第006話~異世界クッキング!~
明日以降の土日は12時と18時か21時の二回更新、平日は18時か21に一回更新で頑張っていきたい_(:3」∠)_
シルフィと一緒に台所に立ち、この世界の調味料の説明を聞く。塩はわかったが、他は良くわからん。香辛料が豊富なようなのでいくつか実際に舐めさせてもらった。とりあえず胡椒、唐辛子、辛子、シナモン、ニンニク、生姜っぽいものはわかった。ほかはよくわからん。
あと、砂糖はなかったが何かの蜜のようなものはあった。甘くてとろっとしているが、蜂蜜とは風味が違う。花の蜜なんだろうか? 醤油や味噌などは無かった。まぁそうだよね。
「主食は何を食うんだ?」
「これを捏ねて焼いたものだな」
そう言ってシルフィが指を指したのは大きな麻袋のようなものだ。口を開いて中を見てみると。サラサラとした粉が入っている。小麦粉みたいなもんだろうか。
「うーん、とりあえずやってみるよ」
とりあえず鶏肉っぽいリザーフの肉を細切りにして塩をまぶし、蜜を絡める。鶏っぽいし、甘辛い感じの味付けは合うと思うんだよな。そしてニンニクを一欠片だけみじん切りにして揉み込む。
肉はそのまま放置して味を馴染ませておいて、野菜を検分する。色々あるが、どう食うかわからんものが多いな。根菜、葉物、キャベツっぽいの、果物っぽいの、色々あるけどまったくわかんねぇ。
「生のまま食えて、シャキシャキ感あるのはどれだ?」
「その丸いギャベジか、黒くて太いディーコンだな」
シルフィが真っ赤なキャベツっぽい野菜と大根っぽい野菜を指差す。うーん、赤いキャベツにしてみるか。キッチンにあったナイフで赤いキャベツことギャベジを半分に断ち割り、芯を取ってから少しだけ千切りにして食べてみる。うん、キャベツだわこれ。赤いけど。
紫色のタマネギもあったので、これも試してみる。うん、普通に赤タマネギだ。辛味が少し強いか? あと中まで赤いというか紫。うーん、これも使うか。両方とも千切りにしておく。
黒くて太いダイコンことディーコンさんは今日は見逃してやろう。
「問題はこいつか……粉には違いないよな」
小麦粉なのかコーンミールなのか他の何かなのかはわからんが、水で練って火を通せばきっと固まるだろう。というわけで少量を水で練ってみる。うーん、粘りが少ないような。まぁいいか。
ふとシルフィの方を見てみると、何やらニヤニヤとしてこちらの様子を眺めている。陶器製の瓶から何かをラッパ飲みしながら。なんだよそれ、酒か? ちくしょう良い身分だなご主人様。
「言っておくが、どれもこれも初めての食材ばかりなんだからな。失敗しても知らんぞ」
「なに、その時はその時だ」
シルフィはニヤニヤしたままである。これだけの調味料と野菜を揃えている以上、彼女もそれなりに料理はできるに違いないんだが、口を出すつもりはないらしい。いいよいいよ、どうなっても知らんからな!
かまどの火はシルフィが点けてくれたのだが、火力調節が難しいぞこれ。薪を放り込み過ぎたら超火力になりそうだから慎重にやらないといかんな……とりあえず水でゆるめに溶いた穀物の粉を熱したフライパンの上に少し垂らしてみる。うん、小麦粉っぽいかな? 多分小麦粉。もう少し量を垂らしてみるとだいたい思った通りの薄い生地が焼けた。
「つまみ食いしすぎじゃないか?」
「初めて扱う食材だっつってんだルルォ!?」
飛んでくる野次に対応しつつ、味を馴染ませた肉を焼く。細切れになった肉にしっかりを火を通し、味を見て塩を振り足す。一味足りない気がするが、初めてなら上出来だろう。焼き終えたフライパンに少量の水を加えてソースもどきを作り、小皿に移しておく。
そして穀物の粉を溶いた生地を焼いて薄焼きパン――トルティーヤもどきを焼く。焼きまくる。とりあえず六枚焼いて大皿に積み重ねる。刻んだ野菜を盛った皿と薄焼きパンを盛った皿、焼肉を盛った皿を持ってテーブルの上に置いた。
「ふむ、これはどう食べるんだ?」
「これをこうして、こうだ」
大きな薄焼きパンの上に刻んだ野菜を載せ、肉をたっぷり載せ、ソースもどきを少しかけてくるくると巻いて差し出す。リザーフ肉のタコス……いや、ブリトーもどきだな。
「このままガブリとかぶりついてくれ」
「ふむ……」
シルフィが俺に言われるままにカプリとブリトーもどきにかぶりつく。もぐもぐと暫く咀嚼してから飲み込んだ。
「悪くないな」
「そうか。俺も食っていいか?」
「ああ」
一応ご主人様の許可を得てから俺もブリトーもどきを巻いて食う。うん、シャキシャキしたギャベジと紫タマネギの食感も良いし、少し濃い目につけたリザーフ肉の味もまぁまぁだな。もう少し刺激があってもいいか。俺は台所から唐辛子と辛子を持ってくる。シルフィも少し刺激が足りなかったのか、唐辛子を使い始めた。
「うん、まぁまぁの出来だな。初めての食材を使った割に上出来だと思う」
「ああ、悪くない。葉に包んで持っていけば弁当にもいいかもしれないな」
