咲耶様転校編 前編
いつも読んでいただきありがとうございます。
先にネタバラシすると本日はエイプリルフールネタです。ですが内容が通常投稿の3~4話分の文量になっているので前後編で明日もエイプリルフールネタの投稿となります。
去年『今年で最後だろうからエイプリルフールネタやります!どうせ最後だし!』みたいなことを言ってきっちりフラグ回収して今年も四月一日を越えるまで続いてしまいました……。今度こそ本当にこの作品では四月一日は最後です。本編とは関係ない話が突然今日明日の前後編となっておりますがご容赦ください。
高等科三年生になった俺は咲耶お嬢様断罪が回避出来ないことが決定的になってしまったことを悟った。このまま藤花学園に通っていては俺が断罪されるだけではなく九条家まで没落し九条グループ全体にまで多大な損害を与えてしまう。俺は決断するしかなかった。
「咲耶様……、本当にお見送りはよろしいのですか?」
「ええ。これから通う学校では私は九条家のご令嬢ではありません。ですから送り迎えは必要ありません」
俺は咲耶お嬢様断罪を回避するために藤花学園を去る決断をした。当然両親も兄も反対したしグループの子達も、菖蒲先生や茅さん達大人や卒業生達も、下級生達まで皆が引き止めてくれた。だけどあのまま藤花学園に通っていては皆にも迷惑をかけてしまう。
そこで俺は名を変えて転校して新しい学校でやり直すことにしたんだ。
もし九条家のご令嬢として転校したら転校した先でもまた断罪騒ぎが起こるかもしれない。そういう諸々を考えて騒ぎにならないように俺は絶家した九条家諸大夫である長尾家の娘として名前を変えて兼成高校に転校した。今日から兼成高校に登校する。
兼成高校はこの国に多数存在する所謂、お坊ちゃん学校、お嬢様学校の一つだ。ただ藤花学園や古都の方にあるような貴族が通う学校とは少し違う。
藤花学園は名実共にこの国で最高峰の貴族達が通う学校であり主だった貴族は皆藤花学園に通っている。ただ地方の地下家などで藤花学園まで通うのは難しい生徒もいる。だから地方貴族の多い古都周辺にも藤花学園に通えないような貴族が通う貴族学校が存在する。
そしてそれらとはまた別に前世でもあったような普通の所謂『お坊ちゃん学校』や『お嬢様学校』というものも存在している。それらは別に貴族でなくとも通えるし、何なら偏差値が高い必要もないかもしれない。私立なので学校の方針次第でただ金持ちが集まる学校であったり、お上品な教育を施すのが目的であったり、高偏差値で進学率の高い学校であったりする。俺が通う兼成高校は基本的にはお金持ちが通う学校という校風だ。
お金持ちで寄付などがしっかり出来る子は簡単な面接だけで入学出来、高い入学金や寄付金を払えないのなら受験で特待生となって特進クラスに入るしかない。特進クラスは学校の偏差値を引き上げたり高偏差値大学への進学率を高めるために集められているので学費や寄付は安く済む。
生徒やクラスの関係性は藤花学園と特待生達に似ているけど、藤花学園と違うのは内部生クラスは貴族じゃなくて入学金や寄付金が払えるお金持ちなら良いという所だろうか。ただ事前に調べた結果兼成高校の普通クラスにも一部の貴族が通っているということは分かっている。
その生徒達が藤花学園に通わず兼成高校に通っている理由は分からない。単純に藤花学園に入れなかったのか、あるいは顔を繋ぐのに藤花学園ではなく兼成高校の方が良いと判断したからなのか。それぞれ事情も理由も人によるだろう。ただそこそこの人数の貴族も通っているらしいということだ。
「それでは行って参ります」
「いってらっしゃいませ咲耶様」
「……いってらっしゃいませ咲耶お嬢様」
百地流の朝練を終えた俺は道場から兼成高校へ向かう途中で車から降ろしてもらった。椛と柚に見送られた俺はそこから歩いて兼成高校へと向かったのだった。
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編入試験などでも来ているので迷うことなく兼成高校に到着出来た。周囲の生徒達は俺のことをチラチラと見ている。一学期のこんな中途半端な時期に真新しい制服を着た見かけない三年生が居たら目立ちもするだろう。
