第千二百七十四話「向日葵達のお泊り会」
今日早速同級生によるお泊り会第一弾が開かれることになった。お昼休みにひまりちゃん達が来ることが決まってからすぐに家には連絡済みだ。普通ならこんなに連続で泊まりに来る人が居たら家族にも迷惑がかかる。だけどうちの家族は特に何か不満や文句を言うこともなく受け入れてくれている。
受け入れてくれた家族に感謝し、食事や客室の準備をしてくれているシェフや家人達にも感謝しつつ、俺も家に帰るまでの予定はなるべくいつも通りに過ごしていく。
いつもよりは早く帰るとかそういうことは注意しているけど、人が来るからといって俺の生活が乱れていては意味がない。あくまで自分の生活は崩さずに習慣や日常は守る。その上で皆を受け入れてお泊り会をしないと続かない。無理をして予定や生活を狂わせるということはどこかに歪みが出る。そうなると何度もお泊り会をするのは難しくなる。
あくまで俺の生活は極力崩さず、家族の生活もいつも通りに出来るように配慮しなければならない。その上で皆を受け入れてお泊り会が出来ないのであれば何回もお泊り会をするわけにはいかない。
「そういうわけですので菖蒲先生、今日も早めにテキストを終わらせて切り上げて帰らせてもらいますね」
「ええ。分かったわ。昨日は突然押しかけることになってごめんなさいね」
「いえ。菖蒲先生のせいではありませんし、茅さん達が来られていた以上はもう後一人や二人増えた所で変わりませんので」
昨日は蕾萌会を完全に休みにしてもらった。でもさすがに今日も蕾萌会を休むというわけにはいかない。あくまでも日常生活はちゃんと守った上でお泊り会をしないと母も許してくれないだろう。
今回のお泊り会はひまりちゃんとりんちゃん、鬼灯と鈴蘭の四人となっている。四組、五組のこの四人は比較的予定が空いているからいつでも暇と言ったら失礼かもしれないけど、大体いつでも空けられるような予定しかない。
今後他の子達も来ることになるだろうからお泊り会はこれから数度は開かれることになるだろう。最終的に何人ずつくらいで何回になるかはわからないけど、俺達の人数などから考えたら一巡するまでだけでもあと三~四回くらいはお泊り会をする必要があるかもしれない。
その度に蕾萌会を休むわけにもいかないし、勉強を遅らせるわけにもいかない。そうなると俺が予定時間より早く勉強内容を終わらせて切り上げていく必要がある。蕾萌会の場合なら一コマ何分という時間よりも、一コマの間にどれだけの内容をしたかの方が重要視される。
長期休暇の時の集中講座で俺達が喫茶店に出て行っていても何も言われないのは、ちゃんと勉強範囲を終わらせていることと、成績という結果をちゃんと出しているからだ。だからお泊り会がある時も蕾萌会の講習には出るけど、内容は前倒しで終わらせて早く帰る。それならどこからも文句は出ない。
「それに菖蒲先生が来てくれてうれしかったです」
「もう!咲耶ちゃんったら!そんなこと言われたらまた行きたくなっちゃうじゃない!」
「ええ。菖蒲先生ならばいつでも大歓迎ですよ」
綺麗なお姉さん講師である菖蒲先生とイチャイチャしながら楽しい時間を過ごす。菖蒲先生の方は同性の生徒に対して軽いコミュニケーションや冗談のつもりで話しているだけだろう。でも俺は中身が男だからこんな会話をしていたらまるで先生と恋人同士でお泊り会をしているような錯覚をしてしまう。
あぁ……、本当に菖蒲先生が俺の恋人で……、家にお泊りに来てくれるような関係だったら最高なのにな。
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百地流の修行と蕾萌会を手早く終わらせていつもより早い時間に戻ってきた。俺が家に帰るともう家に来ていた四人が出迎えてくれた。これは予定通りで俺が習い事に行っている間に椛や柚が四人を迎えに行ってくれる手はずになっていたから驚きはない。
「おかりなさい九条様」
「おっ、おかえりなさい」
「おかえり咲耶っち!」
「……ん。待ってた」
「ただいま戻りました。お待たせして申し訳ありません」
椛や柚達以外の四人からも出迎えを受けて少し照れてしまう。もう家人やメイド達から出迎えを受けるのは慣れているけど、家に帰ったら同級生がいて出迎えてくれるなんて経験は滅多にない。それに慣れているはずもなくどうにもくすぐったいというか照れるというか……。
「それじゃまずはどうする?」
「え~……、皆さんはリビングで待っていていただけますか?私はまず着替えてまいりますので……」
皆はこのまますぐに遊ぼうと思ったのかもしれない。だけど俺はまだ帰ってきたばかりで制服のままだ。せめて一度部屋に戻って着替えなければこのまま遊ぶというわけにもいかない。
「そっか!じゃあこのまま咲耶っちの部屋に行こっか」
「……ん。行く」
「…………え?」
え?
