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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
メリナード王国領でサバイバル!
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第093話~久しぶりの陽光~

「そうびてんけーん」


 ライムが満面の笑みを浮かべて手を挙げ、装備の点検を宣言する。


「鎧よし、兜よし、雑嚢よし、剣、槍、盾よし」


 鎧は要所を鉄板で補強した革製。兜は一見してどこにでもありそうな品だが、赤い房飾りが人の目を惹きつけそうな逸品だ。え? 目立って良いのかって? いや、傭兵設定だからね。少しは目立つ点が無いと逆に不自然だろうということで、兜に赤い房飾りを着けたんだよ。


「財布は?」

「メインは鎧の下、サブは雑嚢の中」


 メイン財布は金貨多め、サブ財布は小銭と銀貨多めって感じだ。小銭と銀貨は下水に落ちてきたもので、錆びたりする前のものをポイゾとベスが保管していたものである。財布の中身が帝国棒状貨幣だけだと、ここまでどうやって生活してきたのかと疑われそうなので分けてもらった。

 支払いは……ご想像におまかせする。


「設定を復唱なのです」

「東から来た傭兵。仕官先か戦場を探してこっちに来た」


 これは当初の通りである。もっと詳しいことを聞かれた場合の設定も考えてある。


「くろかみ、めずらしいー?」

「確かに珍しいけど、いないわけじゃないだろ?」


 この世界に於いて、黒髪の人間はあまり数がいない。でも、いないわけでもない。何千人とか一万人に一人くらいとかなんとか。大きめの街なら何人かくらいはいるかな? レベルだそうだ。


「あんまり強そうに見えないわね」

「どちらかというと走るほうが得意なんだ」


 ライム達と特訓してそこそこには戦えるようになったが、あくまでもそこそこだ。俺の根本的な筋力はこの世界基準で言えば人並みかそれ以下みたいだからな。

 ただ、能力のおかげで足は速いし長く走れる。これは強みだ。

 コマンドアクションを併用した走法は若干不自然に見えるかもしれないが、特別な走法なんだ、秘密だと言えばそんなものかと納得してくれる可能性が高いらしい。ベス曰くこの世界には魔法や魔道具が多数存在し、その効果の全てを把握している人間などどこにもいないのだから、ということだ。


「だいたい良さそうなのです。あとは、しっかり王都の外から入ることなのです」

「そうね。通行証を持っていなかったら面倒なことになりかねないわ」

「ちかどうからー、そとにでるー」

「わかった」


 城の地下から伸びる地下道の中には東へ伸びてメリネスブルグの外まで伸びているものもあるそうだ。俺はそれを通ってメリネスブルグの外に出て、都の東側から中に入るわけだな。


「場合によっては数日を上で過ごしてくる。もし捕まっても、即座に殺されなければまた城の地下にぶちこまれるはずだ。そうしたら騒ぎを起こすから、俺を助けに来てくれ」

「他力本願なのね?」

「自分一人で何もかも上手くやれるとは思っていないだけだ」


 それにベス達は俺よりも遥かに強いしな。頼れるなら頼る。生きてシルフィに会うためにはなんでも利用するさ。


「じゃ、そろそろ行くのです?」

「行こうか」

「じゃあ、こっちー」


 四人で移動を開始する。どうやら三人とも俺を見送ってくれるつもりらしい。


「そういえば、皆で一緒に歩くのは初めてだよな」

「そういえばそうね」

「基本的にあまり動く必要がないのです」

「ちっちゃいのでじゅうぶんー」

「そうだろうね」


 模擬戦というか特訓では最初に出会ったライムの複体とも戦った。勿論ボコボコにされた。小さくてもライムはとても強い……対複数戦の特訓だと言うことでライム、ベス、ポイゾがそれぞれ二体ずつの複体を繰り出してきたこともあったな。勿論為す術もなく転がされた。

