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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
メリナード王国領でサバイバル!
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第096話~大聖堂へ~

かたこりがつらい_(:3」∠)_

 少年の案内してくれた食堂で食事を済ませ、宿へと帰ってきた。

 え? 食事の感想とか少年から得た情報? ああ、うん。食事はね、まぁ肉とパン、スープって感じだったね。不味くはなかったし、ボリュームもあったけど特筆するような点は正直なかったよ、うん。

 この世界的には塩と胡椒をたっぷり使っていれば割と美食の類らしいです。塩と胡椒以外に蜜とか色々な調味料があった黒き森のエルフの里が世界標準で言えば進んでいる感じだったらしい。そして俺がクラフトで生み出す料理はその上を行く。まぁ、うん。宿の食事にも期待はしないでおこう。

 で、少年から得た情報に関しては……まぁ世間話レベルだったからね。彼は情報屋ってわけでも事情通ってわけでもないから、仕方ないだろうけど。ただ、俺みたいな傭兵か冒険者かって感じの奴らが徐々に集まってきているってのは確かであるらしい。

 それに、少し前には綺麗な揃いの鎧を着た教会騎士団も到着したと言っていた。恐らく例の聖女の護衛だろう。

 強いのか? と少年に聞いてみたのだが、わかんないと言っていた。教会騎士は無敵だっていう話は聞くけど、それだったら帝国との戦争にはとっくに勝ってるはずだよな、とも言っていた。一般的には精鋭揃いとされているのは確かであるようだが、少年は眉唾だと思っているらしい。

 うーん、俺には判断がつかないな。地下に戻ったらベスかポイゾに聞いてみよう。

 で、飯も食ったから宿に帰ってきたわけなのだが。


「やることがねぇ……」


 チラリと部屋の窓から陽の高さを推し量る。うーん、昼過ぎ、午後二時前後ってところだろうか。日没までまだ時間はあるが、今から教会に行って早速ミスリルのロザリオを入手するか……?

 時間的には十分行けそうな気がするけど、あまり急ぐと事を仕損じるような気がする。今日はそれなりに緊張もして精神的にも疲労しているはずだし、部屋で大人しくしているべきだろうか。

 とは言っても、この狭い部屋の中じゃクラフトもできないし暇も潰せないよなぁ。世間一般の傭兵や冒険者ってのはどうやって暇を潰しているんだろうか?

 女将さんか宿の娘さんに聞こうかとも思ったが、不自然だろうか? 歴戦かどうかはわからないが、この宿に泊まれる程度に稼ぐ傭兵か冒険者が一般的な暇の潰し方を聞いてくる……うん、奇妙だな。

 いや、待てよ? 暇だからどこかに遊びに行こうかと思うんだけど、良い場所知らない? って聞いてみるのは十分アリだな。俺がこのメリネスブルグに初めて来たから遊び場がわからないというのは不自然ではないはず。

 というわけで、部屋を出たら丁度通りがかった宿の娘さん――確かラザエラちゃんだったか――に聞いてみた。


「遊び場、ですか?」

「そう、遊び場というか暇潰しをできるところだね。この街に来るのは初めてだからさ」


 どうもこの子は傭兵とか冒険者の類を怖がっているようなので、できるだけ優しくフレンドリーに話しかけてみる。みた。のだが。


「え、ええっと」


 何故か困ったような顔で目を逸らされた。なんでや。


「ええと、心当たりないかな?」

「いえその、ないわけでは、ないですけれど。そういうの、私に聞きます?」

「えっ」

「えっ」


 何か話が致命的に噛み合っていない気がする。


「ええと、観光名所とか、何か面白いものを売っている店とか、本屋とかで良いんだけど」


 俺の言葉に娘さんがキョトンとした顔をしてから一気に顔を赤くした。この話の流れでどうして……? あっ、あー……そういう? もしかして勘違いしちゃった?


「誤解させたのはこっちのミスかも知れないけど、流石にそういうのを年頃の娘さんに聞くようなことはしないぞ……」

「す、すみません……!」


 娘さんが顔を真赤にして謝る。うん、この世界で傭兵や冒険者の男の娯楽といえばそういうことなのね。よくわかった。

 だとしてもね、流石に娼館がどこにあるのかとか年頃の娘さんに聞くような真似はしませんよ、俺は。しませんとも。セクハラ大好きなエロオヤジじゃないんだから。


「ええと、それはなかったことにしよう。うん、お互いに。それで、何かオススメなスポットは無いかな?」

「え、ええ、そうですね。ええと、大通りを街の中心方向に歩いていけば中央広場に出ます。そこには吟遊詩人や曲芸師なんかがいますよ」

「ほうほう、本屋とかはあるのかな?」

「本ですか……私はちょっと場所までは。ただ、街の北西にある貴族や豪商が住んでいる地域にはそういうものや宝飾品を売っているお店があるはずですね」

「なるほど。後はそうだなぁ……武器屋とかは?」

「そういったものを扱う職人街は街の南門の周辺ですね」

「なるほど、ありがとう」


 そう言って俺は彼女に銅貨を数枚押し付けた。チップってやつだな。彼女は少し困ったような顔をしたが、結局ちゃんと受け取ってくれた。チップの文化は無いのだろうか? でも、受け取ってくれたしそういうこともないのかね。


