第059話~彼らの末路と混沌神~
久々にシルフィとゆっくり過ごして翌日。しっかりと身奇麗にしてから臨時宿泊所を撤去した俺は第四シェルターの方に滞在していたレオナール卿達と合流し、朝食を取り始めた。今日のメニューは野菜と肉たっぷりの麦粥と、ギズマ肉のガリケ炒めだ。粥は手軽だけど腹持ちがイマイチだよね。それをギズマ肉でカバーである。
「爆破予定は今晩だが、上手くいくかね」
「我々を深追いしてくることは考えられないのであるな。なんだかんだ言ってもここはオミット大荒野である。騎兵だけで突出しても夜が来る前に安全な場所に戻れなければギズマどもの餌食になるのである。必然、奴らは臨時砦周辺に布陣するはずである」
「なるほど」
「移動の痕跡も風の精霊に消して貰っているからな。そうそう追跡はできまい」
俺達が荒野につけた足跡などの痕跡はシルフィが風の精霊魔法で隠蔽した。風を吹き付けて足跡を消すという魔法である。こうした乾いた荒野では非常に有用な魔法なのだという。
「それじゃ、メシ食ったらとっとと第三シェルターに移動するか」
「うん」
「そうであるな」
第三シェルターへの行程で特筆するべき点は何もなかった。ギズマが出たけど一瞬でレオナール卿が斬り捨ててたしね。それにしても双牙の切れ味やべーな。ギズマの装甲なんて紙切れみたいに引き裂いてるじゃねぇか。
「ふはははは! バラバラに引き裂いてやるのである!」
レオナール卿もノリノリである。適当にザクザク斬っているように見えて、有用な素材をちゃんと確保できるように考えて斬っている辺り手際が良いなとは思った。
そして第三シェルターに辿り着き、時間が余ったので公衆浴場の建物のデザインを皆と考える。俺のイメージとしては銭湯なんだけど、皆の意見も取り入れると……なんか銭湯というよりは。
「テルマエかな?」
「てるまえ?」
「いや、独り言だ」
男女別に別れた脱衣所と浴室くらいで考えていたのだが、軽く運動ができるスペースや歓談スペースなどもあったほうが良いのでは? という意見があり、じゃあそういうスペースも暖かくしたほうが良いよねということでお湯の配管を通して温かくして、飲み物や軽食もあれば……などとやっていたら実にローマ的な浴場になったように思える。これ、運用に結構人手が必要になりそうなんだけど大丈夫だろうか。
「雇用の創出も大事なのである」
「うむ、人手は沢山あるわけだからな」
「なるほど」
今回の作戦で人手は大幅に増えたもんな。全員が兵士になるわけじゃないだろうし、そうなると働き口も必要になる。
ちなみに、湯を沸かすだけの熱源が無いので残念ながら今日は風呂はなしだ。俺のインベントリに入ってるお湯の量じゃこの浴場を満たすのは無理だしな。そんな残念そうな顔されても無理なもんは無理。水浴びで我慢してください。
皆で夕食を取ったら全員で臨時砦の方角を注視する。そろそろ爆発する時間のはずだからだ。
「爆破は成功するかな?」
「信管は作動させた後にブロック配置で隠蔽したし、解除は無理だろう。彼らは爆発物ブロックの危険性も当然知らないだろうし」
「そうか。自信があるのだな」
「自信というかなんというか――」
遠方に閃光が走った。おおっ、と解放軍の兵士達が声を上げる。閃光は何度も走り、かなり遅れてドォン、ドドドドと雷のような音が鳴る。軽く60kmは離れてる筈なんだけど、なんか俺が思っていたよりも威力があったんじゃなかろうか?
