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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
メリナード王国領でサバイバル!
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第075話~後方待機~

朝起きたら布団蹴っ飛ばして寝てて寒さのあまりに体調が悪い_(:3」∠)_(間抜け

 今日の作業を終えて宿泊施設に戻る。いつも作りを同じにしているおかげで、場所を移動しても我が家って感覚があるのはなんだか安心するな。今日は俺が相談事をするということで、アイラだけでなく生産拠点開拓の支援に来ていたハーピィさん達も全員集合ということになった。

 本日のハーピィさんは三名、漆黒羽ハーピィのレイと茶色羽ハーピィのペッサー、同じく茶色羽ハーピィのカプリだ。

 入浴と食事を済ませた俺達は籐製の長椅子に並んで座り、まったりモードである。


「それで、今日はコースケはんが何か相談あるって聞いとるけど、どないしたん?」

「うーん、相談するようなことじゃないと思うんだがな」


 と、そう前置いて昼間に俺が少しだけ思い悩んだことを包み隠さず告白することにする。俺だって別に戦えないわけじゃないのに皆の後ろに隠れて、その手を血で汚させているのがモヤモヤするのだと。

 俺自身の性格的にも能力敵にも戦闘に向いている性質じゃないのは自覚しているけど、それでも皆に自分がやりたくないことを押し付けているような気がして後ろめたい気持ちになるのだと。

 俺の告白を聞いたアイラ達はしばし考え込んだ。彼女達なりの言葉を探しているのだろう。


「私はコースケの気持ちがよくわかる」


 最初に口を開いたアイラはそう言って俺の顔をじっと見つめてきた。距離が近いせいで大きな瞳の中に俺の顔が写り込んでいるのがよく見える。


「私も宮廷魔道士としての力を持っているけど、同時に錬金術師としての力も持っている。身体も小さい。だから、危険な狩りとかには出してもらえなかった」

「アイラが倒れたら怪我人や病人が出た時にどうしようもなくなるから」


 漆黒羽ハーピィのレイが静かな声でポツリと呟く。その呟きにアイラは頷いた。


「そう、だからあまり危険なことはできなかった。周りの人がそうさせてくれなかったし、私自身もそうする訳にはいかないと自覚していた。今のコースケと同じ」

「確かに同じだな……どうやって乗り越えたんだ?」

「我慢した」

「ですよね」


 非常にシンプルな答えだった。


「気を逸らせて無理に動いても事態は悪化こそすれども好転はしない。自分が前に出て力を振るった時と、今のまま里で皆を助けた時、どちらのほうが皆の助けになるか考えた。そうしたら、どう考えても私は里に留まっていたほうが皆のためになると思った。だから我慢した」

「むぅ……」


 俺もそれはわかってるんだけどなぁ。だからってそれで納得できるかと言うとなかなか難しいんだよな。だから悩んでいるわけで。


「負い目を感じているなら、コースケが負い目を感じている人に聞いてみたらいいんじゃない?」


 ペッサーが実にシンプルな答えを出してくれる。でもな、皆に『安全圏に居続けている俺ってどう?』とか聞いて回るのはちょっと遠慮したい。


「少なくとも、私達ハーピィにコースケ様が負い目を感じる必要は一切無い。寧ろ、私達を重用してくれて感謝している」


 普段無口なレイが珍しく長い台詞を喋ってくれる。俺を見つめるつぶらな黒い瞳に俺を気遣っているような雰囲気は見られない。本心からそう言ってくれているように感じる。


「せやねぇ、うちもそう思うわ。うちらがこんなに活躍できるようになって、皆に一目置かれるようになったのは全部コースケはんのおかげやし」

「そうだねー。ボクたちは力が弱いから黒き森の大きな獣は狩れなかったし、手先も不器用だから里に居た頃はお荷物だったんだ。狩りの随伴に出ることはあったけど、あの頃は通信機も無かったから情報を伝えても現場に行ったらもう逃げられてるとか、移動してるとかよくあったんだよね」


 兎狩りとかなら得意なんだけど、と言ってペッサーが笑う。体重の軽い小型動物ならば上空からの急降下で捕まえる事ができるらしい。全員が大型の猛禽類みたいなもんなのかね。


「コースケが居なかったら私達は今頃黒き森でギズマと戦って討ち死にしていたか、森の奥で魔物にやられていた。今だってコースケのおかげでご飯を食べられているし、安全で清潔な場所で寝られる。それを知った上でコースケに戦いを押し付けようとする人なんているわけがない」

「つまり、気にしすぎ」

「一人相撲やねぇ」

「コースケはどうでもいいことを気にしすぎだと思うな!」

「けっこう辛辣!」


 考え過ぎ、考え過ぎかぁ。うーん、そうなのかね。皆がそう言うならそうなのかな。確かに俺は皆の生活にも戦いにも大きく貢献しているとは思う。


「そもそも、コースケは考え違いをしている。前に出て戦っている人達は嫌々戦わされているわけじゃない。望んで戦っている。決して汚れ仕事なんかじゃない。彼らは自分の、皆の誇りを取り戻すために戦いに身を投じている」

「む……」

「そうやねぇ。そもそも、うちらも含めて戦ってる人らは自分達の手足や羽を汚しているとは思っとらんよ。自分のために、皆のために戦こうとるんやし」

「むむむ……」


 つまり、皆に『手を汚させている』と考えること自体が間違いだと、そういうことだろうか。


「凄いなって思ったり、頑張ってって思ってくれるのは良いけど、ごめんねって思われるのはなんか違うよねー」

「違う」


 ペッサーとレイにも言われてしまった。そもそもの俺の考え方が間違っているのか。うーん、難しい。戦争を、それに伴う殺人をどこまで正当化できるものなのかとか、突き詰めるととんでもなく難しい話になりそうだ。