 他愛ない話をしながら暫く歩き、地下道もそろそろ終わりか、というところで三人が足を止めた。


「ここまでなのです」

「地下道は王族が通るから直下でなくても『城内』扱いなんだけど、ここまでが限界みたいね」

「これからさきは、すすめないー?」

「そっか」


 僅かに空気の流れを感じる。地上は近いようだ。


「定期的に入り口は掃除をしているから何も居ないと思うのですが、念の為気をつけるのですよ」

「掃除?」

「ちっちゃいのをとつげきー、させてあばれさせるー?」

「何それ怖い」

「時間が経てば自壊するようになってるから、危険はないはずよ。そうしないとゴブリンとかが住み着いたりするのよね」

「厄介だなぁ……よし、それじゃあ行くよ」


 もう一度全身の装備を確認し、三人に向き直る。

 寂しそうな表情を隠さないライム。

 心配そうな表情のベス。

 そして、穏やかな表情のポイゾ。


「さようなら、じゃなくていってきます、だ。また戻ってくる」

「もどってきてー」

「ええ、行ってきなさい。無理はするんじゃないわよ」

「お気をつけて、なのです」

「ああ、いってきます」


 三人に一時の別れを告げ、俺は久しぶりの地上に向かって歩き始めた。


 ☆★☆


「うおっ、眩しっ……」


 久々の太陽……ああ、この世界ではなんか神様の名前なんだっけ? まぁいいや、太陽で。とにかく、陽の光は二週間以上地下暮らしを続けていた俺の目を焼いた。目の奥に鈍痛を感じる。慣れるまで少しここで休んだほうが良さそうだ。


「空気が美味い気がするな」


 ライム達の部屋はポイゾが芳香を漂わせていたのであまり気にならなかったが、やはり下水の臭いというのものは多少感じるものがあった。しかし、ここにはそれがない。

 目が慣れてきたので、辺りを見回してみる。うん、洞穴だな。岩の陰になっていて、知らないとなかなか見つけられそうにない。ここを去った後にまたここを見つけられるか不安だな……まぁ、最悪メリネスブルグの下水に入るという手もあるか。

 勿論臭いだろうし、危険だろう。実際、スライム娘が狩ってきた下水に出るという大鼠とやらを何度も見たが、どの鼠も大型犬並みの大きさで、牙も鋭く危なそうなやつらだった。

 それに、下水にはスライムも出るという。流石にスライム娘達ほど凶悪な手合いではないようだが、それでも物理攻撃は殆ど効かないらしいので、対策が必要だ。念の為、対策武器も作ってはあるがこれは例のアサルトライフルと同様に奥の手である。


「そろそろ行くか」


 いい加減目も慣れてきたので行動を開始する。幸いなことに目標はすぐに見つかった。さほどメリネスブルグから離れていないらしいこの森の中からでも、都の中央に建つ王城の尖塔は木々の間からよく見える。

 都の近くとはいえ、森の中とあっては何があるかわかったものではない。この世界には魔物というものが生息しているのだ。俺が今までに遭遇したことがあるのはリザーフとギズマ、それにゴブリンくらいのものだが、その他にも実に多種多様な種類の魔物がこの世界にはひしめいているらしい。用心するに越したことはなかった。


「でも、慎重に進みすぎて森を抜けるのに時間をかけるのも悪手だよな」


 考えた結果、俺は走ってとっととこの森を抜けることにした。

 俺の走行速度は普通の人間よりかなり速い。走るのとコマンドアクションを併用するだけでも下手すると二倍近い。それにストレイフジャンプを加えると馬並みの速度になる。この速度についてこられる魔物はそう居ないはずだった。

 そういうわけで、森を走り抜ける。この森はそんなに深くもない。つまり、黒き森に比べればなんてことはない。走り抜けるのに苦労はしそうにもなかった。


「おっ」


 十分ほども走っただろうか、ついに森を抜けた。

 途中、ゴブリンやら見たこともない動物だか魔物だかを見つけたが、華麗にスルーしてきた。追いかけてきたやつも居たが、余裕のぶっちぎりである。

 うーん、これならゴーレム通信機の作成なんかに拘らないで走って帰ったほうが良いかしらん? とか考えつつ、聳え立つメリネスブルグの城壁をグルッと回り始める。程なくして街道を見つけることができたので、街道に入って城門へと向かうことにした。

 都のすぐ近くであるためか、街道の人通りはそれなりにある。街道から外れた場所から突如現れた俺に警戒を露わにする人も居たが、俺が周りの視線を気にせずに槍を担いでテクテクと城門に向かって歩き出すのを見て取ると警戒を緩めて同じように歩き始めた。

 すわ盗賊か野盗の類か!? と警戒したのに、全く彼らを気にする様子もなく歩き始めたのを見て冒険者か何かかと納得したのだろう。目論見通りである。


「ふむ……」


 街道を行き交う者達の姿に目を向けると、大荷物を載せた護衛付きの馬車の姿が目立つ。そう数が多いわけではないが、都から東方へと逃れるように急ぐその姿は妙に俺の目を惹いた。

