第千百二十五話「今年も梅雨の季節がやってまいりました」
修学旅行も終わって、伊吹をぶちのめしてから何日も経った。でもそれから特に何もない。
俺は今回の件を理由にして近衛母から何か要求があるものだと思っていた。近衛母のことだからこちらに非があると思えば多少無茶な要求でも注文でも何でも言ってくるものだと思ったのに、実際にはこれまで近衛母から接触も連絡も何もない。
もしかしたらこちらから頭を下げに来るのを待っているのかもしれないけどこちらから謝りに行くつもりはない。それは俺が一人で決めたことじゃなくて両親と相談の上で九条家としてそう対応すると決めたからだ。
向こうが悪いとは思っているけど人様を殴って怪我をさせたのは俺だ。だから経緯はどうあれ俺の方から怪我をさせてしまった相手の家に謝りに行くのが筋かもしれない。そう思ってあの後両親に報告して対応を相談した。でも両親は相手にする必要なしとして謝りに行かなくて良いと言ってくれた。
近衛家側から接触や連絡、何らかの要求があれば九条家として対応するけど、伊吹にビンタしたことについてこちらから近衛家に接触したり謝罪したりはしない。俺にもそうするように言われたので両親も俺よりも伊吹の方に原因があると思っているということだろう。
こういう時、近衛母だったらここぞとばかりにこちらが悪いと責め立てて、何らかの要求を通そうとしてくると思っていた。だけどこれまで近衛家側からは接触も連絡もないし伊吹も学園で何も言ってこなくなった。
五北会サロンでビンタして、翌日に教室でもビンタした。それから伊吹は俺に何か言ってくることもなくなっている。こちらもいつもの伊吹だったらこれを理由にしてもっと絡んでくるかと思う所だけど、あれ以来槐と二人揃って俺の所には近づいても来なくなった。
俺に二度もビンタをされたから恐れて……、じゃないだろうな。そんなことで手を引くような奴なら今までしつこく付き纏って来ていないわけで、あれだけ何かと俺に絡んできていた伊吹や槐があんなことくらいで手を引くはずもない。むしろ普通ならこれを利用してもっと絡んでくるはずなんだから……。
それを思うと大まかに考えられるパターンは二つ。
一つは近衛母が何かを言った可能性……。伊吹自身はビンタの件を盾に取って俺の責任を追及したいと思っているけど、近衛母に何かを言われて止められたから黙って何も言わなくなったという可能性はありそうだ。近衛家として九条家に何も言って来ていないのがますますその可能性を高めている。
二つ目は近衛母に関係なく伊吹が何かを企んでいる可能性……。単純に直接的に俺にビンタの件で何か言ってもあまり効果はないと思って、今は企んでいる何かの準備を進めているという可能性もあるかもしれない。伊吹一人だったらそんな知恵のある行動をするかどうかはわからないけど、槐やそれ以外の参謀や支援者がいればそういう可能性もある。
何にしろすでに六月に入ってそれなりに経っているというのに教室ビンタの一件以来伊吹達からも近衛家からも何もないんだ。むしろそれが不気味すぎる。絡まれたら絡まれたでウザイけど、絡んでこれる理由や事情があるのに何もしてこないのはそれはそれで気持ち悪い。
「咲耶様!今日の放課後が楽しみですね!」
「え?えっと……、えぇ……、そうですね?」
「忘れてしまわれたんですか?今日の放課後は品評会ですよ!」
「いえ、忘れていたわけではありませんが……」
そうだ。今日は放課後に毎年恒例の品評会がある……。そう、インナー品評会が……。
可愛い女の子達が惜しげもなくスカートを捲り上げて、その下に穿いている梅雨や夏向けのインナーを見せ合い、どれが良いか品評し合う。品評といってもどの子が一番セクシーだとか可愛いとかそういう話じゃない。ただ暑い梅雨や夏を乗り切るために機能的にどれが良いかお互いに教え合い、品評し合うというわけだ。
今年も六月に入って梅雨の季節になってきている。完全な梅雨入り、梅雨明けがいつというのは近年曖昧になりつつあるけど、俺達が住んでいる都内は大体六月初旬から七月下旬の間のどこか一ヶ月くらいが梅雨という感じだろう。
今年もすでに梅雨のジメジメした空気になってきていて蒸し暑い。冬用の厚手のタイツどころか春秋用の薄手のものでも蒸れてきている。今日の品評会で皆で知恵を出し合って良いインナーを選ぶことが目的だ。決して女の子達の秘められたスカートの中を覗きたいなんて下心はないぞ!
「(皆のあられもない姿……)ムフフッ!」
「「「「「(咲耶ちゃんのスカートの中を……)グヘヘッ!」」」」」
いやぁ!今日の放課後が待ち遠しいなぁ!