「コースケは考えれば考えるほどドツボにはまる。あまり深く考えずにできることをしっかりしていくのが一番」

「その言い方はまるで俺がお馬鹿さんみたいじゃないか……?」

「……そんなことはない。優しすぎるだけ」


 微妙な間があった気がするんだが、俺の気のせいだろうか? ハーピィさん達に視線を向けると、視線を逸らされたりにっこりと微笑まれたりした。気のせいということにしておこう、俺の精神衛生上の理由で。


「難しい話はおしまーい! 久々に私達の番なんだから、仲良くしようね!」

「ん、そうするべき」

「難しいことは考えんと、うちらに身を任せてなぁ」


 ペッサーが俺の手を引いて寝室へと誘い、アイラがその後ろから俺を押して、カプリがニコニコしながらその後ろをついてくる。レイは誰よりも早く先行して寝室への扉を開けていた。完璧な連携である。


「……お手柔らかにお願いします」


 俺の言葉に彼女達は答えず、ただ微笑みだけを浮かべた。これアカンやつや。


 ☆★☆


 ミスリルツールの効果によって開拓は急ピッチで進んだ。たった三日で広大な農地と、農業用用水路網が出来上がったのである。


「コースケの作る水場は反則だと思う」

「今更じゃないか?」


 広大な農地を運営する上でネックになるのは農業用水である。当然ながら清潔な水である方が望ましいし、何より農地全体を賄えるくらいの水量が必要である。俺の作り出す無限水源はその二つの条件を簡単にクリアできてしまうからな。


「広げようと思えばいくらでも広げられるのは凄いと言うか、危うい」

「危うい?」

「施政者にとってはコースケを手中に収めている者を殺してでも奪い取る価値があるということ」

「やだこわい」

「しかもコースケの作った畑は一週間で収穫ができる。それは作物にもよるけど、一ヶ月で二年分の収穫が可能になるということ。作物が余れば他所に売れるし、畜産にも使える。農業面の能力だけを見てもコースケの価値は計り知れない」

「なるほど」


 そう考えると俺の能力は確かにとんでもないな。金の卵を産む鶏……いや、金貨を吐き出し続けるマーライオンみたいな? 我ながら例えが汚いな。


「聖王国にコースケの存在が知られたら何が何でも奪いに来るかもしれない。コースケの使う説明のつかない力は神官や聖人の起こす奇跡に性質が近い」

「マジで?」

「マジ。だからコースケの存在は何が何でも隠す必要がある」

「無理じゃね?」


 俺がこの生産拠点を作ったということは解放軍中に知れ渡るだろうし、いずれは解放軍に属さない人もここを訪れるだろう。人の口には戸が立てられないと言うし、俺の存在が聖王国にバレるのは時間の問題だと思う。


「うん、無理。だからコースケの身辺警護にはより一層気をつけなければならない」


 そう言ってアイラが俺の腰にヒシっと抱きついてくる。


「アイラさん?」

「身辺警護」

「あ、そっすか」


 何かが激しく間違っている気がしてならないが、アイラに抱きつかれるのは俺的にウェルカムなのでこのままにしておこう。ちょっと歩きづらい上に解放軍の兵士の皆様達からの生暖かい視線が突き刺さるが、気にしてはいけない。

 生産拠点の整備が終わった時点でアルファ砦には通信を送っているので、今日中にこの生産拠点で働く人々がここに到着するはずである。

 この生産拠点の収容人数は五〇〇人となっているので、この前集まってきた人員全てをここに収容することは出来ない。残りの半分くらいの人数は後方の中央拠点や本拠点に送られるはずだ。

 本拠点や中央拠点では水車動力や魔法動力を使った加工機械や金属精錬炉が稼働し始めたらしく、それを扱うための職人が足りないそうだ。なので、残りの人員というのは概ねそういった技能を持つ人やその家族である。

 それと、本拠点や中央拠点から各拠点やシェルター間を繋ぐ街道の整備が始まっているらしい。せめて馬車くらいは移動できるようにということで、土魔法を使える人員を投入してちまちまと進めているのだそうだ。俺がそのうち駆り出されると思っていたんだが、向こうでやってくれるならそれに越したことはないよな。全部が全部俺がやるのもどうかと思うし。


「そういえば、アーリヒブルグへの侵攻はどうなってるんだ?」

「ん、もう編成を終えて明日出発するはず」

「そうか。今回は俺は行かなくて良いのかね?」

「コースケ抜きでやるって話。アルファ、ベータ、それに中央砦からも戦力を抽出した総力戦」

「そっか……大丈夫かな」


 俺の知らないところで知り合いの誰かが死ぬかもしれないと思うと不安になる。俺がその場に居ればなんとかなるかもしれない、と思ってしまうのだ。


「クロスボウと航空爆弾、手投げ弾もあるし大丈夫。中央砦からレオナール卿も行っているし、ダナンもザミルもいる。シルフィを必ず守ってくれる」

「そうだと良いが……」

「もどかしいかもしれないけど、時には後方でどっしりと構えているのも大事。コースケが後ろにいるから皆安心して戦える」

「ああ、そうだな」


 それでも落ち着かないものは落ち着かないな。皆無事でいてくれると良いんだが。

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― 新着の感想 ―
[一言]  コースケ的には、倒している相手はほぼ伝聞ですからね。イスラエルとパレスチナみたいに強行策やテロに見える攻撃を抜かせば、和平出来ないかな?とか、当事者以外の目線では、考えてしまうようなもんで…
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