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第千二百四話「文化祭だよ全員(大半)集合」


 恐らく伊吹達が有志でやっているであろう女装喫茶らしきテントへとやってきた。プロの露店の配置もとっくに決まってただろうに、それをどけさせてこんなど真ん中にデカデカと大きなテントを建てている。ただしこの店にはまったく客は並んでいない。店内は分からないけどお昼時なのに行列がない時点でお察しだろう。


「薊ちゃんは冷やかしてなどと言っておられますが毎年近衛様の出し物を見に行こうと言われていますよね?もしかして近衛様に気が……」


「…………」


「「「「「………………」」」」」


 うわぁ……。俺の言葉を聞いて薊ちゃんが露骨に嫌そうな顔をしてしまった。それはご令嬢がして良い表情じゃないんじゃないかな?俺の言葉のせいというのは分かっているけど年頃の可愛い女の子がそんな顔をしちゃ駄目だぞ?


「やめてくださいよ咲耶様……。想像しただけで本当に気持ち悪いんで……」


「はい……。ごめんなさい……」


 本当に、心底、完全に、絶対、完璧に、伊吹のことを想ってるなんて言われただけで気持ち悪いという感情がヒシヒシと伝わってきた。冗談とかネタじゃなくていつの間にか薊ちゃんは本当にそれほどまでに伊吹達のことを嫌いになっていたようだ。


 ただ俺の言い訳も言わせてもらえば、本当に嫌いなら毎年毎年伊吹達の出し物を見に行こうなんて言うかな?とちょっと思っただけなんだよ?だって俺だったらいちいち伊吹達の出し物なんて見に行きたいとも思わないし気にもならない。わざわざ気にしたり見に行きたいと思うってことは俺が伊吹達に対して持ってる気持ちと違うのかな?と思っても仕方が無いだろう?


「私はただあれだけ啖呵を切って出て行ったアホボン共……、近衛様と鷹司様がどんな惨めな姿を晒しているのか見学してやろうと思っただけですよ!」


「それはそれでどうかと……」


 薊ちゃんなりのジョークだとは思うけど、明らかに流行っていない店だと分かっているのにそこへ行って馬鹿にしてやろうなんて性格が悪いことを薊ちゃんが思うはずない。それを俺に予想しろと言われても無理だろう。


 薊ちゃんは一見言葉は悪くて態度も偉そうに見えるけど、実は優しくて、面倒見が良くて、人の嫌がることはしない子だ。いくら伊吹達のことに腹を立てていても、まさか閑古鳥が鳴いている出し物を見に行って馬鹿にしようなんてするような子じゃない。


「まぁ怖いもの見たさで少し覗いてみましょうよ」


「気に入らなければすぐに出れば良いですしね」


「そう……、ですね……」


 何か皆は結構ノリノリみたいなので仕方なく伊吹達の店に入ることにした。テントと言ってもサーカスのテントのようなかなりしっかりしたものだ。周囲の夜店の露店みたいなものとは出来が違う。まぁそれだけ周囲にとって邪魔って意味だけど……。


「いらっしゃいませぇ~ん!って何だ。咲耶か。おう!どうした?俺様達に戻ってきて欲しくなって泣きつきに来たのか?」


「やぁ九条さん、いらっしゃい」


「え~……、御機嫌よう、近衛様、鷹司様……」


 店に入ると店員はたくさん居た。ただし明らかに学園生じゃない。目に見える範囲で学園生は伊吹と槐だけで後は近衛家か鷹司家が雇った外部の人間のようだ。そして全員男で女装している。しかも滅茶苦茶レベルが低い。いかにもステレオタイプの昔の『ザ・オカマ!』みたいな風貌のにいちゃん達が並んでいるだけだ。


「俺様に頭を下げて謝るのならクラスにも戻ってやるしこの店にも入れてやるぞ!」


「さぁ皆さん、帰りましょうか」


「「「はーい!」」」


「あっ!ちょっ!おい!待て!」


 待てと言われて待つ馬鹿はいない。伊吹は追いかけてこようとしたみたいだけど俺達は早々に伊吹と槐の女装喫茶を後にした。


「やっぱり近づくべきではありませんでしたね……」


「え?そうですか?アホボン共の惨めな姿が見られてよかったじゃないですか」


 薊ちゃん……。そんなに悪ぶらなくても良いんだよ?薊ちゃんも見た目は悪役令嬢っぽいけどそんな子じゃないことは俺が良く分かってるから。伊吹達の女装が気持ち悪くて、あんな所に誘ってしまったことを悔いて悪ぶってるだけなのは分かってるから。