何気なくアチーブメントを確認してみる。
・スケコマシ――:20人以上の異性から好意を持たれる。Nice Boat.※異性への攻撃力が10%上昇。
・初めての殺人――:初めて人族を殺害する。ひとごろしー。※人族への攻撃力が5%上昇。
・タフガイ――:レベル20に到達する。アクション映画の主役も張れるレベル。※身体能力が50%上昇。
・暗殺者――:存在を悟られることなく人族を一〇〇人殺害する。これで君も立派なアサシン。※テイクダウン機能をアンロック。
・爆弾魔――:爆発物で生物を一〇〇体倒す。どかーん。楽しいよね。※爆発物で与えるダメージが10%上昇。
・大量殺戮者――:一度に一〇〇〇人以上の人族を殺害する。やりますねぇ!※人族への攻撃力が10%上昇。
・英雄――:人族を単独で三〇〇〇人殺害する。これだけやればただの人殺しじゃないね?※半径100m以内の味方の全能力が10%上昇し、好感度が上がりやすくなる。
コメントがいちいちうぜぇ! 何がNice Boat. だよ! やめろよ! 洒落にならないだろうが!
というかレベル20到達? 前に見た時は12とかだった筈なんだけど……うわ、いつの間にか22になってる。スキルポイントも10獲得してる。後でスキル取らなきゃ。
というか、英雄の効果範囲が微妙にアバウト。味方ってどういう括りで判定されるんだ……? それに身体能力50%上昇ってそれヤバくない? 目に見えないパワーアーマーか何か着たような感じかな? うわ、体力とスタミナも各120だったのが180になってる。最終値に乗算するのかこれ。
「コースケ、どうしたんだ? 変な顔をして」
「いや、ちょっとな……どうも今の一撃で三〇〇〇は死んだみたいだぞ」
「なに? それは本当か? 何故そんな事がわかるんだ?」
「あー、そういえば結局アチーブメントとスキルに関しては話してなかったか」
シルフィにアチーブメントとスキルについて軽く説明……軽くはできなかった。結構苦労した。この概念を伝えるのは難しいな。
「えーと、つまりだな。俺の行動は多分謎の存在に見られてて、一定の条件を満たすと称号のようなものと、それに応じた能力の上昇を得られるんだ」
「つまり、コースケは行動に応じて神から力を賜ることができるということか?」
「もうそれでいいや……で、敵というか多分生き物を倒すことによって功績値みたいなものがたまって、それに応じてある程度自由に自分の能力も向上させられる」
「つまり、神に生贄を捧げることによって力を得る?」
「うん、まぁそんな感じでいいです。相手が神かどうかなんて俺にはわからないけど」
ゲーム的な概念を全く有していない相手にレベルとかスキルとかポイントとかを説明するのがこんなに大変だとは思わなかった。そして俺との会話を聞いていた解放軍の皆さんからの視線が眩しい。
「稀人とは神の使徒のことだったのか?」
「どの神の使徒なんだろう? 鍛冶の神かな?」
「いや、食神じゃないか?」
「戦神かもしれないのである」
「なんでもありな感じだし、混沌神じゃないかな?」
『ああ』
なんか混沌神の使徒ってことで納得されてるし。混沌神がどんな神なのか聞いてみると、とても悪戯好きな神で、突然見知らぬ土地に人を放り出してみたり、試練を与えてみたり、数奇な運命に導いてみたりとやりたい放題なやつらしい。そして神の中でもかなり力の強い神で、与えた試練を乗り越えた者には惜しみなく力を与える神でもあるという。
なるほど、それっぽいわ。すごくそれっぽいわ。そうかー、混沌の神かー。いつか顔面にパンチを食らわせてやるからな。待ってろよ。
ひとしきり盛り上がったら後は寝るだけだ。いや、爆発は遥か彼方のことだし、できることもないからね。今日も俺とシルフィは臨時宿泊所をおっ立ててイチャコラタイムである。長く離れていたのは初めてだったからね、一晩くらいじゃ募った寂しさは埋められないのさ。うへへ。
☆★☆
