表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お父さんがゆく異世界旅物語〜探求編〜  作者: はなまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/39

第二十二話 谷大鷲 其ノ二

 隣で見る見るうちに獣化(鳥化か?)してゆくハル。思わず息をするのを忘れるほどに、視線が釘付けになる。



 俺は獣化については、プリキュアの変身シーンのようなものを思い浮かべていた。キラキラなエフェクトがシャワシャワして、変身〜! みたいな感じだ。


 ところが、実際にはなかなか生々しい。CGで進化の過程を逆回転の倍速で見でいるようだ。ハナやナナミの毛が生えていく様子や、牙が伸びてゆく様は何度見ても見応えがある。



 ハルの小さな翼が、腕を覆いながら伸びてゆく。髪の毛が羽角を中心に、氷が溶けるように羽毛へと変化する。足の鳥成分が増し、逞しく鋭く変わってゆく。


 ナナミが『ちょっと待った!』と言いながら、急いで服を脱がせる。


 身体の柔らかな雪豹であるハナやナナミと違い、鳥の翼は服を傷めてしまいそうだ。でも、待てないんだろう? 自分でいつも言ってるのにな。



 ハルが顔を少し(しかめ)て、翼に変化しつつある手を鼻先に持っていく。


「ハル! どうした? 痛いのか?」


 つい心配になって声をかける。完全に獣化(鳥化)してしまえば言葉を話す事は出来なくなる。


『ううん、なんかムズムズすル。カユイ』


 (かす)れた声……時々ヒューッという呼吸音のような、笛のような音が混じる。


 ハルが翼を退けると、クチバシが現れていた。


「「おおーっ!」」


 俺とナナミ、同時に声が出た。


 目やクチバシには猛禽類の精悍さがあるが、まだウブ毛が残る幼鳥だ。だが、ぴーさんの宣言通り、茜岩谷(サラサスーン)の空の王者、谷大鷲だ。


「ハルちゃ、しゅごい!! カッキー(カッコイイ)! とべるの?」


 ハルがパタパタと翼を動かすのを見て、ハナが歓声を上げる。


 俺は鳥には詳しくないが、翼の大きさや丸っこい身体からして『まだまだ巣立ちまでは間がある』くらいの幼鳥に見える。


 ハルが必死で翼を羽ばたかせると、ふわりと身体が浮くものの、ふらふらとバランスを崩し、べしゃりと落ちた。


 おいおい! 最初から無理するなよ!


 大人たちがハラハラ見守る中、ハルは何度も果敢に挑戦を続ける。不器用そうに翼を動かしてほんの少し浮かび、よろよろと漂っては落ちる。


「ハル、家の中だと翼を傷めてしまうかも知れない。今はルルに診察してもらおうな。飛ぶ練習はあとでにしよう」


 ハルが翼を収め、頷いてからルルの方を見る。どうやら意思の疎通は問題ないようだ。


 二、三歩足を出してはみたものの、ハルはどう歩けば良いのか迷っている様子だ。谷大鷲の歩いているところは、俺も見た覚えがない。


 両足を揃えて、ポンポンと跳ねる。ハルくん、ソレ雀じゃね? 首を微妙に上下させながら、前傾姿勢でトトトトと進む。うん、ソレは大岩の家にいる足長鳥だな!


 ルルとナナミが小刻みに震えながら、笑いを(こらえ)ている。ハルの真剣な様子は、笑い飛ばしてしまうのは余りに不憫だ。


「ハル、ハル! お母さんも四本足で歩くの、最初は出来なかったよ! あとで練習しようね」


 ナナミがハルを抱き上げ、ルルの元へ連れていった。



「うん! 問題なしよ! 健康そのもの! 翼がまだ小さいから、余り高くは飛べないけど、そろそろ飛ぶ練習をはじめる年齢ね。でも、教会には鳥の子はいないのよね……あとで患者さんにでも聞いてみるわね」


 ハルが鳥の姿のままで頷いた。高く飛べないと聞いて、少しシュンとしているな。ハナがいつの間にかユキヒョウ姿になって、ハルの背中に乗り、尾羽にじゃれついている。


「さて、次は……!」


 ルルの言葉で、みんなの視線が俺に集まる。


『俺の番』だよなぁ。


「ヤー……(了解の意)」


 ルルの前で素っ裸になるのも(はばから)れるので、寝室にすごすごと引き揚げる。


 えーっと……『本能と手を繋ぐ』だったか? それから集中と解放。どこに集中して、何を解放すりゃあいいんだ?


 服を脱ぎながら、とりあえず谷大鷲の姿を思い浮かべてみる。そういえば、クルミが谷大鷲の雛を拾って育てていたっけ。今頃クルミはキャラバンで、この街に向かっている筈だ。


 雛は大岩の家に置いて来たんだろうか?


 ふわふわのウブ毛に包まれて、ピーピーと鳴きながら餌をねだる雛は、空の王者とは思えないほど可愛いらしかった。


 あんな感じのハルも、見てみたかったな。ちょっと残念。


 集中はしていなかったと思う。ボーッと考え事をしていただけだ。本能とやらと手を繋いだ覚えもない。


 ところが、気がつくと俺の身体は変化をはじめていた。


 ハルの時と同じだ。見る見るうちに翼が腕を覆ってゆく。身体の中心から、不思議な歓喜が湧き上がる。


 急いで服を脱ぎ捨てる。


 なんだ? この意味不明な多幸感は! 抑えようとしても湧き上がる……まるで魂の叫びだ。


 鼻と……左肘がムズムズしてくる。


 翼は、失った左手……肘から先にどんどん伸びてゆく。これは……!!



 ようやく冷静さを取り戻して、寝室の鏡を覗き込む。


 そこには、()()()()()()()を持つ、谷大鷲が映っていた。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?
― 新着の感想 ―
[良い点] じゅっ、獣化シーンきたーーーー!! ハルくんとヒロト、どうなるんだろうなーと正直一番楽しみにしてました(←こういう変身シーン大好き人間) 迫力と勢いがあって、思わず喉がゴクリ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