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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
異世界の森でサバイバル!
8/435

第007話~戦利品(呪)~

今日は二回更新です_(:3」∠)_

 シルフィはスタスタと庭先にある施錠された物置へと歩いていった。そして鍵を外し、扉を開け放つ。その瞬間、中から漂ってきた臭気に俺は思わず顔を顰めた。


「おぇっ……何の臭いだよこれ」

「戦利品さ」


 ニヤニヤと笑みを浮かべるシルフィが物置の入り口から退いたので、その中に視線を向ける。物置の中にあったのは、錆びて朽ちかけた刀剣や鎧、盾などの武具だ。どれもこれも一目で使い物になりそうにないということがわかる。というかこの臭い……?


「なぁ、あの鎧、元々は凄い血塗れだったんじゃないか? あの剣も、あの兜も」

「ははは、洗うのが面倒でな」


 しかも、物置の中にある鎧や兜はどれもこれもシルフィのサイズでは無さそうである。そして戦利品という言葉。それらの事柄を総合的に考えればこの武具達の由来など深く考えるまでもない。


「これを俺に使えと? なんか呪われそうなんだが」

「おお、良い所に気がつくな! 確かに死人の装備していた武具というのはそういった力が宿ることがあると言われている」

「やだこわい」

「だが鋳潰してしまえば問題あるまい。元の形を失い、炎によって浄化されれば少々の呪いなど消え果てるさ」

「本当だろうな……」


 シルフィのニヤニヤ顔があまりにも疑わしいが、俺には呪いを視る眼とかそういう厨二病チックな特殊能力も魔法的なスキルも何も無いのでどうしようもない。


「やってみるか……触りたくねぇなぁ」

「なに、被ったり着たりしなければ大丈夫だ。ただ、武器は気をつけろよ」

「どないせいっちゅうんじゃい」

「お前の能力でしまってしまえばいいじゃないか」

「天才かよ」


 というわけでシルフィの言った通りに物置の中に散乱している錆びて朽ちかけた武具をどんどんインベントリに収納していく。ある程度近寄れば触らなくても収納できるのは素晴らしいな。

 どれ、チェックしてみるか。


【錆びた剣】×4

【錆びた槍】×3

【錆びた短剣】×6

【錆びた手斧】×2

【錆びた盾】×2

【錆びた兜】×2

【錆びた鎧】×2

【錆びた足甲】×5

【錆びた篭手】×5

【呪われた錆びた剣】×1

【呪われた錆びた槍】×2

【呪われた錆びた兜】×3

【呪われた錆びた鎧】×3


「おいいいいいいいいい!? マジで呪われた剣とか槍とかあるんですけどぉぉぉ!?」

「ふむ、たまには掃除をしないといかんな」

「なんでそんなちょっとしたご家庭の汚れでも見つけたかのような反応なの!?」

「なに、似たようなものだ。それよりも早く金属製の武器とやらを作れるかどうかやってみてくれ」

「えぇ……まぁやってみるけども」


 ストレージの中に用意してあった小型炉を裏庭の一角、周りに引火するようなもののない土の地面に設置モードを介して配置する。急に現れた小型炉にびっくりしたのか、シルフィの眉がピクリと動いた。


「なんだ、今のは」

「説明するのがめんどくさ――おーけーおーけー、説明するよ。石槍みたいな手持ちの武器と違って、こういう炉みたいな簡易的な施設はインベントリから直接設置できるんだよ。ほら、俺が木の上で寝る時に使ってたハンモックがあっただろう? あれとか、あとはあそこに設置した自立式ハンモックとかだな。俺は設置型オブジェクトって呼ぼうと思ってる」


 石槍や石斧みたいな手持ちのアイテムみたいなものは単純にアイテム、炉やハンモック、あとはまだ設置してないけど土レンガブロックとかが設置型オブジェクトだな。もしかしたらこの二つの枠に収まらない何かがそのうち出てくるかもしれんけど。


「ふむ、なるほどな。続けろ」

「あいよ」


 設置した炉のクラフトメニューを開き、どんな事ができるのか検証する。まず、稼働させるのに燃料が要る。これは燃えるものであればなんでも燃料にできる。例えばそこらで拾った木片とか、木片から作った繊維、ロープ、ハンモックなども燃料にできる。ただし燃料にするアイテムによって燃焼時間が設定されているらしく、結局のところ手持ちの燃料では木片が一番効率が良いようである。

