第千百六十七話「驕れるもの久しからず」
紫苑の次の順番を勝ち取ったのは茜だった。
「やった!咲耶様の二回目をゲット!」
「くぅ~~~っ!チョキを出していれば……」
「茜がしてもらってる間にその先の順番も決めておきましょ」
「「「はーい」」」
紫苑の時は全員でかぶりついて見ていたがもう内容は分かった。内容に違いがあるとまた不平不満が出てくるので全体的に同じ内容で同じ流れになるはずだ。だからその間に順番を決めておこうと残ったメンバー達はジャンケンを再開していた。
「ハァ……、フゥ……」
「大丈夫ですか?咲耶ちゃん。次の人が待っていますよ」
「はい……。大丈夫です……」
紫苑と一緒にクッタリしていた咲耶だったが一度下がってローションを拭き取ってきていた。その間に紫苑は運び出されて洗われている。咲耶は自力で歩けたので自分で体を拭き取りに行った。さすがに前の人のローションがべったりついたまま次のマッサージをすることは憚れる。
「うっはぁ~~~……」
「「「…………」」」
まずは始まって最初の普通のマッサージに茜はとても気持ち良さそうな声を出していた。それを聞いて他のメンバー達は羨ましそうにじっとその様子を見ている。
ここにいるメンバーの大半はエステなどに行ってプロにマッサージをしてもらっているので慣れたものだ。そのメンバー達でさえ満足出来るほどのマッサージを咲耶は行っている。
「それでは手足の方もいきましょう」
「はい」
咲耶ももう二人目ということで慣れたのか皐月に言われるがままに従っていた。ここまでは特に何も問題ないのだ。咲耶が想定していたマッサージとは違うとはいえこういったマッサージ自体は咲耶も受けている。まさか自分が同級生達にすることになるとは思っていなかったが、どうしても有り得ないというほど特別なものでもない。問題はここからだった。
「さぁ咲耶ちゃん、それでは……」
「うぅ……」
皐月にその先を促されて咲耶が情けない声を漏らす。眉尻を下げて困り顔をしているがそれを見ている者達にはそそる表情にしか見えない。
「どうしてもしなければなりませんか?」
「当然です!紫苑にはしたのに私にはしてくれないんですか!?」
「そういうわけでは……」
「じゃあしてください!」
「はぃ……」
茜にそう言われてはやらないわけにはいかない。すでに紫苑にしてしまった以上は残るメンバーにも同じようにしなければ不公平だと言われてしまう。そう言われては咲耶は弱かった。
「それではいきますね……」
「はぅっ!」
自分の体にローションを塗ってから咲耶が茜の背中に跨った。その重みとお尻を感じるだけで茜は声を漏らしてしまった。そして……。
「ん゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛っ゛!ぎも゛ぢい゛い゛っ゛!」
「ハァッ!ハァッ!んんっ!」
「うわぁ……」
「茜ちゃん……、なんて顔を……」
「凄い……」
咲耶がスペシャルなマッサージを開始すると茜はあっという間に登り詰めてしまった。それに合わせるように咲耶もビクビクと体を震わせる。それを見ているメンバー達はゴクリと喉を鳴らした。
「交代!交代ですよ!」
「それじゃ準備しましょうか」
「はぁ……、はぁ……」
咲耶は言われるがままに一度下がって体についたローションを落としに行った。完全にノビている茜は他のメンバー達によって移動させられて椛達がマッサージベッドの清掃と消毒を行う。空いたベッドに蓮華が寝そべってその時を待つ。
「さぁ咲耶ちゃん、それでは次に行きましょうか」
「はぁ……、はぁ……」
戻ってきた咲耶は熱っぽい表情を浮かべて皐月に言われるがまま次のマッサージに取り掛かったのだった。
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「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ゛!!!」
「んんんっ!」
薊が年頃の女の子が出して良い声ではない声を上げてビクンビクンと体を跳ねさせる。それと同時に咲耶ももう何度目になるかの痙攣を起こした。薊の上にクタリと崩れ落ちて体をヒクヒクさせている。
「咲耶っち!次は私だから!」
「はぃ……」
一度下がって体についたローションを落としてきた咲耶はフラフラしながらも再びマッサージベッドの隣に立つと鬼灯へのマッサージを開始した。
「おおっ!私は陸上部の関係で結構マッサージとか整体とか行ってるけど……、これは……、凄いよ!」
