第千二百二十一話「勉強会メンバー」
昨日のお茶会はあ~ん大会になってしまった。とはいえお茶会自体は楽しかったし大成功だったと言っても良いと思う。主催者がまるでちゃんと出来ていないというのは予想外というか想定外というか、今後の課題ではあるけどまだどうにか出来るうちにそれに気付けたのも良かった。
「御機嫌よう皆さん」
「おはようございます咲耶様!」
「御機嫌よう咲耶ちゃん」
「おはよー!」
今朝は予想通り皆も早く登校してきていた。そしてこちらも予想通りまだ来ていないのは紫苑だけだ。紫苑だけは前日などにイベントがあった翌日でもマイペースを崩さずいつも通りの時間に登校してくる。昨日の話で盛り上がりたいという皆の気持ちも分かるけど、前日何があろうと皆が早く来ていようとマイペースを崩さない紫苑も凄いと思う。
「昨日のお茶会は楽しかったですね!」
「そうですね」
俺が自分の席に着いて荷物を片付けていると皆が集まってきてくれた。薊ちゃんの言葉に同意しながら鞄を下ろして教科書やノートを机に入れる。
「デイジーとガーベラが主催って聞いてどうなることかと思いましたけど、咲耶様が幹事をされていたのでどうにかうまくいきましたよね!」
「う~ん……。私が幹事だったからうまくいったかどうかは分かりませんが……、ロックヘラー様とロスチルド様がこちらの常識に疎かったのは少し予想外でしたね」
俺のお陰でうまくいったなんて言うつもりはないけど、昨日のお茶会を見てみた感想としてはデイジーとガーベラはこちらの国のやり方についてはあまり詳しくないことは分かった。
二人だってそれぞれ自国では大財閥や大資産家のご令嬢なんだから相応の常識くらいは持っているだろう。ただこちらの国とでは色々と違う点があるのは止むを得ない。二人がこちらの常識を知らずに自国式のお茶会やパーティーを開いたら、こちらの国では色々とマナー違反になっているという可能性はある。
「国によって常識ややり方も違いますので……」
「う~ん……。あの二人のは国による違いとかじゃないと思いますけど……」
「だよねー」
「あははっ……」
……やっぱりそうか。俺もそうじゃないかとは思っていた。あまり人を悪く言いたくなかったから国の違いなどと言っていたけど、俺だってもしかして『そもそもあの二人に常識が足りないのでは?』とは考えていたんだ。ただストレートにそう言うとまるで悪口のようにも聞こえてしまうから避けていた。
でも皆の言葉や態度からは『デイジーとガーベラに常識が足りないだけだ』という思いが伝わってくる。俺が間違えていたわけじゃなくて皆もそう思っているのだということが分かってしまう。
「テーブルの分け方も酷いものでしたし!」
「それね!」
「「「あははっ!」」」
うん。皆は気付いていて笑って許してくれたようだ。俺もあのテーブル分けはどうかと思ったし……。
「咲耶ちゃんには次のパーティーまでにお二方にしっかり主催者の心得を伝授してもらわなければなりませんね」
「うぅ……。はい……」
「「「あははっ!」」」
いや、笑い事じゃないんだけど?放っておいてもある程度本人が自力で出来て、分かっていない所や間違えている所だけを指摘すれば良いのならとても簡単な仕事だ。でもそもそもほとんど何も出来ていない相手に全てを教えながらやらせるのは骨が折れる。
分からない所や間違えている所だけ指摘して直す。あるいはまったくまっさらで何も知らない相手に全部説明しながら手本を見せつつ一緒にする。そのどちらかならまだやりやすいと思う。でも大半は滅茶苦茶だけど中途半端に出来て、どこを分かっていなくてどこを直させれば良いのかも分からない相手の間違っている部分を探しつつやらせるのは本当に面倒臭い。
「私達が楽しくパーティー出来るかどうかは咲耶ちゃんにかかっていますから!」
「そうプレッシャーをかけないでください……」
はぁ……。何かパーティーのことを考えるだけで頭が痛くなってくるような気がする。
~~~~~~~
お昼休みに食堂に並んでいると四組と五組のメンバーもやってきた。
「咲耶っち!」
「……ん。咲にゃん」
「御機嫌よう鬼灯さん、鈴蘭さん」
四組の二人はいつも通り。そして……。
「ごっ、御機嫌よう九条様」
「御機嫌よう九条様」
ひまりちゃんとりんちゃん。ここまではいつもと変わらない。問題なのはここからだ。
「お~っほっほっほっ!わたくしが来て差し上げましたわよ!九条咲耶!」
