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お父さんがゆく異世界旅物語〜探求編〜  作者: はなまる


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第三十四話 黒猫の名前

《地球とパスティア・ラカーナに関する年表っぽい資料》



ヒロトたちが暮らしていた地球

約五十年後

獣化ウィルス発生

数年後

ワクチンの開発に成功し急速に沈静化

政府が獣化被害者の処遇に困る


当時莫大な時間と費用をかけた、とある小惑星開発。地球からの距離や厳しい環境に、計画が破綻しかけていた。


獣化被害者を開拓・移民団として送り出す

数十年後

地球サイドが、小惑星の所有権を移民団に譲渡。地球人の為の惑星開発は放棄される。


この頃から人型に近い姿をとれる子供が生まれ始める

獣化被害者の子孫たちは、徐々に地球人であった事を忘れ、独自の言葉や文化を育て、厳しい風土に負けずに、逞しく命を繋ぐ

獣化被害者が地球を旅立ってから、約五百年後


とある大国の責任者が、小惑星開発のその後の調査を始める


無人探査機が持ち帰った映像に、世界中が魅了される

パスティア・ラカーナブーム

世界的に耳や尻尾、角や小翼を着けるファッションが大流行

渡航ツアーが組まれ、空飛ぶ船での観光が盛んに行われる


パスティア・ラカーナで地球人は神の使徒(カチューン)と認識され『耳なし』と呼ばれるようになる。


ザバトランガの教会が、現地案内や人材紹介を通して耳なしと癒着し、腐敗してゆく

パスティア・ラカーナの人々を、極秘裏に地球に連れて帰る耳なしが現れる

連れ去りは次第にエスカレートし、集落ごと連れ去られるなど、大規模な拉致が行われる

黒猫が現れ、耐え兼ねた人々と現地耳なしとの紛争が勃発。現地施設と観光船を全て破壊される

パスティア・ラカーナに地球人が来る事はなくなり、空飛ぶ船が飛ぶ事もなくなった

耳なしも、黒猫の英雄も、物語として語り継がれる存在となる


 青年と呼ぶには少し早い。まだ成人はしていないだろうその人は、俺たちを部屋に招き入れると『ようこそ、耳なしの船へ』と言って、少し照れ臭そうに笑った。


「おじさま、黒猫の英雄って……物語の中の人でしょう?」


 クルミが声を潜めて言った。


「あなた方の時代でいう『人工冬眠』に似た装置……移民船のシステムを使って、仮死状態で眠っていたんですよ」


「あ……ごめんなさい! わ、私、SF映画、好きです!」


 クルミが素っ頓狂な返事をする。内緒話を聞き咎められて、うろたえているのだろう。


 クルミでなくとも混乱する。


 移民船は俺たちにとって、未来の地球の話、黒猫の英雄はパスティア・ラカーナの歴史上の人物だ。


「マスター。約束を果たしましょう」


 ぴーさんの仮面を外したはずの黒猫は、俺をマスターと呼んだ。


「あなた方が、なぜこの地に飛ばされて来たのか……。帰る方法があるのかどうか。でも、その前に、話しておかないと、いけない話があります」


 俺たちに椅子を勧めて、自分は立ったままだ。コーヒーまで振る舞われてしまった。久しぶりに飲むコーヒーの味は、俺の良く知っているものと同じだった。


 黒猫の表情は、どこかで見覚えがある。……ああ、わかった。俺の仕事用のパソコンに、ジュースをこぼしてしまった事を、白状しに来た時のハルの顔だ。


 自分で収拾がつかなくなって、途方に暮れて叱られに来た時のハルが、ちょうどこんな顔をしていた。


『叱られるに決まってる。でも、もう自分ではどうにもならない。叱られても良いから、お父さんなんとかして!!』


 そんな感じの顔だ。


 

▽△▽


 パスティア・ラカーナ中の耳なしの施設を、破壊して歩くのはそう難しい作業ではなかった。耳なしたちの多くは観光客だったので、紛争が起きた事を告げて宣戦布告すれば、皆地球へと逃げ帰った。


 一部の耳なし拉致に関係していた組織とは、全面戦争になった。逃げ場を奪い、追い詰め、容赦なく叩き潰した。


 地球の大国に向けて、一切の干渉を拒絶する声明を送った。


 元より、一方的な搾取の関係だった。パスティア・ラカーナ側に不便があろうはずがない。宇宙船の発着システムを破壊してしまえば、地球からはそう簡単に手出しが出来る場所ではなくなる。




 淡々と時系列に進む話に、ハルとハナが船を漕ぎはじめた。少し物騒な話になりそうだったので、ちょうど良い。ハナはナナミの膝で、ハルはクルミに寄りかかっている。


「僕は地球の、衛星通信システムの研究者なんです。地球からの通信を遮断して、アクセスしたPCにはシステム障害が起きるコンピューターウィルスを送りました」


 トルルザ教会のアトラ治療師が『黒猫の英雄は、おそらく耳なしだ』と言っていたな。その耳と尻尾は作り物なのだろう。とても良く出来ている。


 作り物の耳を――何百年もたった今も着けている。黒猫のその気持ちを想うと、切なくて……掛ける言葉が見つからない。


「地球人はこの地の人々を、未開人だと舐め切っていましたからね。効果は抜群でしたよ」


 まるで成功した悪戯を、得意そうに話す子供のようだ。俺が思っているよりも、黒猫は大人ではないのかも知れない。




 そうして、ハリネズミのような防御システムを張り巡らせて、何年か過ぎた頃――そのシステムを突破した、緊急通信を受信した。


『避難民を受け入れて欲しい』


 地球で、大規模な森林火災が相次いで発生したらしい。消火活動が追いつかず、気温が上昇し、二酸化炭素が爆発的に増加した。


 ドーム型の避難施設の建設が間に合わずに、月の居住コロニーにも避難民で溢れ返った。


『生存可能な惑星への移動が間に合わない。パスティア・ラカーナとの関係の修復を望んでいる。話し合いに応じて欲しい』


 そんな内容だった。


「虫の良い話だと思いませんか? 僕は思いましたよ。あんたら、自分たちがパスティア・ラカーナで何したか、わかってんのか? 僕は……僕は家族と故郷を耳なしに焼かれた!!」


 感情を抑えるような口調が、一変する。


「地球が炎に巻かれるのは、因果応報でしょう? 耳なしは『火を吹き、鉄の玉を撒き散らし、笑いながら人を殺す悪魔』だ。勝手に、笑いながら滅びればいい!!」


 俯いたままで、吐き捨てるように言う。




「マスター、僕の名前を聞かないんですか?」




 僕の名前はクロル。『耳なしクロル』。春先に、最初に吹く風と同じ名前ですよ。








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