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第千三百六十九話「百合を説得」


 昨日のひまりちゃんとりんちゃん可愛かったなぁ……。二人は自分達の出身を気にしているけどああやって着飾ったらそこらのご令嬢なんて目じゃないくらいに素晴らしい。ただ……、ひまりちゃん……、いや、藤原向日葵の卒業パーティーのドレスを事前に知ってしまっているというのは原作ファンとしてはちょっと思う所もあるけど……。


 ゲーム『恋に咲く花』では主人公・藤原向日葵は攻略対象にドレスを贈られてそれをパーティーで着ることになる。ゲームでは制作の問題かスチルのドレスのデザインは皆同じだ。誰に贈られても同じドレスを着ている。だから一度見てしまえばどのルートを攻略しても基本は変わらない。


 それに比べてこの世界ではひまりちゃんは毎度違う相手からドレスを贈ってもらい、その都度違う姿を見せてくれていた。俺はそんなひまりちゃんのドレス姿を見るのが楽しみでパーティーを心待ちにしていたものだ。でも今回は俺がドレスを贈るので既にその姿を知ってしまっている。これが少し残念でならない。


 ドレスを仕立てるというのは簡単なことじゃない。何度も手直しをしたり確認をしてようやく完成となる。それにドレスに合わせたバッグやアクセサリー、メイクやヘアースタイルまで考えなければならない。だから事前の準備というのはとても手間と時間がかかる。


 当然それだけ時間や手間がかかるのだから何度もその姿を見てしまう。それは何度もひまりちゃんとりんちゃんの素敵なドレス姿を見られるということでメリットではある。あるんだけどやっぱりパーティー当日に新しいドレスに身を包んでいる二人を見る驚きや新鮮味はない。


 まぁいつまでもそのことを考えていても仕方がないか。卒業パーティーのドレスは俺が贈りたかった。そして二人のことは完璧に仕上げたかった。だから俺が何度も二人と一緒に事前の準備や調整をしてその姿を見てしまうのは仕方がない。むしろ皆に二人の姿を見せるのが楽しみというものもある。そう思えばメリットの方がたくさんだ。


「咲耶よ、何か良いことでもあったか?」


「え?いえ……、まぁ……」


 いかんいかん。折角日曜日に師匠に修行をつけてもらっているというのに顔がニヤケてしまっていたかもしれない。もっと真面目に頑張って修行しなければな!




  ~~~~~~~




 月曜日の朝に登校してきて皆と顔を突き合わせる。今日の俺達には重要なミッションがある。それを果たせるかどうかで今後が決まると言っても過言ではない。


「皆さん良い案は浮かびましたか?」


「「「う~ん……」」」


 皆の反応は芳しくない。かく言う俺も同じ気持ちだ。今日……、俺達は百合を説得する。ただあの百合をそう簡単に説得出来るとは思えない。そもそも人に少し言われたくらいで簡単に聞いてくれるような相手ならばこんな問題にはなっていないのだ。説得が容易ではないことは明らかでありそのための妙案を考えてきたとはいえ土日だけで良い案が浮かぶはずもない。


「そもそも今更私達に言われたくらいで簡単に説得されるようならすでに誰かに説得されているでしょうからねぇ……」


 ですよねぇ……。


「一応考えてはきましたけど説得出来る気はしません……」


 分かるよ……。


「そんなことグダグダ言ってても仕方ないじゃない!私が説得してあげるわよ!ドーンと行くわよ!」


「「「薊ちゃん……」」」


 こういう時薊ちゃんのこの思い切った性格は凄いと思うし頼りになると感じる。ただ薊ちゃんが百合を説得しようとしても説得出来るとは思えないけど……。


 ただ出来るかどうかはともかくこの物怖じせず自信に溢れた態度は皆を引っ張るのには必要なものだろう。皆が皆自信がなさそうにしていたら出来る物も本当に出来なくなる。出来ないと思っていてもこうして出来ると言って皆を鼓舞するというのは大きな意味があるだろう。


「確かにまだ本人に言ってもいないのに私達だけで話し合っていても仕方がありませんね」


「そーだねー!当たって砕けろだー!」


「譲葉ちゃん……、砕けちゃ駄目でしょ……」


「「「あははっ!」」」


 うんうん。皆の表情にも笑顔が戻ってきた。こういう時に皆を勇気付けるのはやっぱり思い切りが良くて自信に溢れている薊ちゃんの一言なんだな。




  ~~~~~~~




 午前中にある程度打ち合わせをした俺達は昼食後に百合を呼び出していた。本当に説得出来るかは分からないけど一応出来るだけのことはしてみよう。そもそも本来ゲームなら百合は普通に一学年下として通っている。ゲーム世界でそれが出来ているのにこちらの世界で出来ないはずがない。


「お~っほっほっほっ!わたくしが来て差し上げましたわよ!」


「御機嫌よう百合ちゃん。わざわざ呼び出してごめんなさい」


「本当ですよまったく!百合様をこんな場所に呼び出して一体どんないやらしいことをするつもりだったんですか!」


「え~……、御機嫌よう躑躅ちゃん……」


 躑躅なりの冗談だとは思うけど躑躅は一体俺達のことを何だと思っているんだ。……いや、待てよ?もしかして躑躅は俺の秘密に気付いている?


