第064話~ ゜+。:.゜(゜д゜)゜.:。+゜(第028話ぶり二度目)~
皆様ありがとうございます!
隔日更新になるけどゆるしてネ!_(:3」∠)_
「……どういう状況だ?」
「昨晩激しかったせいで足腰が立たない」
「そういうことなので抱っこをしている」
「……」
「……ダナン、昨日からすまん」
朝っぱらからアイラをお姫様抱っこして会議室に登場した俺にダナンが突っ込み、アイラと俺の発言を聞いて押し黙る。そして目を逸らした。見なかったことにするつもりらしい。
昨日の酒盛りの件と合わせてシルフィが謝罪し、ダナンはその謝罪にただ首を横に振って応えた。気にするなということらしい。
「あー……人も集まったところで早速だが、今日は計画の変更を提案したいと思う」
俺とアイラのことを見なかったことにしたダナンが真面目な顔で話を切り出した。おうおう、今まさに現実から目を逸らした男が随分と真面目な顔をするもんだな! いや、うん、悪いのは俺達なんですけどね。
「計画の変更であるか。具体的にはどういう風にであるか?」
「うむ、コースケの策によってメリナード王国に駐屯している聖王国軍は大打撃を受けた。恐らく、現状把握も覚束ない状況だろうし、オミット大荒野に接している砦の戦力もほぼ空になっているはずだ。そこで、こちらから積極的に仕掛けてまずは領域境にある砦を奪取する方向に計画を変更してはどうかと思っている」
「ふむ……」
「ふぅむ……」
「ん……」
シルフィをはじめとして、会議室に集まった面々がそれぞれ考え込む。
ええと、確か当初の計画はオミット大荒野に潜伏して力を蓄えつつ、徐々に辺境の村なんかを解放して少しずつ人手を増やしていくって感じだったよな。
そうした理由としては、俺達の人数が少なすぎること。敵の拠点を制圧したとしても、それを維持する力がなかった。
しかし、岩塩鉱山を解放したことによって予定外に多くの人員を確保することができた。全員が兵として戦うわけではないが、全員合わせてたった三〇〇人程度であった頃に比べればその数は既に四倍以上だ。
敵の戦力も激減しているからそうそう反撃もできないだろうし、俺達が勝利すればするだけ俺達の影響力は増し、メリナード王国内における聖王国軍の影響力は減る。結果として俺達のもとに集まってくるメリナード王国民も増えるだろう。
普通であれば急激な人口の増加は重篤な飢餓を引き起こしかねないが、俺の能力を駆使すれば食料に関しては問題なく補える。砦攻めに関しても、ほぼ空になってしまっている砦を奪うだけならダナンにはなんとかする自信があるんだろう。
というか、俺が力を貸せば砦内に侵入するのは多分簡単だろうな。サクサクと地下道を伸ばして砦の直下まで行ってしまえば、あとは内部に兵力を送り込んで制圧完了だ。
俺が考えつくようなことは他の参加者も考えつくようで、参加者の顔を見回せば、全員がダナンの提案を前向きに捉えているようだった。
「実際にどれくらいの人員を動員できるのだ?」
「すぐに動かせるのは二〇〇人ほどです。ただ、クロスボウを撃つだけの人員であれば一週間もあれば更に二〇〇人は増員できます」
シルフィの質問にダナンが淀み無く答える。うーん、四〇〇か。
「四〇〇か……確か領域境の砦は全部で三つだったな?」
「はっ、その通りです。充分な数のクロスボウと矢玉、物資があれば維持は可能だと思われます。また、今回の襲撃の前にハーピィの斥候が確認していた三つの砦の総兵力は凡そ六五〇〇。今回撃退した五五〇〇を引けば残りは一〇〇〇ほど。砦一つあたりの戦力は単純計算で四〇〇弱程度に落ちている筈です」
「そう単純な計算でいくものではあるまい? ましてや、相手は砦に籠もっているのだ。こちらの白兵戦力を二〇〇と考えれば、そう簡単に行くとは思えんが」
シルフィの心配も尤もだ。基本的に防御側が有利だというのはわかりきっていることであるし、そもそも相手は砦に籠もっているわけだ。それを同数以下の兵で撃滅し、制圧するというのはかなり無理がある。まぁ、普通に考えればだが。
「それについてはコースケの作った武器で有利に立てるので問題ないかと思います。特に、ハーピィ達による爆撃は砦を用いた防衛戦術を一気に陳腐化させますので」
