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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
異世界の森でサバイバル!
6/435

第005話~暴徒とご主人様とわたし~

踏まれるのはご褒美_(:3」∠)_

「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」

「火炙りだ! 火炙りにしろ!」

「人間は死ね!」

「死ね! 死ねっ!」


 はい、みんなのアイドルコースケです。女に案内された村でファンの皆様の声援を一身に受けております。

 というかね、超怖い。剥き出しの悪意というか殺意を向けられたことなんて生まれて初めての経験だ。血走った目で皆が俺に死ねと言う。そんな殺気に当てられて俺の足はガクガクと震えてしまっている。というかチビリそう。まだチビって無いけど、これは時間の問題だ。

 頭から獣の耳を生やした傷だらけの男が、手の代わりに翼を生やした女が、トカゲのような顔をした男か女かわからんやつが、下半身が大蛇の女が、その他にも色々な人間のようで人間ではない奴らが。皆でこぞって俺を罵倒し、殺意を向けてくる。今のところ石を投げてくるような奴はいないけど、それもまた時間の問題じゃなかろうか。

 心臓が早鐘を打つ。恐怖で視野が狭窄してくる。緊張で喉がカラカラだ。どうしてこうなった。何故こんな目に遭わなきゃならないんだ。

 女に誘われるがままに村に入った。女は入り口を守っていたエルフの男兵士と何か言葉を交わした後、男兵士に俺を預けて村に入っていった。それからすぐに男兵士は俺を村の中に連行し、広場の真ん中に蹴り倒したのだ。その時にエルフの男兵士が俺に向けた視線が脳裏をよぎる。あれは同じ人間を見るような目ではなかった。いや、人間ではないから当然か。あいつはエルフだもんな。

 思考がまとまらない。俺はこのまま暴徒に殴り殺されるのだろうか。一体俺が何をしたというんだ。クソ、あの女についてくるんじゃなかった。

 ついに手に木の棒や石を持つやつが出始めた。嫌だな、どうせ死ぬなら苦しまずに一瞬で死にたい。きっと長く苦しんで死ぬことになるだろうな。どうせ死ぬなら暴れられるだけ暴れるか。建築用の土レンガブロックはそこそこの数を作ってある。これを置きまくって混乱させてなんとか囲いを突破できないだろうか。

 というか、ムカついてきたぞ。なんで俺がこんな目に遭わなきゃならんのだ。やった覚えのないことで責められて、叩かれて殺されるなんて真っ平ゴメンだ。やってやる、やってやるぞ!


「何をしている」


 轟、と風が吹いた。いや、吹いたというか爆発した。強風とかというレベルじゃなく、爆風が俺を吹き飛ばした。俺を取り囲んでいた奴らも吹き飛ばした。

 俺は為す術無くゴロゴロと転がり、何かに背中を踏みつけられた。この御御足の感触は覚えがある。


「これは私が拾ってきたモノだ。誰の許可を得て傷つけようとしている?」

「いててててて痛い痛い痛い!」


 革製と思われる頑丈なブーツがグリグリと俺の背中を踏みにじる。とても痛い。もう少し手加減してくれて良いんですよ? と言うかマジで痛い、ミシミシいってるって!


「私のモノを好きに甚振ることができるのは、私だけだ。いいな?」


 女の有無を言わさぬ宣言に暴徒達は何も言えないようだった。というか、微妙に同情するような視線を向けられている気がする。ちょっと待って、今お前ら俺を殺そうとしてたよね? なのにそんな視線を向けるってどういうこと? こいつヤバいやつなの? ちょっと?


「ちっ、フニャちんネイトめ……姑息な真似を」


 女は女で誰かを口汚く罵ってるし。でも多分ネイトってのは俺を広場に連れ出して蹴り倒していった男エルフ兵の名前だろうな。どうやらアイツとこの女は仲が悪いらしい。


「まぁいい。最悪の事態に陥る前に事態は収拾できた。立て、行くぞ」


 女が俺をゲシゲシと蹴って立ち上がるのを促してくる。痛い、痛いって!


「くそう……文字通り踏んだり蹴ったりだ」

「それと、この首輪をつけろ」


 そう言って女は革製の首輪を俺に差し出してきた。ぱーどぅん? 俺に首輪をつけろと? これってアレじゃないの? 所謂奴隷の首輪とかそういう類のサムシングじゃないの?


