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第千三百五十四話「泊まる時くらい事前連絡しよう」


 ふぅ……。土曜の習い事も終わって帰ってきましたよっと……。


「ただいま戻りました」


「おかえりなさいまし!咲耶お姉様!」


「え~……」


 午後の習い事も終わって家に帰ってきた俺は玄関で立ち尽くすことになった。何しろ玄関を開けたら本来居るはずのない人達が大勢立っていたからだ。


「オーッ!サクヤー!おかえりデース!」


「おかえりなさい咲耶」


「えっと……、おかえりなさい?九条様」


「突然お邪魔してすみません!」


「私は別に興味なかったんですけど百合様と皐月お姉ちゃんがどうしてもって言うから来ただけですから!」


「おかえりなさい咲耶ちゃん」


 玄関には何故か百合、デイジー、ガーベラ、それからひまりちゃんとりんちゃんに躑躅と皐月ちゃんまでこちらに来ていた。一体どういう組み合わせなのか分からない。いや、ひまりちゃんとりんちゃん以外は大体分かる。百合の知り合いを集めて、躑躅を誘ったら躑躅がどうしても皐月ちゃんも一緒にとでも言ったんだろう。問題なのは何故この面子にひまりちゃんとりんちゃんが混ざっているのかということだ。


「どういう組み合わせなのでしょうか?」


「リリーがサクヤーの家に泊まりに行くから誘ってくれましター!」


 まぁそうだろうな。デイジーとガーベラは聞かなくても分かるよ。百合が誘える相手なんて躑躅か朝顔、デイジーかガーベラくらいしかいないもんな。躑躅は九条家の離れで暮らしてるから、そうなると他に誘える相手って朝顔かデイジー、ガーベラしかいない。


「それでどうせなら他の友達も誘おうってなったんだけど、私達の同じクラスの友達ってひまりと花梨しかいないのよ」


「あ~……」


 察した……。百合がデイジーとガーベラに声をかけ、じゃあ他にも誰か誘おうとなった時に……、躑躅はもう九条家の離れに居るから事前に誘う必要はない。こちらに到着してから伝えれば済む。朝顔に連絡したのかどうかは知らないけどその二人を誘えばもうお終いだ。他に友達らしい友達はいない。


 どうにか他に誰かいないかと考えてみれば、クラスで少しでも親しい相手と言えば精々ひまりちゃんとりんちゃんしかいなかったと……。それはそれでどうなんだと思わなくもないけど、とにかく百合やデイジー達に巻き込まれてひまりちゃんとりんちゃんも強引に駆り出されてしまったということだろう。


「って、えっ!?お泊りされにきたのですか!?」


「そうですわ!本当はわたくしも躑躅と同じように咲耶お姉様と一緒に暮らしたかったのですけれど、それはまだ早いとお父様が言われて中々許可されませんの!ですのでそれならばお泊りなら良いでしょうとお父様にお願いしたら許可していただけましたのよ!お~っほっほっほっ!」


 いや……、うちは許可してないんですけど?っていうかそもそも初耳なんですけど?実道が許可したとしても相手の家に許可を取らなきゃ意味ないですよね?それなのに押しかけてきたんですか?押しかけてきたんでしょうね……。


「百合ちゃん……、百合ちゃんのお父様が許可されたとしても相手の家に許可を貰わなければなりませんよ?」


「そうですわね!それでは今日お泊りさせていただきますわね!」


「はぁ……」


 駄目だこりゃ……。分かってないのか、分かっていてやっているのかは知らないけど……、誰だよ!百合にこんな教育を施してこんな子にしちゃった奴は!


「さすが百合様です!」


 君だよ君!君が教育係とお目付け役だよね?朝顔も同罪だとしても躑躅にも責任はあると俺は思うんですけど!


「咲耶ちゃんも苦労が絶えませんね。今日は私もこちらで一緒に過ごしますから頑張りましょうね」


「そうですね……」


 皐月ちゃんがそう言ってくれたので少しだけ気が楽になった。皐月ちゃんも躑躅に巻き込まれただけだろうしお互いに苦労するなと視線で語り合う。


「すみません九条様!まさか一条様が九条様に許可も取られていなかったなんて知らずに来てしまいました!」


「私達は帰りますから!」


「いえいえ。大丈夫ですよ。こうなってはもう何人でも同じですから。それにお二人は百合ちゃんに強引に誘われたのでしょう?断れない立場でしょうし騙されたも同然ですのでお二人に責任はありませんよ」


 友達に誘われて他の友達の家に行ったら、まさか誘ってくれた友達が行き先の相手に何も確認していなかったなんて思いも寄らないだろう。そのことに二人が責任を感じる必要はない。そしてもうそこそこ良い時間なのに今更二人を帰らせるというのも酷だ。何より百合やデイジー達は帰る気がない。どうせもう百合達が泊まるのなら二人が増えても大差ない。


