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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
異世界の荒野でサバイバル!
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第068話~仲良くしましょう!(威圧)~

「私達は賊ではありません。聖王国に支配され、弾圧されている全ての人族を解放するために活動している解放軍なのです。ですから、聖王国の軍人ではない貴方達を殺すことはしませんし、荷を一方的に奪うことはしません。まずはその点をご理解頂ければと思います」


 メルティがあくまでにこやかにペンス商会の責任者――先ほど気絶した太っちょのおっちゃんだ――に俺達の立場を説明する。交渉の席に着いているのは太っちょのおっちゃんと、メルティ、そしてダナンの三人だ。

 シルフィは王族という立場にあるので、このようないち商人との交渉に同席するのは問題があるらしい。なので、少し離れたところで様子を窺っているはずである。

 俺? 実は俺も交渉のテーブルに同席しています。見た目は普通の人間だからね。少しでも相手の緊張を解せるかもしれないということで奴隷の首輪を外した上でこの席に配置されたわけだ。


「あ、あの……ですが、我々の運んでいるこの荷はこの先にある砦への補給物資でして……」

「ええ、理解しています。領域境の砦ですよね。既にそこは我々が占拠していますから、どちらにせよこの荷の行くべき場所はありませんよ」

「なっ……!?」

「信じられませんか? この位置に我々が居るということが何よりの証明ですけどね」


 俺達の居る位置とはつまり、砦から徒歩で数時間の位置である。もし砦の聖王国軍が健在なのであれば、こんな場所で俺達がのんびりしていられるはずがない無いだろう? とメルティは言っているわけだ。


「その目で見なければ納得できませんよね。ええ、わかります。それもしっかりと見てもらいますから、ご心配は無用ですよ。それよりも、今は貴方達の荷です」

「は、はぁ……」


 商人のおじさんは混乱してしまってもう殆ど相槌を打つ機械になってるなぁ。まぁ、そうよね。俺がおじさんの立場でもそうなるわ。だって、目の前に滅茶苦茶強そうなコワモテのダナンが座ってて、更に周囲は四〇〇の兵に囲まれてるんだぜ。

 まともな精神状態を保つのは無理だろう。少なくとも俺がおっさんの立場だったら無理。


「残念ながら私達は聖王国の統治下で流通している貨幣をあまり持っていないのですよ。ですから、こちらでお支払いをさせていただきたいのです」


 そう言ってメルティは小さな布袋を机の上に置き、口を開いてその中身をテーブルの上にぶちまけた。ころころ、かちん、と硬質的な音が鳴る。


「黒き森のエルフが磨いた宝石です。どうですか?」

「こ、これは……手にとって見ても?」

「ええ、存分にどうぞ」


 商人のおじさんは懐からハンカチのような布を取り出し、大粒の赤い宝石を一つ手にとって子細に眺め始めた。

 この研磨された宝石はエルフの宝飾品職人に依頼をして磨いてもらった品である。対価は宝石の原石だ。皆さん嬉々として宝石を磨いて下さりました。ええ。


「良い品でしょう?」

「そう、ですな。ええ、良い品です」


 それから二人はバチバチとやり合い始めた。交渉事ということで商人のおじさんもペースを取り戻したようである。


「全部でこれくらいで」

「流石にそれでは安すぎます。これくらいで」

「それは流石に安く見すぎでしょう。エルフの品ですよ? これくらいで」

「確かにこの宝石は質も加工も良いですが、エルフの品だという証拠はありませんから。これくらいですね」

「それを言ったらどの宝石も同じでしょう。我々がどこから来たか、疑う余地は無いはずですよね。であれば、この品の出処は明白です。これくらいですね。あまり欲張るのもどうかと思いますよ? これで決まりです」

「うぅっ……わかりました」


 最終的にはメルティが押し切ったようだった。馬車五台分の物資の対価が研磨したエルフの宝石八個というのは果たして適正価格なのかどうなのか。俺にはさっぱりわからないな。


「この荷物はどこに運べば?」

「そうですね、私達は西の領域境の砦に向かっているので」

「はい」

「そこまで運んでくださいね。同行してもらいます」

「……えっ?」

「運賃は弾みますよ」


 表情を凍りつかせている商人のおじさんの手にメルティが宝石を一個追加する。わぁすごい、運ぶだけで宝石が貰えるとか超お得だね! 向かう先、戦場だけどな!


「あ、ああ……なるほど、西の砦もあなた方が制圧済みなんですね?」


 商人のおじさんが顔色を悪くしながらもそう言ってあははと笑う。


「いいえ? これから制圧します」

「あ、あの、私達は」

「ついてきて、くれますよね?」


 にっこりとメルティが笑う。コワイ! ここで断ったらぶっ殺すという強い意思を感じる!