お互いに矢が届く範囲での撃ち合いであれば、てこの原理を使ったゴーツフット式クロスボウと聖王国軍の使用する弓ならかなり良い勝負ができるはずだ。向こうが防壁の上に陣取っていることを考慮しても威力と射程では互角以上に戦えるはずである。
更に、ハーピィ爆撃隊が防壁の上や城門に航空爆撃をお見舞いすれば聖王国軍は砦の防御効果を殆ど生かせない。砦はどれだけぶっ壊しても俺にかかれば簡単に補修できるわけだしな。
「ふむ……この作戦。コースケが前線に赴くことを前提としているな?」
「……はい」
ダナンの言葉にシルフィがスッと目を細める。威圧感とでも言えば良いのだろうか? 見た者に寒気を覚えさせる強烈な重圧のようなものがシルフィから発せられる。俺に向けられたものじゃないのにチビりそうなんですけど。
「私が許すと思うか?」
「いいえ。ですが、必要なことです」
そんなシルフィの重圧を真正面から平然と受け止めながらダナンが言葉を返す。両者の緊張感が高まる中、声を上げる者があった。
「吾輩は賛成である。どこかで勝負に出なければ今の状況はひっくり返せるとは思えないのである。そして、勝負を仕掛けるなら対策を取られる前に迅速に行なうべきである」
それはレオナール卿であった。ダナンと同じく、シルフィから向けられる殺気にも似た重圧をやはり平然と受け止めている。いや、凄いね君達。
「対策、か。アイラ、どうだ?」
「難しい。ハーピィの航空爆撃に関して言えば、一発なら上級の土魔法で防御は可能。貴重な素材を湯水のように使って防御用の魔道具を作れば同様に一発なら防御できると思う」
「聖王国軍はその方法で完璧に対策をできると思うか?」
「無理。そんな数の上級土魔法を使える魔道士を確保できるとは思えないし、万単位の兵士全員にそんな魔道具を配備するのは現実的じゃない。私なら、航空爆撃を防御するよりもハーピィや落ちてくる爆弾を撃墜する方向で考える。風魔法か、複合属性の雷撃魔法を長射程化できれば可能性はある」
「それはどれくらいで対策が完了する?」
「全く新しい魔法を作り出さなければならない。相当時間がかかると思う。恐らく数年単位」
「そうか、クロスボウに関してはどうだ?」
「強力だけど、魔法障壁で防げないものではない。ボルトアクションライフルは魔法で防ぐのは無理。貫通力が高すぎて容易に貫かれる」
「ふむ……」
アイラの話を総合すると、数年でハーピィによる航空爆撃は何らかの対策がされる可能性がある。数年あると見るか、数年しか無いと見るかだな。
「……仕方があるまい。ただし、コースケが前線に出るなら私も前線に出る。反論は受け付けん」
「姫殿下……」
「身柄の重要度に関しては私もコースケも大きく変わるまい? どちらが死んでも解放軍は立ち行かなくなる。ならば、私がコースケを守り、コースケが私を守るようにすれば生存率は大きく上がる。そうだろう?」
確かに、シルフィが傍にいてくれれば戦場で敵兵に囲まれてもなんとかなりそうな気がするな。逆に、俺が一緒にいることによってシルフィを助けられる場面もそれなりにあるはずだ。俺を単独で前線に連れて行くよりは生存性が高まるのは間違いないと思う。
「そもそも、この私が簡単にやられると思うか? いつの間に私はお前の中でか弱く儚い姫君になったのだ? ダナン」
「……御意」
言い争いの結果は痛み分けといったところだろうか。ダナンは俺を前線に連れて行くことをシルフィに承諾させ、シルフィはそれなら自分も同行するということをダナンに認めさせた。
問題は、俺の意見なんて全く聞かれること無く俺の前線送りが決定したことかな! いや、いいんだけどさ……良くはないか。良くはないな。うん。でもまぁ、仕方ないだろう。それだけ期待されているということだ。精々足を引っ張らないように頑張ろう……怖いなぁ、戦場。
☆★☆
攻勢に出ることが決まり、各々が慌ただしく動くことになった。
俺は食料の増産と各種装備の量産、矢玉の量産に荒野に点在する鉱物資源の採掘。そして夜はシルフィとアイラと仲良くする。
うん、もう少し手加減してほしい。干からびそう。あとアイラ、その薬は使用禁止。俺が保たない。俺用の薬もある? まずその薬を使うという発想をやめよう。な?