 ただ、木片を燃料にした状態では鉄の精錬はできないようだ。燃料ではなく材料として木片を投入すると木炭を作れるようだ。更にこの木炭を燃料とすれば鉄も精錬できるようである。

「と、調べてみた感じではそういうことのようだな」

 木片を燃料として稼働している小型炉の火を見つめながら検証結果を話す。何ができるのかを話すのは問題ないと踏んだのだ。なぜならクラフトメニューは俺にしか見えず、どれくらいの時間でどれだけのものができるのかは俺にしか把握できない。つまりどういうことかというと、どれだけの材料で、どれだけの時間で何ができるのかということをぼかして伝えたり、堂々と過小報告することによっていくらでも資材をちょろまかせるわけだ。あまり過小にしすぎれば『使えない』と判断されかねないので、そこらへんだけは注意が必要だが。


「ふむ、やはり燃料がネックか。とはいえ燃料であれば森に行けばいくらでも拾えるな」

「明日は狩りのついでに燃料収集か。鉄鉱石もあれば拾いたいな」

「森の奥にある渓流で鉄鉱石が拾える。明日はそこまで足を伸ばすか。お前の能力があれば沢山持ち運べるだろうしな」

「荷物持ちはまかせろー」


 と、そんな話をしているうちに木炭ができあがってきた。会話をする前に燃料と材料を投入してクラフト予約を入れておいたのである。


「とりあえず手持ちの燃料で木炭ができたから鉄の精錬にチャレンジするぞ」

「ああ、やってみろ」


 まだ炉の中に残っていた木片の燃料を取り出し、木炭を燃料として投入する。そうすると炉が放つ光が今までよりも強くなった。伝わってくる熱気も増したようだ。


「なかなかの迫力だな」

「あとはどれくらい使い物になるか、だな」


 いきなり呪われた武具にチャレンジするのは怖いので、錆びた防具を優先して溶かしていく。武器は使おうと思えば辛うじてそのまま使えないこともないので後回しだ。防具は間違いなく使えないので優先的に使う。


「しかし……なんだか簡単だな。鉄の精錬はなかなかの高等技術だというが……?」

「俺のは多分特別だ」


 そう、俺のは間違いなく特別だ。本来、鉄の精錬というのはとても手間のかかる作業なのである。

 そもそもこんなちゃちな炉では満足に精錬などできるはずもないのだ。鉄の精錬には高温に耐える炉が必要不可欠であり、それを可能にするためには高い温度に耐えられる耐火レンガが必要であり、他にも木炭で砂鉄でもない鉄塊を溶かすためには火力が足りないとか硫黄などの不純物の除去とか色々と突っ込みどころがある。だがクラフトメニューはどういう面倒な部分を一切合切無視し、燃料と材料と時間というリソースを消費することによって着実にアイテムをクラフトしてくれる。


「というわけでじゃーん、精錬された鉄インゴットー」

「なにがというわけなのかわからんが……ふむ、見事なもの、なのか?」

「使い途のない屑鉄から利用可能なまっさらな鉄インゴットを作るって結構な仕事だと思うよ、俺は」


 確か元の世界でも鉄スクラップから良質な鉄を取り出すのに高度な電気炉とかが必要だったはずだし。こんなちゃちな小型炉でやってのけるこのクラフト能力ってやつはたいしたもんだと思う。


「ふむ、それもそうだな。ゴミから使えるものを作り出せると考えれば確かに大したものだ。だが、これで終わりではないだろう?」

「勿論だ」


 シルフィから鉄インゴットを返してもらい、更に精錬を続ける。


「じゃじゃーん、金床とハンマー!」

「ああ、鍛冶屋と言えばそれだな」

「ああ、そうだろう。そして小型炉と金床とハンマーが揃ったことによって色々と作れるようになった」


 炉の近くに金床を設置し、ハンマーを持って金床のクラフトメニューを開く。ふむふむ、金床とハンマーと稼働中の炉、そして材料として鉄インゴットを使うことによって鋼の装備を作れるようだ。