「中央広場に行った後に職人街を覗いてみるよ。遅くとも夕食頃には戻るから」

「あ、はい。お気をつけて」


 見送ってくれる娘さんにヒラヒラと手を振りながら受付で女将さんに部屋の鍵を預け、宿を出て中央広場へと向かう。

 で、楽しめたかと言うと……うーん、微妙。全くもって微妙。吟遊詩人は所謂弾き語りってやつだ。ギターというかリュートっぽいものを奏でながら地方の英雄譚とかを歌っていたようだが……元ネタを知らないせいか笑いのツボとか興奮のしどころが今ひとつわからなかった。

 正直芸人のほうが楽しめたね。ジャグラーとか手品師とかいたよ。

 武器屋はね……ガラガラだった。何がって商品棚が。どうやら聖王国軍が武器を徴収しているらしく、所謂色物武器的なものしか残っていなかったのだ。欲しい武器があれば特注で作ってもらうしか無いらしい。

 職人街の近くに市場もあったので寄ってみたのだが、主婦らしきおばちゃん達が最近食料品が値上がりして大変だとぼやいていた。商店主も高いと文句をつけられては聖王国軍が物資を集めてて品薄なんだよ、と言い返していたな。やはり、再度の侵攻……というよりアーリヒブルグの奪還に向けて聖王国軍は動き続けているようだ。

 なんとか軍が動き出す前に戻りたいところだな。これはもう真面目に走って帰ることを検討したほうが良いかもしれない。俺の走破能力を勘案するに、余程のことがない限り成功しそうな気がする。

 でも、余程のことがあった場合完全にアウトなのが良くないんだよなぁ、うん。

 まずは目の前のことを一つずつ、だな。ミスリルのロザリオを手に入れて地下に戻って、大型のゴーレム通信機を作って解放軍と連絡を取る。それに集中しよう。

 そういやキュービの野郎は解放軍の武器や戦術、ゴーレム通信機についての情報も持ってるんだよな……今更どうにもできないか。相手に知られているということを認識しつつ、運用に気をつけていくしかないな。

 真似は無理だろうけどな。クロスボウは模倣される可能性が無くもないが、投射武器の類は聖王国ではあまり歓迎されないようだから大規模な運用は暫くはないだろう。爆弾や銃器の類は技術的な問題でそうそう真似は出来ないはずだし、ゴーレム通信機に至ってはゴーレムコアを量産できないとどうにもならないはずだ。そもそも書き込む術式とやらが複雑でそうそう模倣はできないはず。

 俺はクラフト能力でなんとでもできるけどね。こういうところは正にインチキだよな。


 ☆★☆


 翌日である。

 久々の独り寝はなんとなく寂しい。こっちに来てからというものの、独り寝することが殆ど無かったからな……それだけでこの世界に来た価値が十二分にある気がする。色々と痛い思いとか怖い思いとかしてるけど、それを補って余りあるな。うん。

 身支度を整え、ちゃんと革鎧も着込んで階下の食堂に降りる。昨日の夕食もこのラフィンの宿の食堂で頂いたのだが、昨日の昼食を食べた食堂よりも美味しかった。昨日の食堂が微妙だっただけなのかもしれない。質よりも量重視の食堂だったのかもしれないな。


「さーて、と」


 笑顔の女将さんに見送られて早朝の宿を後にする。この世界に来てからというものの、早寝早起きが身体に染み付いてしまった。

 アデル教の教会の位置は既にリサーチ済みである。昨日のうちに案内人の少年に聞き出しておいたのだ。流石に国の根幹を支える宗教の施設というだけあって、大変目立つわかりやすい場所に建設されていた。王城の真横である。


「おー……」


 その威容を思わず見上げる。宗教建築というものは兎角荘厳というか、見るものを圧倒する雰囲気を発するものだが、この教会……いや、大聖堂と言うべきか。この大聖堂もご多分に漏れず大変立派な佇まいであった。


「しかしこりゃどういうことかね」


 その荘厳で立派な大聖堂は何やら物々しい雰囲気で満ち満ちていた。揃いの鎧を着込んだ騎士達が入り口の両脇を固め、大聖堂へと続く道の両脇に控えているのだ。どう見ても厳戒態勢である。