「つけないとまたさっきみたいな事態が起こるぞ。次も間に合うかどうか試してみるか?」

「……ちくしょうめ」


 背に腹は変えられない。なに、いざとなったらこんな首輪インベントリにぶちこめばなんとでもなるだろう。いいじゃないか、つけてやろうじゃないか、首輪くらい。呪いの首輪とかじゃありませんように。

 でもこんな美人エルフの奴隷とかちょっと興奮する。しない? いや、俺はドMじゃないよ。本当だよ。本当だって!


「クク……いい格好だ」

「嬉しくねぇ……おい、鎖までつけることはないだろう」

「飼い犬には首輪と鎖だろう? それに散歩する時はちゃんと飼い主が引いて歩かないとな」

「覚えてろよ……」


 褐色エルフの女に鎖を引かれ、村の中を隅から隅まで歩かされた。おかげで村のどこに何があるかよくわかったよ!

 この村は大まかに分けて五つの区画に分かれている。一番外側が何か頑丈な建物を建てている開発区画で、その内側にエルフ以外の住人達が済む区画がある。その先に緩衝地帯のような広場があり、そこを抜けるとエルフ達の魔法畑の区画。魔法畑の区画を抜けるとエルフ達の工房区画があり、そこを抜けた村の中心部にエルフ達の居住区がある。

 彼女が言うにはこの村のエルフ以外の住人は戦乱から逃れてきた難民であるらしい。うん、まぁそうなんだろうなとは思った。建築様式がバラバラっていうか、有り体に言ってみすぼらしい建物ばっかりだったからな。

 そして、見て回った中で一番驚いたのは魔法畑だ。エルフの畑はまるで立体駐車場のように多層構造で、魔法の光に満たされた水耕栽培施設のような感じだった。俺は日本で大規模な水耕栽培施設というのを見たり聞いたりしたことがない。この世界のエルフの農業は日本のそれをある意味で上回っているのかもしれない。

 工房とかは中が見れなかったからよくわからなかった。エルフの住居の中もだ。ちなみに拡張区画というのは文字通りで、現在進行形で何かしらの施設が建設されているところである。何を建設しているのかはわからなかったが、頑丈そうな建物だった。


「さぁ、我が家だ」

「ほう」


 なかなか立派なエルフ式の住居だった。村の中を見て回った今だから断言できるが、村の中にあるエルフ式住居の中でもかなり立派な方だと思う。言うなれば生き生きとしているログハウスといったところだろうか。生きている木が絡み合ってできたような家なのだ。立派というのは単純に大きいということである。

 家に招き入れられた。女の家の中に入った瞬間に刺激されたものは嗅覚だ。どこか清涼感のある、スッとするような匂いがする。森の香りとでも言えば良いのだろうか。深呼吸するとなんだか気分が爽快になる。


「女の家に入るなり深呼吸とはいい趣味だな?」

「やましい気持ちは無いよ。香か何かの匂いか?」

「別にそんなものは焚いていないんだがな」


 ちゃり、と女が鎖を引くので導かれるままに歩く。どうやら居間のようだ。籐を編んで作ったような家具が多いな。女が鎖を手放して奥の方に歩いていったので、長椅子に腰掛けた。それにしてもこの首輪と鎖はいつになったら外してくれるのかね。


「それなら外さんぞ。ああ、鎖は家の中では外していい」

「ありがとうございます、ご主人様……満足か?」

「もう少し可愛げがほしいな」


 鎖を外してインベントリにしまいこむ。鎖を入れたことによってなにかクラフト品は増えていないかな? とクラフトメニューをいじっていると女が部屋の奥から戻ってきた。手には湯気の立つ木製のカップを二つ持っている。


「男に可愛げを求めるなよ」

「無いよりはあったほうが良いに決まってる。ご主人様の歓心を買えるぞ」

「あんたの歓心を買ってもねぇ……まぁ考えておくか」

「クク……そうするといい。で、思ったより動揺しないんだな?」

「あそこまで露骨にされりゃアホでも気付くわ」


 俺に首輪をつけ、鎖を引いてわざわざ村中を歩き回った意図なんて考えるまでもない。これは私の所有物だから、手を出したら潰すというこの女のメッセージなんだろう。

 この村にいち住人として俺が住むことは不可能だ。エルフも難民達も人間を敵としか見ていないのだから。もし万が一俺が誰の後ろ盾もなく住み着けば、次の日の朝には行方不明になっていることだろう。夜中に殺されて埋められるか、魔物のエサだ。そして誰も気にしない。事件にもならない。誰かが疑問に思っても『ああ、そんなのいたね。ここは居心地が悪いから出ていったんじゃないかな』とでも言ってそれで終いだろう。