 ああ、商人のおじさんの顔が真っ青を通り越して土気色に……ちらりとおじさんの同僚達や護衛の人々にも目を向けてみるが、全員絶望的な表情を浮かべていた。ですよね、俺が君達の立場でもそうなるわ。


「心配はいりませんよ。あなた達が戦闘に巻き込まれないように十分に配慮しますから」


 にこにこしながらそう言うけど、彼らにしてみれば俺達と一緒に戦場に立つってこと自体が致命的なんだろうと思う。聖王国軍の連中にその姿を見られればそれだけで問題だろうし、俺達が砦を制圧した後に物資を運び込むのを見られるのなんて完全にアウトだろう。利敵行為と取られる可能性が非常に高いよな。


「ペンス商会さんでしたよね。頼りにしていますよ。私達と一緒に幸せになりましょうねぇ……」


 にこぉ……とメルティが極上の笑みを浮かべた。


 ☆★☆


「つまり、どうなったのだ?」

「一蓮托生だぞ☆ 絶対に逃さないぞ☆ ということだと思う」

「ん、そういうこと」


 交渉を終えて再度行軍を開始し、少し距離を稼いだところで俺達は野営を行うこととなった。街道脇の草原に陣を張り、今は夕食タイムである。今日の食事は昼間に出会った商人さん達が運んできた野菜と、彼らに見つからないように俺がこっそりと出したギズマの肉を入れて作った麦粥である。

 彼らは塩もたんまりと積んでいたので、塩もたっぷりと入っている。なかなか美味しい。商人とその護衛の皆さんも同じものを食べているけど、あっちはまるで葬式みたいなムードだな。そりゃそうだよね。うん。

 あとでメルティがお酒を出すと思うから、今日は飲んで辛いことを忘れると良い。


「恐らくペンス商会を足がかりにして俺達の力を喧伝するつもりなんだと思う」

「ん。それとペンス商会を巻き込んで利用するつもり」

「商人はコネも色々と持ってるだろうし、耳も良さそうだもんな」


 メルティはペンス商会のコネと情報網を狙っているのだろう。今日、メルティと交渉していたおじさんはミリーネの街にあるペンス商会ミリーネ支店の手代……つまり課長とか係長、あるいは現場主任クラスの中間管理職であるらしい。

 彼を足がかりにメルティはペンス商会に食い込もうとしているわけだな。


「ペンス商会の規模はどうなんだろうな?」

「わからない。でも、軍に物資を納入する商会が弱小の零細商会だとは思えない」

「そうだな。普通は地元で一番力のある商会が使われるだろう」


 アイラの意見にシルフィが頷く。

 なるほど。まぁ確かに街を跨いで支店があるって時点でそこそこ大きな商会だってこと確実か。日本でもいくつかの街に支店を持つ店はそれだけでも勢いがあるって感じだったし、そこらへんは世界が変わってもそんなに変わらないんだろう。


「まぁ、メルティに任せておけば上手くやるだろう」

「それで良いのか、シルフィ」

「適材適所だよ、コースケ。私だって謀はできないこともないが、メルティに敵う気はしないからな」

「ん、任せるべきところは任せるのが一番」

「それもそうか」


 俺はこの件に関してはあまり深く考えないことにした。下手に藪を突いたら蛇が出てきそうだし。そしてその蛇は毒蛇でなく、俺をパクンと丸呑みしそうな大蛇のような気がするし。うん、関わらないようにしよう。くわばらくわばら。


 ☆★☆


 初日にペンス商会のミゲルさん達と出会った後は特に何のトラブルもなく西側の砦……最初のをアルファ砦にしたからこっちはベータ砦にするか。ベータ砦に辿り着くことができた。

 ミゲルさん達はベータ砦に近づくに連れてどんどん顔色が悪くなっていっていたが、目と鼻の先というところまで来ると逆に顔色が普通に戻った。表情もなんだか穏やかである。悟りでも開いたのだろうか。それとも開き直ったのか。三日間も俺達と行動を共にして慣れたのかもしれない。


「で、今回は夜戦じゃなくて正面から突っ込むのか」

「私達の力を見せつけなければいけませんからね」


 前方でベータ砦の防壁上の敵と交戦しているクロスボウ兵を眺めながら呟くと、同じく交戦を眺めていたメルティがのんびりとした声で答えた。ちなみに、その横ではペンス商会の中間管理職のおじさんが顔を青くして子犬のようにプルプルと震えている。

 ベータ砦の守備兵は二〇〇名ほど。対する俺達の戦力は四〇〇名ほどである。倍くらいの戦力差であれば、砦に籠もって防御する彼らの方が普通は有利なのだが……。


「一方的だな」

「そうだな」


 俺達の背後からなかなかに強い風が吹き続けていた。この風の影響で敵の矢は届かず、こちらのクロスボウから放たれるボルトはビシビシと飛んでいく。命中率は流石に下がっているようだが。


