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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
異世界の荒野でサバイバル!
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第066話~砦攻め~

 第一シェルターに到着した俺達はそこで一泊し、そのまま同じように第二、第三、第四シェルターを経由して元第五シェルター、というか臨時砦のあった地点へと到達した。

 臨時砦の爆破から既に二週間以上経過していたので、俺達は色々と覚悟をしていた。恐らく腐敗した死体がとんでもないことになっているだろうと。


「……思ったよりなんでもないな?」

「多少臭いは残っているが……まぁギズマどもが綺麗に始末したということだろうな」


 ここに近づくにつれてギズマの数は格段に増えていた。恐らく、臨時砦の爆破で死んだ聖王国軍兵士の死体を貪りに来ていた連中だろう。しかし、こうして綺麗に死体を片付けてくれていることを考えると、掃除屋としては優秀なのかもしれないな。

 この周辺で倒したギズマの死体は一応回収して解体はしたが、肉は廃棄した。

 流石に聖王国の連中の死体を貪ったギズマの肉は食う気がしないというか、色々と問題があるからな。甲殻とか足の腱とかは素材として使うけどね。

 俺達は臨時砦の設置地点から更に少し進み、死臭がしなくなった辺りに新たな臨時砦を建設した。俺のブループリント機能を使えば一瞬でポン、である。


「敵にしてみたら悪夢のような能力だな」

「わかる」


 突然目と鼻の先と言って良いような距離に砦が出現するのである。実際、新しい臨時砦から最寄りの領域境の砦までは徒歩でも半日かからない距離であった。

 第四シェルターからは少し距離が開いてしまったが、仕方あるまい。途中でギズマとの戦闘も多かったので、この場所に辿り着いて砦を設置した時には既にとっぷりと日は暮れてしまっていた。


「ぼ、防衛についている敵の人数は三五〇人くらいでした」

「士気は低そうやったで」


 食事の後、夜間偵察に出ていた茶色ハーピィのフラメと、同じく茶色ハーピィのカプリが臨時砦の会議室で偵察の結果を報告する。基本、ハーピィ達は夜目が殆ど利かないのだが、フラメとカプリはハーピィには珍しく夜目の効く子であった。

 フラメは頭に獣耳のような羽がピョコンと飛び出しているからミミズク系なのかなー? と思うが、カプリは何系のハーピィなんだろうか? 夜鷹とかか? 似非関西弁を喋る変わった子である。


「休息を取ったら未明には出撃する。早朝のうちに敵砦を包囲し、伝令を遮断するとしよう」

「朝駆けですか。良いですね」


 ザミル女史がニタリと獰猛に笑う。いや、彼女はにっこりと満面の笑みを浮かべたつもりなのかもしれないが、モロにリザード系な顔つきの彼女が笑うと俺には獰猛な笑みにしか見えない。


「手順は出発前に話した方法で行く。砦を包囲し、伝令を出せないようにする。その上でハーピィによる航空爆撃を実施し、敵の抵抗力を徹底的に削ぎ落とす。降伏するなら良し。降伏しないなら夜を待ってコースケが砦の中まで地下道を掘り、兵を送り込んで内部から制圧する」

「シンプルだな。砦の出入り口は確か二箇所だったな?」

「せや。上空からもしっかり確認したさかい間違いないで。な? フラメ」

「は、はい。確かに門は北側と南側に一つずつでしたぁ」

「包囲するなら兵を二つに分ける必要があるな」

「私が率いる元王国兵一〇〇名と、クロスボウ兵の半数である一五〇名で北側を押さえましょう。姫殿下には残った兵を率いて南側を押さえていただきたい」

「あたしは姫さんと一緒に南門を抑えるってことでいいのかい?」

「そうなるな。頼む」

「あいよォ」

「私達魔道士部隊は北側の封鎖に加勢する。南側はコースケがいるから矢に対する防御はできるだろうけれど、北側は今の編成だと矢に対する防御が不十分」

「助かる」


 北側をダナン率いる精兵部隊一〇〇名とクロスボウ兵一五〇名、アイラ率いる魔道士部隊十名、南側をシルフィとザミル女史が率いるクロスボウ兵一五〇名と、シュメル率いる元冒険者部隊一〇〇名、そして俺の指揮下にあるハーピィ航空隊十五名と銃士隊五名で封鎖することになった。

