第065話~進軍開始~
隔日更新になってるよ! 許してネ!_(:3」∠)_
寄って集って、という言葉がある。大勢で寄り集まってとか、みんなで取り囲んでとか、まぁそういうイメージの言葉だな。うん。
いきなりなんだ? と思うだろう。思うよな。まぁ昨日の晩、ピルナ達ハーピィの伝統料理を食べた後に起こった事に関する俺の所感というやつですよ、ええ。流石に五人がかりでというのはどうかと思います。
でも、五人がかりだったのにシルフィとアイラを相手にした時よりも楽だったんだよな……例の伝統料理が持つ滋養強壮効果は本当のものだったらしい。
「おはようございます、旦那様」
「お、おはようございます、旦那様」
「旦那さん、おはよー」
目が覚めると温かい羽毛に全身が包まれていた。左右の腕にピルナとフラメが抱きつき、腰にペッサーが抱きついていたからだ。ペッサーさん、そこはマズい。
「シルフィとアイラは?」
「お二人はもう起きて、朝食の準備をすると仰ってましたよ」
「なるほど」
さわさわと俺の肌を撫でてくる羽毛の感触がくすぐったくも心地良い。それに暖かいし、二度寝したくなってくる。
「お、お身体の方は大丈夫ですか?」
「不思議と問題ないようだなぁ。それよりも、君達の方が心配なんだが」
初めてなのにアイラのように薬で誤魔化しもせずに激しかったので。
「あー、私達は卵を産むから」
「そういう意味では大丈夫ですね」
「なるほど」
シルフィとアイラが呼びに来るまで天然の羽毛布団に包まれながらピルナ達と語り合った。いや、でもペッサーさん、そこはだめ。だめだから。違うから、ただの生理現象だから。
「朝からお疲れのようだな」
「愛が重いな」
朝から色々とお世話をされてしまった。
シルフィが風呂を沸かしてくれていたので、昨日のアレコレを流すために風呂に入ってきたのだ。三人がかりで俺の全身を洗ってくれて、実に極楽であった。ちょっと気疲れしたけど。
「ははは、頑張って受け止めることだな。まだまだ序の口なんだから」
「……ほわっつ?」
シルフィの言葉をの意味を理解できずに思わず聞き返す。そうすると、丁度良いタイミングでピルナ達も風呂から上がってきた。
「ピルナ、希望者は全部で何人だった?」
「十八人全員ですね」
「あと十五人か。頑張れよ、コースケ」
「冗談だよな?」
顔が引きつるのを感じる。ハーピィさん達全員を相手にしろと? それは流石にいかがなものかと思う。確かに全員養うことはできるかもしれないが、俺にはそこまでの甲斐性は無いぞ。というか、その数は単純に心労でどうにかなりそうなんだけど。
「コースケさん、私達は本気ですよ」
「み、皆、旦那様をお慕いしていますから」
「旦那さんはボク達の救世主だからねー」
シルフィに視線を向ける。彼女は静かに首を横に振った。
「彼女達ハーピィはそもそもがそういう文化であるらしい。一人の男性を数人から十数人、下手すると数十人から百人単位でシェアするそうだ」
「うっそだろお前」
「本当。ハーピィの子はハーピィ。ハーピィには女性しか生まれない。一世代が同一のパートナーから生まれた姉妹なんてことはよくある話」
「つくづくファンタジーな生態してんなぁ!」
結局、数日かけてフロンテ達も含めたハーピィ全員を相手することになった。対抗するようにシルフィとアイラの攻勢も激しかったので、心は満たされているが身体が辛い。
「……がんばりましょう」
「……おう」
久々に研究開発部で顔を合わせたサイクスとガッチリと固く握手を交わす。どうやら向こうも俺の顔を見てどういう状況なのか悟ったらしい。
「心に棚を作るしかありません……心に棚を作るのです」
「先輩の言うことは重みが違うな……ああ、これ持ってけ。疲れた身体に効くし、体力が持続するようになる」