アイラは研究開発部の面々と一緒に各種研究と開発を精力的に進めていた。出撃までに間に合いそうな発明品は無さそうだ。
そうそう、皆に持ち寄ってもらった魔法関連の素材だが、それらを集めて新しい作業台がクラフト品一覧に追加された。
・付与作業台――素材:ミスリル×5 宝石類×12 魔力付与された石材×20 魔力付与された木材×10 魔力付与された粘土×10 ※素材がありません!
うん、見ての通りなんだ。ミスリルと宝石はなんとかなるけど、魔力付与された各種素材が足りなくて作れない。これについては本拠点の脈穴の魔力を使って作っておいてもらうことになった。なんでも結構時間がかかるらしく、出撃までには間に合いそうもないらしい。
しかし付与作業台か……どんなことができるのか楽しみだな。やはり武器とかに何か魔法的な効果を付与できるのだろうか?
シルフィやダナン、レオナール卿にピルナ達なんかは訓練や打ち合わせに忙しいようである。ゴーレム通信機を使って本拠点と盛んにやり取りをしているようである。あっちにはメルティにザミル女史、ゲルダにシュメルなんかがいるからな。きっと兵の訓練とか、物資の移動についてやり取りしているんだろう。
そうして忙しく過ごして一週間ほど経ったある日のことである。
「これはどういう状況なんですかね」
「コースケ、帰ってきたら『ただいま』だろう?」
「ああ、すまん。ただいま。それで、これはどういう状況なんだ?」
長椅子に座っていたシルフィに注意されて謝り、再度説明を求める。何故そんなことを聞いたのかというと。
「おかえりなさい、コースケさん」
「おかえりー」
「お、おかえりなさいませ! 旦那様!」
「ん」
ピルナとペッサーとフラメがアイラと一緒に台所に立っていた。この前の臨時砦爆破を見届けたハーピィの三人である。どうやらアイラが主体となって晩御飯を作っているようである。ハーピィの翼で料理なんてできるのだろうか? と思ったのだが思ったよりも器用に調理器具を扱ってるな。
「戦場に行く前にな」
「うん?」
「コースケとそういう関係になっておきたいそうだ」
「ストレートだな」
「戦場に出ればいつ死ぬかわからないからな」
ガツン、と頭を殴られたような衝撃が走った。気楽に考えていたが、俺達が今向かおうとしているのは戦場なのだ。人と人が殺し合う、本物の戦場。そこで何が起こり、誰が死ぬのかなんてのは誰にもわからない。
シルフィに視線を向けると、彼女は口元をニヤリと歪めた。久々に見る笑みだ。俺の動揺は間違いなく見抜かれただろう。
「私達ハーピィは聖王国の人間には特に嫌われてますから」
「も、もし敵軍の最中に落ちたら……」
「すぐ殺されたら逆に幸運だよねー」
ピルナが苦笑し、フラメが身震いをしてペッサーがあっけらかんと笑う。アイラはそんな彼女達を何も言わずにじっと見つめていた。
「シルフィ……」
「二人も三人も四人も五人もそれ以上も同じことだろう?」
「同じではないと思います」
そして違う、そうじゃない。俺が言いたいのはそういうことでない。
「面倒くさい奴だな、コースケは」
シルフィがニヤニヤと笑いながら蜜酒が入った陶製のカップを呷る。何が楽しいんだよ。
「割とシリアスに悩んでるんですけど」
「コースケ、お前は確かに稀有な能力を持つ稀人だが、その腕は二本しか無いし、長さだって限られている。それに、私達は戦士だ。私も、ピルナも、ペッサーも、フラメもアイラもな。自分の面倒くらいは自分で見られるし、力及ばず倒れればそれは自分の不始末だ。戦場での生き死ににコースケが責任を感じることなんて何もない」
