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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
メリナード王国領でサバイバル!
77/435

第076話~彼女の戦場~

今回はシルフィ視点_(:3」∠)_

 Side:シルフィ


 後方の拠点や各砦から戦力を抽出し、編成を終えた私達はアーリヒブルグへと向けて進軍を開始した。

 戦力はキュービが連れてきた旧メリナード王国民からの志願兵が三〇〇、後方で訓練を終えて合流したクロスボウ兵が合わせて五〇〇、精鋭の重装歩兵が三〇に、軽装歩兵が五〇、元冒険者で構成される遊撃兵が一三〇だ。キュービが連れてきた旧メリナード王国民の中に元中堅ランク以上の冒険者が複数居たために少し増員された。その他にはハーピィ航空隊から一〇名、魔道士五名、銃士隊五名といったところか。合わせて一〇〇〇名ほどの軍になっている。

 今回はコースケが随伴していないので、しっかりと兵站を整える必要がある。幸い、補給物資に関してはコースケが用意してくれたものがあるので、後は運ぶ手間だけだ。これに関しては各砦から鹵獲した馬車を使うことでなんとかした。

 アーリヒブルグへと至るまでにいくつかの街を経由するので、それらを制圧して更に馬車を徴発するつもりである。徴発と言っても、無理矢理奪うのではなく交渉して正当な対価を支払うつもりだが。その辺りはメルティに任せておけば問題ない。

 ちなみに、志願兵三〇〇名は基本的に後方で輜重兵として随伴してもらうことになっている。まだ訓練が中途半端だからな。


「姫殿下、間もなくミッターズタウンです」

「ふむ……敵の動きは?」

「撤退する気は無いようです。住民にも武装を強要して抗戦する構えですね。しかも住民を前に出しているようです」

「訓練を積んでいない民をか……」


 聖王国軍のやり口に胸が悪くなりそうだ。早速だが、銃士隊の出番になりそうだな。


「敵兵の数は三〇人ほどだったな?」

「はい」

「民兵には手を出さず、聖王国軍の正規兵だけをやるぞ」

「御意」


 ミッターズタウンは元は黒き森のエルフと交易をする商人達が安全に寝泊まりするためのキャンプ地だった場所だ。それが宿場町になり、周りに農村が開拓され、その作物が持ち込まれるようになり、宿場町は町となった。そんな歴史を持つ町だ。

 警備に就いている聖王国の兵の数は五〇名、それに一〇〇人近い徴用民兵を加えて町の門を閉め、防壁上に戦力を展開しているようだ。見たところ、遠距離攻撃ができる弓兵の類は聖王国軍の正規兵の中にも一〇名ほどしかいないようだ。

 ピルナ達ハーピィの偵察によると、レンガや石などを防壁に集めているという話だった。恐らくは弓矢を使えない者達は投石で応戦するつもりなのだろう。射程でも威力でもクロスボウのほうが上なので、完封することは簡単だが……徴兵された民兵を傷つけるのは本意ではないな。


「全ての門を封鎖しろ。その上で降伏勧告を行う」

「はっ」


 私の指示によって兵達がミッターズタウンを包囲し、町を封鎖した。兵糧攻めなどという気長な戦法を取っている時間はない。私は風の精霊に呼びかけ、ミッターズタウン全域に声を届ける準備を整えた。


「聞け! ミッターズタウンの住人達よ。我々はメリナード王国解放軍、私はそのリーダーを務めるシルフィエル=ダナル=メリナード! 黒き森の魔女、と言ったほうが諸君らには通りが良いかもしれんな」


 私の宣言を聞き、ミッターズタウンからざわめきのようなものが聞こえてくる。


「我々の目的はメリナード王国領の解放と、不当に虐げられている亜人達の解放である。聖王国の軍人には容赦しないが、何の罪もない民草を傷つけ、町を焼き、その財産を略奪するつもりはない」