「痛み入ります……」
俺がサイクスに手渡したのは新開発のスタミナ回復ポーションである。回復効果は劇的なものではないが、効果時間が非常に長く、低下したスタミナやライフを徐々に正常値へと戻す作用もある。
「……がんばろう」
「……はい」
メリナード王国領への侵攻作戦が発布されたのはこの翌日のことであった。
☆★☆
「随分とお疲れのようだが、大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫、大丈夫です」
俺はよほど疲れた目でもしていたのだろうか? 会議室で顔を合わせるなりダナンに心配されてしまった。ちなみに、俺の左右に陣取っているシルフィとアイラ、その更に隣に陣取っているピルナを始めとした数人のハーピィさん達のお肌はツヤツヤである。俺は彼女達に生命力的なサムシングを吸われているのではなかろうか。
「人気者は大変であるな」
ライオン顔のおっさんが俺を見ながらニヤニヤしている。何笑ってんだぶっ飛ばすぞ。いつかお前を本拠点送りにしてダナンともども未亡人の皆様にその身を捧げさせてやるからな、覚えてろよ。
「今回は総力戦だ。主だった戦力全てを投入して一気に三つの砦を奪うのが目標となる」
「うむ、戦力はどうなっている?」
「白兵戦も行える精兵が二〇〇名、クロスボウの慣熟訓練を終えたクロスボウ兵が三〇〇名の計五〇〇名です」
「増えたな」
「はい、メリナード王国を取り戻す戦いに参加したいと思う解放民が思ったより多く。各拠点に防衛用の兵を置いてもなおこれだけの人数になりました」
防衛用の兵と言っても、バリスタの操作も学んだクロスボウ兵が五〇人ほどという話だ。少ないように思うが、クロスボウとバリスタ、そして高さ七メートルの防壁があればギズマ相手には充分だということだろう。
「輜重に関してはコースケ殿が居れば問題ない、と」
久々に顔を見るザミル女史が相変わらず感情の見えない顔でそう言う。彼女は所謂リザードマン……いや、リザードウーマンで、女性ながらにその顔は完全に爬虫類そのものである。
メリナード王国に居た頃には王家の槍術指南役を務めるほどの槍の名手で、三年前にダナン達がメリナード王国で反乱を起こした際にも最前線で戦い、その槍で数多の聖王国軍の兵士を倒した女傑だ。
彼女はメルティと共に本拠点の守りを任されていたために前回の解放作戦にも参加できず、またその後の聖王国軍撃退にも関われなかったということで、今回のメリナード王国領奪還作戦には絶対に参加させて欲しいと強くシルフィや俺に要請してきていたのだ。
ちなみに、彼女もレオナール卿と同様に俺が作ったミスリル武器を装備している。ミスリルは金属としてかなり頑強であるので、以前にザミル女史に贈ったビーストスピアほど大きく、分厚い刀身にする必要がなかった。
それでも彼女は刀身の長い大身槍を所望したため、ロングソードに長い柄をつけたような……というより、刀身の長い十文字槍のようなものに仕上がった。石突の部分にも鋭いミスリル製の刃が備えられており、とんでもなく攻撃的な一品に仕上がっている。
流星と銘打たれたこの槍を使い、彼女は鬱憤を晴らすかのように本拠点周辺のギズマ退治に精を出していたらしい。
「コースケにばかり負担がかかるのは問題であるな」
「負担ってほどじゃないけど、歪ではあるな」
五〇〇人分の物資を毎日出したり入れたりするのはそれだけで結構手間は取られそうだ。とはいえ、俺以外にその仕事を果たせる人はいないのだから、俺がやらなければ立ち行かないんだけどな。
「我々がコースケに強く依存した集団であるのは今更の話だ。できるだけ早い段階でコースケに負担を強いる必要が無くなるように努力をしていくべきだな」