一部の生徒は送り迎えをされているようだ。ただ藤花学園と違って玄関口にロータリーがあるわけじゃない。校門の外の道路に車を停めて降りている。はっきり言って通行の妨げで邪魔でしかない。それなのにここの学校はこういった生徒達に対応もせずに放置しているようだ。
藤花学園だったらすぐにでも用地を買収するなりすでにある玄関口を改築するなりしてロータリーを整備するだろう。そして外の道路での乗降を禁止して違反したらそれなりの対応をするはずだ。でも兼成高校はそういった対応は何一つ出来ていない。これは学校側も悪いと言わざるを得ないな。
「まぁ今の私が言うことでもありませんか」
渋滞の原因となっている生徒達の送迎を見つつも、今の俺の現状ではそれをとやかく言う立場にはない。それに送迎に使われている車が漏電警報機マークの車とか、vとwとか、丸に十字とか、逆輸入車のLとか、ぶっちゃけ藤花学園でこんな車で送迎されてたら笑われるぞっていうような車しかない。
前世でもこの世界でも庶民はこの手の車がステータスだと思っているみたいだけど、本当の金持ちや権力者からすればその辺りの車なんて乗ってたらむしろ恥だと思うようなものだ。それらの車に注意しに行ったらなんだか貴族が庶民をイジメてるみたいになってしまう。
「失礼します」
「ああ、貴女が転校生の長尾さんね。私が貴女のクラスの担任よ。それじゃ少し打ち合わせをしてから一緒に教室に行きましょうか」
「はい」
俺が職員室に入るとすぐに担任の先生が来てくれた。担任だとは知らなかったけど今名乗られて初めて知ったんだけどな。
それから担任と少し打ち合わせをしてから始業のベルが鳴ってから教室へと向かった。打ち合わせ通り外で待って紹介されてから教室に入る。なんでか知らないけど転校生が来るとこういうパターンが定番になってるよな。でも外で待たされている方からすると何とも言えない気持ちになる。
「それでは転校生を紹介します。長尾さん、入ってきて」
「失礼します」
「「「「「うおおっ!」」」」」
「めっちゃ可愛くない?!」
「すげぇ!」
「あのおっぱい見ろよ!」
「男子サイテー」
「女子かぁ~。格好良い男子が良かったぁ」
俺が教室に入るとすぐにテンプレ通りの反応が起こっていた。女子の転校生が来たら男子が色めき立って女子がブーブー言ったり男子を非難するのは定番だよな。だよな?
「はい!しーずーかーに!それじゃ長尾さん、自己紹介をお願いね」
「はい。長尾咲耶と申します。学生生活も残り僅かですがよろしくお願い致します」
「はいっ!はいっ!咲耶ちゃんは好きな人はいますか?」
「スリーサイズ教えて!」
「どこに住んでるの?」
「長尾さんに質問があるなら後で個人的にしなさい!朝のショートホームルームを続けます!長尾さんはあそこの空いてる席に座ってね」
「はい」
これまた定番の転校生に質問攻めして怒られるテンプレをされてから席に着いた。一番後ろの席に座ったけど左右は両方とも女子だ。このクラスは女子の方が多いようで縦に男子の列、女子の列、男子の列、女子の列と座っている。その男子の列の最後尾に俺が座ったので両隣が女子というわけだ。
「よろしくお願い致します」
「あっ。よろし……」
「よろ~。私、山本糸瓜」
「…………」
両隣の女の子から声が返ってきたけど片方の挨拶はもう片方に遮られてしまった。遮られた方は表情を曇らせて俯いてしまっている。この構図だけ見たら何だか大人しい方の子が気安かった方の子にイジメられているようにも見える。
ただ俺は今日初めてこの二人に会ったわけでその関係性も何も分からない。勝手な判断や色眼鏡、思い込みで判断すべきではないだろう。
「教科書まだだったら私の見せてあげるよ」
「あぁ、いえ、もう教科書等はありますから大丈夫です」
「あっ、そう」