 そうだよ……。今まで躑躅は俺に妙な突っかかり方をしていた。その理由が俺の秘密……、つまり俺の中身が男だと知っていたからだとすれば色々と説明がつくじゃないか!?


 俺は中身が男だ。だからグループの子達や百合や躑躅のことを異性として意識してしまう。そういう目で見ることもあるだろう。躑躅がそれを感じ取っていたのだとしたら俺が百合に何かするとか、いやらしい目で見ていると度々言っていたのも全て説明がつく。


 躑躅は俺の中身が男だと知っている!?


「咲耶ちゃんがいやらしい目で見てるんじゃなくて躑躅が咲耶ちゃんと一条様のことをそういう目で見てるんでしょ……」


「あぁっ!皐月お姉ちゃんにそんな蔑んだ目で見られるなんて!あはぁん!」


 何故か躑躅は急にビックンビックンしていた。良く分からないけど分からない方が良いことのような気がする。なので分からないことは分からないままにしておいて話を進める。


「え~……、それで百合ちゃんの進学についてのお話なのですが……」


「わたくしは咲耶お姉様と一緒にキャンパスライフを送るんですわ!」


 あ~……。もう何も言う前から警戒されているな……。五北会サロンで朝顔に言われてから百合はもう意固地になってしまっている。この話題が出るだけでこうして聞く耳も持たずにプイと顔を背けられてしまうからどうしようもない。


「そうです!百合様は私と一緒に大学に行くんです!どうしてそれを邪魔しようとするんですか!」


「躑躅は黙っていなさい。これは一条様のためでもあるんですよ」


「はぅっ!皐月お姉ちゃんに叱られて……、アハァ~ン!!!」


 躑躅はまたビクンビクンしていた。とりあえず誰も躑躅の様子を見て心配もしていないしスルーしているので俺もスルーしておく。


「あのね百合!あんたは本来一学年下なの!高等科では別の学年の教室に居ても出席扱いにしてもらえてただけでもう一年間高等科に通うのが当然なのよ!」


 薊ちゃんにしては珍しく正論だ。まさにド正論で反論のしようもない。でもそんな正論が通用するのなら最初からこうはなっていないんだよなぁ……。


「そんなこと知りませんわ!わたくしは三年生の内容まで履修いたしましたわ!ですからわたくしは高等科を卒業して大学に進む権利があるのですわ!」


 ほらね……。そんな正論での説得なんてもうとっくに皆がしただろう。それで聞いてくれるのならこんな問題にはなっていない。それでどうにもならないからこうなっているんだ。


 でもそれは置いておいて薊ちゃんはこの土日でちゃんと考えて正論に辿り着いてくれた。そのことだけでも収穫だったと思う。いつもの薊ちゃんなら理由とか説得とかなく、とにかくもう一年間高等科生として残れとか言い張るだけで相手にそれを強要するだけだっただろう。それをちゃんとしっかりした正論で注意出来ただけでも薊ちゃんは凄く成長したと思う。


「ここは私の出番のようですね……」


「蓮華ちゃん?何か秘策が?」


「ふっふっふっ。お任せください!」


「「「おおっ!?」」」


 何か知らないけど蓮華ちゃんが自信満々だ。この土日の間に何かよほど凄い説得方法でも思いついたのかもしれない。これは期待出来るか?


「一条様!一条様は咲耶ちゃんのことが大好きですよね?」


「もちろんですわ!」


「でも咲耶ちゃんの周りには大勢のライバルがいますよ?そのライバル達と同じことをしていても自分が咲耶ちゃんを手に入れられるはずありませんよね?」


「そんなことありませんわ!わたくしはそこらの有象無象とは違いましてよ!ですのでわたくしが咲耶お姉様に寄り添えば咲耶お姉様はわたくしのものになってくださりますわ!」


 何の話をしているのか分からない。一見今回の進学の件と無関係な話をしているようにも聞こえる。でも蓮華ちゃんは自信がありそうだった。ここでどう持っていくつもりか知らない俺が余計な口を挟むべきではないと思って見守る。


「でも自分だけが特別になれる方法があればしたいですよね?」


「そっ……、そうですわね。お聞きして差し上げてもよろしいですわよ?」


 お?お?何か知らないけど百合が蓮華ちゃんの話に耳を傾けようとしている。これはもしかしてうまくいくのか?