 アイラ達は風魔法や土魔法の障壁で敵の矢から味方を防ぐことができるらしい。確かに、南側には俺もシルフィもいるわけだから、敵の矢なんてなんとでもできるよな。何なら敵の砦より高い防壁を作って一方的にボコボコにすることもできると思う。やらないけど。


「では、確認も済んだので解散としよう。明日に備えてしっかりと身体を休めるように。良いですね?」


 ダナンがシルフィやアイラ、ハーピィ達に視線を向ける。俺に視線を向けてこないのは、主導権を握っているのがどちらなのかを正確に把握しているからだろう。ダナンの気遣いに涙がこぼれそうになる。


「大丈夫だ」

「大丈夫」

「大丈夫ですよ」


 シルフィがニヤリと笑い、アイラが無表情でコクリと頷き、ハーピィを代表してピルナが微笑む。ダナンは本当に大丈夫なんだろうな? という顔をしながらも一応は彼女達の返事に納得したようだ。俺もその返事がちゃんと守られることを祈りたい。

 まぁ、ぶっちゃけて言うとそんなに嫌ではないんだけれどもね。美女、美少女が俺を求めて夜な夜なベッドに潜り込んで……いや、俺をベッドに連行していくのだ。最初は日本で培った倫理観が色々と邪魔をしたが、一週間もすれば流石に慣れてきた。今では楽しんですらいますよ、ハハハ。


「……」


 ダナンが哀れなものを見る視線を俺に向けてきた。その視線はやめろ、俺に効く……。


 ☆★☆


 流石に皆さんが自重してくれたので久々に穏やかな夜を過ごすことができた。キングサイズというのも烏滸がましいような超特大ベッドで雑魚寝めいた感じになってますけどね。シルフィとアイラの体温とハーピィさんの羽毛が温かいです。はい。

 そしてまだ暗いうちに起き出して食事を済ませたら進軍開始だ。火を使う訳にはいかないので、俺達以外の解放軍兵士はブロッククッキーや干し肉で済ませたようである。俺達は俺のインベントリから取り出した温かい食事を食べたけど。一応シルフィもいるわけだし、これくらいの優遇はね?

 そして出撃して歩くこと数時間。まだ夜も明けきらないうちに俺達は領域境の砦へと辿り着いた。


「流石にここまで近づくとばれるか」

「夜は明けきっていないが、薄明るくはなってきているからな。今更慌てても遅いが」


 既にダナン達別働隊とは別れている。今頃はダナン達も北側の門を封鎖する位置についている筈だ。領域境の砦の防壁上では聖王国の兵らしき者達が忙しく動き回り、カンカンカンカンと断続的に鐘が鳴らされている。砦内に敵襲を知らせる合図だろう。


「よし、コースケ。行くぞ」

「降伏勧告とかしないのか?」

「しない。無駄だからな」

「そうか……クロスボウが届くところまで近付こう」

「うむ。前進せよ!」


 シルフィの合図でクロスボウ隊が城壁から七〇mほどの地点まで前進する。割と強力な板バネを有するゴーツフットクロスボウだと、これくらいの距離でも充分城壁上の敵を狙撃できるのだ。実際、クロスボウ兵達に対する射撃訓練もこれくらいの距離で城壁上に設置した的相手に行われていた。


「コースケ」

「はいよ」


 そして俺はその彼らの前面に矢避けとなる遮蔽物を設置していく。まだ敵は迎撃準備が整っていないようだったが、ザミル女史が一応護衛についてくれた。散発的に矢が飛んできたが、俺には掠りもしなかったな。

