第千二百七十五話「果敢に攻めるか安定を望むか」
藤寮、花寮の前に集まっていた向日葵と花梨、鬼灯と鈴蘭の四人は九条家から来るはずの迎えを待っていた。
「それにしても何か最近の藤原さんってグイグイ行くね?」
「……ん。ここ最近で急に変わりすぎ」
「えっと……、そうでしょうか?」
鬼灯と鈴蘭の言葉に向日葵はそう言ったが本人にも自覚がある。むしろ本人が覚悟を決めたからこそ最近は九条様に対しても遠慮せず積極的に迫っているのだ。それを本人が気付いていないはずなどない。ただはっきりそう言うのは憚られたので向日葵は言葉を濁した。しかし伝えるべきことは伝える。
「そう……、かもしれません。あのまま遠慮して遠くから見て憧れているだけではきっと後悔する。それが分かったから……」
「「「…………」」」
向日葵の言葉に花梨も鬼灯達も目を瞑って何事かを考え込み始めた。向日葵の言っていることは正しい。四人はそれぞれ立場が違うがそれでも似ている部分がある。それは他のメンバー達と違って九条様、咲耶との距離が遠く関係が薄いことだ。
堂上家の面々はもちろん、地下家や一般生徒だと言っていても初等科の頃から九条様とご一緒されている方々はその付き合いの長さもあってかとても親しくされている。もっと言えばそもそも地下家だと一言で言っても地下家内にだって当然家格差はある。
中央で大派閥に所属している直属の地下家と、地方で細々とやっている無派閥や、一応どこかの派閥には入っていてもそれほど親しくない地下家では立場も家格も大きな差があるのは当然だった。ましてや初期の頃から九条様と親しくして咲耶様派閥に入られていた方ならばその信頼関係は中等科や高等科から親しくなった者とでは年季が違う。
まったく貴族社会に縁のなかった向日葵だけではない。花梨も、鬼灯も、鈴蘭も、地下家のご令嬢とは言っても九条様との関係など極最近たまたま出来ただけのものだ。表向きはあまり遠慮していないように振る舞っている鬼灯や鈴蘭ですら内心では遠慮しているし距離も感じていた。向日葵はその遠慮を止めて距離を詰めようとしている。
向日葵がこのままでは後悔する、遠慮している場合ではないと思うようになった直接的な原因は百合かもしれない。百合のことばかり心配されている九条様を見せ付けられて嫉妬したというのも間違いではないだろう。だが単純に嫉妬したとかそんなことだけではない。
百合が望まぬ婚約、結婚をさせられそうになっていると聞いた時、貴族社会ではそういったことが当たり前のように行われているのだとようやく実感を持って理解出来た。今までは何となく言葉で聞いてはいても、地下家ですらない一般家庭で育った向日葵にはどこか遠い世界の話のようで実感がなかった。
だが身近に、あれだけ親しくして関わっていた一条百合様という人がそういう状況になって初めてようやくそれがどういうことなのか理解出来たのだ。
九条様のご両親、ご家族は九条様にそういうことを強要するような人達ではないと思う。しかし九条様だっていつ貴族のならいで政略結婚しなければならない状況になるかも分からない。もしこのまま自分が何もせずただ遠くから眺めて憧れているだけのまま終わってしまったら……、それを思うともう居ても立ってもいられなかった。
「よっしゃ!それじゃ私らも頑張るとしようか!」
「……ん」
「そう……、ですね。そうですね!」
「皆さん……」
向日葵の言葉に鬼灯も鈴蘭も、花梨でさえも前向きな感情になって力強く頷いた。そんな話をしている間に約束の時間になったらしく九条家の車がやってきた。
「皆様お揃いですね。それでは九条家へご案内いたします」
「「「「はいっ!」」」」
「…………」
気合の入った四人に対して椛は一瞬目を丸くしたがどこか優しげな表情を浮かべて車へと四人を案内したのだった。
~~~~~~~
玄関で九条様を出迎えた四人は着替えに戻ると言った九条様について私室まで乗り込んでいった。ここで逃がすほど鬼灯も鈴蘭も甘くはない。
着替えのために服を脱いだ九条様の体はまさに芸術品と呼ぶに相応しいものだった。一体どれほどの研鑚を積めばこれほど理想的なボディになるというのか。
もちろん胸が大きくなるかどうかなどは生まれつきの部分もあるだろう。どう頑張っても胸が小さい人は小さく、大きくなる人は放っておいても勝手に大きくなるのかもしれない。そういった天賦の部分もあるが九条様の場合はそれだけではないのだ。