「あぁ!咲耶ちゃん!ようやく見つけたわ!」


「むぎゅぅ……」


 伊吹達の店から逃げ出した俺の前に柔らかい壁が立ち塞がった。ポヨンとかプニョンとかそんな擬音が聞こえてきそうな柔らかい物に包まれる。


「咲耶お姉様!ようやく合流出来ました!」


「咲耶お姉ちゃん!」


「ゴフッ!」


 茅さんの胸に顔が包まれている俺の体にドスッ!と凄い衝撃が走った。この衝撃は質量の大きい睡蓮以上だ。こんなしっかりしたタックルが出来る子は一人しかいない。


「茅、咲耶ちゃんが苦しがってるから離してあげなさい」


「そもそもこんな遅くなってしまったのは菖蒲が遅かったせいなのだわ!」


「はいはい。それは悪かったから一度咲耶ちゃんを離して」


「ぷはぁっ!」


 菖蒲先生の取り成しでようやく解放された。顔が解放されたので見渡してみれば予想通りに茅さんと菖蒲先生、それから竜胆や秋桐達中等科生が集まってきていた。秋桐は俺が衝撃を受けた部分にしがみついている。やはりあの殺人タックルは秋桐だったようだ。


「ごめんなさい咲耶ちゃん。菖蒲が遅いから遅くなってしまったのだわ」


「だから先に行っても良いって言ったじゃない」


 どうやら茅さん達は一緒に来る約束をしていたけど菖蒲先生は遅くなってしまったらしい。それで皆も遅れたと茅さんは言っているようだ。ただ菖蒲先生は自分が遅れるから皆に先に行っておいてと伝えたのに皆は待っていたということだろう。


「ふふっ」


「あら?咲耶ちゃん?何かおかしかったかしら?」


「いいえ」


 ただ……、こうやってお互いに憎まれ口を叩いていても……、本当は相手のことを想いあっていて待ってあげているんだよな。むしろ親しいからこそあんな憎まれ口や軽口を叩き合えるんだ。それは何て素晴らしいことだろう。


「でも無事に咲耶お姉様のお店で手作りはゲット出来ましたよ!さっきまで並んでたんです!本当に景品がなくなるギリギリで焦りました!」


「まぁ!そうでしたか」


 どうやら茅さん達や下級生達も俺達の店に並んでくれていたようだ。文化祭でクラスの出し物だしさすがに俺の知り合いだからといって順番抜かしをさせたりするわけにもいかない。皆も真面目に並んでいたようだしこれが本来あるべき姿だよな。


「それじゃこれから一緒に回りましょうか。咲耶ちゃん達はもうお昼は食べちゃった?」


「いえ。丁度お昼時に休憩になったのでお店が混雑しておりまして、少し遅らせようかと思っていたところです」


「それじゃ私達と一緒に食べましょう?ね?咲耶ちゃん。それが良いのだわ」


「そうですね……。ですがまだどこも混雑しておりますが……」


 皆もさっきまで三年三組の出し物に並んでくれていたので食事はまだらしい。一緒に食事をするのは良いけど問題はどこも混雑していることだ。それをどうにかしないと……。


「睡蓮のクラスは空いているのだわ」


「へぇ?そうなのですか?それでは睡蓮ちゃんの……、一年一組の出し物に行ってみましょうか」


 皆もそれで良いと言うので一年一組の出し物を見に行くことになった。赤松と銀杏の出し物は見たのに一年一組の出し物は見なかった理由。それは睡蓮達のクラスは『ケーキ屋さん』なる出し物をしているからだ。当然ケーキ屋なので教室ではなく理科実験室を取っている。教室の場所が違うから後回しにしただけで行かないでおこうと思っていたわけじゃない。


「でもケーキ屋さんって何でしょう?」


「そりゃケーキを売ってるんじゃない?ケーキ屋さんなんだし」


「「「う~ん……」」」


 飲食店カテゴリで理科実験室を確保しているということは分かっている。でもケーキ屋さんって……。まさか一年一組の生徒達がケーキを手作りして販売しているのか?それだったら理科実験室じゃなくて家庭科調理室の方が良かっただろう。


「着けば分かることだけど……」


「先に教えておくのだわ!睡蓮は自分がケーキを食べたいからクラスの出し物をケーキ屋さんにしたのだわ!そして買って来たケーキを販売しているだけなのだわ!!!」


「えぇ……」


 茅さんの暴露によって店の実態は分かった。何故茅さんがそんなに睡蓮達の出し物に詳しいのかは突っ込まない。多分睡蓮の方から茅さんにあれこれチャットやメールで話しまくったとかそんな所だろう。それよりも自分がケーキを食べたいから外部で買って来たケーキを売ってるだけの店って……、それよく生徒会と実行委員が許可したな?