俺がそう答えると気安く声をかけてきていた方はつまらないものを見るような目をしてから、興味がなくなったというように離れて話しかけてこなくなった。単純に親切で教科書がないと困るだろうと思って、持っていると聞いたから前を向いただけかもしれない。でも先ほどの態度からしてどうにも角があるというか、ちょっととっつき難い感じがしてしまう。
活発ですぐに声をかけてくれて気が利きそうなんだけど、その実別に親切心でやってるわけじゃなくて何か打算とか裏がありそうな、失礼ながらそんな感じがしてしまう。あと単純に気安く声をかけてくれているのは良いことかもしれないんだけど、どうにも言い方や態度が偉そうというか何というか……。
逆の隣の子は大人しいのか最初に遮られてから黙ってしまってこちらも見てくれなくなったし、なんだかこの学校も色々と問題がありそうな雰囲気だなぁ……。
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あれから授業が始まって休憩時間になる度にクラスメイトが集まってきては質問攻めを受ける羽目になった。ただあまり質問攻めされてもほとんどは答えられない。前の学校はどこだったとか、どこに住んでいるとか、その手の質問に正直に答えるわけにはいかない。一応偽のプロフィールは用意してあるからそれを事務的に答えるだけだ。
そしてそういうクラスメイト達が集まってくるとその中心に居るのは隣の山本糸瓜だった。どうやら彼女がこのクラスのリーダー的存在のようだ。その糸瓜が会話をリードしているんだけど、糸瓜や他の生徒達が集まってくると逆隣の大人しかった子は席を立ってどこかへ行ってしまう。逆隣の子はあまりクラスに馴染めていないのかもしれない。
「すみません。少し席を離れますね」
「え?どこ行くの?」
「えぇ……、少し……」
「ああ、トイレ?じゃあ私達も行くよ」
「ぇ……」
何とかこの質問攻めから逃れようと思って席を立ったら女子達が付いてくると言い出した。藤花学園では俺が立ったら誰も付いて来ない。一人になりたい時もあるし人に傍に居て欲しくない状況もあるだろう。だから皆無理に付いて来ようとしないんだけど、どうやら兼成高校では女子は連れションに付いてくるようだ。
このままじゃしたくもないのに女子と一緒にトイレに入ることになってしまう。どうにかしなければ……。
「いえ、転校初日ですので少し職員室に用がありまして……、時間がかかるかもしれませんので皆さんは教室でお待ちください」
「そう?じゃあそうしましょうか」
職員室まで付いて来るとか言われたら困るので先に時間がかかるとか付いて来なくて良いと付け足しておく。さすがにそう言われてまで付いて来ようと思う者はいなかったようだ。リーダーの糸瓜が引き下がったので他に付いて来るという生徒もいなかった。
別にトイレにも職員室にも用はないんだけどああもクラスメイトが集まってきて質問攻めされたら堪らない。何とか言い訳を作ってクラスから出た俺は何とはなしに廊下を歩いていた。
「あ……」
「あぁ、お隣の……、えっと……」
「露草です。堀露草」
「そうですか。堀さん。私は九じょ……、長尾咲耶です。よろしくお願い致しますね」
廊下を歩いていると糸瓜の逆隣に座っていた大人しい子とばったり出くわした。ようやく名前を聞けたのは良かったけど会話が続かない。他のクラスメイトみたいに質問攻めにされるのも困るけど相手が大人し過ぎて会話が続かないのも困る。
「こんな所に居て良いんですか?長尾さんは山本さんに気に入られているみたいですしちゃんと山本さんに付いておいた方が良いですよ」
「……?どういう意味でしょうか?」
露草の言葉に首を傾げる。確かに糸瓜はクラスのリーダー的存在っぽい。でもだからってずっと糸瓜の傍に侍らなければならないというものでもないだろう。
「ご存知ないんですか?山本さんは山本商船の社長の娘さんなんです。クラスでも他の人達を纏め上げていたでしょう?」
「あぁ、そうでしたか。山本さんのお家のことについては聞いておりませんでした」