 貴族か聖職者、或いは金持ちの商人、その家族といったところだろうか。余裕のある人間は危険を感じて既に逃げ始めているようである。

 ただ、都に入る者の数はそれに倍して多いようだ。もしかしたら聖王国はメリネスブルグに兵力と物資の集積を開始しているのかもしれない。まずは冒険者と傭兵を集めている、といったところだろうか。

 アーリヒブルグに至るまで、基本的に聖王国が繰り出してきた兵は正規の聖王国軍だったように思う。勿論、街の防壁に立て籠もっての籠城戦に於いてはそうとも限らず、戦えるものは全て駆り出していたようだが、少なくとも冒険者や傭兵、農民などからの徴募兵を大々的に寄せ集めたような部隊はいなかったはずだ。

 もしかしたら、そういった者たちの徴募を始めているのかもしれない。


「よぉ、あんたも傭兵かい?」


 なんとなしに人の流れを観察しながら歩いていると、声をかけられた。俺と同い年くらいの、がっしりとした体格の武装した男だ。手には俺のものよりも年季の入っていそうな槍を持っている。


「そんなところだ。あんたも?」

「そうだ。単独か? 珍しいな」

「東方の戦場で部隊が壊滅してね。生き残りも僅かで解散って流れになったからこっちに流れてきたのさ。仕官先か、仕事を探しにな。あんたは?」

「俺は黒羽団って傭兵団に所属している。これでも幹部なんだぜ?」


 そう言って彼はニヤリと笑いながら黒い羽の紋章が入ったドッグタグのようなものを見せてきた。残念ながら全く知らない。


「すまんが、知らないな。自分のことに精一杯で世事に疎くてね」

「なんだよ、うちはこれでも結構有名だと思ってたんだけどな」


 自信満々に見せた団の証に俺が全く驚かないのを見て彼は少しがっかりしたようだった。だが、気を悪くしたような感じではないようだ。


「悪いな。それで、その幹部のあんたがどうして俺に声を? というかこんなところで一人で何を?」

「一人じゃないさ、あそこにもあそこにも武器を持った奴らがいるだろ? ありゃ全部うちの団員だ。城門近くの警備をしてんのさ。ついでに、俺はあんたみたいなのをスカウトする役目を団長から任されてる」

「へぇ……」


 確かにそれっぽい奴らがある程度の間隔を置いて街道の近くに立っており、目を光らせているようだ。同時に、俺は男に対する警戒度を上げる。

 男の話は理に適っているようにも聞こえるが、俺みたいな単独の旅人に的を絞っているということを明言もしている。単独の旅人というのはこの世界に於いてはとにかく立場が弱い。何せ、寄る辺がない存在だからだ。

 突如消えたとしても、死体さえ出なければ誰も気に留めない。そういうことだ。


「おいおいそんなに警戒するなよ。別に取って食おうってつもりはねぇよ」

「警戒するなって方が無理な話だろ」

「それもそうだわな」


 男はそう言ってクツクツと笑った。新しい仲間に、かんぱーいとやって気持ちよく酔っ払って、気がついたら身包み剥がされていたなんて展開はありそうな話だ。それで済めば良いが、もっと怖い目に遭う可能性だってある。


「ま、慎重なのは良いことだぜ。俺達はメラの岩棚亭ってとこに泊まってるんだ。気が向いたら来てくれや。ラマンの紹介って言えば通じるからよ」

「覚えておく。俺はコウだ」


 俺の名乗った偽名を聞き、ラマンと名乗った傭兵は満足そうな顔をして離れていった。またスカウト兼警備の仕事に戻ったんだろう。暫く歩き、思わず呟く。


「色んな奴がいるもんだな」


 恐らく、ラマンはこの先に起こる解放軍と聖王国軍の戦いに参加するのだろう。十中八九、聖王国軍側の戦力として。そうなれば、あの気の良い男はシルフィの、俺の敵となる。敵となれば容赦はしない。よほど運が良くない限り、彼は死ぬだろう。

 剣や槍を交える機会も無いまま、ハーピィの爆撃で吹き飛ばされるか、クロスボウの射撃で倒れるか……運が良ければ解放軍の精鋭と斬り結ぶ機会があるかもしれない。だが、彼ではレオナール卿やザミル女史には勝てまい。


「嫌だね、まったく」


 敵方の勢力下で、敵に紛れて活動する。良いやつもいるだろう。愛するべき人も見つかるかもしれない。だが、いずれ彼らは全て敵に回る。自分の所属する勢力が彼らを、彼女らを蹂躙する。


「嫌だね、まったく」


 心の底から、もう一度そう言って俺は溜息を吐いた。城門はもうすぐそこだ。

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