第078話~フラグなんてなかったんや~
少し遅れた……許してクレメンス……_(:3」∠)_
「どうしたの? コースケ」
「フラグなんてのは所詮オカルトだなって思ってたとこだ」
数日後、俺達は何のトラブルもなく順調にメイズウッドの街を発ってアーリヒブルグへと移動していた。
道中? いや、本当に何のトラブルも無かったよ。解放軍が通過したルートは魔物も掃討されていたのか全くと言って良いほど魔物の襲撃がなかったし、聖王国軍のゲリラ部隊に遭遇するようなこともなかった。
「……虫の知らせ、嫌な予感、そういった直感的なものはあまり軽視しないほうが良い。その人自身が気づかないような僅かな兆候からそういったものを感じ取る人もいる」
「なるほど……そういうものか」
「ん、そう。ただ、気のせいということだってもちろんあるし、気にしすぎてミスをすることだって考えられる。何事も程々」
「そうだな」
遠くから雷のようなドドドドド……という音が聞こえてくる。恐らく、シルフィ達が戦っている音――というか、ハーピィ達の航空爆撃だろうな。
「こいつぁ例の爆弾だろう? 派手にやってんなぁ、姫様は」
「だろうな。メイズウッドまでは温存してたみたいだし、今日は大盤振る舞いだろう。しかし、ここまで押し込まれているのにこれといった手を打たないのかね、聖王国軍は」
「打たないんじゃなくて打てないんだろうよ。俺達がぶつけられると困る騎兵はコースケがあらかた吹っ飛ばしたからな」
「ああ、機動戦力が壊滅してるのか」
「そうでなくても今の解放軍というか、ハーピィとクロスボウが強すぎる。最低でもハーピィ対策をしないと聖王国軍は私達に勝てない」
「わかる」
クロスボウという強力な遠距離武器を多数配備している解放軍は防衛戦と攻城戦に滅法強い。なら野戦を仕掛ければ良いのだが、野戦を仕掛けようにも空にはハーピィが飛んでいるからすぐに察知されるし、平原で密集していたらハーピィの航空爆撃の良い的だ。
ならば兵を伏せるという手もあるのだろうが、これもやはり上空から警戒しているハーピィに見つかってしまうし、見つかってしまえば即座に通信機で本隊に報告され、対策される。存在と位置のバレた伏兵など何の脅威にもならない。寧ろただのカモである。
「それでも多数の騎兵に突撃を仕掛けられれば無事ではいられないと俺は思うけど」
「そりゃ被害はでるだろうが、そこまでかね? 俺はハーピィの爆撃と手投げ爆弾で騎兵の突撃が止められる未来しか見えないね」
「ん、爆発は騎馬に効く。あの爆音で馬が恐慌状態に陥ったら突撃どころじゃない」
「なるほど」
そうなると解放軍ってめちゃくちゃ強いのでは? 俺は心配しすぎなんだろうか。いや、この世界は魔法のある異世界だ。クロスボウが効かず、爆撃も効かないような相手が出てこないとも限らない……出てくるのだろうか? 竜とか? 勇者とか魔王とかそういうのくらいじゃないか?