山本商船と言えば世間では大手と呼ばれる船会社だな。ただ造船から海運まで全てを行っている近衛財閥とか九条グループからすれば規模が違うと言わざるを得ない。グループだけじゃなくて商船近衛とか九条海運とか単体で比べてもスーパーゼネコンと中堅ゼネコンくらいの差がある。
「そして山本さんは貴族が嫌いなんです。庶民からのし上がった山本商船は貴族が支配する財閥の体制に批判的でその結果貴族嫌いの家庭で育ち本人も根っからの貴族嫌いに育たれています」
「へぇ……。そうなのですね」
気持ちは分からなくもない。山本商船は所謂成り上がり、成金だ。そして成り上がるためにはすでに利権を押さえている貴族は敵も同然だろう。そんな家庭で子供の頃から貴族に憎しみを持つように育てられたら貴族嫌いにもなる。でもそれなら長尾家の娘の振りをしている俺も敵だと思われるはずだけどな。
「私の家は貴族なので山本さんから目の敵にされているんです。私の所に来たら長尾さんも巻き添えになりますよ」
「そうなのですか?」
露草の家は貴族家なのか。だったら……。
「そうなんです。だからもう私には……」
「貴族の堀家と言えば藤原氏ならば今出川家侍の堀家か、菅原氏であれば花山院家侍の堀家でしょうか?」
「え?」
「……え?」
露草が首を傾げている。俺も首を傾げる。俺は他に堀家という貴族家を知らないけどもしかして間違っていただろうか?
「どっ、どうしてそんなに詳しいんですか!?」
「え~……、私は九条家諸大夫の長尾家の三女ですので……、私も貴族家の者ということになります」
「九条家諸大夫!?いえ、それにしても堀家なんて言われて花山院家侍なんて普通出てこないでしょう?まさか貴族家を全て覚えているんですか!?」
「あっ……、いえ……、全てというわけでは……。たまたまですよ。たまたま……、あははっ!」
やべぇ……。普通は貴族家全てを覚えているものじゃないのか?主要な貴族家ならプロフィールから家族構成から、なんなら写真まで見て覚えているはずだろう?地下家や一般に降りた分家でも名前くらい全部覚えているのが常識だ。皐月ちゃんや薊ちゃんだって覚えている。たぶん?薊ちゃんは怪しいかもしれないけど……。
「でもそうですか……。長尾……、なるほど……。長尾さん……、そのことは山本さんに、いえ、誰にも言ってはいけませんよ。そして何事もないような顔をして貴族とは無関係の振りをしてください。山本さんに知られたら長尾さんも大変な目に遭います」
どうやら露草はその糸瓜に大変な目に遭わされている人物らしい。自分がそんな目に遭っているのに他人を心配して注意してくれているんだな。
「ですが私や堀さん以外にもこの学校には貴族出身者がいるのでしょう?」
「確かに居ます。でも皆山本さんにターゲットにされていなくても肩身が狭い思いをしています。だから長尾さんも残りの学生生活を平穏に過ごしたければそのことは黙っていて、私とは関わらないようにしてください」
「ご忠告ありがとうございます。ですがわざわざ言い触らすことではなくとも黙っておくことでもありません。名乗るべき時と場合であれば私は正直に名乗ります」
「……そうですか。この学校にも当初は成金の山本商船なんてと言って歯向かおうとした人も居ました。でもその人達はもうこの学校を去りました。それがどういうことか……、転校してきた長尾さんならお分かりじゃないですか?それでもそうされると言われるのなら私からはもう何も言えません」
「はい。ご心配とご忠告ありがとうございます」
「…………」
露草はもう何も言うこともなく立ち去った。他の貴族家の子達はターゲットにされていないと言っていた。それは露草が糸瓜のターゲットにされていて、他の貴族家の子達はターゲットにされる暇がないということだろう。そして糸瓜に逆らった貴族家の者達はもう居ないと……。
なんだかきな臭い感じがするところへ転校してしまったようだな……。
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兼成高校に変わった転校生がやってきてから暫くが経った。三年生の一学期の途中という中途半端な時期に何故転校生がやってきたのかは分からない。またやってきた転校生はその本人自身も不思議な存在だった。