咲耶が行っているマッサージは美容マッサージだけではなく疲れやコリを解したり整体に近いマッサージも行っている。怪我や疲れがつきものである陸上部の鬼灯はよくそういったマッサージを受けているが咲耶の腕はプロに勝るとも劣らないものだった。
「咲耶っち、もしかしてどこかで整体とか習った?」
「え~……、習ったというほどでもありませんが……」
百地流でも怪我や疲れの軽減、体を解す目的などでそういったことを行っている。咲耶のマッサージテクニックは百地流によって培われたものだ。
「あ~、気持ち良い~~~……。極楽極楽」
「……ん。鬼灯、ババァ臭い」
「ふ~んだ。別にババァ臭くて良いですよ~だ」
いつもなら言い返したりシュンとしたりする鬼灯だが、今はまるで極楽にいるかのような心地なので鈴蘭にそう言われても平然としたまま目を瞑っていた。そして普通のマッサージで体が解された所で本命のマッサージが始まる。
「うひゃっ!ローションって塗られたらびっくりするね」
鬼灯は美容やエステのマッサージはあまり受けたことがない。整体などではローションを使わないマッサージを受けているのでローションを垂らされて少しくすぐったいような、恥ずかしいような気持ちでむずむずしていた。
「咲耶ちゃん、ドーンといきましょう!」
「ドーンと……」
もう目がトロンとしている咲耶は皐月に言われるがままに……。
「ぎゃーっ!いだだだっ!いだい!いだいよ咲耶っち!」
「ちょっ!?咲耶ちゃん!ストップ!ストップですよ!」
もうフラフラとしている咲耶は無意識のうちにいつもの百地流でのマッサージを行った。格闘家は体が非常に柔らかい。体が硬いと怪我の元でもあるし自在な動きが出来ない者が強くなれるはずもない。だから力士やレスラーのような体格であっても体が柔らかいのだ。
百地流の修行でも当然体が柔らかくなければならないものが多い。必然的に咲耶は日頃から体を柔らかくするための柔軟やマッサージをよく行っており、今無意識に鬼灯がされたのも咲耶が日頃行っている体を柔らかくするためのものだった。
鬼灯も陸上部でそれなりに体を解しているが、それでも強引に体を曲げられた鬼灯にはかなりきつい柔軟とマッサージだった。それを見て残っているメンバー達は若干青褪める。
「普通の人間ってあんなに曲がるものなの?」
「うわぁ……」
「私は絶対あんなに曲がりませんよ……」
元々陸上部でそれなりに柔らかい鬼灯だから耐えられたのであって、そういったことをしていない他のメンバーにとっては今の体の曲がり方は信じられないものだった。罷り間違って自分も同じようにされたらぽっきりいってしまいそうだと思って震え上がる。
「じゃあやめる?」
「やめません」
「だよねー」
しかしその危険を負ってでもやめるという選択肢はない。例え骨が外れようと、なんなら折れようともこの先に待っている桃源郷を諦めるつもりはなかった。
「咲耶ちゃん!こうです!」
「こう……」
「はぁ~~~んっ!これっ!これだめぇ~~~!」
一瞬地獄を味わった鬼灯だったが、その後に訪れた天国の時間に蕩け切った表情を浮かべていた。それを見てやっぱりやめるという選択肢は絶対にないと残ったメンバー達は思ったのだった。
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咲耶のスペシャルマッサージを受けて次々にメンバー達が昇天していった。そしてついに残っているのは向日葵、花梨、皐月、椛の四人のみとなった。
「それでは……、次は私が……」
「どうぞ……」
花梨が咲耶の前のマッサージベッドに寝転がる。朦朧としている咲耶はそれでもちゃんとマッサージに取り掛かった。
「はぁ……、これは確かに……、凄いです……」
最初は普通のマッサージから始まる。特に凝っているつもりがなかった花梨でもそのマッサージは極上の寛ぎを与えてくれるものだった。
「それでは咲耶ちゃん、次は……」
「はい……」
もう幾度となく繰り返してきたので咲耶は皐月に言われるがままに次の準備に取り掛かる。しかし今回は今までとは違うことが起こった。
「え?九条様?」
「りんちゃん、ぷにぷに……」
「ひゃぁっ!?そっ、そこは違いますよっ!?」
「りんちゃん、ぷにぷに、りんちゃん、ぷにぷに、りんちゃん、ぷにぷに、ぷにちゃんぷにぷに……」
「あっ!あぁっ!らっ、らめぇ~~~っ!」
咲耶は朦朧とした意識の中、それでもいつもしているように花梨のお腹に手を回してプニプニし始めた。咲耶本人にはもうほとんど意識はなく、無意識のうちにいつもの行動を行っているだけだった。しかしそれをされている方の花梨は堪ったものではない。