~~~~~~~
六月のある日の放課後、咲耶グループのメンバー達は咲耶が来るよりも早くにいつもの空き教室に集まっていた。
「さぁ!今日は一年に一度のお楽しみよ!」
「「「「「おーっ!!!」」」」」
集まっているメンバー達のほとんどは一様に目をギラギラさせていた。ギラギラしていないのはまだ慣れていない向日葵と、少し遠慮気味な花梨くらいだった。
「ちょっと向日葵!何をポカンとした顔をしてるのよ!今日のことはちゃんと説明しておいたでしょ?もちろん向日葵もちゃんと穿いてきてるんでしょうね?」
「えっと……、はい……。一応……」
向日葵も事前に説明されているし準備もしてきている。しかし何年もやり慣れているメンバー達と同じように出来るわけもない。一応何となく聞いていても実際に何度も経験した者しか分からないことは確かにある。
「まぁ向日葵の性格なら戸惑うのも分かるわ……」
「私達のを見てるうちに慣れてくるよー!」
「あはは……」
それは慣れて良いことなのか?と思うが言えないので曖昧に苦笑いを浮かべた。他のメンバー達は咲耶がやってくるまで入念に打ち合わせを行い、いかに咲耶様を恥ずかしがらせて堪能するかの検討に余念がなかった。
「御機嫌よう皆さん。お待たせしてしまいましたね」
「咲耶様!」
「これで揃いましたね!」
「さぁ始めましょう!」
「えっ……、えぇ……」
やってきた咲耶は教室内の一種異様な雰囲気に戸惑いつつも頷いて席に着いた。この空き教室はいつも咲耶達が勉強会用の部屋として利用しているので無関係の者が勝手に来ることはない。下手に騒いだり迷惑をかけてこのメンバーに睨まれたら貴族社会では生きていけなくなる。そんなリスクを犯す者は今の学園にはいなかった。
「ハァッ!ハァッ!もう我慢出来ません!咲耶様!見てください!さぁ!見てください!」
「えっ……?ちょっ!?紫苑!?また穿いていないではありませんか!?」
インナー品評会が始まると手始めに紫苑が咲耶の前に立ち思いっきりスカートを捲り上げた。その下には当然インナー……、はなく、紫苑の下着が丸出しになっている。
「穿いてますよ!良く見てください!さぁ!ハァッ!ハァッ!ほらほら!見てください!」
「え?……いや!やっぱり穿いてませんよね?これはインナーじゃなくて下着ですよね?」
「下着だってインナーですよ!ほら!見てください!もっと見てください!ハァハァ!」
血走った目と上気した顔で紫苑はハァハァと呼吸を乱しながら咲耶の座っていた席の机の上にまで乗って、スカートの中身を咲耶の目の前に見せ付けていく。
「さぁ!もっと!息がかかるくらいにぃぃぃ~~~っ!ぁ……」
「「「……って、あっ!!!」」」
机の上に立って調子に乗っていた紫苑は……、ツルリと滑って上から転げ落ちた。そしてゴンッ!という音が教室に響き倒れた紫苑がピクピクと釣り上げられた魚のように動いていた。
「しっ、しお~~~ん!?大丈夫ですか!?」
「あ~ぁ……。馬鹿ねぇ……」
「あちゃー……」
この後机から落ちて失神した紫苑は病院へと運ばれていったのだった。
~~~~~~~
「思わぬ事故がありましたけど続きといきましょう!」
「「「おーっ!」」」
「え~……、こんなことをしていて良いのでしょうか?」
「「「良いんです!」」」
紫苑は運ばれていったが落ち着いたのでインナー品評会は再開されていた。少し時間が押しているが問題はない。咲耶は紫苑の心配をしているが他のメンバーは割りと平然としている。
「それじゃ次は私が見せますね!どうぞ!」
「薊ちゃん……、もう少し恥じらいをですね……」
薊も紫苑ほどではないとしても恥じらいもなくペロンとスカートを捲って見せていた。
「見られても良いようにインナーを穿いてるわけですし!今日はその品評会じゃないですか!」
「それはそうかもしれませんが……」
確かにインナーの品評会なのだから見せなければ始まらない。それに見られるために穿いてきているのだから見られても問題はない。しかしあまりに遠慮も恥じらいもない薊に咲耶の方が照れてしまっている。
「薊ちゃんはまたいつも通りの普通のスパッツですね」
「違うわよ!今年のはシームレスなんだから!」
「「「結局いつものスパッツと同じでは?」」」
「違うったら!穿き心地が違うんだから!」
「あぁ……、そういえばそういう情報を出し合う機会でしたね……」
「なるほど……。そういう意味では有意義……、なんでしょうか?」