 徴用兵達の間に動揺が広がっているようだ。聖王国軍の指揮官が騙されるなと顔を真赤にして喚き、兵達を叱咤している。この状況ではそれは悪手だと私は思うが。


「無理矢理徴兵された民兵諸君も同様だ。武器を捨て、戦闘の意思を放棄すれば傷つけることも、捕らえることもしない。聖王国軍の将兵に関しても、抵抗さえしなければ捕虜とし、武装解除の上で無事解放することを約束しよう」


 聖王国軍の正規兵達の間にも動揺するものが出始めたようだ。互いに目を見合わせ、武器を下ろす者が出始める。


「指揮官を狙撃しろ」

「はっ……やれ」

「了解」


 ガガガガガーン! と連続してボルトアクションライフルの発砲音が響き、城壁上で兵達を叱咤していた聖王国軍士官達の頭が吹き飛ぶ。飛び散った血と脳漿を浴びた聖王国軍の兵達が絹を引き裂くような悲鳴を上げた。男がなんという声を出すのだ……気持ちはわからなくもないが。


「兵の数を見ても質を見ても諸君らに勝ち目はない。半刻の猶予を与える。降伏の意思あらば聖王国の旗を下ろし白旗を掲げ、門を開放せよ。そちらの対応が無い場合、我々は攻撃を開始する。賢明な判断を期待する」


 声を拡散していた風の精霊魔法の効果を終了させて腕を組む。ここからは暫く待ちの一手だ。


 ミッターズタウンは程なくして降伏を選択した。銃士隊により指揮官を殺害された聖王国軍の士気が地の底まで落ちた上に、町への略奪を行わないことを約束したのが良かったのかもしれない。

 解放軍の兵士達はミッターズタウンの街に入り、軍施設を制圧して接収した。軍事施設に保管されていた物資も当然ながら接収する。


「ダナン、兵達にはくれぐれも問題を起こさないように厳命するように」

「お任せください。場合によっては何人か見せしめにしましょう」

「そうならないようにしてくれと言っているんだ……いいな?」

「御意」


 ダナンがニヤリと笑いながらとんでもないことを言い始めたので、しっかりと釘を刺しておく。

 メルティは護衛にザミルを伴って嬉々として街に繰り出していった。きっとこの街の商人達から馬車や補給物資を調達しに行ったのだろう。砦や軍事施設から接収した現金やコースケから事前に受け取っておいた宝石があるから、それを使って手に入れるのだろう。


「とりあえずは何事もなく街を制圧できて良かったのでありますな」

「そうだな。この調子でアーリヒブルグまで行ければ良いのだが」

「吾輩はそう上手くは行かないと思うのであるな」


 レオナールの言葉はすぐに現実となって我々の目の前に立ちはだかった。


「徹底抗戦の構えであるな」

「そのようだ」


 ミッターズタウンからアーリヒブルグに向けて進撃して更に三日。場所的にはガンマ砦から徒歩五日といったところか。我々は道中にある小さな村を制圧しながらアーリヒブルグの手前にあるメイズウッドという街まで進撃していた。


「敵戦力は二〇〇〇ほど、か」


 聖王国軍は私達を迎撃するための戦力をメイズウッドの街に集中させていた。

 その数二〇〇〇。我々の二倍の兵数である。


「完全に籠城して防衛戦に徹するつもりのようですね」


 メイズウッドの街は良質の木材を産出する森の中に作られ、林業と木材の加工で発展した街だ。近くの森から魔物が湧き出すこともあるため強固な防壁を備えている。今回はその防壁を利用して私達を撃退しようとしているわけだ。


「降伏勧告に従うつもりはない、か」


 ミッターズタウンの時と同様に降伏勧告を行なったが、今回は降伏するつもりはないようだ。


「徴兵された民兵が居ないのがせめてもの幸運であるな」

「そうだな。まずは射撃戦で圧倒するぞ」

「御意。クロスボウ兵! 前へ!」


 風の精霊に呼びかけて強力な追い風を吹かせ始めると、五〇〇名のクロスボウ兵が前に出て射撃を始めた。こちらのクロスボウ兵の一斉射が防壁上の聖王国軍兵達を貫き、聖王国軍兵の放った矢は強い向かい風に煽られて失速する。何本かはこちらのクロスボウ兵に届き、多少の負傷者は出たようだが命に別状のある者は居なさそうだ。

