表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/39

第五話 トルルザ教会の重大機密 其ノ三

注1 ヒロトが耳なしの罪について悩んでいる時のキャラバンメンズの様子は、本編の『第六章 四、五話』にて。








 黒猫は空からやって来た。耳なしと同じ空飛ぶ船に乗って――。


 いや。その人は黒猫ではなかった。少なくとも、空飛ぶ船から降りた時は。


 その人は……耳なしだった。


 教会の係りの者は、いつも通りに対応した。情報を渡し報酬を要求した。その耳なしは静かな瞳に怒りを宿して言った。


『教会がこの地を裏切るならば、俺がチキュウの……全人類の敵に回ったとしても道理が通るだろう』


 そう言いながら背を向けたその人の頭には、黒い耳が、後ろ姿には見事に長い、黒い尻尾が揺れていたという。


『ようやく決心がついたよ。礼を言いたいくらいだ』


 そうして、黒猫となった『耳なし』は、ザバトランガの人々をまとめ上げ、耳なしを討つために旅立った。


 教会はその間『黒猫』と『耳なし』の両方に、戦々恐々としていただけだった。



「この時点ですら、ザバトランガの教会は『人の道を説く者』としての資格を失っていた。そして、更に罪を重ねる」



 アトラ治療師カラ・マヌーサが、眉根に深く皺を刻み、大きく息を吸ってから話を続ける。



 黒猫と共に戦った各街や村の人々が戻り、黒猫はどこかへ消えて、空飛ぶ船が飛ぶ事もなくなった。


 それは教会にとって、全て都合の良い事だった。耳なしを絶対的な悪として、自分たちの罪をなかった事にした。耳なしから受け取った全ての物を、神殿を作って封じた。


 黒猫や一緒に戦った者たちを英雄に祭り上げたのも教会だ。神殿は『英雄の神殿』と皮肉な名前が付けられた。



「ヒロト殿。ザバトランガの教会の者は、人を説く心と癒す技を修めるだけでなく、武術の習得が義務とされている。耳なしと戦うためらしい」


 一番戦わなければならない時に、戦わなかったくせにな。


 アトラ治療師カラ・マヌーサが、自嘲を隠そうともせずに笑った。


「後悔した、違うか? 力も、心も弱かった。後悔して、次は戦おう、思った」


 教会の過ちを、なぜアトラ治療師は知っている?


「あ……ああ。ザバトランガの教会の者は、責任ある立場となると教えられるんだ。過ちを忘れるな、耳なしと戦えとな」


「俺も、耳なしの罪、同じと思う。謝る相手も償う相手いないなら、認めて、忘れないで、繰り返さない。それで良い」


「それで良いのか?」


 俺もキャラバンの連中に、そう言ったな!


「アトラ師は過去の、間違った人と違う。アトラ師が間違ったら、俺が倒す」


「倒すのか!?」


「ああ、倒す」


 これも、アンガーが俺に言ってくれた事(注1)だ。アトラ師は少し複雑な顔をしてから、声を上げて笑った。


「ありがとうヒロト殿。この年になって、ようやく救われた思いだ」


 アトラ師が穏やかな目をして言うのと同時に、扉を叩く音がした。どうやらミラルさんが俺の荷物を持って来てくれたらしい。これ以上ない程の、素晴らしいタイミングだ。


 さて、今度は俺の番だな。地球と地球人の事、俺たち家族がこの地に来た時の事を説明しなくてはならない。


 そういえばさっき、興味深い話があったな。


『耳なしから受け取った物を、神殿に封じた』


 英雄の神殿か……。もし可能なら行ってみたいな。行って調べたら、きっと色々な事がわかるんじゃないか?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