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「~~~~~っ!」
「ほら!咲耶っち!早く脱いで!」
「……ん!脱ぐ!」
「そう言われましても……、こんな……」
帰ってきた俺はそのまま皆と一緒に俺の部屋にやってきた。そして皆に見られている場で俺だけ着替えろと言われてどうしていいかわからず固まってしまった。
「体育とかで着替えるっしょ?それと一緒!一緒!」
「まったく違いますよ……」
体育で着替える時は更衣室で皆一緒に着替えている。だから平気だ。でも今は俺一人だけが皆に見られながら着替えることになっている。一人だけ場違いのように服を脱ぐなんて恥ずかしすぎる。更衣室で体育のために着替えるのとはわけが違う。
「うわぁ……。やっぱり九条様のお体って凄いです……」
「ですよね……。芸術品みたいです」
「ひまりちゃん……、りんちゃん……、あまり見ないでください……」
とはいえいつまでもゴネていても何も変わらない。着替えなければならないことに変わりはなく、そして自室で着替えること自体は何もおかしくはない。人に見られながら着替えるというのは緊張するし照れてしまうけど、それさえ目を瞑れば着替えはすべきだ。
ただひまりちゃんやりんちゃんも含めて四人にがっつり見られていたら恥ずかしくて顔から火が出そうになる。
「この体……、どれだけ鍛えたらこうなるんだろう?」
「……ん。鬼灯より凄い」
「ねぇねぇ咲耶っち!ちょっと腹筋触ってみていい?」
「いや……、あの……、はい……」
本当は断りたい。だけど目を輝かせてそんなことを言ってくる鬼灯のお願いを断ることは出来なかった。そもそも鬼灯は陸上に命を懸けている一本気な女の子だ。腹筋を触って確かめたいというのも当然いやらしい意味ではなく、自分の陸上に活かしたり参考にならないかと思ってのことだ。決して俺が思うようなえっちぃ不純な動機ではない。
「ふぉっ……、ふおおぉぉぉ~~~っ!すごっ!いや、ほんとすごっ!硬った!硬いのに触ってたら気持ち良い!何これ!凄い!手が離せない!」
「あっ!あっ!鬼灯さん……。そんなに撫で回されたら……」
最初は遠慮気味に軽く触っていた鬼灯だったけど段々と大胆に触るようになってきている。あまりお腹やおへそを刺激されるとビクビクと体が反応してしまう。ビクビクしてしまうのも恥ずかしいから止めたいんだけど止められない。
「……ん!鬼灯の変態!触りすぎ!交代!交代!」
「あっ!もう……。仕方ないなぁ……」
「あっ!あっ!鈴蘭さん!そこはちがっ、あぁっ!?」
鬼灯と交代した鈴蘭が脇腹や胸の下を中心に触ってきた。腹筋を確かめるためじゃなかったのか?とはいえ腹斜筋とかもあるからこれも一種の腹筋を確かめているとも言える。むしろ腹直筋よりも鍛えるのも難しく引き締めるのに重要だから、ダイエットとか腰のくびれが欲しい女の子にはこちらの方が興味があるのかもしれない。
「加田さん、交代です」
「九条様……、私達も……」
「あっ!あっ!ひまりちゃん……、りんちゃんまで……」
鈴蘭と交代してひまりちゃんとりんちゃんまで腹筋を確かめに来た。サワサワと触れるか触れないかくらいの触り方が余計にくすぐったくて恥ずかしい。
「何をしているのです!」
「「「「――ッ!?」」」」
突然バンッ!と扉が開いて椛が入って来た。その音に驚いて全員が飛び跳ねそうになっていた。俺も飛び跳ねるようにビクリとしてしまったし……。
「咲耶様!お風呂の用意が出来ております!お入りください!」
「あぁ……、はい。分かりました……」
有無を言わせない椛の迫力に皆も少し静かに言われるがままにしていたのだった。
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どうしてこうなった?
