第085話~事情聴取~
なんか体調が……短いけどゆるして_(:3」∠)_
「コースケはまれびとなんだー」
「本当に存在するのね。お伽噺かと思ってたわ」
「嘘では無さそうなのです。確かに常識では考えられない不思議な力なのです」
それなりに長い俺の話を聞き終えた三人は三者三様の反応をした。話の途中で俺の能力も見せられる部分については全て見せたので、信じてもらえたようである。クラフト能力に関しては作業台も材料もないからまともに見せられなかったんだけどね。
「信じてもらえたようで何よりだ」
「なにもないところからものがでてくるのはふしぎー」
「微妙に気持ち悪いあの動きも普通ではないわよね」
「消えない松明という実物もあるのです」
ライム、ベス、ポイゾの三人が俺のインベントリから出したギズマ肉を味わいながら口々にそんなことを言う。ちなみに、味わうと言っても普通に口からもぐもぐするわけではない。俺から受け取ったギズマ肉を身体の中心……ちょうど胃の辺りに押し込んでジワジワと消化しているようである。
「うーん、おいしいねー」
「新鮮なギズマの肉は初めて食べるわね」
「あまり出回るものじゃないのです」
「えーと、君ら生でいいのか?」
彼女達は生のままのギズマ肉を体内に取り込んでいた。お腹痛くならないのかね? スライムだから大丈夫なのか。
「やかないほうがおいしいよー」
「焼いても食べられるのですが、生のほうが私達は好きなのです」
「というか、君らは地下でどうやって生活をしているんだ? 食うものとかは?」
「私達は地下に潜伏しながら下水を管理しているのよ。栄養素は下水から得ているわ」
「マジで」
なんとなくそうなのかなと思っていたけど、本人達の口から直接聞くのは衝撃的だな。そっかー、下水処理で栄養を得られるのかー……。
「なにか失礼なことを考えていない? 言っておくけど、私達は清潔よ」
「ライムたちは、きれいずきー」
「下水も私達にかかれば綺麗な水になるのですよ。汚れも、毒も、病気の元もまとめてお任せなのです」
「なるほど。そういうものか」
そう言われれば三人とも濁りのない綺麗な水色、赤色、緑色の身体だし、嫌な匂いなんて全然しない。それどころか、三人のいるこの部屋はなんだか爽やかな芳香すら感じられる気がする。
「……そういうものかって、それで納得するのね」
「普通はそれを聞いても引くのですよ?」
「えんがちょされるー?」
「そうなのか、酷いな。でもほら、俺のクラフト能力とかインベントリに比べれば可愛いものじゃないか、浄化体質なんて」
それに俺の持っているスライムのイメージともあまりかけ離れてないし、下水と言えば有機物その他を大量に含んでいるだろうなぁとも容易に考えつく。スライムならそういうものを取り込んで更に成長したり、下水に含まれるあれこれを綺麗に吸収分解して無毒化とか普通にやれそうな感じするし。
なんてことを考えていたらライムがすすすっと俺に近づいてきて俺の左手を自分の手でにぎにぎしてきた。ライムの手は少しひんやりとしたぷにぷにもっちりな感じで、やはり不思議な感触である。
「なんだ?」
「さわられてもいやじゃないー?」
「嫌じゃないぞ。ぷにぷにだなー」
「うん、ライムはぷにぷにだよー」
不安げな表情だったのが、俺の嫌じゃないという言葉を聞くなりにこにこ笑顔になる。
「ほ、本当に触られても嫌じゃないか試すだけだから」
いつの間にか近寄ってきていたベスが空いていた俺の右手を取ってにぎにぎし始めた。ライムとは感触がかなり違う。弾力性が高くて、ツルッとした感じの感触だ。ライムがぷにぷにだとすれば、こっちはつるつるすべすべだろうか。程よい弾力があってなかなかに良い手触りだ。
「二人ともチョロすぎるのです」
少し離れた場所でポイゾがそんなことを言っているが、ソワソワしているのが丸わかりである。
「へいへーい、ポイゾびびってるー」
「びび、ビビってないんてないのです!」
「じゃあカモン。ほらほらばっちこいやー」
「ぐぬぬ……後悔させてやるのです!」
「ウボァー!」
ポイゾが凄い勢いで突っ込んできて俺は吹っ飛ばされ……吹っ飛ばされてない。凄い勢いで俺の身体にぶち当たったポイゾはベチャッと俺の身体を包み込んでいた。両腕を除く首から下がポイゾに包まれたような感じだ。
「ふふふ、これでどうなのですか?」
じゅるり、と俺にまとわりついていたポイゾがその形を変え、後ろから俺に抱きついているような感じになる。いつの間に後ろに!? とかそういうレベルの動きじゃない。スライムすげぇな。
「ベスはつるつるすべすべ、ポイゾはねっとりもっちりな感じなんだな。同じスライムでも感触には個人差があるわけだ」
「あるていどはかえられるけどー、そんなかんじー?」
「私もライムと同じくらいの感触までは変えられるわね」
「私もなのです」
「ライムはー、ベスみたいにもポイゾみたいにもなれるよー」
「そうなのか、ライムはすごいなぁ」
「えへへー」
にこにこしながらライムが腕に抱きついてくる。いつの間にかベスも同じように左腕に抱きついてきているし、ポイゾは後ろから俺を抱きしめたままだ。頭以外のほぼ全身がスライムに包まれているんですが、これ大丈夫? 俺消化されたりしない?