「あっ!あっ!あっ!背中に九条様の胸とお腹が!それなのに……、私のお腹をぷにぷにされて……、もっ、もう駄目です~~~っ!」
背中から密着されてお腹をぷにぷにされた花梨はあっけなく果てた。それなのに咲耶の手は止まらない。
「あ゛ぁ゛っ゛!あ゛ぁ゛ぁ゛っ゛!」
「ちょっ!?咲耶ちゃん!?ストップ!もう花梨の意識が飛んでますよ!それ以上は駄目です!」
「はい……」
「「…………」」
まるで意識がないようにそう言っている咲耶に皐月と向日葵は嫌な予感がして顔を見合わせた。しかし今更ここで止まるわけにはいかない。
「くっ、九条様……、よろしくお願いします」
「はい……」
白目を剥いていた花梨が運び出され次の準備が整ったので向日葵が寝転がった。そこへ咲耶のマッサージが始まった。
「んっ……、んっ……。こういう感じなんですね……」
「…………」
最初のマッサージは問題ない。日頃エステやマッサージの経験がない向日葵はマッサージとはこういうものかと味わっていた。そして……。
「んっ!くすぐったいです」
「……」
垂らされて塗り広げられているローションにくすぐったいような、恥ずかしいような気持ちで身をよじっていた。そこから咲耶の大攻勢が始まる。
「あっ!九条様!そんな……」
背中に乗ってきた咲耶の温もりを感じると同時にすぐさまスペシャルマッサージが始まった。腋のリンパや股間のリンパまで咲耶の手によってマッサージされる。
「あっ!あっ!あぁっ!んんっ!はぁっ!」
「え?咲耶ちゃん?」
「あぁっ!んあぁっ!はぁんっ!」
「ちょちょちょっ!ストップ!咲耶ちゃん!ストーーーップ!!!」
「ああぁぁぁ~~~~~っ!!!」
皐月が止めた時にはもう遅かった。腋や股間のリンパを散々マッサージされた向日葵はもう戻れない所まで押し上げられてしまっていた。頂上から中々下りてこられなくなっていた向日葵もかなり長い時間が経ってからクタリと力が抜けて弛緩した。実際にはそれほど長い時間ではないのかもしれないが向日葵にとっては永遠とも思えるほどに深く高い頂上だった。
向日葵の施術を終えると咲耶は無言で一人下がってローションを落としに行った。それを見て皐月と椛は何とも言えない恐怖を覚えた。もしかして自分達はとんでもない化け物を起こしてしまったのではないか?カタカタと足が震えて逃げようにも動けない。そこへローションを落とした咲耶が戻ってきた。
「えっと……、咲耶ちゃん……」
「どうぞ……」
「いや、あの……、えっと……、待って……。話を……、話し合いましょう!ね?ひゃぁっ!?」
後ずさりながらどうにかならないかと思っていた皐月だったがどうにもならなかった。マッサージベッドに引っかかった皐月はそのまま寝転がされて咲耶の施術を受けることになってしまった。
「はぁ~~~……。確かにこれは上手いですね……」
いざ受けてみるとそのマッサージはまさに最高だった。これまで受けてきたどんなマッサージよりも気持ち良い。咲耶のマッサージの腕が卓越していることが良く分かる。しかしその極楽も長くは続かない。マッサージが進んでいってついにローションが垂らされた。それを背中に感じて皐月が危険を思い出す。
「咲耶ちゃん!待ってください!それは……、あぁっ!?こっ、これがぁっ!?」
「……」
咲耶は無言で施術を行っていく。皐月は他のメンバー達がだらしない表情を浮かべて昇天していった理由を身を持って思い知ったのだった。
「咲耶様……、まさかここまでとは……。ですが私も負けませんよ!さぁ!私にもお願いします!」
「はい……」
全員を転がした後、最後に椛がベッドに寝転がった。その顔はもう期待で溢れていた。椛はこれからのことに期待せずにはいられない。どんな痴態を晒すことになろうとも絶対にあの極楽を自分も味わうのだ。そう思って待っていると……。
「ぎゃーーーーーっ!痛い痛い!痛いです咲耶様!私の腕はそんな方向に曲がりません!」
「……」
「うげぇっ!腰!腰が!そんなに曲げたら折れてしまいます!」
「……」
「首ぃっ!首がもげる……」
「……」
「股はそんなに開きません~~~!」
「…………」
成績アップのご褒美メンバーではないと認識されていたのか、椛が施されたのは百地流式の柔軟とマッサージだった。椛は痛みによって散々悶え苦しむことになったが、終わってみれば気絶している椛の顔はどこかうれしそうに半笑いになっていたのだった。