「朝作って昼に食うならいいかもな。それ以上は食中毒が怖い」
「確かに。だがお前のインベントリとやらに保管しておけばどうだ?」
「どうかな。インベントリの中に入れておいた食べ物が傷むかどうか試してみるか……生肉を一切れ残しておけばいいな」
「そうだな。残りは塩を強めにきかせておけば数日はもつ」
ブリトーもどきを食べながら俺のインベントリ機能について話し合う。シルフィの分のブリトーは俺が巻く。うん、奴隷だからね、仕方ないね。住まわせてもらうんだからこれくらいはね。
「さて、まぁ悪くない食事だった。私は出かけてくるから、家の中で大人しくしていろ。子供じゃないんだから、して良いことと悪いことの区別はつくな?」
「ああ、大丈夫だ。大人しくしてるよ」
トイレの場所も教えてもらったし、何の心配もない。シルフィが何をしに行くのかはわからんが、明日は狩りに同行しろと言っていたし俺を処刑する算段をつけにいくということでもあるまい。
俺は俺でシルフィが外に出ている間にクラフトメニューやインベントリ関連で検証したいこともある。実に好都合である。
「いい子にしていろよ」
そう言い残してシルフィは家から出ていった。少しだけ食休みをしてから俺は動き出す。
「インベントリ内の時間経過を測るならこれが最適だよな」
かまどの残り火を火口に点火し、インベントリにしまう。するとインベントリ内には『燃えている火口』が追加された。暫く待っても『燃えている火口』はそのままである。消えることはない。
かまどの灰の上に出してみると、点火した時と状態はほぼ変わっていないように見えた。すぐに燃え尽きてしまったが。
「ふーむ、断定はまだできないが……」
どうやらインベントリ内では時間が止まって保管されている説が濃厚である。着の身着のままでこの世界に放り出された時はなんてクソゲーだと内心思ったものだが、インベントリの性質はイージーモードだったようで一安心だ。
点火した火口を大量に作ってインベントリに保管しておく。これで面倒な着火とはおさらばだ。さらば、舞錐式着火装置。いや、使うかもしれないからインベントリには入れておくけど。
インベントリの実験を終えたら今度はクラフトメニューを弄くり回す。残念ながら増えている作成物は特にない。いや、リザーフの骨や皮、牙を利用したクラフトアイテムは増えているのだが、石製のものと性能がどっこいどっこいな気がするのでスルーしている。リザーフの牙で作った矢くらいは作っておくか。矢玉はいくらあっても困らないし。でも鉄が作れるようになったら鉄製の鏃をもった矢を作るだろうしなぁ……まぁ明日の狩りで使えるかもしれないから作っておくか。
合成弓は今のところ俺の切り札だから、シルフィに見せても大丈夫な普通の弓を一張作っておこう。弓の訓練もしたいんだけどなぁ。流石に室内で弓の訓練はできないし、もしやって壁に穴でも空けたらシルフィに殺されそうだ。比喩でなくマジで。
そうなるとやることがないな……いや、まずは家の中を確認して俺の寝床が無さそうだったら寝床を作るか。ハンモックを吊るすくらいは許してくれるだろ。
そういうわけで、シルフィの家の中を探検する。とはいってもシルフィのプライバシーなんかもあるので、リビングとトイレ以外の部屋はチラリと覗くだけだ。流石の俺も女性の部屋を嗅ぎ回って衣服や下着を物色するような特殊性癖は持ち合わせていない。
シルフィの家は広いが、間取りはそんなに難しくなかった。リビングの奥にシルフィの寝室、その隣に物置、というか生活雑貨を仕舞っているらしき倉庫、あとはリビングから繋がる渡り廊下の先にトイレと、裏に少し広めの庭だ。庭の地面は踏み固められた土なので、どちらかと言うと庭というよりはちょっとした運動場みたいに思える。それと敷地内に物置小屋のようなものがもう一つあった。施錠してあって入れなかったけど。
「ふむ……俺の寝床はどこになるのかね?」
有力なのはこのリビングというか居間というか、土間もありキッチンも一緒になっている生活スペースの片隅にハンモックを吊るすという感じじゃなかろうか。あるいは施錠してある庭の物置小屋か。まぁそんなところだろう。
いずれにしても室内にハンモックを吊るすことになるわけだ。ハンモックスタンドが要るな。
「クラフトメニューに確かあったよな」
木材を利用してハンモックスタンドを作り、更に作成済みのハンモックと組み合わせて自立式ハンモックをクラフトする。
「ほう……うん、悪くない」
庭に設置してその上に寝転がってみると、なかなかの寝心地だ。木に吊るしていた時には無かったのだが、自立式ハンモックは両端部分を木の棒で広げるような構造になっていて、身体があまり丸まらなくなっていて寝やすい。でもあっちはあっちで少ないスペースに身を隠しながら寝られていたからな……元のハンモックも作っておこう。