「それでは私は一度部屋に下がらせていただきますね」


「お~っほっほっほっ!もちろんわたくし達もご一緒いたしますわ!」


 いや、何でだよ……。習い事から帰ってきたばかりだから俺は一度下がって荷物を片付けて着替えようと思っているだけだ。それなのに何故百合達がついてくるのか意味がわからない。


「さぁさ!まいりますわよ!お~っほっほっけほっ!けほっ!」


「咽ている百合様も素敵です!」


「いや……、あの……」


 ガッチリ百合達に掴まれた俺はそのまま部屋へと連れ込まれてしまった。いや……、これでどうしろと?まさかまた前みたいに皆が見ている前で俺に着替えろとでも言うのか?


「あっ……」


「…………」


 俺の部屋に押し入ってきたメンバー達に囲まれているとふと視線を感じた。扉の方を見てみれば部屋の入り口から睡蓮がじーっとこちらを見ていた。


「えっと……、睡蓮ちゃんも……」


「ご遠慮しますぅ~~~っ!」


「あっ……」


 まだ言ってないのに睡蓮は脱兎の如く逃げ出した。睡蓮は鬼灯に近いタイプかなと思う時はある。でも鬼灯と致命的に違う部分があるのははっきり分かる。睡蓮は同性愛者で女性が好きなわけじゃない。睡蓮が好きなのは甘えさせてくれるお姉さんだ。


 睡蓮は鬼灯のように性的な意味や恋愛的に女性が好きなわけじゃないように思う。もちろんそういう意味でも女性を見ている可能性はあるけど、睡蓮にとって何よりも重要なのはその相手が甘えさせてくれるお姉さんかどうかだ。だから茅さんとか朝顔とか甘やかしてくれる年上女性にばかり懐いている。


 単純に年上女性なら良いというわけでもなく、例え年上女性であろうとも椛のように甘えさせてくれない相手にはあまり懐いていない。もちろんまったく懐いていないわけじゃないだろうけど茅さんや朝顔に比べて、椛とか杏とか菖蒲先生への懐き方は軽いものだと思う。


 翻ってこのメンバーはどうだ?果たしてこのメンバーの中に甘えさせてくれるお姉さんタイプがいるだろうか?


 この中で一番甘えさせてくれそうというかお姉さんタイプなのはひまりちゃんだろう。ひまりちゃんは実際に弟妹達の面倒を見ていたお姉さんだ。だからそういう意味ではしっかりしたお姉さんなんだろうけど睡蓮の好みというかタイプではないと思う。


 ひまりちゃんはしっかり者のお姉さんではあるけど引っ込み思案だし、面倒は見てくれるだろうけどただ甘やかしてくれるタイプとも違う。家があまり裕福ではなく苦労していたひまりちゃんは弟妹達の面倒は見ていただろうけどただ甘やかすだけの茅さんや朝顔とは違うタイプのはずだ。


 さて……、残されたメンバーの中で他に睡蓮の好みというかタイプというか、甘えさせてくれるお姉さんがいるだろうか?いるわけがない。


 りんちゃんもそこそこしっかりしていてちゃんとしたお姉さんにはなってくれそうだと思う。でも睡蓮が求めるお姉さん像とは違う。ましてや百合とか躑躅とか……、デイジーとかガーベラとか絶対駄目だろう。


 今日は皐月ちゃんも居るから皐月ちゃんもしっかり者のお姉さんになってくれそうな気はする。でも皐月ちゃんもしっかり者すぎて睡蓮が求めるお姉さん像とはかけ離れていると思う。だから離れに住んでいる皐月ちゃんともそれほど親しくないし用がなければ絡まない。睡蓮の求めるタイプの相手ではないことは明白だ。


