


「えっ!?」


 にっこり笑って、こっそり俺にそう言った皐月ちゃんはやっぱり悪魔のようにニヤリと笑っていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 皐月ちゃんが本編の腹黒さを得つつある? [一言] こんなんおハーブ生えますわよ~ ↓おハーブ畑 wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww…
[一言] 伊吹と槐は二人で幸せになってくれ(合掌) 見せ合いっこはマズいと知りつつ見せ合いっこ続ける咲耶様サイドにも問題があるのでは…?つまり見せ合いっこ写真は別にHENTAIではないしKENZEN…
[良い点] ああ…、杏さん、やり過ぎちゃったね。このまま、咲耶グループの体のいい手下(玩具)になってしまうのかww。 [一言] 皐月ちゃんの腹黒さも怖いけど、それ以上にしれっと洗脳を掛ける咲耶様も十分…
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