「で、鉄を叩かないのか?」

「叩かないぞ。俺にそんな技術があるわけないだろうが」

「なんだ、つまらん」

「おっと、そいつは早合点ってもんだぜお嬢さん。これを見てもそう言えるかな?」


 そう言って俺は今しがたクラフトした鋼鉄製のナイフを取り出してみせる。つまらなさそうな表情だったシルフィが一転して笑顔を浮かべる。その笑顔がなー。もっとこう、花が咲くようなパァっとした笑顔ならなぁ。なんで君は腹に一物抱えてるようなニヤリって笑みばっかり浮かべるのかね。


「ふむ……悪くないな」


 どこをどう見たのか素人の俺には全くわからないが、仔細に刃を眺めたり、自分の爪に刃を触れさせてみたりと色々とチェックしたらしいシルフィはそう呟いた。うんうん、そうじゃろ? 俺使えるじゃろ? だから俺を養ってくれワン。俺は犬、ご主人様に有能なところを見せつけ、媚を売る犬だ。プライド? そんなもの犬に食わせてしまえ。あ、今は俺が犬だったなハハハ。


「そうだろうそうだろう。他にも色々作れるようになるぞ、多分」

「ははは、必死だな」

「死にたくないからな!!」


 簡単に言えばこの村は敵地なのだ。この家から一歩でも踏み出せばボコられて埋められてもおかしくない。いや、一応シルフィの所有物として大勢の見世物になったし、大丈夫かな? 大丈夫かもしれない。でもシルフィの庇護を失ったらそこでゲームオーバーだ。


「これは貰っておくぞ。頭の固い老害どもを納得させるのに使うからな」

「わかった」


 燃料が尽きる前にまだ作れそうだからな。何の問題もない。しかし結構貯めてた筈の燃料がすっからかんだ。明日は気合を入れて薪拾いをしなければ。

 燃料が尽きるまでクラフトを続ける。鉄のインゴットを作り、そこから道具を作る。と言ってもあと作れそうなのは二つ三つくらいか……鋼鉄のナイフと、薪を確保するための手斧だな。斧は良いぞ、地球で柄付きの斧は紀元前六千年くらいから使われていたという話もある。そしてその頃から俺の生きていた時代までその形は殆ど変わっていない。しかも世界中でほぼ同じようなものが同時に発明され、使われ続けている。つまり一種の『完成された道具』なのだ。

 頑丈で信頼性が高く、作業用としては勿論、戦闘用としても使える。何より剣や槍、弓と違って扱うのに訓練が必要ない。振り上げて、叩きつける。ただそれだけでいいのである。


「というわけで、ほい。明日の探索用に作ってみたぞ」

「手斧か。良い出来だな」


 シルフィが手斧をブンブンと振り回す。ちょっ、怖いって。


「明日、燃料と鉄鉱石を調達したら私にも作れ。いいな?」

「アイアイマム」


 すぐさま自分のものにする気はないらしい。うちのご主人様は優しいな。


「お?」


 鋼鉄の手斧を入手したことで木材を使うクラフト品の作成時間が減少していることに気がついた。なるほど、こういう恩恵もあるのか。じゃあノミとか錐とか工具を揃えればもっと短縮されるんじゃなかろうか? これは工具系のツールをガンガン揃えていくのがいいのかもしれん。

 燃料も尽きたので、小型炉や自立式ハンモックを回収して家の中に戻る。設置した小型炉も簡単に撤去してインベントリに再収納できるのは助かるな。ゲームによっては専用のツールでぶっ壊したりしないと再収納不可って場合もあるし。

 最終的な成果としては鎧を一つ、兜を二つ鋳潰して鋼鉄のナイフを二本と鋼鉄の手斧を一本、そして鉄製の鏃を二十個作ることができた。その他に鉄のインゴットも三つ作れた。鋼鉄の鏃を使って鉄の矢を二十本クラフト予約しておく。とりあえず、これで明日の準備は概ねOKだろう。


「今日はここまでだな。燃料も尽きたし」

「そうか、なら休むとしよう。私も色々と疲れたしな」


 胸の前で腕を組み、俺を観察していたシルフィが家に向かって踵を返す。なんというかこう、いちいち動作がきびきびしているというか、隙がない。この女を出し抜くのは難しいだろうなぁ、という思いを胸に俺はその後に続いた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] だがクラフトメニューはどういう面倒な部分を一切合切無視し、 そういう の間違いかもしれないですね [一言] 楽しく読ませて頂いております。 執筆頑張ってください!
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