 いつも茅さんや朝顔が来たら呼ばれてなくてもやってきて一緒に居る睡蓮があれだけ一目散に逃げて行った。それが全ての答えだろうな……。


「さぁ咲耶お姉様!お着替えいたしましょう!わたくしが手伝って差し上げますわ!」


「百合様がそのような雑事をされることはありません!私が九条様をひん剥きます!」


「サクヤー!覚悟するデース!」


「ふっふっふー!」


「ヒェェ~~~ッ!!!」


 睡蓮のことなんて考えて現実逃避していた俺だったけど……、結局百合達にオモチャにされながら着替える羽目になったのだった。




  ~~~~~~~




 意味もなくファッションショーのようにいくつもの衣装に着替えさせられた俺だけど何とか生きている。皆も俺の着せ替えに満足したのか、それとも飽きただけなのか、はたまたお風呂の時間になったから解放されただけなのか。何にしろとにかく一応解放されてお風呂になったんだけど……。


「え~……、まさか皆さんもご一緒にお風呂に入られるおつもりなのでしょうか?」


「お~っほっほっほっ!もちろんですわ!」


「すみません九条様……。着替えまで用意していただいて……」


「何も用意する暇もなく家からそのまま連れてこられたので……」


「いいえ。ひまりちゃんとりんちゃんのせいではありませんから」


 百合達はほとんど何も持ってきていなかった。少なくとも百合とデイジーとガーベラは泊まりに来るつもりだったはずだ。それなのに自分達の物を何一つ用意せず着の身着のままやってきた。それに比べてひまりちゃんとりんちゃんはいきなり家や寮に押しかけられて拉致同然で連れてこられたらしい。それでは何も用意出来ていないのも仕方がない。


 幸い……、と言って良いのかは分からないけど九条家には色々と備えがある。俺の用品も未使用の予備があるし、突然の来客用にホテルのアメニティ程度は常備されている。最悪の場合は家人やメイド達のために用意されている物もあるので数が足りないということはまず有り得ない。


 ただ問題があるとしたら下着だろう。歯ブラシとかタオルは未使用新品があるし、着替えもパジャマくらいなら新品がある。パジャマとかなら多少サイズが違ってもどうにかなるし、基本的なサイズは取り揃えてあるから余程特殊な体型でもなければ大体はどれかが入る。でも下着だけはそうはいかない


 とりあえず手足や首が通って着られれば良いパジャマなどと違って下着はとりあえず穿けば良いというものじゃない。サイズが違う物を無理に着用していれば色々と不都合や不具合が出てしまうものだ。俺のブラが合いそうなのは譲葉ちゃんくらいだろうけど、その譲葉ちゃんだって俺とはサイズも形も違うだろうしな。


「下着はこういった物しかなく……、一晩だけですがこれでも大丈夫でしょうか?」


「はい!十分です!」


「ありがとうございます九条様!」


 アンダーからカップまでぴったり綺麗にフィットするものはそれぞれ専用に作るしかない。ひまりちゃんやりんちゃん専用のブラなど用意しているはずもなく、むしろそんな物があれば俺が変態だと思われてしまう。仕方がないのでS、M、Lのように大まかなサイズで用意されている伸縮性に優れた下着を着用してもらうしかない。


「お~っほっほっほっ!何をしておられるのですわ!咲耶お姉様!早くお風呂に入りますわよ!お~っほっほっほっ!」


「百合ちゃん……、少しくらい隠しましょう……」


 一瞬にして素っ裸になった百合は腰に手を当てて胸を反らせながら高笑いしていた。どうして薊ちゃんとか百合とかこの手のタイプはこうなんだろうか……。女の子なんだからせめてタオルくらい巻いて体を隠そうよ……。


 でも前世男だった俺の感覚からすると男の方がタオルを巻いて隠す傾向が強い気がする。女性って案外あまり気にせずタオルも巻かずに丸出しタイプが多い。もちろん異性がいる場ではお互いに隠すだろうけど、同性しかいないお風呂とか温泉の場合の話だ。


 学園からも含めて旅行などに行った時、こちらの世界で女性はあまり隠さない子が多かったような気がする。それに比べて前世の男だった時は隠す奴が多かった。性差なのか、たまたまなのかは分からないけど、少なくとも俺の二度の人生経験と両方の性別を見た感想としてはそんな気がする。


「サクヤー!腹筋バキバキデース!」


「そういうデイジーさんもではありませんか」


 デイジーもガーベラもタオルなんて巻かずに裸のまま堂々としている。こんな空気で自分だけ隠そうとしたら余計に恥ずかしい。まぁ俺は日頃から椛と一緒にお風呂に入って背中を流されているのでタオルなんて巻かないけど。俺の腹筋をツンツンしてくるデイジーに俺もやり返して腹筋を触る。デイジーの腹筋はバキバキだ。やっぱり人種の差かなぁ。


「腹筋が割れてれば良いってものじゃないのよ!女の子はやっぱり柔らかさも必要なの!負け惜しみじゃないわ!」


「ガーベラさん……」


 ガーベラはちょっとプニプニだ。もちろん太っているわけじゃない。でも筋肉がありそうにも見えない。そんなガーベラの女の子らしい体を見ていると変な気分になってしまう。だからもうあまり意識しないようにしながら浴室へと向かうことにした。



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― 新着の感想 ―
[一言] 百合ちゃんズサプライズお泊まり会が発動されてしまった。 学校のクラス限定だから、朝顔や茅さんはいないのか 咲耶様の脳内でダダ甘やかし系お姉ちゃん選手権が発動されてしまった。まぁ、朝顔と茅さん…
[一言] 男の方がタオルを巻いて隠す傾向が強い気がする ···そら穢らわしい「(男の「アレ」)」何ぞ見たく無かろうてWWW(···例外位は在りそうだが)
[一言] い つ も の ( ˘ω˘ )
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