 遮蔽物の設置が終わり、クロスボウ兵達の応射が始まる。訓練の効果が出ているのか、敵の被害が拡大しているようである。こちらも損害なしというわけではないようだが、こちらの圧倒的優位で射撃戦は進んでいるようだ。


「コースケさん、私達も行きます」

「わかった。出撃準備だな」


 ハーピィ航空隊の足に航空爆弾を装備させていく。この作業自体はとても簡単だ。ハーピィ用の航空爆弾はあれから更に改良され、わざわざ紐を結ばなくても、ハーピィさん達が装備したハーネスに航空爆弾のフックを引っ掛けるだけで良いようになっている。

 ハーピィさんが航空爆弾の柄を掴んだら、信管を作動させる紐のフックを引っ掛ける。それだけで出撃完了なので、一人あたりの爆装にかかる時間は十秒ほどもあれば充分である。


「では、行ってきます!」

「安全第一でな!」

「はい!」


 ピルナ達が飛び立っていくのを見送り、シルフィがクロスボウ兵達に爆発に備えるように指示を出す。飛んできた破片やらなにやらで怪我をするのは馬鹿らしいからな。爆撃が終わるまでは遮蔽物に完全に隠れて防御に専念するのだ。俺とシルフィ、ザミル女史や文官衆も俺が設置した遮蔽物に隠れる。

 空を見上げていると、舞い上がったハーピィ達が航空爆弾を投下したのが見えた。


「来るぞ! 全員伏せろ!」


 シルフィの号令でクロスボウ兵達が完全に遮蔽物に隠れ、耳を塞ぐ。一応、事前に口は開けておくように言ったのだがどの程度効果があるものか。


 物凄い音と衝撃が伝わってきた。遮蔽物越しでも凄いなこれは。


 爆発が収まったのを確認して遮蔽物から顔を覗かせてみると、そこには見るも無残にボロボロになった敵砦の姿があった。防壁は爆発であちこちが崩壊してガタガタ。門にいたっては集中的な爆撃を受けたのか半壊している。内部がどうなっているのかはわからないが、間違いなく内部も悲惨な状態になっていることだろう。


「あー……これは、どうする?」

「待て……ダナン、そちらの状況は? こちらは敵の抵抗が無くなり、南門が破壊されている。侵入は容易だ」

『こちらも同じ状態です。突入しますか?』

「そうしよう。五分後に突入開始だ」

『御意』


 ゴーレム通信機でシルフィがダナンとのやり取りを終えた頃、ピルナ達ハーピィが戻ってくる。


「やりました! 大戦果です!」

「敵さん殆ど吹き飛んだで」

「褒めて褒めて」

「あー、うん。よくやった」


 俺がハーピィ達に対応している間にシルフィとザミル女史が元冒険者部隊に指示を出して突入の準備をさせる。シュメルも大金砕棒を手に張り切っているようである。どの程度の聖王国兵が残っているのかはわからないが、爆撃で大打撃を受けた後にあの面子に突入されるのか……哀れな。


「では、突入する! 私に続け!」

『オォォォォ!』


 シルフィが先頭に立って敵砦へと突撃していく。既に防壁上からの攻撃は止まっているため、彼女達を阻むものは何もない。シルフィが何か魔法を使ったのか、半壊状態だった砦の城門が閃光と炸裂音と共に内側に吹っ飛んでいく。なにアレ怖い。

 そして暫くの間砦内で戦闘音、というか突入部隊の怒声のようなものが聞こえ続けた。暫くの間といってもほんの十五分かそこらだけど。

 そしてワァァァァッ! と鬨の声が上がり、半壊していた城門の上に新たな旗が掲げられる。旧メリナード王国の旗だ。


「制圧は完了したみたいですね」

「そのようだな。呆気ないもんだ」


 俺がやったことなんて遮蔽物の設置と、ハーピィ達の航空爆弾をインベントリから取り出したくらいのものである。爆装も勿論手伝ったが、メルティ達文官衆も手伝ってくれたしな。