シルフィが苦笑いを浮かべる。一応他の面々も同じように思っているようで一様に苦い表情をしているな。まぁ、俺としては頼られてる分には悪い気はしないけどね。
「それで、今回の面子は」
「私とコースケ、ダナンとザミル女史、アイラにメルティも同行する。今回、レオナール卿は留守番だな」
「仕方ないのであるな。前回は吾輩が出た故に」
レオナール卿は素直に頷いた。まぁ、相当大暴れしたらしいからな、前回の解放作戦では。ハーピィも十八人全員が出撃するわけではなく、三人は最前線砦に残るらしい。本拠点との間の連絡はゴーレム通信機で事足りるようになったので、単純に偵察要員として残るという形になるようだ。
その他ウォーグやゲルダなどの元王国軍兵士達やシュメルやインディといった元冒険者などは全員出撃することになっている。
また、ボルトアクションライフルの慣熟訓練を終えているジャギラとその部下四名からなる銃士隊というものも編成され、彼女達はハーピィ爆撃隊と共に俺の指揮下に入ることになっていた。
ボルトアクションライフルやハーピィ用航空爆弾など、俺由来の特殊な武器を使う戦力は俺の指揮下に入るという形になったわけだ。俺の傍にいないと補給もままならないしね。
「基本戦術はハーピィの航空爆撃で敵の抵抗力を弱めた後に砦を包囲し、夜陰に乗じてコースケが穴を掘って兵力を砦内に送り込み、制圧という流れになる」
「伝令は極力潰す方向で行く予定だ。事が露見する前に三つの砦のうち二つは落としたい。貴重な航空爆弾を使ってでも最初に攻略する砦からの伝令は潰すつもりでいてくれ」
「アイアイマム」
「何か質問はあるか? 無いな? では行動開始だ」
「留守は任せるのである」
レオナール卿に見送られ、領域境の砦の奪還を目的とした軍事行動が開始された。
☆★☆
既に必要な物資は俺のインベントリに入れてあったし、解放軍の兵士達は既に出撃準備を終えていたので、会議が終わってすぐに出撃が開始された。
先頭はダナン率いる元王国軍兵士で固められた精兵の部隊だ。凡そ一〇〇人ほどの集団となっており、強固な鎧と大盾、片手武器で武装した重装歩兵が四〇名、クロスボウと槍、短剣とギズマの甲殻で作った軽装鎧を装備した軽装歩兵が六〇名だ。集団戦闘に優れた兵達である。
その後ろにはシルフィと副官のザミル女史が率いる解放軍兵士三〇〇名が続く。軽装歩兵と同じく槍と短剣、そしてクロスボウで武装したある意味主力部隊だ。基本的にはクロスボウがメインウェポンで、槍と短剣は近接戦闘に巻き込まれた時用の自衛武器である。練度はダナンの率いる軽装歩兵には一歩劣るが、クロスボウ射撃に関してはそれなりに習熟している。
そして、殿を務めるのがシュメルが率いる元冒険者達で構成された遊撃兵一〇〇名である。武装はてんでバラバラだが、個人の戦闘能力はダナンの率いる精兵達を上回る。運用が難しいが、乱戦には強い連中だ。主に砦内への突入部隊として活躍する予定である。
その他、俺が率いる銃士隊五名、ハーピィ航空隊十五名と、アイラが率いる魔道士団が十名といったところだろうか。メルティ達文官勢も十名ほど同行しているが、彼女達は戦力には数えない。
「メルティとか強そうなんだけどな」
「私はか弱い乙女ですよ?」
「おっ、そうだな」
「なんですか、その反応は」
シルフィをいとも容易く制圧して着せ替え人形にするメルティがか弱い乙女とか何の冗談だろうか? いざとなったら敵兵を薙ぎ倒してくれそうな気がしてならない。
行軍は非常に順調である。たまにギズマが現れるが、クロスボウの斉射を受けてすぐに駆除される。そして俺はギズマの回収に走らされる。君達、もう少し引きつけてから駆除してくれんかね?