「でも、戦いになんて行かなければ死ぬこともないじゃないか」
「そんなことがあるものか。オミット大荒野に引き篭もっていてもいつか奴らは攻め込んでくるさ」
「帝国と戦っているんだろう? こっちに手を出す余裕なんて無いはずだ」
「それは違うよ、コースケ。帝国との戦いが起こっているから私達は無事なんだ。帝国と講和でもして戦力を他にも振り分けられるようになったら聖王国はまた大陸西部への拡大を始めるさ。そうすれば必ずオミット大荒野を越え、黒き森に攻め込もうとする。絶対にな」
「帝国との戦争は長く続いている。お互いに疲弊もしている。いつ講和を結ぶ方向に動いてもおかしくない」
台所から大きな鍋を抱えて歩いてきたアイラがそう言った。ピルナ達も神妙な顔で頷いている。
「とにかく夕食にしようか」
シルフィの一声で全員がテーブルに着き、アイラが鍋の中身を器によそって皆に配り始める。今日のメニューはおかゆのような何かだ。多分材料は麦。全体的に黄色っぽく、甘い香りがする。スープのようなおかゆのような不思議な物体である。
「これは?」
「ハーピィの伝統料理ですね。滋養強壮に良くて、消化にも良いんですよ」
「ふむ……いただきます」
スプーンで掬って口に運んでみる。ほんのりと甘いおかゆのようだった。スープとおかゆの中間みたいな……不思議な食感だ。粉っぽいこともなく、思ったより濃厚な感じである。卵も入っているのだろうか?
「どう?」
「美味しいんじゃないかな? ご飯というよりスイーツっぽい感じがするけど」
コーンポタージュスープも甘いけど、あれよりも甘いな。でもお菓子なみに甘いというわけでもない。後味も良いし、何か薬草でも入っているのかスッとする感じもある。スルスルとお腹に入っていく感じもなんだか心地よい。
「うん、俺が作る適当料理よりはよほど料理らしい感じがする。流石は伝統料理だな」
「そうですか、よかった!」
「お、お口にあったようで幸いですぅ」
「いやー、折角産んだんだし美味しく食べてもらえてよかったよねー」
「ほわっつ?」
産んだ? 産んだ!? 何を!? 食べ……卵!? 卵か!?
「ま、まさか」
「ククク……そうだ、この料理にはピルナ達の卵が使われているぞ」
「なん……だと……!?」
え? マジで? それはいいのか? いや、倫理的にそれはアリなのか? というか、君達も平然と食べてるけど。え? えぇ?
「無精卵ですから」
「食べないと勿体無いよね」
「だ、大丈夫ですよ」
「おいしい」
カルチャーショックに打ちのめされる。なんか戦場に行くとかそういうのがどうでも良くなるくらいの衝撃だ。産んだ卵食べちゃうんだ。えー……そういう文化なのかぁ。そうかぁ。
「有精卵は食べませんよ?」
「そうだよ」
「も、勿論です」
「お、おう」
そういう問題なのか……? というか、有精卵と無精卵ってどう見分けるんだ?
「有精卵はお腹から出てこないので」
「うん?」
「ちゃんと妊娠してお腹が大きくなりますから」
「???」
「コースケが面白い顔をしている」
「コースケに会ったばかりのアイラはあんな顔をよくしていたぞ」
つまり有精卵はお腹の中で胎児として育って、無精卵は卵として外に出てくるということなのか? 滅茶苦茶な生態だな、ハーピィ。どうなってるんだよ。というか、その理屈で言うとこの無精卵は……ふ、深く考えるのはやめておこう。なんだかいけない扉を開いてしまいそうだ。
「お代わりはいかがですか?」
「た、たくさん食べてくださいね」
「折角だから残さず食べてねー!」
煩悶する俺をよそに、ピルナ達はにこやかにお代わりを勧めてくるのだった。