「それにしても、あのボロボロになったのを修理しなきゃならんのか……」


 ガタガタになった防壁と、シルフィがトドメを刺して既に城門というのも烏滸がましい状態の城門を見てげんなりとする。いっそ更地にしてブループリント機能で作り直したほうが楽な気すらする。


「頑張ってください。応援してますよ」

「へーい……?」


 気のない返事を返し、砦に向かって歩き出そうとしたのだが、メルティに腕を掴まれた。何だろうと首を傾げる俺だったが、彼女はそんな俺に身を寄せて耳元でそっと囁く。


「コースケさんが望むなら、私がご褒美をあげますよ?」

「ヒェッ」


 蠱惑的な声音で囁かれ、思わず身を震わせる。


「ぶろーっく!」

「あかんでぇ、コースケはん。姫殿下に怒られても知らんよ?」


 しかし、そんな俺とメルティの間に茶色羽ハーピィのペッサーとカプリが割り込んできた。ナイスカットである。


「コースケさんは内部でやることがあるでしょうから、ここは私達に任せてください」

「わ、わかった」


 ピルナの言葉に素直に従って俺は砦内へと向かうことにした。後ろでうふふふふとかぴよぴよー! とか聞こえる気がするけど、きっと気のせいだ。俺は後ろを振り返らずに砦へと向かって駆け出した。


 ☆★☆


「ヴォエエェェェェェッ!!」

「コースケ、ばっちい」

「いや、この光景は慣れない者には辛いだろう……」


 砦内の光景はなんというか酷かった。血痕や五体満足な死体なんて可愛いもので、よくわからない肉片とか身体の一部とか、とにかくヤバい。ヤバい。語彙力が急激に低下するレベルでヤバい。こうしてみるとゲーム内のゴア表現というものがどれだけプレイヤーに配慮されていたものなのかよくわかる。あと臭い。臭いヤバい。


「概ね爆弾のせい」

「確かに、普通の武器ではこうはならないな。魔法ならあり得るが」

「とにかく、この状態では砦を利用することもできません。早めに片付けましょう」


 ダナンの号令のもと、元メリナード王国軍兵や元冒険者の面々が砦内に散らばった聖王国軍兵の死体を片付けていく。どうやら一箇所に集めて焼くらしい。

 シルフィはさっきから俺の背中を擦ってくれている。ありがとう、シルフィ。


「あ、集めた死体はどうやって焼くんだ?」

「魔法で焼く。そして灰にして埋める」


 本来はできるだけ身元を確認して遺髪くらいは取っておくらしいが、今回は航空爆弾で爆発四散している人が多く、なかなかそうもいかないらしい。


「捕虜は?」

「二〇人ほどだな。運良くほぼ無傷や軽傷で気絶していた者や、白兵戦になった際に降伏した若干名だ。突入の際に生き残って動き回れた連中の大半は抵抗を選んで討ち死にだよ。熱心なアデル教徒からすれば、亜人に降伏することなど考えられない不名誉なことらしい」

「マジかよ。宗教こえぇな」

「まったくだ」


 それにしても、終わってみれば本当に呆気なかったな。何よりもハーピィの航空爆撃が反則過ぎるんだろうけど。

 殆ど戦いらしい戦いなんてなかったらしい。砦に突入した時点でまともに戦える兵は五〇人以下だったという話だし。


「コースケは砦の補修だな」

「敵がまだ潜んでいるかもしれませんので、私が護衛につきます」


 光り輝くミスリルの十字槍を携えたザミル女史が俺の横に立つ。彼女はそれはもう嬉々として聖王国軍の兵士達を薙ぎ払ったそうだ。というか五〇人の敵兵のうち十名以上があのミスリル十字槍、流星の露と消えたらしい。


「実に良い槍です。素晴らしい鋭さでした」


 俺が彼女の流星に目を向けている事に気がついたのか、ザミル女史がニタリと笑った。怖いよ。

 

 こうして、俺達はメリナード王国奪還の確かな一歩を踏み出したのであった。

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