「身動きがとれないんですが」
「コースケ、ちょっと汚れてるー?」
「もののついでよ、綺麗にしてあげるわ」
「全身の力を抜いて、身を任せるのです」
じゅわり、と全身にスライムが浸透してくるような感触を覚えた。今まではぷにぷにつるすべもっちりが肌に触れている、という感触だったのだが、その境界が途端になくなって全身に濡れたような感触が感じられる。
「うーん、なかなかのおあじ」
「少し埃っぽいわね。それに、土でも汚れてるわ」
「ちゃんと綺麗にしないと病気になっちゃうのですよ?」
「あっ、あっ、あっ、ちょっ! うおわぁ!?」
「あばれちゃだめー」
なんと言えば良いのだろうか。未知の体験過ぎて言葉で表すのが難しすぎる。全身をやわやわと揉まれながら舐められてでもいるような奇妙な感覚だ。スライムは薄っぺらい粗末な服の中にまで浸透してきて、それこそ文字通り全身をしゃぶられているような感じだ。
「ふーん? へー? ほー?」
「おやおや……これはこれは……なるほどなのです」
「何を感じてのその発言!? ちょ、おい! そこはらめぇ!」
魔法の光で満たされた地下室に俺の悲鳴が響いた。
☆★☆
Side:アーリヒブルグ
コースケの現在地から遠く離れたアーリヒブルグにて。
「むっ!?」
「……!?」
作戦室で難しい顔をしていたシルフィとアイラが突然何かを感じ取ったかのようにハッとした顔をする。
「どうしたのですか?」
「コースケの悲鳴が聞こえたような……」
「コースケ……心配」
「私には何も聞こえませんでしたが」
「あら? 花瓶に活けてあった花が……」
メルティの視線の先では作戦室の片隅に置かれていた一輪挿しの花瓶に活けてあった花がその花を散らしていた。
「……一刻も早くコースケを見つけなければ」
「急務」
シルフィとアイラはより一層の気迫をもってコースケの捜索と奪還を決意するのであった。
☆★☆
「うぅ、もうお婿にいけない……」
全身をくまなく『洗浄』されてしまった俺は魔法の光に満ち溢れる地下室の真ん中で膝を抱えていた。
「たんのうした」
「ふふ、情けないわね」
「少しやりすぎてしまったのです」
ライムは非常に満足げな表情でぷるんぷるんしているし、ベスは膝を抱えている俺を見ながら危ない笑みを浮かべてるし、ポイゾは反省しているような言葉を吐きながらも満面の笑顔だ。油断ならねぇ。
「それで、俺が話したんだから次はそっちが話す番じゃないか?」
あれだけスライム塗れになったはずなのに服も肌も全く濡れていないというのはものすごく不思議だな。一体どうなっているのだろうか。
「そうだねー」
「ライムには向かないわね。私が話す?」
「おまかせするのです」
「じゃ、私が話すわね」
「じゃーライムはコースケの椅子になるねー」
ライムが俺の傍に寄ってきて身体の一部を変形させ、人をダメにするアレみたいな形になる。ヘッドレストはライムの豊かな胸に当たる部分だ。人をダメにするアレ+おっぱい枕とか……いいのか? これは。
「どこから話そうかしら。二十年前のメリネスブルグ失陥の時から話したほうが良いわね」
そう言ってベスは語り始めた。二十年前、メリナード王国が聖王国に敗北したその日のことを。
「まず、私達三人の立場を言っておくわ。私達はメリネスブルグに住む王族を護る者達よ。近衛に近い存在ね」
「光の差す場所で表立って護るのが近衛、光の差さない影から護るのが私達なのです」
「わたしたちはこのあたりからはうごけないけど、むてきー」
「そういうこと。私達三人はメリネスブルグから遠くに離れることはできないけど、メリネスブルグの中では実質的には無敵よ。どこにでも侵入できるし、どこからでも現れることができるし、死なないわ」
「なるほど」
水が通れる場所ならどこでも通れるんだろうな、きっと。本体をここに置いて、複体を繰り出して活動する分には滅ぼされることなどありえないというわけだ。そもそも、目の前にいるこのライム達が本体であるとも限らない。もしかしたら目の前のこのライム達だって複体かもしれないんだ。
「私達の出自に関しては……どうでもいいしょう?」
「興味はあるけどな」
「そのうちお話しするのですよ。今はそれよりも先に話すべきことを話すのです」
「そうしよう」
俺が先を促すと、ベスは頷いて再び口を開いた。
「二十年前、聖王国は領土と亜人奴隷、それにエルフの身柄を求めてメリナード王国に攻め入ってきたわ。恐らく、帝国と同じような多種族国家であるという点も気に入らなかったんでしょうけどね。メリナード王国の軍はよく戦ったけれど、兵数の差は歴然としていた。程なくしてメリナード王国は敗北し、王都も聖王国の手に落ちた」
「うん、それで?」
「知ってのとおり、メリナード王家はエルフの血筋よ。人間がエルフの奴隷を求める理由は?」
「知ってる。シルフィから聞いたよ。胸糞の悪くなる話だよな」
エルフと人間との間には魔力の高い子供が生まれる。聖王国の貴族はそうやってエルフの血を密かに自分達の血脈に取り込み、魔力を保っているらしい。
「そう、ならその辺りは省くわ。とにかく、メリナード王国の王族の方達はそれを知っていたから自分達の身を差し出して国民の安堵を願った」
「……なるほど」
自分達の身柄を差し出して国民の安堵をか。戦争に負けて国民を守れなかったという点は上に立つ者として失点なんだろうけど、いざ負けたとなれば潔く自分の身を差し出す……俺としてはどう評価したらいいのかわからんな。
「それでどうなったんだ?」
「交渉にすらならなかったわ。人以下の亜人風情が我々に歯向かって負けた上に条件をつけるなど何様のつもりだ、ってね」
「いっそ清々しいな。でも、それならどうして王族はこの城に?」
俺はそう言って話の続きを促した。