ハンモックのクラフト予約を終えたら庭を隅々まで歩く。石や草はクラフト素材になるので、どんどん回収する。ちょっとした小石も数が貯まれば矢のクラフト材料になるのだ。草もロープやハンモックの材料になるので、無駄にはならない。
大方拾い終えたらクラフトメニューを開いて中間素材をどんどん作っていく。中間素材とはどういうものかというと、例えばハンモックなら草から繊維にクラフトし、更に繊維をロープにクラフトし、そこからさらに複数のロープを材料としてハンモックが出来上がる。この場合、草からできる繊維やそれを加工したロープが中間素材にあたるわけだ。庭に設置したハンモックに腰掛け、クラフトメニューを操作してそういった中間素材をガンガン作っていく。こうすることによって何かを作る時に時間を短縮できるわけだ。
そして、中間素材が増えれば新しいクラフトアイテムがメニューに追加される可能性がある。石から砂利や石刃、砂利から砂、など黙々と作っていく。
「うーん、あまり増えないな」
繊維から作った綿をこれまた繊維から作った袋に詰め、クッションにしながら思わずボヤく。何かキーとなる工具が足りないのか、それとも単に素材不足なのか期待するほどクラフト可能なアイテムは増えなかった。
「うーむ、残念」
新しく作った武器、ボーラを弄びながら呟く。
ボーラというのはロープと石で作った三叉の鎖分銅のような武器だ。三叉に伸びたロープの先に石が結わえられており、これを回転させながら投げつけることで相手を捕縛する。勿論このまま持って殴ってもとても痛い。
実際に使ったことが無いからどの程度効果があるかはわからんが、こういうのは用意しておくに越したことはないよな。ただの投石よりはなんぼかマシだろうし。
狩りに使う武器を一つ一つ取り出し、チェックしているうちにシルフィが帰ってきた。庭に出てきた彼女は自立式ハンモックや地面に並べられた粗末な武器の数々を見てニヤリと笑う。
「なかなか良い品揃えじゃないか。使えるのか?」
「武器としての殺傷能力が有るか否かって意味ならイエスだ。石槍はリザーフの口腔に間違いなく突き刺さったし、石斧はその頭を砕く威力が十分にあった。弓は試してないが、木に突き刺さる程度の威力は実証済みだ。そして俺が使いこなせるのかって意味で言うと正直言って微妙だな。俺はこういった武器を扱う訓練どころか、殴り合いの喧嘩すらまともにしたことがない一般人だぞ」
「なるほど。変わったものもあるようだな?」
「ああ、そいつはボーラって言ってな」
シルフィが興味を示したボーラの使い方について一通り説明してやる。するとシルフィはボーラが気に入ったのか、一つくれと言ってきた。まだ材料はあるし、裏でクラフト予約を入れておけばいいので素直に献上しておく。きっと俺よりも上手く使いこなすことだろう。
「他にも色々と作れるのか?」
ニヤニヤしながらシルフィが問いかけてくる。さて、質問の意図がなんともだが素直に答えるべきかどうか。現時点でシルフィに全てを打ち明けるのはちょっと怖い。シルフィが俺を保護した目的がまだ判然としないし。だが、打ち明けた上で利用価値があると思われれば俺の命は安泰かもしれない。判断が難しい。
「色々とな。でも無から有を作り出せるわけじゃない。当然何を作るにも材料が必要だ」
「ほう……ここにあるのはどれも石の武器ばかりだが、金属の武器も作り出せるのか?」
「わからん。さっきも言ったと思うが、まだこちらの世界に来て数日だ。俺自身も俺の能力全てを把握できていない」
適当に話を濁しながら頭を回転させる。俺の能力がインベントリだけでないことは間違いなく既に勘付かれている。言動から大体の見当もつけられていると考えて間違いない。ここであからさまに隠すのは逆に不信感を抱かせることになるだろう。
そしてこれから暫くの間シルフィの世話になるのはほぼ間違いない。どうもこの女は俺のことを面白がっている節があるから、できる限り興味を持たれ続けるように立ち回るべきだ。この女は恐らく面白いものが好き、というか娯楽に飢えているのではないだろうか。ならば俺はそれを満たし続けるべきだろう。
「ただ――」
「ただ?」
「金属製品を作れるようになるんじゃないかという目処は立っている。でもそれを試すための材料がない。具体的には鉄鉱石と燃料だな」
「ふむ、材料か……」
シルフィは顎に手を当てて考え込んだ。とりあえず興味は惹けたらしい。
「鉄鉱石に関してはあてがあるが、燃料が問題だな。鉄を精錬するのにはただの薪では無理なのだろう?」
「わからん。俺の常識では無理だが、俺の能力で作るならいけるかもしれん。だが、一般的には石炭を加工したコークスか、最低でも木炭は要るはずだな。どちらにせよ試してみないことにはわからない」
「ふぅむ……今試してみることはできないのか?」
「鉄鉱石があればな。屑鉄でもいいんだが」
「ならいいものがある」
そう言ってシルフィはニヤリと笑った。とびきりヤバそうな笑みだった。コワイ!