 ではこの村に頼らず生きて行けば良いのか? それは無理だ。森の中で過ごしていればいずれこの村の住人と接触しただろうし、もし接触したのであればその場で殺し合いになった可能性が高い。

 その場で俺が勝ったとしても、いずれこの村から捜索の手が伸びる。そうして見つかればやはり明るい未来は訪れそうにない。そもそも一人で生き延びること自体が難しい。いずれ野垂れ死にしたに違いない。

 では森から出るのが正解か? 答えはわかりきっている。ノーだ。現状の俺が大荒野を一人で抜けていくのは不可能だ。水も食料も装備も技術も情報も何もかもが足りない。行き倒れになるか魔物に喰われるか、どちらかの未来しか訪れまい。

 そう考えると、今の状況は奇跡的だ。こいつが俺に興味を抱かなければ、俺はどうやっても詰んでいた可能性が高い。こいつが俺を見つけた奇跡、なんとかかんとか話し合いに持っていけた奇跡、こいつがこの村において強い発言力を持つ人物だったという奇跡、殺される前にこいつが駆けつけてくれた奇跡、そんな奇跡が積み重なって今の俺があるわけだ。


「考え事か?」

「ああ、まぁ。あんたに出会えた奇跡に乾杯って気分だ」

「ほう? なかなか可愛げのある言葉を吐くじゃないか。だが、そう言っていられるのも今のうちだけかもしれんぞ?」

「その時はその時だなぁ」


 本当にその時はその時としか言いようがない。こいつの目的は今ひとつわからんが、殺そうと思えば何度も殺せた俺を未だ生かしているのだから、何かしらの目的があるんだろう。最終的に見放されて放り捨てられる可能性は勿論あるのだから、俺はこの先どうなっても生き残れるようにできる範囲の最大限で備えをしていくだけだ。


「というか思わせぶりなのはそろそろ勘弁してくれ。シンプルに行こうぜ」

「そうだな、これから一緒に生活するのだからその方が良い。そうだな、何から話すか……」

「名前。あんたの名前を聞いてない」


 俺の言葉に女はキョトンとした顔をしてから愉快そうに笑い始めた。なんだ、普通の表情もできるのか。剣呑な視線や表情しか見せていなかった女が不意にそういう表情を見せるのはギャップが凄いな。


「そうだ! そうだったな! いやすまない、この辺りで私の名を知らぬものなどそういなくてな。すっかり名を名乗る習慣など忘れてしまっていた」


 何がそんなに面白かったのか、目の端に涙まで浮かべながら女が笑う。うん、こんな風に無邪気に笑うとなんというか、物凄いな。人はあまりに美しいものを目にすると言葉を失うものだったか。


「私の名前はシルフィエル、黒き森の守護者の一人だ。人間は私のことを『黒き森の魔女』と呼ぶらしい」

「シルフィエル……可愛らしい名前だな」


 素直な感想である。なんというか、名前だけ聞くと線の細い清らかな乙女っぽさある。実際にはナイスバディの褐色エルフ(何人か殺してそう)なんだけどさ。


「なんだ、その微妙な顔は」

「正直に言うと名前だけ聞けば清らかな乙女感がな?」

「ふん、私だって昔は清らかな乙女だったさ。今も乙女ではあるが、清らかな身とは言えんな……なんだその目は。確かめてみるか?」

「是非とも、と言いたいけどその後が怖いから遠慮しておく」


 あまり図に乗ると首の骨をへし折られそうだ。


「なんだ、つまらん。お前のことはなんと呼べばいい?」

「コースケとでも呼んでくれ。俺はシルフィと呼べばいいか? それともご主人様?」

「二人きりの時はシルフィでいいが、対外的にはご主人様の方がいいだろうな」

「そりゃそうだな。基本的にご主人様って呼ぶようにするわ」


 あっさりとご主人様呼びを受け容れた俺にシルフィが変な顔をする。


「お前はなんというかこう、プライドというものが低いな?」

「ばっかお前、低くはねぇよ。あんたとの出会いは確かに最悪だったが、あのままだと早晩死体になってただろうってのは理解できる。そんな俺をあんたは助けてくれた。何か目的があるのかもしれんが、命を拾われたことに変わりはない。なら保護してくれた人の立場を慮るくらいのことはするさ」

「……そうか。殊勝なやつだ」


 シルフィが微笑む。おいやめろ、そういう表情を不意打ちで見せるんじゃない。こちとら最近女っ気が無かった上に割と普通に死を意識するサバイバルを経験して色々ヤバい身なんだ。察しろよ。