「九条様!」


「ごっ、御機嫌よう九条様」


「あら?御機嫌よう、りんちゃん、ひまりちゃん」


 俺達が団体で理科実験室に向かっているとひまりちゃん達に声をかけられた。その後ろには……。


「オーッ!サクヤー!」


「こんにちは咲耶」


「お~っほっほっほっ!ここで会ったが百年目ですわ!九条咲耶!お~っほっほっほっ!」


「御機嫌よう九条様。別に私は九条様なんて捜してませんでしたから!」


「こんにちわ~、九条様~」


「御機嫌よう皆さん」


 デイジー、ガーベラ、百合、躑躅、朝顔まで一緒だ。朝顔以外は五組メンバーだし五組の出し物が終わった後に一緒にウロウロしていたのかもしれない。ひまりちゃん達とデイジー達や百合達が親しくなっている。まぁよくよく考えてみればデイジー達や百合達がひまりちゃん達にドレスを贈ったわけだし親しくて当然か。


 何か俺の知らない所でひまりちゃんとりんちゃんが他の友達と親しくしていることを寂しく思ってしまった。でもそんなことは当然であり、むしろ逆に俺だってひまりちゃんやりんちゃんが知らない所で二人とあまり面識がない人と親しくしていることもあるだろう。


 本来ならひまりちゃんとりんちゃんに親しい友達が出来ているのなら喜ぶべきことであり応援しなければならないはずだ。それなのにちょっと寂しく思っている俺はどこか心か脳か精神に問題があるのかもしれない。素直に祝ってあげられない俺を許してくれ!


「え~……、皆さんはこれからどちらに?」


「えっと……、九条様を捜して歩いていただけなので……」


「特に目的は……」


「そうでしたか」


 りんちゃんとひまりちゃんは何かばつが悪そうにそう言っていた。何でそんな顔をしているのか分からない。むしろ捜してくれていてうれしく思う。


「私達もヒマリーと一緒に咲耶を捜してたのよ」


「ソーデース!」


「お~っほっほっほっ!わたくしは別に九条咲耶など捜しておりませんでしたわよ!ただデイジーやガーベラと行動を共にしていたら貴女がやってきただけですわ!お~っほっほっほっ!」


「そういうことです!私だって別に皐月お姉ちゃ……、そこの出来損ないなんて捜してませんでしたから!」


「あらあら~。うふふ~。百合ちゃんも躑躅ちゃんもさっきまで『咲耶お姉様~!』『皐月お姉ちゃ~ん!』って泣いてたのに~」


「ちょっ!?三条様!私は別に皐月お姉ちゃんなんて捜してませんでした、っていうか泣いてませんよ!」


 ふむ……。どうやら躑躅は皐月ちゃんを捜していたらしい。じゃあ察しが良くて気の利く俺はさり気なく皐月ちゃんと躑躅が近くで一緒になれるようにしてあげよう。さすが俺!察しが良くて気が利く!


「わたくしだって別に九条咲耶など捜しておりませんわよ!勘違いしないでくださいまし!」


「とか言いながらちゃっかり咲耶の隣を確保してるじゃない。じゃあ私は反対の隣!」


「オーッ!?それではワタシは後ろにしマース!」


「ぐぇっ!」


 俺は左右を百合とガーベラに固められ、後ろからデイジーに絞められた。首が極まってる……。しかも徐々に力が入ってきてるぞ……。


「ちょっとデイジー!咲耶様が苦しんでおられるでしょ!放しなさいよ!」


「オーッ……、ソーリー……」


「はぁ……」


 紫苑がゲシゲシとデイジーを蹴るとようやく首を放してくれた。でもまだ背中にはデイジーの大きなメロン、いや、スイカ?何か茅さんの柔らかいマシュマロと違って如何にも塊!という感じの物が押し付けられている。むしろ背中というか頭というか……。身長の違いのために頭に乗っていると言っても良いかもしれない。


「それで九条様達はこれからどちらに行かれる予定でしょうか?」


「あぁ、そうでした。睡蓮ちゃんのクラスの出し物に行く予定だったのですよ」


「そうですか。それでは私達もご一緒しても良いですか?」


「ええ、もちろん。それでは皆さんで睡蓮ちゃんの一年一組の出し物に行きましょうか」


「「「はーいっ!」」」


 自分のクラスの出し物をしている子達以外は大体知り合いが揃った。それじゃ予定通り睡蓮の出し物に行ってみるとしよう。


 ……でも買って来たケーキとはいえ普通のケーキを売ってるだけなんだったら何で空いてるっていう情報が入ってるんだろう?普通ならそこそこは売れてそうだけど?何か問題でもあるんだろうか?



 いつも読んでいただきありがとうございます。


 いつの間にか文字数の多い順でソートすると四十位を超えてました。たぶん今日の投稿で三十九位に?


 物語の残りを考えると三十位には届かないと思われますのでキリの良い順位はこれが最後かもしれません。作中の残り日数も少なくなって物語も終わりに向けて少しずつ色々と進んでおります。あと何話くらいで終わるとは明言出来ませんが完結までもう少しお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 伊吹ェ。。。まあ、レベルの高い女装したら伊吹が変な目で見てくるからこれでいいのかもしれない。どうでもいいけれど。 茅さんと秋桐ちゃんのツープラトンだー。さらっと睡蓮の質量に触れてくるところが…
[一言] みんな集合!
[良い点] 久しぶりのタックル! 咲耶様があまりにもタフだから秋桐ちゃんもどんどん鍛えられていってるような… [一言] アホボンの店を怖いもの見たさで覗いたら案の定持ち悪い。さっさと記憶から消すに限る…
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