見た目は激しく地味だ。顔を隠すように前髪を下ろし大きな眼鏡で顔はよく見えない。髪形もお下げでどう考えても地味を徹底している。しかしその立ち居振る舞いはどこか気品を感じさせるものであり、また顔を隠そうとしているような者に特有の性格の暗さもない。
話しかければ優雅とも思える所作で気さくに返してくれる。何よりも男子の目を惹き付けるのがそのプロポーションだ。出る所は出て引っ込むべき所は引っ込んでいる。素顔を見た者はいないがその所作や雰囲気、そしてプロポーションから転校生、長尾咲耶は絶対美少女だろうと噂になっていた。
露草はそんな長尾咲耶と転校初日に話してからたまに山本糸瓜に見つからない場所では話をすることもあった。九条家諸大夫の長尾家だという咲耶にこの学校で平穏に暮らしていく方法を教えたが、今の所は糸瓜も気付いていないのか咲耶と糸瓜の間も特に問題ないように思えた。
「はぁ……。どうしても行かなければ駄目ですか?」
「当然だろう!前々からご招待を受けていたんだ!今日の九条家のパーティーには絶対に参加しなければならない!これも貴族の務めだ。それくらい分かっているだろう?」
「はい……」
家でパーティーに向かう準備をしながら露草はどうにか今日は欠席出来ないかと考えていた。父の言う貴族の務めというのも分かっているつもりだ。しかし住む世界の違う九条家のパーティーになど出席しても恥を掻くだけだろう。どうして父にはそれが分からないのか。
「お前ももう良い歳だ。このパーティーで婚約者でも見つけなさい」
「はい……」
父はいつも良い婚約者を見つけて家同士の縁を繋げとばかり言ってくる。娘の幸せを願っているわけではなくただ家と自分のために行動しているだけだ。
(あっ……。でも九条家のパーティーなら九条家諸大夫も招待されてるよね?じゃあ長尾さんも居るのかな?)
中途半端な時期に転校してきたクラスメイト。もしかしたら九条家諸大夫ならば九条家のパーティーに招待されているかもしれない。そのことを少しだけ期待して露草は九条家のパーティーに出席した。しかし世の中はそううまくはいかないように出来ている。
「はぁ……。長尾さんはいないか……」
大規模なパーティーなので招待客全員を確認したわけではない。だから会場のどこかには居る可能性もある。しかし露草が捜した限りでは長尾咲耶を見つけることは出来なかった。
「九条家のパーティーに当家のような地下家を呼んでいただきありがとうございます!」
「ご招待いただきありがとうございます」
露草は家族と一緒に主催者への挨拶に訪れていた。遠くで開会の宣言などをしている姿は見かけたが間近で見てみれば驚くしかない。
(うわぁ……。これが九条家のご令嬢かぁ……。同じ人間とは思えない……)
煌びやかなドレスを身に纏い豪華な宝石や貴金属で身を飾っている。そこに立っているだけでまるで本人の体から光を発しているかのようだ。あまりに眩しくて真っ直ぐ見詰めることも出来ない。
尤も仮に真っ直ぐ見詰めることが出来たとしてもそんなことをすれば不敬だとして堀家がお取り潰しにされかねないので見れないのだが……。
「ようこそお越しくださいました。今日はパーティーを楽しんでいってくださいね」
「はい!ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
父に倣って慌てて頭を上げて九条様の前を辞した。
「あ~緊張した……」
「ふむ……。主催者への挨拶も済んだし後はどこか利益になりそうな相手でもいないものか……」
「…………」
そう言うと父は露草を置いてさっさとその場を離れてあちこちで他の貴族達に声をかけ始めた。あの父は家と自分のことしか考えていない。だからあんな……。
「はぁ……」
露草は煌びやかなパーティーに来ても気分が晴れることはなく、また来週からの学校のことを思って憂鬱な気分になったのだった。