「あー、んー……そろそろ俺を囲った目的を聞いても?」

「特にこれといった理由はないな。強いて言えば面白そうだったからか」

「嘘くさいなぁ」

「心外だな、嘘ではないさ。お前の正体、境遇、能力、知識、そういったものに興味が湧いたんだ。あとはカンだな」

「なるほどねぇ……もしかして、この世界にはたまにいるのか? 俺みたいに余所の世界から迷い込んでくるような奴が」

「ほう、どうしてそう考えた?」


 シルフィが片眉を上げてニヤリと笑う。うん、そういう顔のほうがあんたらしいと思うよ。


「俺の世界にある娯楽小説……物語にそういう話があるんだよ。実際にあったことじゃなく、空想を物語にしたような類のものだけどな。ああいや、いちおう昔話にも似たようなものがあるといえばあるか」


 浦島太郎なんかはある意味異世界転移モノだよな。桃太郎や金太郎も見方によっては転生モノに見えなくもないし。神隠し系の話なんかも異世界転移っぽさある。


「ふむ、なるほどな。結論から言えばそういう話はある。聖王国では主神アドルが神世から使徒を遣わすことがあると言うし、帝国にも似たような話がある。エルフの間では精霊界を通じて稀に異界から迷い人が現れることがあるという。そういった者は森と外との境界に現れるのだそうだ」

「あー、なるほど?」


 俺がこの世界に来た時に立っていた場所、それこそまさに『森と外との境界』だよな。


「エルフに伝わる迷い人ってのはどんな存在なんだ?」

「森の民の窮地に現れ、勝利を齎すという。コースケにそんな力があるといいんだがな?」

「えぇ……そんな期待されるのは困るなぁ」


 俺なんてちょっとゲーム好きの一般人ですよ。そういうのは軍人とか学者とか政治家の仕事じゃないんですかね?


「だが、何か不思議な力を持っているのだろう? 教えてくれると私としても嬉しいな」

「そう言われても、こいつは俺の生命線だからなぁ……」


 もったいぶりながら必死に考える。全てをオープンにするか、あるいは一部の能力だけを開示するかだ。全く開示しないという選択肢はない。ここである程度自分の価値を示し、協力する姿勢を見せなければ彼女の庇護を失う可能性がある。そうなれば俺に生き残る道はない。

 チラリとシルフィの様子を窺う。シルフィは余裕たっぷりにニヤニヤしていた。くそう、甚振ってくれるなこの女は。


「全てを公開することはもう少し考えさせてくれ」

「ふむ。私には協力できないと? 恩を仇で返すのか?」

「そういうわけじゃない。あんたには感謝してるし恩も感じてる。だが、俺はまだあんたがどういう人物で、何を考え、何を目的として行動しているかわかっていない。俺の知識や力はたぶん、使い方によってはとても危険だ。そもそも、余所の世界の住人である俺がこの世界にどこまで干渉していいものかもわからない。そんな状況であんたに全てを委ねることはできない」

「よく回る口だな。塞ぐわけにもいかんのが残念だ」

「あんたの唇で塞いでくれるなら大歓迎だぞ」

「それはよい案だな。あとで試すとしよう」


 妖しげな笑みを浮かべるシルフィを見て思わず生唾を飲み込む。仕方ないじゃないか、すっごい好みなんだもの。


「だが、お前の言うことにも一理ある。思慮深いのは良いことだな。だが、何も話さないというわけではないだろう?」

「勿論だ。まずはこの能力を紹介しよう」


 インベントリから先程の鎖や石槍、石斧やハンモックなどを取り出して見せる。


「インベントリって能力だ。専用の倉庫みたいな空間に色々なものをしまっておける。武器に資材、食料や水なんかの嵩張るものや重いものも入れられる。どれくらいの大きさ、重さのものをどれだけ入れられるかは検証中だ。なんせこっちの世界に来てから使えるようになった力でな、俺もこれと付き合い始めてまだ三日と経ってないんだ」

「ほう……便利な能力だな」


 シルフィの目に剣呑な光が宿る。その目はやめなさいって、美人が台無しだよ。そんな事を思っているとシルフィが俺の出した石槍を手に取った。


「ふむ……粗末な槍だが、十分生き物を殺せる鋭さを持っているな。お前が作ったのか?」

「……まぁ、そうだな」


 まずい。


「ふぅん? この石斧もか? 随分と手間がかかっただろう?」

「……まぁ、そうだな」


 元の世界での暮らしぶりは最初に話し合った時にある程度話している。今まで便利な道具に囲まれ、安全な環境で安穏と過ごしてきた男がたった三日で見事な作りの石槍を作れるだろうか? 何の道具もなく、それこそ木石のみを使って。そんなことは考えるまでもない。否だ。