引き締まったお腹。鍛え抜かれた手足。普通なら女性としては鍛えすぎればあまり好印象に思われないこともある。しかし九条様のそれは絶妙なバランスで完璧なボディとして仕上がっている。確かにある程度筋肉質で引き締まっているが女性としての柔らかさや丸みも失っていない。まさに神が生み出した至高の芸術品のようだった。
部屋で散々着替えを覗いたり、その体を触って確かめた後、泊まりに来たメンバー全員で一緒にお風呂に入ることになった。着替えの時も見えそうで見えない、脱がないことによる良さはあった。しかしこうして脱いでいる姿を見てみればそれは……。
「咲耶っちはやっぱり生えてないんだね~」
「……ん。私よりお子ちゃま」
鬼灯と鈴蘭の言う通り、九条様は生えていない。剃っているわけではない。明らかに剃り跡もなく綺麗にツルツルなのだ。そういう体質の人もいるのかもしれないがここまで綺麗にツルツルなのは九条様以外に見たことがない。
「見惚れてしまいます……」
「あれだけ大きいのにツンと上を向くほど張っていて凄いです。私なんて少し垂れて……、うぅ……」
そしてツンと上を向いた胸の張りが凄い。あれだけ大きいというのに垂れることなく、むしろ重力に逆らって有り得ないと思うくらいにツンと上を向いている。
「吉田さんも大きくて素敵だと思いますよ」
「ありがとうございます藤原さん……。でも良いんです……。どうせ私なんて垂れる運命なんです……」
確かに花梨は少し開いて垂れている。ややぽっちゃりしている花梨は胸も大きい。ぽっちゃりしているのに胸の小さい女性もいるのでぽっちゃりと胸の大きさは必ずしもイコールではないだろう。しかし花梨はぽっちゃりで胸も大きめだった。ただ難点は垂れていて離れていることだ。
もちろん本人がコンプレックスに思っているほど人から見て変だというほどではない。だがそれを気にしている本人からすると自分の胸は変ではないかと思ってしまう。ましてやすぐ隣に理想の見本のような胸があるのだ。どうしても自分と比べてしまう。
ただ咲耶の場合はその理想的とも言える形になるために非常に鍛えられている。クーパー靭帯を傷つけないようにしてきたために垂れていないというのもあるが、大胸筋、小胸筋などを鍛えて引き締めている効果も大きい。姿勢が正しく、あちこちの筋肉で引き締められているからこそのものだった。
そんな花梨のコンプレックスも流されて浴場へと入った。そこで鬼灯達が早速攻勢に出る。
「それじゃ背中の流しっこでもしようか」
「えっ!?それは……」
「……ん。嫌とは言わせない。昨日他の人達としたことは把握してる」
「私達だけ駄目だなんて言われませんよね?」
「うぅ……」
鬼灯と鈴蘭に加勢して向日葵もにっこり笑顔でそう迫った。向日葵はもう遠慮しないのだ。このまま遠慮していては高等科卒業と共に九条様とも離れ離れになってそれっきりになってしまう。それくらいは向日葵にも分かる。
いくら九条様達が卒業しても友達でいましょうと言ってくださっていたとしても、実際に別々の大学に進学してしまったら接点はなくなり疎遠になるだろう。最初はそれでも良かった。遠くから見ている憧れだった。だが今はもう違う。そんなことでは我慢出来ない。だから遠慮などしている場合ではないのだ。そう決めた向日葵は誰よりも積極的だった。
鬼灯と鈴蘭が背中を流している。そこに割り込むのは難しい。だから向日葵と花梨は頷き合って九条様の前に回った。
「九条様……、私達も……」
「私達は前を洗いましょうか」
「あっ!前は駄目ですよ!駄目ぇ~~~っ!」
九条様の前に回ってその手を取る。自分の手を泡立てて優しくその手を撫でて洗う。それだけで……。
「咲耶っち!」
「……ん!咲にゃん!」
「九条様……」
「ハァ……、ハァ……、九条様~」
九条様に触れているだけでまるで自分の方が攻められているかのような快感が走り抜けていく。どういう理屈なのかは分からない。あるいは好きな人に触れていると誰でもこうなるのかもしれない。ただ九条様の場合はそれで終わりではないのだ。むしろここからが本番だった。
「あっ……」
「「「あっ……」」」
「……ん」
九条様がカクンとされた。その瞬間に全員が気付いた。これは九条様が反転攻勢に出られる直前の静けさだ。こうなったらもう誰にも九条様は止められない。
