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先輩と私の金曜日

作者: 於田縫紀

 今日のメニューはトマトシチュー。

 実は私の十八番。

 圧力鍋て時短出来るし野菜が多くて丁度いい。

 先輩の好きな甘めの味で、鶏肉もたっぷり。

 ローリエとちょっとのワインは隠し味。

 あとは先輩が来てからチーズ入れて溶かすだけ。


 サイドメニューのコールスロー&ポテトタマゴサラダも冷蔵庫にスタンバイ。

 部屋も片付けたし準備は万端。

 ベッドや布団のシーツだって昨日洗って干した奴に変えてある。

 お風呂場だって掃除済みだ。


 有谷朋美先輩は大学時代のサークルの先輩。

 どっちかと言うと無口でぶっきらぼう。

 でも実は親切で面倒見が良くてそして微妙に色々甘い先輩だ。


 大学を出て再会したのは平日の夜の街のスーパー。

 袋詰めの台の所で偶然に会った。

 私は先輩だとすぐにわかった。

 大学時代のまま身だしなみ最小限で、もう少しお化粧すれば綺麗なのにと思う感じで。


「お久しぶりです」

 声を掛けたのは私の方だ。

 実は内心どきどきものだったけれど。


「あ、ああ……可部も久しぶりだな」

 ちゃんと先輩も私の事を憶えててくれたようだ。

 ちょっとじゃなくてかなり嬉しい。

 2年の学年差もあるし大学時代は特別な関係にもなれなかったので。


「今、会社帰りですか」

「ああ」

 先輩が詰めている袋の中は黄色い箱でお馴染みバランス栄養食と袋ラーメン。

「まさかと思うけれど、それが普段の食事ですか」

「作るのが面倒」

「駄目ですよ、そんな食事」

 とっさに駄目出ししてしまう。


「1日1食はバランス栄養食だし」

「問題外です。普段からそんな食事なんですか」

「寮の台所は小さいし、どうせ食べて寝るだけ」

 見ると綺麗だった肌の感じが今はあまり良くない。重症だ。


「なら夕食位私が作りますから、食べに来て下さい」

 我ながら良く言ったなと今でも思う。

 まあ勢いというものだが、今思うとひやひやものだ。


「でも可部に悪い」

「1人分作るのも2人分作るのも手間に大差ありません」

 半分本当で半分ウソだ。

 自分独りだとごまかし手抜き料理ばかりだから。

「でもいつも定時に帰れるとは限らない。残業も結構あるし」

「私は事務職で大体定時だし大丈夫です」

「でも……」


 そしてついに先輩が折れる。

「なら週末の金曜日は。可部も土日は休みだろう」

「休みです」


「なら少し遅れても大丈夫か。でも土日に別約とか無いか」

「無いです。では金曜日ですね。私の家はわかりますか」

「この近くなら、後で住所をSNSで教えてくれ。今は大学の時と違うアカウントがメインだから」

 私は自然にSNSのID交換にも成功した。

 住所も電話番号も交換した。

 突発事態だったけれど、もう結果的には大大成功だ。


 以来金曜日夜が2人の食事会兼お泊り会になった。

 今日がその3回め。

 お泊まり会になったのは、食事終了後時間が遅くなったので『時間的に危険だから泊まっていけ。』と誘ったからだ。

 もちろん計画のうちだったけれども。

 布団だって実は事前に購入済みだったし。


「泊まったりしていいの。彼氏とかいたら誤解されないか」

「彼氏なんていません」

 言いよってくる問題外は何人かいた。

 正直下心見え見えで吐き気がする。

 私は先輩がいれば今はいい。

 男とちがっていい匂いがするし。


 スマホがSNS着信を告げる。

 先輩、駅に到着。

 私は弱火で煮込み中のシチューの中に細かく角切りにしたチーズを入れる。

 バケットも戸棚から出して適当に切る。

 先輩は若干先端恐怖症で刃物や尖った物は出せないから。


 チーズが溶けたのを確認して火を止める。

 料理入りの皿以外のカトラリー等は既にテーブルに準備済み。

 冷蔵庫からサラダを取り出してテーブルへ。

 パン入りのカゴもテーブルに。

 あとは先輩が来たらシチューを持っていくだけ。


 そうして、インターホンのチャイムが鳴る。

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