第077話~前線へ~
「じゃあ、アーリヒブルグはもう目と鼻の先なんだな」
『ああ、そうなる。今回の戦闘では負傷者がそれなりに出たが、死者は少ない。コースケとアイラの作ってくれたポーションで負傷はほぼ癒えたから、数日かけて休養とメイズウッドの掌握をしたらアーリヒブルグを攻める』
ゴーレム通信機からシルフィの声が返ってくる。
一週間ほど前にガンマ砦から進発した解放軍は道中の村や町を制圧しながら旧メリナード王国領を北上し、交通の要衝であるアーリヒブルグの手前の街までの侵攻を今日完了したらしい。
「そっか……大丈夫か? 俺、行かなくて良いのか? 補給拠点も作り終わってるし、どうしてもこっちでしなきゃならんということは無いぞ」
実際、後方で俺がすることはほぼなくなっており、この数日はゴーツフット式強化クロスボウやハーピィ用の航空爆弾、ボルトアクションライフル用の弾薬やパーツ類など、俺でないと量産できないものの量産や、その材料集めに奔走していたくらいだ。
暫くお便所の土集めはしたくないかな!
『そうだな……アーリヒブルグを攻め落としたら、アーリヒブルグの防衛能力を強化したいな。こちらに向かって貰っても良いか?』
「わかった! できれば明日、遅くとも明後日には出発する!」
『ふふ……では張り切ったコースケがこちらに着くまでにアーリヒブルグを攻め落としておくとしよう。アーリヒブルグ以南に存在している聖王国軍もまだそれなりに居るからな。道中気をつけるように』
「シルフィこそ気をつけてくれよ。怪我なんてしないようにな」
『わかった。では、な』
「ああ、おやすみ」
通信を終えてゴーレム通信機を待機状態にする。
「明日は移動?」
「その予定だ。アイラはここに……」
「行く」
「いや、怪我人とか病人が出た時のためにな?」
「ポーションで大丈夫だし、元錬金術師や薬師がいる。問題ない」
「うーん……そうか。大丈夫かな?」
「コースケが一人で移動するほうが大問題。護衛は必須」
アイラは俺に着いてくるという方針を変えることはなかった。一緒に行きたくないわけじゃないぞ? 寧ろ、とても心強い。独りぼっちは寂しいしな。いや、独りで行くことにはならないか。絶対ハーピィの三人はついてくるだろうし。
「移動手段はどうするかな……アイラを抱っこして走るか?」
「あのぴょんぴょん移動は無理。吐く」
アイラは嫌そうな顔をしながら自分の口の前で小さくバッテンを作った。そうか、吐くか。まぁ酔ってもおかしくはないな。凄い速度で飛び跳ねながら移動するわけだし。
「じゃあ馬車だな。余分なのあったっけ?」
「一台くらいどうとでもなる。前線に補給物資を届けるという名目がある」
「確かに」
馬車一台で運べる物資の量なんてたかが知れているが、俺が乗っているなら話は違ってくる。俺のインベントリならとんでもない量の物資を運べるからな。というか、未だにインベントリに入る物資量の底が見えない。まさかこれ、いくらでも収納できるんだろうか?
「明日のことは明日やる。今日は私と二人きりの夜」
「それはそうだな。もう日も落ちてるし」
この世界の人々は基本的に日が落ちたら仕事はしない。暗い中で仕事をするのは効率が悪いし、危険だ。その上、明かりをつけなければならないのでコストも掛かる。なので、日が落ちたら家に帰って家族や恋人と時間を過ごして絆を育むのである。
ちなみに、今日はアイラの言う通り二人きりで過ごすことになっている。今日はレイ、ペッサー、カプリの三人は別の寝床だ。俺の知らないところで話し合って決めたらしい。
「今日の私はお姉さん」
「お姉さん」
見上げてくるアイラにオウム返しする。これはまた小さいお姉さんがいたものだ。アイラと俺の身長差は頭一つ半……いや、二つは違う。
「実際私はお姉さん。歳上」
「それは確かに」
こう見えてアイラの歳は三十二歳であるらしい。単眼族であるアイラもまた、エルフほどではないにせよ長命種だということだな。俺は二十四……いや、こっちで過ごした時間も合わせればもう二十五歳か。二十五歳なので、アイラのほうが七歳歳上ということになる。
ちなみに、確認してみたところこの世界の暦は地球と大差なかった。一日何時間とか、閏年があるかどうかとか細かいところまでは聞いていないが、一ヶ月は約三十日で一年は十二の月に分かれている。ほぼ同じと言っても問題はあるまい。
「それで、お姉さんのアイラはどういう感じで何をするつもりで?」
「アイラお姉ちゃん」
「なに?」
「コースケは年下。私のことをアイラお姉ちゃんと呼ぶべき」
「いや、それはちょっと……」
この歳でお姉ちゃん呼びは……そ、そんなじっと見られても嫌だぞ。俺は屈しないぞ! あっあっ、泣くのはダメです。あーっ! いけません! お客様泣くのはいけません! ズルいぞ!
「あ……」
「あ?」
「アイラお姉ちゃん……」
「……ふふ」
あーっ! 笑ったなお前! 言わせておいて笑ったな!?
「可愛い。おいで、お姉ちゃんが甘やかしてあげる」
アイラが上気した顔で微笑み、優しげな視線で俺を見ながら両腕を広げて俺を受け入れる態勢を整える。
「いや、それはさすがに」
「お姉ちゃんに甘えてくれないの?」
アイラが悲しそうな顔をする。それはズルくない?