俺はまぁ、来るとわかってればなんとか耐えられるかな? 防いで逃げるだけになるだろうけど。
ん? そう考えると俺の耐久力というか防御力、いや生存能力って条件付きながら竜並みってことか……? 深く考えないようにしよう。うん。
「聖王国軍は虎の子とやらを切ってこないのかね」
「わからない。魔道士部隊が投入されている可能性はある」
「それ、大丈夫なのか?」
「私以外の魔道士がいるから多分大丈夫。反撃せずに聖王国軍の魔道士達の魔法を防ぐだけならなんとかなる」
「でも防ぐだけじゃ……ああ、銃士隊がいるもんな」
「ん。魔法は敵が見えないと狙えない」
「いくら魔法障壁で守っててもボルトアクションライフルの銃弾は防げない。魔法を使って棒立ちになっている魔道士は良い的か」
聖王国軍の魔道士部隊に苦しめられたことのあるダナンやレオナール卿が彼らに対抗する策を講じていないわけがない。恐らく、投入されていたとしても銃士隊にボコボコにされているだろう。
こうして話している間にも遠雷のような音は鳴り続けている。本当に大盤振る舞いしてるな……俺が到着するから、在庫は全部吐き出すつもりなのかもしれんね。いくら防壁を破壊しても俺ならすぐに直せるし。
「気をつけて進もう。シルフィ達の側面や後背を突こうとしている別働隊に遭遇でもしたら目も当てられない」
「そいつは確かにな。ま、ハーピィ達が見ているから大丈夫だろうが精々気をつけよう」
戦いの音を遠くに聞きながら馬車は進んでいく。
☆★☆
Side:シルフィ
「流石に粘り強く守るものだな」
「ここを落とされたら南部を切り取られる形になりますから。奴らも必死でしょう」
「それでアレか」
私達の背後から吹き続ける強風が敵の射手の矢を殆ど無効化するが、こちらが放ったクロスボウのボルトは防壁上の敵兵に到達する前に何か見えない壁のようなものにぶつかって弾かれていた。
「銃撃で全員を仕留められなかったのは残念だったな」
「奴ら、存外に反応が早かったですね」
あの見えない壁の正体は聖王国軍の虎の子、魔道士部隊の仕業である。どうやら魔法で障壁を張ってこちらの攻撃を防いでいるらしい。
「あれなら防壁上に身を曝さなくても魔法が使えますね」
「小癪な」
聖王国の魔道士部隊は最初は防壁の上に身を晒してこちらの軍に攻撃魔法を放っていたのだが、それをこちらの魔道士部隊が防いでいるうちにジャギラ達銃士隊が奴らを狙撃した。
かつてメリナード王国軍を苦しめたという敵の魔道士部隊がバタバタと倒れていくのに胸がすくような思いを抱いたものだが、奴らは銃士隊の攻撃が魔法で防げないと悟るとさっさと防壁に身を隠してしまったのだ。
それからはご覧の有様だ。互いの矢はお互いに殆ど効果を上げることなく戦場の土を耕している。
『こちらピルナ、目標確認です』
「やれ、二連投下だ」
上空を旋回しているピルナ達ハーピィ部隊にゴーレム通信機を介して攻撃命令を行う。
『了解。爆撃、開始します』
私の合図で防壁上の敵を一掃するかのような爆発が巻き起こる。一応は敵に損害を与えられたようだが、殆どは魔法障壁を砕いて消し飛ばすだけに終わったようだ。
防いだ、と敵は安堵したかもしれない。だが、僅かな時間差で二度目の爆発が巻き起こった。
「二発目は防げなかったようである……ククク、爆撃の前には魔道士部隊も虫けら同然であるな」
レオナールが楽しそうに口許を歪める。
この二連投下は一発目の爆弾で魔法障壁を破壊し、二発目の爆弾で魔道士ごと敵兵を一掃するための爆撃戦術だ。アイラ達魔道士との話し合いによって考案された対魔道士用の技である。
『効果確認。魔道士を含め、攻撃命中地点の敵兵の損害は甚大』
「よろしい。再爆装して引き続き敵兵を攻撃せよ。最優先目標は魔道士だ」
『了解』
さて、これで敵は魔道士部隊という頼みの綱を失った。士気はガタ落ちだろうな。
「この後はどうするので? 門を破りますか?」
「なに、コースケに託された航空爆弾はまだ数がある。コースケも今日中には合流できるという話だったし、武器や爆弾、弾薬もあちらにいる間に量産したそうだ。わざわざ兵を失うリスクを冒す必要はない。真綿で首を絞めるようにジワジワと爆撃で削ってやろう」
「……真綿というには少々過激かと」
「真綿というよりは棘付きの鉄線か何かであるな。吾輩としては門を破って突入したいのであるが」
「ダメだ。レオナールはそうそう死なんだろうが、兵はそうはいかんのだぞ」
「残念であるな」
レオナールが残念そうにそう言って腰の双剣の柄を撫でる。レオナールもザミルもコースケにミスリルの武器を作ってもらってから前に出て戦いたがる。気持ちはわからないでもないが、それで兵を無駄に死なせるのは忍びない。