「御機嫌よう……。本当は私は来たくなかったんですけど百合様が来られたから仕方なく来ただけですから!」
「オーッ!サクヤー!昨日は楽しかったデース!」
「こんにちは咲耶」
「御機嫌よう、一条様、西園寺様、ロックヘラー様、ロスチルド様」
何故が当たり前のように五組の四人がいる。この四人が食堂に来ているなんて珍しい……、とも言えなくなってきたな……。何か最近は当たり前のように一緒に居ることが増えたように思う。
今回もたまたまいつも俺達が座っている席の近くの席が四つ空いていたので全員で座ることが出来た。いつも結構ギリギリまで混雑しているのに運が良いことだ。
「それにしてもこの国のお茶会では幹事があ~んして回るのね」
「ロスチルド様……、それは違うと何度もご説明したでありませんか……」
ガーベラが俺をからかっているということは分かっている。でもちゃんと否定しておかないと素直にそれを信じてしまいそうな子達が居るからな……。百合とかデイジーはガーベラがそう言っていたら本当にそれを信じてしまいかねない。
「パーティーの幹事もサクヤーに頼むでゴザルー!」
「え~……、まぁ……、最低限のサポートはいたしますがあくまでロックヘラー様とロスチルド様が主催者としてのお仕事を覚えるためにですよ?」
「わかってマース!助かりマース!」
う~ん……。本当に分かってるのかな?お茶会の時みたいに丸投げでほとんど何もしてないみたいな状況にならなければ良いけど……。
お茶会の時も別に二人が完全に何もしていなかったというわけじゃない。お茶やお茶請けの用意は二人がしてくれていた。用意と言っても恐らく家人にお茶とお茶請けを当日に用意しておくように指示しただけなんだろうけど、ロックヘラー家とロスチルド家が用意していたのは確かだ。
テーブル分けも雑ではあったけど一応はしていたし何もしていないということはない。だけどちゃんと主催者としての義務や務めを果たしていたかと言われたら疑問となる。幹事として俺が説明しながら教えてあげなければならなかったと言われたらそうなのかもしれないけど、デイジーとガーベラに振った仕事が出来ないのならばそう言って欲しかった。分からない所があるのなら聞いて欲しかった。
こちらからお節介をして一から十まで全部説明するというわけにもいかないし、仕事を頼んで『わかった』、『任せろ』と答えたのならそれを信じてしまうものだ。まさかそれが分かってなかったとか、知らないことだとは思わないだろう。
「九条咲耶!あ~んさせてあげますわ!あ~ん!」
「一条様……、駄目ですよ。あの時はあの時だけのことです。このような場でいつもいつもそのようなことをするものではありません」
百合がまたあ~んしてくれと口を開けて迫ってきた。でもそう毎回毎回こんな場でしてあげるわけにはいかない。お茶会の時とかは他に人もいない場だったし、一人にしてしまった以上は他の子を断るわけにもいかなかった。だけどこんな場で意味もなくするようなことじゃない。
「うぇ……、うえぇぇぇ~~~っ!咲耶お姉様ぁ~~~っ!」
「はぁ……。泣いても駄目です。泣けば何でも思い通りになるわけではありませんよ」
「びぇぇぇぇ~~~~~っ!!!」
何だか最近の百合は泣けば何でも思い通りになると思っているんじゃないかと思う。泣き喚くから静かにさせるために『この程度のことならこちらが折れてあげた方が早い』と思って折れてしまうことが多いからだろう。その成功体験から『泣き喚けば要求が通る』と思ってしまうようになる。
このまま百合が『泣き喚けば皆言う事を聞いてくれる』なんて思ってしまわないように、いくら泣き叫んでも要求を飲まないように断固とした態度を取らなければ……。
「一条様……、あ~んなどというものは本来しないものなのです。恋人同士でそういう場であればすることもあるかもしれません。ですが例え恋人同士であったとしてもいつでもどこでもするようなものではないのですよ。それを私達がいつでもどこでもするようなことをしてはいけません」
「うぅ……。グスッ……」
百合の方もただ泣き叫ぶだけではなく俺の話を聞いて落ち着いてきた。説得出来たようだ。
「それではいつあ~んしてくださいますの?」
「…………え?」
「この場では駄目なのでしたらいつならしてくださいますの?」
「いや……、その……」
そういう話じゃないんだよ?ここじゃ駄目、どこなら良い、いつなら良いという話をしたわけじゃない。でも百合は期待に満ちた目で『いつですの?』『どこなら良いのですの?』と聞いてくる。そんなの答えられるわけないじゃないか……。