薊は今年のスパッツの違いなどを色々と説明した。照れて真っ赤になっている咲耶にスパッツを見せつけながら……。説明しながら次第に呼吸は浅くなり頬は上気してきている。薊も紫苑の気持ちが少しわかってしまった。
「次は私がいくねー!」
「ですからどうして皆さん私の前で私に向かって見せてくるのですか!?」
「そりゃー咲耶ちゃんに知ってもらいたいからだよー!」
「なっ……、なるほど?」
咲耶はまったく分かっていないが譲葉の言葉に曖昧に頷くことしか出来なかった。それから順番に皆が咲耶の前でスカートを捲ってインナーを見せつけながら今年のインナーのポイントや使用感を伝えていく。
「残るは花梨と向日葵ね。どっちから行く?」
「それでは私が……」
立候補したのは花梨だった。花梨は恐る恐る咲耶の前に立つとガバッ!とスカートだけではなく上着のお腹部分まで捲って見せた。
「私はこれです!」
「えっ!?これはただの下着では!?」
花梨が見せたのはただの黒い下着のようだった。ただ足からお腹の方まですっぽり覆うおばちゃんパンツのような感じのものだ。
「ただの下着じゃありません!これは補正下着です!これならもう九条様にぷにぷにされませんよ!」
「「「おぉ~……」」」
補正下着、ファウンデーションと呼ばれる物でテレビ通販などでもよく宣伝されていたりする。下着で締めることでぽっこりお腹がすっきり!なんて謳い文句を聞いたことがある人も多い。ででーんっ!とそう言い切った花梨にメンバー達は謎の歓声を上げていた。そして咲耶は……。
「…………」
「…………」
花梨を見詰めると徐に手を伸ばした。そして……。
「ぷにぷにぷにっ!」
「あっ!あっ!くっ、九条様!ぷにぷにらめぇ~~~~~っ!」
咲耶は無意識に花梨のお腹に手を伸ばすと補正下着の上からでも存分にぷにぷにを行った。多少の阻害効果はあっても完全に止めるには至らなかった。散々ぷにぷにされた花梨はクタリとその場に崩れ落ちる。
「ハッ!?わっ、私は何ということを!?りんちゃん!大丈夫ですか?りんちゃん!」
「はひぃ……」
蕩け切った顔で立てなくなっている花梨はメンバー達によって移動させられた。そして残るは向日葵だけとなった。
「さぁ向日葵!」
「はっ、はい……」
顔を真っ赤にしている向日葵は咲耶の前に立つとソロリソロリとスカートを捲り上げた。その下にあったのは……。
「え?これは?」
「えっと……、スクール水着です……」
「は……?またスクール水着?それは余計に暑いのでは?」
「はい。暑いです……」
「「「「「…………」」」」」
向日葵はただ下着を隠すことしか考えていなかった。インナーとして水着なんて着ていたら上半身まで暑くて仕方がない。確かに見られる方に関しては水着なのだから見られても平気かもしれないがそれはあまりに有り得ないチョイスだ。
「……ふっ、ふふっ!ひまりちゃんらしいですね」
「九条様……」
咲耶がふっと笑ったことで向日葵も照れ笑いを浮かべる。二人の間にはどこか柔らかく温かい空気が流れていた。しかしそれもここまでだった。
「さぁ咲耶様……」
「最後はオオトリを……」
「「「グヘヘッ!」」」
「あの……、皆さん……、落ち着いて。ね?落ち着きましょう?」
「私達は落ち着いてます!」
「問答無用!」
「剥いちゃえ!」
「あーーーれーーーっ!」
ジリジリと逃げようとしている咲耶をメンバー達が取り囲む。そして羽交い絞めにしてからスカートを捲り上げた。
「あっ!あぁっ!だっ、駄目です!こんな……、恥ずかしい……」
スカートを捲り上げられた咲耶は羞恥で顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。もちろんスカートの下にはインナーを着用している。見られても問題ないもののはずだ。しかし他人の手によって無理やり捲られていることにいつも以上の羞恥を感じていた。
「どれどれ~?手触りは~?」
「あっ!薊ちゃっ!触っちゃ……、あぁっ!」
スリスリと咲耶のインナーの手触りを確認する。
「ちょっと薊ちゃん!一人だけずるい!交代!交代して!」
「あぁっ!そんな!皆さんで一斉になんて!」
次々に咲耶の足に群がってはインナーの素材を確かめてくる。次々に来る手が途切れることはない。
「蒸れ具合はどうかなー?」
「あっ!あっ!譲葉ちゃん!隙間に手を入れちゃらめぇ~~~!」
スパッツの端から少しだけ指を入れて中の蒸れ具合を確認する。
「あっ!あっ!あっ!あぁ~~~っ!!!」
その後咲耶は散々メンバー達にインナーの穿き心地や蒸れ具合を確認され、ビクビクと仰け反ったかと思うと呼吸を乱してクタリと崩れ落ちたのだった。