 十分もしないうちに敵方の応射はまばらになり、防壁にすっかり隠れてしまった。とりあえず、射撃戦はこちらの一方的な勝利だな。


「やはりクロスボウは凄いな。射撃戦で負ける気がせん」

「そうですな。しかし、籠もってしまいましたね」

「仕方あるまい。いつもの手で行くぞ。ハーピィ達を出撃させろ」

「攻撃目標はどうしますか?」

「敵兵の殺傷を優先するように伝えろ。施設や民間人への被害は極力抑えるように。それと、誰一人落ちるなと」

「承知」


 ダナンが私の傍を離れていく。


「近くに居なくてもお前は私達を守ってくれるな……コースケ」


 両足に航空爆弾を装備したハーピィ達が空高く舞い上がっていく。じきに彼女達が聖王国軍の将兵たちに死の雨を降らせ始めるだろう。そうなればこの戦いの趨勢は決する。

 この辺りでは破城槌を作るための木材に事欠かないからな。戦闘が始まる前から指示を出しておいたから、今頃は輜重部隊の兵達が大木を切り倒し、破城槌を完成させている頃だろう。防壁の防衛戦力をハーピィ達が殲滅し、その上で悠々と破城槌を使って門を破るわけだ。

 コースケが居ればしこたま門を爆撃して門自体を爆破するという手もあるのだが、コースケが同行していない今、貴重なハーピィの航空爆弾を湯水のように消費することはできない。

 ハーピィ達による爆撃が始まった。空気を震わせるような爆音が何度も鳴り響き、解放軍の兵士達が歓声を上げる。


「今回もハーピィ達の武功が一番でありますな」

「彼女達は自分たちの武功ではなく、コースケの武功であると主張するだろうがな」

「そうであるな」


 我々解放軍にとって、コースケは正に生命線だ。それと同時に、致命的な急所でもある。


「今後、コースケはずっと安全な後方に置くのでありますかな?」

「そうだな。私はそのつもりだ」

「コースケはきっと良い顔をしないと吾輩は愚考するのである」

「私もそう思う。だが、前に出して万一があるとな」

「後方に置いておけば安全、というわけではないと思うのであるな」

「では、レオナールはどうするべきだと?」


 私の質問にレオナールは肩を竦めてから答えた。


「常に姫殿下の傍に侍らせておくのが一番だと思うのであるな。それが一番安全で、二人とも幸せでいられると思うのである。吾輩はそうしなかったことで失敗したのであるな」


 レオナール卿は聖王国軍との交戦の中で細君を失っている。彼の領地はメリナード王国軍の本隊を迂回した聖王国軍の別働隊に攻められ、その際に細君は最後まで剣を振るって果てたのだと。


「前向きに検討しておく」

「そうすると良いと思うのである。コースケが居れば食事の質も上がるのであるな」


 呵々と笑いながらレオナールは後方から運ばれてきた破城槌の方に歩き去っていった。ザミルとまた一番槍争いでもするのだろう。


「コースケ……待っていろ」


 このメイズウッドも程なく落ちるだろう。そうすれば、アーリヒブルグはもう目と鼻の先だ。アーリヒブルグを制圧すれば解放軍も一息吐けるようになる。それまでの辛抱だ。


「まだ、私は頑張れる」


 ペイルムーンの柄を握り、ハーピィ達の爆撃でボロボロになったメイズウッドの防壁を見上げる。


「突撃開始! 聖王国軍に目に物見せるぞ!」


 オオッ、と声を上げる兵達と共に、城門へと向かう。まずはここを落とす。それに集中しよう。

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[良い点] 戦争してるねぇ。
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