 ちょっと怖いが、警備に就いている騎士の一人に声をかけてみた。


「すみません、何かあったのですか?」

「聖女様による聖日の礼拝と説法が行われる。そのための警備だが……」


 兜の面頬の奥から鋭い視線が突き刺さってきているのを感じる。


「傭兵か冒険者の類か」

「はい。そうなると武器を帯びたままというのは不味いですよね……大聖堂に入る前にお預けしたいと思うのですが」

「うむ。大聖堂の入り口で預けるが良い」

「はい」

「聖光の加護があらんことを」


 教会騎士が印を結んだので、頭を下げて大聖堂へと向かう。うーん、良くないタイミングで来てしまったようだ。よりによって例の真実の聖女とやらが来ている時に鉢合わせてしまうとは……いや、今回は礼拝の儀式と説法だけみたいだし、ピンポイントで尋問でもされない限り問題ないだろう。

 聖女とやらがどんな人なのか興味が無いと言えば嘘になるし、ここで踵を返してどこかに行くというのも教会騎士達に怪しまれそうだ。できるだけ目立たないようにしていれば問題ないだろう。

 大丈夫大丈夫、何も起きやしないって。起きたとしてもこれだけ教会騎士が居れば俺は隅っこで小さくなっているだけで大丈夫なはずだ。問題ない問題ない。

 なんとなくフラグをおっ立てている気がしなくもないが、大丈夫だろう。

 教会の入口を固めている教会騎士に剣帯だけでなく武器を隠せそうな雑嚢や革鎧も預け、財布だけを持って大聖堂に足を踏み入れる。


「おお……」


 高い天井に宗教画、そして綺羅びやかなステンドグラス、光り輝く黄金の光芒十字。信心なんて欠片もない俺でも驚嘆せざるを得ないような圧倒的な荘厳さ。これは凄いわ。

 アデル教の教義なんてロクに知らない俺でも感動に近い感情を抱くのだから、根っからの信者である聖王国の民にとってはそれ以上に素晴らしい大聖堂なんだろうな。まぁ、この豪華で荘厳な大聖堂を建設するために何人の亜人が売り飛ばされ、虐げられ、財産を奪われたのかということを考えてしまうとちょっと嫌な気分にもなるけど。

 それはそれとして、この大聖堂に芸術的な価値があることは間違いないだろう。解放軍がメリネスブルグを奪還した後にこの大聖堂が破壊されたりしないことを切に祈るばかりである。

 で、適当な席に座ったんですが。


「神よ、私の罪をお赦しください。神よ、私をお守りください。神よ……」


 なんか隣の人が物凄い血走った目でブツブツと神様にお祈りをしている。他の人もそうなのかと不安になって周りを見てみるが、そんなことはないようだ。どうやら隣に座っているこの人だけが普通じゃないらしい。ぶっちゃけコワイ。

 どうしようかなぁ、席変えようかなぁと迷っているうちに高らかに鐘の音が鳴り始め、大聖堂の扉が閉ざされた。大聖堂内がシンと静まり返り、静謐な雰囲気が辺りに漂い始める。ぶっちゃけて言うと席を立って別の場所に移るということが許されなさそうな雰囲気である。

 隣の人も目こそ血走ったままだけど静かになったので、我慢することにしよう。

 鐘が鳴り終わると、大聖堂の奥から数名の神官らしき人々が現れた。何か祝詞のようなものを口にしているが、言葉遣いが古いのか、それとも何か別の要因があるのか意味がよくわからない。もしかしたら言葉ではないのかもしれない。

 そして、祝詞のようなものが終わると大聖堂の奥から純白の衣に身を包んだ娘が現れた。しゃなりしゃなりと典雅な足取りで講壇へと歩を進めた彼女は閉じていた眼を見開き、その真紅の瞳で俺を含めた大聖堂の信者達を見回す。

 美しい娘だ。腰まで伸びた輝く金髪に、紅玉のような真紅の瞳、金糸で刺繍が施された分厚い聖衣の下からでもその存在を主張する豊かな胸に、白磁のように白い肌。なるほど、聖女と呼ばれるのも納得できる、神々しい雰囲気を纏っている娘だ。

 その真紅の視線が俺を捉え、何故か困惑の色を浮かべたように思えた。だが、それも一瞬のこと。いや、もしかしたら俺の勘違いだったのかもしれない。

 何にせよ、いきなり教会騎士に囲まれて連行されるといったようなトラブルもなく、無事に礼拝の儀式が始まるようだ。さて、どんな話が聞けるのか少し楽しみだな。

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