「咲耶っちはやっぱり生えてないんだね~」
「……ん。私よりお子ちゃま」
俺達は今九条家の脱衣所にいる。椛が呼びに来て俺はお風呂に入ることになった。皆が俺の着替えをあまりに妨害してくるから結局お風呂に入るまでに遊びなんてまったく出来なかったんだけど、椛に呼ばれて俺だけお風呂に入る……、かと思いきや四人も一緒に入ることなってしまった。
どうしてこんなことに……。同級生の女の子四人が目の前で服を脱いでいる。そして俺も服を脱いでいる。そりゃ学校行事で泊りがけで出掛けたらこういうこともあるだろう。だけどどうして家に泊まりに来ただけなのに皆で一緒にお風呂に入ることになるというのか。
「見惚れてしまいます……」
「あれだけ大きいのにツンと上を向くほど張っていて凄いです。私なんて少し垂れて……、うぅ……」
「吉田さんも大きくて素敵だと思いますよ」
「ありがとうございます藤原さん……。でも良いんです……。どうせ私なんて垂れる運命なんです……」
うぅ……。女の子同士のそういう会話にはどう反応して良いのか分からない。幸い俺に話題が振られているわけじゃないのであまり聞こえていない振りをしてスルーしておく。女の子同士のガールズトークって凄い……。
「それじゃ背中の流しっこでもしようか」
「えっ!?それは……」
「……ん。嫌とは言わせない。昨日他の人達としたことは把握してる」
「私達だけ駄目だなんて言われませんよね?」
「うぅ……」
最近のひまりちゃんはかなり強引というか、結構グイグイ来るというか……。遠慮がなくなって無礼だというわけじゃない。ただ今まではどこか線を引いて距離があったような所がなくなったように思う。だから要求も素直に伝えてくるし、自分の意見が正しいと思っていたら突き通してくる。
「それじゃ咲耶っちの背中流してあげるね!」
「あっ!鬼灯さん!そんな強引に……、あっ!あっ!」
座らされた俺の背中を鬼灯が洗い始めた。人に背中を洗われるとそれだけで何だかムズムズしてしまう。
「うわっ……。咲耶っちの肌スベスベ……。それに何だか触ってるだけでこっちまで……、んんっ!」
「……ん!鬼灯の変態!交代!交代!」
「あっ!?ちょっ!鈴蘭さん!?」
鬼灯に洗われていたかと思うと途中で鈴蘭が交代だと言って割り込んできた。強引に背中を洗われてまたしても体が勝手にビクンビクンしてしまう。
「九条様……、私達も……」
「私達は前を洗いましょうか」
「あっ!前は駄目ですよ!駄目ぇ~~~っ!」
背中を流されていた俺の前にひまりちゃんとりんちゃんが跪くようにやってきた。そして腕を取って洗い始めた。前まで人に洗われるなんてことはないはずだ。これはいくら何でもおかしい。そう思うのに……、抵抗出来ない!
「咲耶っち!」
「……ん!咲にゃん!」
「九条様……」
「ハァ……、ハァ……、九条様~」
この一種異様な空間に俺はもうどうにかなりそうだった。そして……。
「あっ……」
俺の意識はそこで途切れた。
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「――ッ!…………はれ?」
え?あれ?ここは?
「私の部屋の……、ベッド?」
気が付くと俺は自室のベッドの縁に腰掛けていた。え?
「これはまさか……」
一瞬嫌な考えがよぎった。まさか先ほどまでのは俺の妄想が見せた夢だったのではないか?そんな気がしてしまう。一体いつから夢だったのか。皆が俺の家にお泊り会に来たいなんて言うこと自体がおかしかったのかもしれない。もしかしたら昨晩の出来事からして全て夢だったなんてことは……。
「咲耶様、夕食の準備が出来ておりますがいかがいたしますか?」
「あっ、はい。今参ります」
椛が呼びに来たので食堂へと向かう。
「咲耶っち」
「……ん。咲にゃん」
「九条様……」
「先ほどはすみませんでした」
「皆さん……」
食堂に入ると四人が居た。一瞬じわっと涙が浮かびそうになった。こんな所で泣いたら変に思われるので堪えたけど夢じゃなかったんだ。よかった……。
「それでは食事にいたしましょうか」
「「「はーい」」」
「……ん」
皆がお泊り会に来てくれていることは夢じゃなかった。良かった……。良かった……。