「これも精霊魔法か」

「そうだ。なかなかのものだろう?」


 シルフィが得意そうな顔をする。俺達の背後から吹いているこの大風はシルフィの精霊魔法によって引き起こされているものだ。この辺りは平原で風の精霊力が強いらしく、シルフィ曰くこれくらいなら一日中でも吹かせていられるとのこと。精霊魔法すげぇな。


「隠れた」

「まぁ、攻撃が届かないならそうするよな」


 一方的にアウトレンジから撃たれるとなれば俺でも応戦をやめて防御に専念するわ。ただ、それは悪手なんだよなぁ。

 俺達の陣の左後方からハーピィさん達が飛び立ち、シルフィの大風の影響も受けて物凄い速度で上空に舞い上がっていく。そして爆弾を投下。雷が落ちたかのような大きな音が鳴り、防壁や城門が半壊する。


「ちょっと狙いがずれた?」

「風の影響じゃないか? ほら、二発目が落ちるぞ」

「ひえぇ……神よ」


 ハーピィさん達は一発目で着弾位置を確認し、二発目でしっかり補正して見事城門を完全破壊してのけた。陣の右後方に配置されているこのおじさん以外のペンス商会の人々はどんな気持ちでこの戦い……というか一方的な蹂躙を見ているのだろうか?


「魔道士のいない聖王国軍は脆いな」

「魔道士部隊は聖王国軍の虎の子。後方の属国に配置されている可能性は低い」

「全くのゼロということもあるまい?」

「ん、配置されているとしたら王都か、聖王国本土に近い北東部」

「聖王国軍の魔道士部隊ってのはたまに聞くけど、そんなに強いのか?」


 正直、魔法というもの自体を殆ど見たことがない俺なので、虎の子の魔道士部隊と言われてもあまりピンとこないんだよな。


「聖王国の魔道士一人あたりの実力は大したことがないと聞くが、複数人で同じ魔法を詠唱する合唱魔法という強力な魔法が厄介らしい」

「ん、そう。一人一人の魔力は私の三分の一以下。私なら五人までは相手にできる」

「なるほど?」

「でも、一〇人で合唱魔法を使われたら私の魔法障壁は破られて倒されてしまう。こちらの攻撃もむこうの魔法障壁に阻まれてしまって倒せない」

「つまり、数が揃えば揃うほど凶悪になるってことか」

「ん。これが五〇人、一〇〇人、二〇〇人と増えれば増えるほど強力になる。そして強力な魔法障壁の中から広範囲の殲滅魔法を連打してくる」

「まさに動く要塞というわけだ」

「動く要塞ねぇ。俺の能力とどっちが強いか、見ものだな」


 あっちが動く要塞なら俺だって動く要塞である。防御能力では引けを取らないだろう。

 そんな話をしている間に戦況はどんどんとこちらに有利な方向に傾いていた。防壁と城門に爆撃を食らって一時的に防御能力が麻痺したベータ砦にこちらの精鋭部隊が突っ込んでいったのだ。

 迎撃の矢は殆ど放たれることもなく、ベータ砦は二〇〇人の精鋭の侵入を許してしまった。向こうは矢の撃ち合いで一方的にボコボコにされ、その上に爆撃まで食らった直後だ。暫くの間、金属同士のぶつかりあう音や怒号、悲鳴などが響き続けた。やがてそれも終わり、鬨の声が上がる。

 そしてメリナード王国の旗が城門……は完全に破壊されていたので、防壁の上に掲げられた。


「今回も勝った、か」

「ん、順当」


 感慨深げにシルフィが呟き、当然という顔でアイラが頷く。その横で俺はなんとも言えない気持ちになっていた。俺の作った武器で、爆弾で今日もまた沢山の人が死んだのだ。シルフィ達は寧ろ誇れとでも言いそうな感じだが、日本で当たり前のように平和を尊ぶ教育を受けていた身としては少し考えることもある。

 とはいえ、生きた死んだは戦場の常。最近は俺の作った武器のおかげで解放軍の兵士達が死なずに済んだのだ、と考えるようにしている。聖王国軍の軍人さん達には申し訳ないけどね。


「掃討が済んだら中に入るぞ。コースケも心の準備をしておけ」

「おう」


 またヴォエーってなるかもしれないからですね。わかります。商会のおじさんもいつまでも震えてないで頑張ってホラ。

( ´◡` )にこぉ……

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― 新着の感想 ―
誤字? 「全部でこれくらいで」 「流石にそれでは安すぎます。これくらいで」 「それは流石に安く見すぎでしょう。エルフの品ですよ? これくらいで」 「確かにこの宝石は質も加工も良いですが、エルフの品だ…
相手が聖王国兵なら、人間じゃないんだ!
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