翌日、ピルナ達が第二シェルターに向かう俺達に合流したのは昼過ぎくらいの時間だった。爆発音のようなものは聞こえなかったけど、ちゃんと監視所は爆破してきたらしい。
そして、彼女達の口から臨時砦爆破解体の実態が語られた。聖王国軍五五〇〇人のうち、生存者は一〇〇人にも満たないほどの数だという。爆心地となった臨時砦は跡形も無く吹き飛び、その周囲に布陣していた聖王国軍はまさに壊滅的な被害を受けたらしい。
彼等がどうやって死んだのかはよくわからないが、大半の死体が四肢のどこかを失っているか、どこかが吹き飛んでいるか、破裂しているような状態で実に凄惨な光景だったという。あれに巻き込まれて生きているのは相当な強運の持ち主だと思う、とピルナ達は語った。
「しかも、真夜中過ぎにギズマ達がやってきまして……」
「あ、あー……」
ギズマ達は死体も負傷者も関係なく聖王国軍の兵士達を貪り、それはもう地獄の宴のような様相だったという。大半の負傷者は朝までに息絶え、生存者達は夜が明けるなり聖王国軍の砦のある方向に逃げ去ったという話だ。その後をヒタヒタと追いかけていくギズマの姿もあったという話なので、一体何人が生き残れるやら。
「まぁ、全滅であるな……コースケの力がこれほどとは吾輩も思わなかったのである」
「いや、それは俺もそうなんだけどさ」
爆発物ブロックの威力を舐めていたな……超危険物じゃないか。今後は取扱いに気をつけよう。
第二シェルターに着いた俺達はいつも通りに臨時宿泊所を作り、早速ゴーレム通信機で最前線拠点へと連絡を取り、敵軍撃破の報を伝えた。
『ほんとう?』
「本当らしい。ピルナ達はその目で間違いなく確認してきたという話だから、情報確度は最上だと思う」
『そう……コースケ、大丈夫?』
「……何がだ?」
『いっぱい人を殺した。辛くない?』
「大丈夫だ。多分実感が無いんだな。歩いて二日も離れた距離にいたし、実際に現場を見てないから」
『そう……帰ってきたら、甘やかしてあげる。気をつけて帰ってきて』
「お、おう」
横から突き刺さってくるシルフィの視線が、視線が痛い! 通信は終わったけど、視線が!
「コースケはアイラに甘やかされたいのか?」
「いやー、どうですかね」
アイラのように身体の小さな女の子に甘やかされることを想像してみる。彼女がどうやって甘やかすつもりかは知らないが、まぁ順当に考えれば抱きしめて撫で撫でされるとか? 思ったより悪くないのでは?
「悪くない感じじゃないですかね?」
「そうか……私も甘やかしてやろうか?」
「是非」
この後滅茶苦茶甘やかされた。というか、シルフィ、それは甘やかすというよりは赤ちゃん扱いでは……? 俺に危ない扉を開かせるつもりか、お前は。攻守交代で俺も同じことを仕返してやった。
「こ、これは……」
「どうだ?」
「わ、悪くないんじゃないか?」
「おっ、おう。そうだな」
そういえばシルフィはエルフ的に言えばまだまだ子供と言われてもおかしくない年齢だった……甘えん坊シルフィはこの世のものとは思えないくらい可愛かった。
そして翌日の朝、我に返ったシルフィがなかなか毛布を被った蓑虫状態から復帰してくれなくて出発が遅れた。レオナール卿に理由を聞かれたが、シルフィの名誉のために断固として黙秘した。
「コースケ、節度を持ってほしいのである。姫殿下の玉体に負担を掛けるようなのは良くないのである」
「いや、身体には全く負担はかかってないと思う。精神的にも負担はかけてないと思う」
「一体何をしたのであるか……」
「すまん、言えない」
女性陣の視線が痛い。違うんです、僕はシルフィの望むままに甘やかしただけなんです! その反動でシルフィが自爆しただけなんです!
「は、激しいんですね?」
「ボクは優しいほうが好きだよ?」
「わ、私は激しくされても……」
ピルナ達はこんな感じだし! シルフィーッ! 早く帰ってきてくれーッ!
友人に誘われてCoD:BO4にも手を出すことに……もうどうなっても知らんぞーッ!_(:3」∠)_