「クク……追求はこれくらいにしてやる。もう少し慎重にやるべきだな」

「アリガトウゴザイマス」


 ウカツ! 完全にバレてる。石や草を出すべきだった! 俺のお馬鹿! シルフィがどこまで理解したかはわからないが、こういった加工品を何らかの方法で簡単に作る能力があるということは察された。


「良い荷物持ちになりそうなのはわかった。とりあえずはそれだけでも十分だ。狩りで大きな獲物を仕留めても運ぶのが大変でな」

「ああ、狩りの獲物か……うーん、どこまで役に立てるかな?」

「どういうことだ?」

「リザーフとかいうトカゲとオオカミを足して二で割ったようなやつを一匹狩ったんだがな。そのままインベントリに入れなかったから動物の死体をまるごとインベントリに入れられるかわからないんだ。インベントリの機能の一部に獲物の解体機能があって、リザーフの場合肉、骨、皮なんかを抜き出して収納したんだよな。全部抜き取ったら血溜まりだけ残して消えちまった」

「あの血溜まりか」


 どうやらシルフィは俺の残した血溜まりを発見していたらしい。もしかしたらその痕跡を辿って俺を見つけたのか? やっぱり素人の隠蔽工作じゃプロは誤魔化せないのかもしれないな。


「どれだけの量が取れたんだ? 見せてみろ」

「いいけど、肉をそこらに放り出すわけにはいかないだろ。素手で持ったらすぐに傷むんじゃないか」

「それもそうか。ちょっと待て」


 シルフィが肉を載せるための食器か何かを取りに行くのを見送る。本当はインベントリに木を加工した大皿とかあるけど、わざわざ手の内を見せすぎることもあるまい。もう手遅れ感あるけど。


「これの上に出せ」

「あいよ」


 シルフィの持ってきた木の大皿にリザーフの肉を放り出していく。合計で四キログラムくらいの肉だな。


「これで全部か?」

「少し食ったけど、全部だな。骨と皮はこれで全部だ」


 骨と皮と腱を合成弓に使ったことは言わない。あれは俺の切り札だし。


「ふむ……内臓は無いのか。その分少し肉の量が多いが……これはどこの部位だ」

「知らん。リザーフの肉だと言う事しか俺は知らん」


 うん、俺もスルーしてたとこなんだ、それは。解体機能で肉を取得すると、一枚五百グラムくらいの肉塊としてインベントリに収納される。俺は二枚食ったから、リザーフからはおおよそ5キログラムの肉が取れたわけだ。だが、その肉一切れずつの見た目はほぼ同じ見た目である。自動で成型肉にしてるんだろうか? いや、見た目はなんというかロース肉っぽい感じなんだよなぁ。


「まぁ、食いやすそうな肉ではあるな……今日はこれを食ってみるか」

「いいんじゃないかな。何枚使う?」

「二枚もあれば十分過ぎるくらいだろう。それで、骨と皮はこれだけか?」


 言外に一匹分としては少ないのではないか? とシルフィが問うてくる。うん、鋭いねぇ。


「ちょっと使ったんだ、うん。何に使ったかは黙秘させて欲しい」

「……まぁ良いだろう。明日は狩りに出るぞ。いいな?」

「アイアイマム。ところでお腹が空きました」


 朝飯も食わずに村まで歩いてきたので俺は腹ペコである。シルフィの目の前でスマホを取り出して時間を確認するわけにはいかないので今何時なのかはわからないが、そろそろ昼だろう。喉の渇きはお茶で癒えたけど空腹はそうもいかない。


「そうだな、早速食べてみるか。では頼むぞ」


 当然のようにシルフィはそう言って籐製の長椅子のようなものに腰掛けた。ですよね、俺は哀れな奴隷ですものね。ご主人様が奴隷のために料理をするなんてあり得ないですよね。わかります。


「……ご主人様、哀れな奴隷に調理器具や調味料の使い方などのご教授いただけますでしょうか」

「仕方ないな。一度で覚えろよ?」


 お優しいご主人様は溜息を吐きながらも長椅子から立ち上がって下さった。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
シルフィはなかなか話のわかる人ですね
[良い点] ちゃんと主人公が年相応の対人(対女性)やり取りしてること。 成人してるのに女性に対して初心かよ!って童貞まっしぐらな会話しか出来ない他作品が多い中で、サクサク会話が進むのは小気味良い。 […
[一言] なんだこの作品。 マジ気分悪い。 本気で吐きそう。 なんだよこの糞エルフマジ死ね。
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