「ご苦労、コースケ」
「おう」
「コースケ、あの不可解なジャンプ移動は何?」
「おっと面倒くさいのが来たぞぉ!」
どうやらアイラは俺のストレイフジャンプを駆使した高速移動をしっかりと見ていたらしい。何? と言われても俺にも説明はできないんだよな。コマンドアクションを用いた半ばバグ利用みたいな裏技だし。
「仲良しねぇ」
「そうだろう」
「そろそろ私も混ぜてもらおうかな?」
「それはダメだ」
「なんでよ、シルフィのいじわる」
なんかアイラへの説明に四苦八苦している俺の背後で恐ろしい会話が交わされている気がするが、気のせいということにしておこう。やっぱりメルティも俺を狙ってるのか……オラ背筋がゾクゾクしてきたぞ。
ちょうど近くを歩いていたジャギラと目が合ったので助けを求めてみたが、目を逸らされた。上官を見捨てるとはなんという部下だ。
結局、俺はアイラを満足させるだけの説明をすることができず、彼女の前でピョンピョン飛び跳ねる羽目になった。俺が説明できないなら自分で観察して結論を出すということらしい。
「不可解」
「ですよね」
しかし、他の俺の能力と同様にアイラその原理を見出すことはできなかった。俺が無駄にピョンピョンして疲れた上に。
「見ていると不安になる」
「奇っ怪だ」
「正直に言うとちょっと動きが気持ち悪い」
などと解放軍の皆さんに言われ俺のガラスのハートがブレイク寸前である。
「酷い人達ですねぇ。ほーら、ママが慰めてあげますよー」
メルティが慈愛に満ち溢れる笑みを浮かべ、さぁ抱きつきなさいと言わんばかりに腕を広げてみせる。シルフィ並みの立派なお胸がぽよんと揺れた。
ふっ、このコースケ、そんな見え見えの釣り針になど引っかか――。
「ママーッ! ぐえぇ」
「見え見えの釣りに引っかかるな、馬鹿者」
本能に任せてメルティの胸に飛び込もうとしたら、シルフィに後ろ襟を掴まれて首がキュッと締まった。ついでにいつの間にか忍び寄ってきていたアイラが頬を膨らませながら俺の脇腹にペシペシとパンチをしている。痛くはないけど不満は伝わってくるな。
「コースケさんはノリが良いですよね」
「ぶっちゃけて言うと緊張のあまりテンション上がってる感ある」
まだ一日目だが、戦場に刻一刻と近づいているのだ。緊張しない方がおかしい。俺、本気で緊張するとテンションが上って妙に多弁になったりしちゃうんだよね。
「それは大変。シルフィ、ちゃんと面倒を見てあげてくださいね」
「言われるまでもない」
「手に余るなら、私がやりますけど?」
「いらない」
シルフィとアイラが俺の左右から抱きつき、メルティを警戒する。この二人のメルティに対する警戒の仕方はちょっと異常ではなかろうか?
「ふふふ……」
「フーッ!」
「しゃー」
余裕有りげな笑みを漏らすメルティとそれを威嚇するシルフィとアイラ。アイラの威嚇は……威嚇なのか? それは。可愛いけど。
その時、前方から『目的地が見えてきたぞー!』という声が上がった。どうやら第一シェルターに着いたらしい。収容人数は五〇〇人、詰めれば一〇〇〇人までは入るようになっているから、今回の解放軍の面々も問題なく全員寝床にありつけるはずだ。着いたら飯の用意をしなきゃな。
「これからも仲良くしましょうね、コースケさん」
「お、おう?」
「フーッ!」
「しゃー」
メルティに対する二人の威嚇はとどまるところを知らないのであった。