「そういうわけじゃ」
「おいで」
「……はい」
俺に抵抗する余地はなかった。
☆★☆
「あーーーーーーーーーっ!」
朝、目を覚ました俺は叫びながらベッドの上を転げ回る。昨晩はアイラのペースに終始乗せられてしまった。何か途轍もない失態を晒した気がしてならない。
「おはよう、コースケ。朝ごはんできてる」
「おはよう、アイラ」
「アイラお姉ちゃん」
「ゆるして」
「ふふ……」
アイラは何も言わずにただ微笑んでベッドの上の俺に近づき、魔法を使って俺とベッドを綺麗にする。こういうのを見ると魔法ってすごい便利だと思う。俺も使えるものなら是非使ってみたいものだ。
「朝ごはん食べて早く動く。ここからアーリヒブルグには馬車でも三日、いや四日はかかる」
「……わかった」
アイラの作ってくれた朝ごはんは麦粥のようなものだった。こっちに来てから食べる機会が多いんだよな、麦粥。俺は嫌いではないな。思ったより腹持ちも悪くはないし。
食事を済ませたら臨時宿泊施設を解体して出発準備である。
「おっはよう! って、あれ? 家をお片付けしてるってことは、どこかに行くの?」
丁度臨時宿泊施設の解体を終えたところで茶色羽ハーピィのペッサーが空から舞い降りてきた。
「コースケを連れて前線に行く。シルフィからのお墨付き」
「そうなんだ! じゃあ皆に伝えてくるね!」
ペッサーは慌ただしく飛んでいってしまった。まだおはようも言ってないんだが。
「倉庫に行く」
「そうだな」
前線で食料が足りていないという話は聞いていないが、保存の利く穀物やイモの類はあって困るものでもないだろう。なんなら売って軍資金にもできるはずだ。
倉庫の管理をしていた元内政官に事情を説明し、当面必要な分を除く保存の利く収穫物をどんどんインベントリに放り込んでいく。既にこの食料生産拠点では二度の収穫を終えており、空っぽだった倉庫には穀物が溢れかえらんばかりに蓄積されていた。
「俺は前線に行くから、次の収穫以降は一週間になるから」
「ええ、承知しています。それでも異常な収穫速度ですよ」
「だよな」
農地ブロックを俺を耕して俺が種を植えた畑の作物は三日で収穫が可能になる。俺が種を植えなかったら一週間で収穫が可能になる。
そして、実験的にやらかした森の土をただ耕した畑だが、こちらは俺が植えて一週間かかった。俺以外が植えた場合は倍の二週間になると予想されている。まだ生育中だから確かな内容ではないけど。
黙って俺の作業を見ているアイラと一緒に倉庫内を歩き、管理官の指示通りに物資を回収して倉庫の外に出ると二台の馬車が倉庫の前に停まっていた。御者台に座っているのはキュービである。
「よ、前線に行くんだってな」
「キュービも行くのか?」
「護衛だよ、護衛。まだ聖王国軍の連中はアーリヒブルグのこっち側にゃウヨウヨしてやがるしな」
手をひらひらと振ってキュービがそう言う。もう一台の馬車は亜人ではなく、人間の男性が御者をしているようで、馬車の中にはクロスボウや剣で武装した八人ほどの解放軍兵士が乗っていた。彼らも殆ど人間の男性で、亜人は二人だけである。
「人間が多いんだな?」
「前に言わなかったか? 俺は元々メリナード王国の王都で人間と絡んでることが多かったんだよ。その頃の伝手だな」
「ほーん」
元々軍人ではなかったという話だが、キュービは一体どういう経歴の持ち主なんだろうな? 今更ながら謎の多い男ではあるよな。なんとなく元裏社会の人間って感じがするんだが、わざわざ過去をほじくり出すこともないか。
この場にいなかったペッサー達もすぐに飛んできたので、急遽編成された補給物資輸送部隊は物資生産拠点を出発し、一路最前線へと向かって進み始めた。
「この新型馬車はいいよなー、御者をしててもケツが痛くならねぇし」
「乗ってる方もな。改良前の馬車は酷かった。ケツが割れるかと思ったぜ」
「お前のケツは最初から割れてるだろ」
キュービのような亜人のケツはどうなのだろうか? マジマジと男のケツなんて見たことがないからわからんな。俺が裸を見たことのあるシルフィやアイラ、ハーピィさん達はおしりの辺りは人間と変わらないし。
今回の旅程としてはまず今日一日で生産拠点からガンマ砦までの間を走り抜け、その後は解放軍が通ったのと同じルートを北上していくという予定になっている。
生産拠点から北上するという手もあったのだが、解放軍が制圧していない村や街をどうしてもいくつかは通る形になってしまうためリスクが高い。それなら多少遠回りしてでも解放軍が通ったのと同じルートを使ったほうが安全であろうという判断だ。
「何事もなければ良いんだけどな」
「大丈夫、解放軍が通ったルートならトラブルなんて起こりようがない」
アイラさん、知ってます? それってフラグって言うんですよ。
アイラのセリフにそんな事を考えながら、俺はインベントリの中身をチェックしてもしものトラブルにも対応できるように準備を進めるのだった。
自分より少し歳上の合法ロリによるお姉ちゃんプレイを強要された貴方はPOW15との対抗ロール。
失敗した貴方は新たな性癖を獲得する_(:3」∠)_