「ふふっ。『洗いっこ』でしたよね?それでは私も皆さんをお洗いいたしますね」
「「「あああぁぁぁ~~~っ!!!」」」
その後お風呂場からは強烈すぎる快感を叩き込まれて悦んでいるとも泣いているとも聞こえる少女達の嬌声が響いていたのだった。
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お風呂場で気を失っていた向日葵達は椛や柚に救出されて客室で目を覚ました。お風呂場でのことを思い出して濡らしながらも向日葵達は食堂へと向かった。
食堂では九条家の方々と一緒に夕食をいただいた。メニューは少しヘルシー寄りで、日頃から運動していて食事量も多く肉や魚を多く食べている鬼灯には少し物足りないものだった。だが味が悪いということもなく、栄養バランスもとても理想的であり概ね大満足の内容だった。
ただ一つ驚いたのは食事の席で向日葵が咲耶の兄、九条良実に褒められたことだった。良実が言うには藤花学園に通っている生徒でも外部生はあまりマナーなどを積極的に身に付けようとしない生徒が多く、何年通っていてもまるで出来ていない生徒が多かったと言われた。
だが向日葵は高等科から入った一般外部生であるにも関わらず下手な地下家の子女よりもよほど良く出来ていると言われたのだ。向日葵の身近には素晴らしい見本となる人達が大勢居た。その中に居ても恥ずかしくないように向日葵自身も努力してきた。その成果を褒められて向日葵も、協力していた花梨もとてもうれしくなった。
そして……、食事も終わり、部屋で寛ぎながら食休みをして九条様と散々トークを楽しんだ後……、ついに眠る時間になった。
「ふっふっふっ。待っていたよ、この時を」
「……ん。今回こそ……」
「私だって……、負けません!」
「えっと……、私も!」
いつもなら一番遠慮しているのが向日葵だった。しかし今はもう花梨が一番遠慮しているように思える。向日葵は一度積極的に行くと決めたらそれを貫き通す意思と行動力がある。
「それじゃ夜這いに行くよ!」
「「おーっ!」」
「……ん」
四人は抜き足差し足忍び足で咲耶の部屋へと向かった。部屋に侵入しても咲耶はスヤスヤと眠ったままだった。四人は顔を見合わせてにんまりと笑った。
「誰から行く?」
「……ん!」
「じゃあ鈴蘭どうぞ」
一番に手を上げた鈴蘭が咲耶のベッドに潜り込んだ。布団の横を持ち上げてそこに入る。まさに添い寝。言葉通り、文字通り、本当に添い寝を敢行した。
「……ん!」
「「「おおっ!?」」」
布団に潜り込んだ瞬間に体をビクンと跳ねさせて昇天した鈴蘭ではあったが、確かに間違いなく一瞬添い寝を楽しんだ。その顔はとても良い笑顔だった。
「よいしょ……。やるねぇ……。それじゃ次は私でいいかな?」
「「どうぞ」」
鈴蘭を布団から出した残る三人は次の順番を決めた。鬼灯が立候補したので二人も鬼灯に任せて見守った。
「私はこうだ!」
「「えぇっ!?」」
鬼灯は自らベッドに入り込むのではなく、布団から引っ張り出した咲耶の手を抱き締め、股間に挟んだ。胸から股間まで咲耶の腕を挟み抱くようにしてこすり付ける。
「あへっ!」
数秒それで耐えたかと思ったが、一体いつから意識がなかったのか、鬼灯はそのままバタリと倒れそうになった。残された二人は慌てて鬼灯を受け止める。鬼灯が倒れて怪我をしないようにというよりも、咲耶の腕を変な方向に曲げて怪我をさせてしまわないためだ。
「うわぁ……、河村さん……、べちょべちょ……」
「これは完全に駄目ですよね……」
転がした鬼灯はべちょべちょになっていた。それを若干引き攣った顔で見下ろしていた二人だったが最後は自分達の番だ。お互いに顔を見合わせてから頷き合った。
「それじゃ……」
「私達は……」
二人とも何も言うまでもなく通じ合っている。もう自分達が気を失った後に処理をしてくれる人はいない。だから九条様に怪我をさせずに自分達も堪能しつつ綺麗な形で終われるようにしなければならない。
「「せ~のっ!」」
向日葵と花梨は二人同時に咲耶の左右に寝転がった。無理に布団の中に入ったりはしない。ただ布団の上から左右に添い寝しただけだ。じっと九条様の寝顔を見ながら、次第に快感に飲まれて昇天していく意識の中で、向日葵と花梨は満足気に微笑んでいたのだった。