「いつとかどこでなら良いというお話でもないのですよ……」
「ではどういうお話ですの?ねぇ?」
「うぅ……」
これって完全に子供を相手にしてる時のパターンだよな。俺はこういうタイプの子供の相手は苦手だ……。
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お昼休みの百合の『いつですの』攻撃を何とか凌ぎきった。一応説明はしたんだけど百合は分かっていないのか、分かった上でこちらの揚げ足を取るようにあんな風に言っているのか……。とにかくあの手の子供の屁理屈のようなものを相手にするのは大変だ。
「咲耶ちゃん、勉強会に行きましょう」
「ええ。そうですね」
今日からテスト前期間で部活なども休みになっている。まぁ三年生は夏の大会後に引退している部や個人も多いので二学期の末である今はもう部活に出ていない子も多いけど……。
ただ藤花学園だと内部進学するつもりの子にとっては受験はあまり関係ない。内部進学でも一応試験はあるけど実質フリーパス状態だ。だから大学進学後も同じ部活をするつもりの子は卒業ギリギリまで部活に顔を出している場合も結構ある。
「咲耶っち!よろしくね!」
「……ん。教えて咲にゃん」
「御機嫌よう、鬼灯さん、鈴蘭さん」
いつもの勉強会には顔を出さないメンバーもテスト前になると部活も休みになって参加してくる子が増える。鬼灯は大学進学後も陸上部に入るつもりらしく卒業ギリギリまで陸上部に顔を出すと言っている。だからこんな時期でもまだ部活に参加していて日頃は勉強会に来ない。
「試験前の詰め込みしかしないから鬼灯は成績が上がらないのよ」
「紫苑……」
いや、それを紫苑が言っちゃうのか?紫苑こそ試験前の詰め込みの女王みたいな人だと思ってたけどな?
もちろん最近は試験前の詰め込みだけじゃないみたいだということは知っている。日頃からそれなりに勉強して成績も上がってきているし、記憶の定着も良くなってきたのか試験範囲が広い実力テストや学年末試験でもそれなりの成績を取れるようになってきた。でもそれは最近のことだし鬼灯に偉そうに言えるほどのことじゃないと思ってしまう。
まぁ自分が頑張るようになって成績も上がってきたから、以前の自分と同じようなことをしていたり失敗している子にアドバイスをしてあげようと思ったのかもしれないけど……。
「あの……、九条様……、少し良いでしょうか?」
「はい?どうされましたか?ひまりちゃん、りんちゃん」
いつもの空き教室で皆がそれぞれ席に着こうとしているとひまりちゃんとりんちゃんが深刻そうな表情を浮かべてやってきた。何事かと思って聞いてみる。
「あの……、実は……」
「いつものメンバーの方以外の方もこの勉強会に加えていただいてもよろしいでしょうか?」
「はぁ?」
何か深刻そうな表情を浮かべているから何事かと思ったけど、どうやら誰か誘いたい子がいるから呼んでも良いかということらしい。俺としてはひまりちゃんとりんちゃんのお友達なら良いと思うけど、確かに他のメンバーも居る場で勝手に他所の子を連れてくるというのは腰が引けるというか、言い出しにくいかもしれない。
「私は構いませんが他の方達が良いかどうかは皆さんに聞いてみるしかありませんね。ちなみに呼びたいという方はどなたでしょうか?」
「えっと……、もうそこに……」
「入ってきてください」
「はい……」
「失礼しまーす……」
りんちゃんが扉の外に声をかけると入って来たのは俺も知っている人物だった。
「まぁ!西村様と赤尾様でしたか。以前にもご一緒したことがありますし私はお二方が加わられても良いですが……、皆さんはいかがでしょうか?」
「私も良いですよ!」
「反対する理由はありません」
「よろしくねー!」
一人が良いと言ったのに後から駄目だと言い難いかもしれない。それを狙って俺が一番に良いと言ったんだから俺の誘導通りではあるんだけど、本当に皆も良いとか大丈夫だと思って言ってくれているのかは分からない。ただ皆も笑顔で受け入れてくれているので大丈夫だろう……、たぶん?
「ありがとうございます!精一杯頑張ります!」
「よろしくお願いしまーす!」
三つ葉と南天も教室内に向かって頭を下げていた。もう三年生の二学期末という時期ではあるけど、この勉強会にも久しぶりに常連以外のメンバーが加わってこれから楽しくなりそうだ。