「それではお教えしましょう!他の皆と同じことをしていても同列にはなれても特別にはなれません!だから一人だけ違う科になるんです!そうすることで咲耶ちゃんにとって一条様は特別な存在になるんです!」


「わたくし知っておりますの!そういうのは負けヒロインと言うのですわ!主人公と別の進学先を選んで特別感を出そうとしたヒロインは悉く失敗してフラれるのですわ!!!」


「ガガーンッ!?負けヒロイン……。確かに……。その手のキャラは大体負けヒロインですね!」


 いやいや、蓮華ちゃん?君が言い負かされてショックを受けてどうするんだ?


「他の方も決まりを守っておられるわけですし、この国では飛び級はなく年齢で通う学年が決まっているので……」


「前例など覆せば良いのですわ!飛び級がないのなら作れば良いのですわ!」


「皆さんにご迷惑がかかるので……」


「わたくしの卒業を認めて大学に進学させれば万事解決ですわ!」


「「「駄目か……」」」


 薊ちゃんや蓮華ちゃんに続いて皆で土日の間に考えた説得を試みた。でもまったく手応えがない。せめて少しでも考えさせられたり、思う所があれば良いんだけど取り付く島もない。これでは説得なんて不可能だろう。まぁ最初からそう簡単に出来るとは思っていなかったけど……。


「もう良いですわね!わたくしは今年度で卒業して咲耶お姉様と一緒に大学に進んでキャンパスライフを謳歌するのですわ!」


「はぁ……」


 仕方がない……。この手だけは使いたくなかったけど止むを得ない。最後の手段を取らせてもらおう。これで説得出来なければもう俺達の手には負えない。


「百合ちゃん!」


「ひゃいっ!?」


 急に大きな声で名前を呼ぶと百合は飛び上がっていた。そして恐る恐る俺の方を見る。その目には親に叱られた子供のような恐怖が宿っていた。


「百合ちゃん一人のわがままによって大勢の方が迷惑をして苦労しているのです。それが分からないわけではありませんよね?」


「それは……」


 百合はしどろもどろになって視線を彷徨わせた。この態度や歯切れの悪さからして自覚はあるんだろう。それでもわがままを通したいという気持ちと、今まで一条家のご令嬢としてある程度のわがままは通ってしまっていたので今回もいけると思ってしまっているに違いない。


「自分のわがままや願望のためだけに他の人に迷惑をかける行為は最低です。百合ちゃんだってそれは分かっているのですよね?まさか分からないなどとは言われませんよね?」


「はぃ……」


 俺に叱られているかのようになっている百合はシュンとしながらそう答えた。そう、百合だって分かっている。分からずにわがままを言っているわけじゃない。そしてだからこそ余計に性質が悪い。自分ならわがままを通せると思っているからわがままを言い張って通そうとしている。


「そんな人に迷惑をかけても自分のわがままを通したいと思うような子のことは嫌いになります!」


「びぇっ!?ざぐやおねえざまぁ~~~っ!いやですわ~!嫌いにならないでくださいまし~~~っ!びえぇぇぇっ!!!」


 俺の一言で泣き出した百合は鼻水をズビズビ俺の制服に押し付けながら抱きついてきた。そこでそっと言い方を緩めて頭を撫でてあげる。


「ではどうすれば良いかわかりますね?」


「うぅ~~~……」


 百合も本当は分かっている。でもその決断が出来ない。人と離れるのは怖いよな。それがどんなに親しい人でも離れてしまったら疎遠になってしまうんじゃないかと思って不安になる。それは俺も同じだ。ひまりちゃんは外部の大学に進学してしまう。ひまりちゃんに学費を払うから藤花学園大学に通って欲しいとお願いしたい。でもそれは駄目だ。


「例え科が別になって少し離れてしまっても百合ちゃんのことを忘れたりはしませんよ。ですから安心してください」


「はぃ……。ずびっ……。もう一年高等科に通いますわ……」


 ようやく百合はその一言を言ってくれた。


「さすが咲耶様です!」


「咲耶ちゃんのお叱りと嫌いになるって言葉は効果絶大ですね」


「でも頻発は出来ませんからここぞという時の頼みですね」


 一応百合は説得出来たと思う。そして俺が言った言葉も本心だ。少しくらい物理的に離れることになっても皆との絆は変わらない。そのはずだ。例えひまりちゃんと別の大学に通うことになっても……、俺達がそのことを忘れない限りは物理的に少し離れたって……。そうだよな?



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― 新着の感想 ―
[一言] 百合ちゃん説得大会、当たって砕こうの精神 蓮華ちゃんの秘策、負けヒロイン概念に敗れる。出番がフェードアウトしたヒロインは、そうなるね・・・ 咲耶様の「ワガママ言う子はママ嫌いですよ」攻撃!効…
[良い点] 咲耶様の必殺!嫌いになる!  この説得はさすがに百合ちゃんでも断れないよね。
[一言] 何とか説得完了!
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