しかし、こうなるとずっとハーピィ達の独壇場だ。我々はおろか、ハーピィ達以外の兵達すらやることがなくなってしまう。何せハーピィ達の航空爆弾で滅多打ちにするだけだからな。
爆撃中に防壁に近づくと爆撃に巻き込まれる恐れもあるので、爆撃が終了するまでは下手に敵に手出しを出来ないのだ。なので、破城槌の作成を指示しておく。敵が降伏したら無駄になるが、そうでないなら城門を破るのに必要になるからな。
執拗な爆撃がしばらく続いたが、それも永遠に続くものではない。コースケが居ればアーリヒブルグを瓦礫の山に変えることも可能かもしれないが。
「残存する敵兵は?」
『防壁から退いて民間人の建物に避難した者がそれなりにいるようです。兵舎などは破壊しましたが、補給物資の入っていそうな倉庫は避けたのでそこにも隠れているかと。それでも大半は爆撃で潰せたと思います』
「わかった。本陣に戻って羽を休めろ」
『いえ、このまま上空を旋回して偵察任務を続行します』
「無理はするな」
『了解』
通信を終え、顔を上げるとレオナールが牙を剥き出しにした獰猛な笑みを浮かべていた。これの戦好きと食道楽は病気だな。
「そういうわけだ。市街戦になる、奇襲に注意しろ。私も出る」
「姫殿下」
「私が囮になったほうが良かろう? なに、兵を引き連れて投降を呼びかけながら領主館まで行くだけだ」
「それが危険だと思うのですが」
「必要なことだ」
後ろから指示だけを出して安穏としているのは私の性に合わないからな。メリナード王家は一度この国を失うという失態を犯している。戦いの時くらいは私が前に出なければ兵も民も納得しないだろう。私にはそれくらいしか出来ないしな。
程なくして破城槌が出来上がり、門が破られる。レオナールやザミルは嬉々として突撃していったが、私とダナンは彼ら露払いを終えたメインストリートを駆ける。重装歩兵と軽装歩兵の精兵を従えて。
メインストリートに私達の侵攻を遮るような人影はない。住人達は家の中に引き篭もっているか、そうでなければとっくにこの街から逃げ出しているのだろう。私達が北に向けて進撃しているという情報はとうの昔にアーリヒブルグまで伝わっていた筈だからな。
「領主の館には流石に防衛戦力がいるようです」
どうしますか? とダナンが視線で問いかけてくる。答えは決まっている。
「押し通る!」
「姫殿下!」
風の精霊の力を借りて目に見えぬ風の衣を纏い、私は駆け出した。領主館の前に展開していた敵兵が突出した私に矢を射かけてくる。
「矢が!?」
「魔法だ! 来るぞ! 槍構え! 踏ん張れ!」
私の身体の周りに渦巻く風が飛んできた矢の全てを逸らしていく。敵の指揮官はなかなか優秀なようで、矢での攻撃に拘泥することなく突進してくる私に対して即座に槍衾を形成することを選んだ。
私は走りながら風の精霊に命じ、槍衾と接触する前に身に纏う風の衣を暴風に変えて敵集団にぶつける。その一撃で数人が吹き飛び、槍衾が乱れた。
「らあぁぁぁぁッ!」
乱れ、穴が空いた槍衾に飛び込み、鞘から引き抜いたペイルムーンを縦横無尽に振るう。
青白い刃が鎧ごと聖王国軍の兵士達の胴を、腕を、足を切り裂いた。斬り飛ばされた手足や上半身が宙を舞う。ほんの数瞬の間に辺りは一面血の海だ。
「その耳、黒い肌……魔女め!」
兵のうちの誰かがそう言った。次の瞬間にはペイルムーンで首を刎ね飛ばしてやったが。
「槍を捨てろ! 剣で応戦……っ!?」
立ちはだかる敵兵を斬り捨て、腰の鞘からククリナイフを左手で引き抜いて後方の指揮官らしき男に投擲した。回転しながら飛んだククリナイフが指揮官の男の顔面に突き刺さり、男はまるで殴りつけられたかのように激しく転倒した。
「ミゼル様!? 貴様ァ!」
男の傍に控えていた騎士らしき男が顔を真赤にして突撃してくる。その男に向けて私は腰のホルスターから引き抜いたリボルバーの銃口を向けた。
ガンガンガンッ! と雷鳴のような音が響き、突撃してきていた男が後ろに吹き飛んでいく。鎧に穴が空いていたから生きてはいまい。
今しがた殺した指揮官らしき男とその護衛らしき男が殺されたためか、敵兵達の士気が急速に落ちていくのが感じられた。
「武器を捨てて投降しろ。そうすれば命までは取らん」
私を取り囲んでいる兵達は互いに顔を見合わせ、更に鬼気迫る様子でこちらに突撃してくるダナン達を見て武器を捨てた。
程なくして、アーリヒブルグは落ち、その城門にメリナード王国の旗が掲げられた。コースケがアーリヒブルグに到着したのはその後のことだった。
Fallout76始めました✌(゜ω゜)✌




