第055話~ケンタウロス並み(足の速さが)~
翌日の朝。目覚めはバッチリだ。実に清々しい。寝床から抜け出し、服を着てからグッと伸びをする。うーん、爽快。え? 寝床にハーピィさんがいないかって? いないですよ。流石にそこまでは俺が拒否する。いや、ハーピィさん達に不満があるわけじゃないよ? 皆可愛いし、アイラもだけど裏表も何もなく、ストレートに好意をぶつけられて嫌な気分になるはずがない。
でも、完全にそういう関係になるのはまた別の話だ。そういう意味では昨日の風呂は危なかったな……ギリギリセーフだったと思いたいが、シルフィにはしっかりと話すとしよう。つるはしで壁を壊しながらそう誓う。
あ、はい。出入り口を壁で潰して俺の部屋はほぼ密室にしてました。窓兼空気穴の空いたブロックは設置してあるけど、俺は勿論ハーピィさん達も通れないようにしてある。
何故ここまでしたのかというと、寝床に押し入られて誘惑されたらきっと抗えないだろうと判断したからだ。俺は風呂で学んだのだ。意志薄弱と言われても反論はできないが、ストレートに好意をぶつけられまくって迫られて誘われて何の反応もしない奴は正常な男じゃないと思うんだよね。少なくとも俺は無理。だから元から遮断せざるをえなかった。
ヘタレ野郎と笑うならば笑うが良い! ははは! はぁ……朝飯用意しよう。
「おはようございます、コースケさん」
『おはようございます』
ピルナが俺に朝の挨拶をして、他のハーピィさん達も声を揃えて挨拶をしてくる。
「おはよう。朝ごはんにしようか」
はい、と返事する彼女達の顔は明るい。入り口を潰すという露骨な拒否の姿勢を見せたから気まずい雰囲気になるかと思ったけど、そんなことはないようだ。朝食にパンとサラダ、野菜スープにカットステーキの大皿を出しながら少しホッとする。
「コースケさん、昨日のこと、気にしてます?」
「そりゃなぁ。あまりに露骨で頑な過ぎたかなとは」
風呂から出るなりダッシュで部屋に駆け込んで封鎖したからね。一応ピルナ達にもこれ以上誘惑されたら手を出しそうだから許してって言ったけど。
「私達が言うのもなんですけど、あまり深刻に考えないでください。私達としては、誘惑をすれば手を出してくれる程度には私達に気を許してくれているってだけで充分ですから」
自分の好みの異性に誘われたらどんなに怪しくてもホイホイついていってしまうのが男のサガというものだと思うが。いや、そうでもないか? いくら美人でも気を許してない相手にホイホイついていくことは無いか。無い……か? 想定が特殊すぎて想像できんな。
俺って相手の外見が好みってだけで無条件に気を許しちゃう生き物だから……シルフィとか初対面でボッコボコにされたのに美人だなとか思ったくらいだし。結構警戒してたのに、誘われまくって結局手を出したわけだしなぁ。俺は俺の理性ってやつを信用していないんだ。うん。理性的だろ?
「本当に積極的だよな、君らは。俺の常識からは色々とかけ離れていて……全然嫌ではないが、戸惑う。もう少し落ち着くまで待っててくれ」
「はい、お待ちしていますね」
にこりと微笑むピルナとハーピィさん達。彼女達としてはこれで今は充分ということなのだろうか。う、ううむ……大丈夫なのか、俺。シルフィだけでも過分だというのに、アイラにハーピィさん達まで……しかも聞くところによるとメルティとかゲルダ辺りも俺を狙っているという話だし。
これはシルフィに相談しよう。そうしよう。正直、俺の手には余る。余り過ぎる。でも、シルフィも俺とそういう関係になるまでは恋愛方面というか、そういうのには疎い感じだったしな……誰に相談すれば良いんだ、一体。
男どもは頼りにならないし……キュービはワンチャンあるか? それでなければ教養の高い女性……アイラは教養が高いけど、魔法とか錬金術方面に偏ってそうだし……メルティか? 大丈夫か? 狙っているとされている女性にこんなことを相談するなんて。
いや、そのへんも含めてシルフィに相談しよう。そうしよう、うん。
☆★☆
朝食を食い終わった俺達はフロンテ達と別れ、臨時宿泊所を完全に解体して再び臨時砦に向かって移動を開始した。臨時宿泊所はしっかりとブループリントに登録しておいた。今後使うこともあるだろうし。
「今日は第四シェルターに泊まりますか?」
「第四シェルターに着いた時点で考えよう。このペースだと臨時砦に着けるんじゃないかな?」
「そうですね、着けそうです」
第三シェルターで小休止し、ゴーレム通信機でアイラと通信のチェックを終えた俺達は第四シェルターに向かって走っていた。今日は結構朝早くに出たのだが第三シェルターに辿り着いたのが午前中のまだ早い時間だった。もうスマホの電源も切れて正確な時間はわからないのだが、太陽の高さから考えると午前九時前といったところだろう。このペースで走れば結構余裕を持って臨時砦に着けそうではある。ただ、無理をして日没前に辿り着けなかったらそれはそれで少し問題だ。
そういうわけで、俺はピルナの質問への回答を先延ばしにして走ることに集中することにした。
正直、第四シェルターに泊まるとなると今日は完全にピルナ達と俺だけで一夜を過ごすということになる。ピルナ達は一応納得してくれたようだったが、次に誘惑されたら俺が耐えきれるかどうかわからない。できれば彼女達と俺だけという状況で宿泊するのは避けたいのが本音である。
俺の祈りが通じたのがどうなのかはわからないが、行程は思ったよりも順調だった。道中で数度ギズマとの戦闘があったが、高速ジャンプ移動による機動力とショットガンの攻撃力、そしてブロック設置による防御力を自在に操る俺にとってはもはやギズマなど雑魚でしかない。
さっさと死骸の回収も済ませて昼前には第四シェルターに辿り着くことができた。
『速い』
「俺も驚きだ」
シェルターとシェルターの間は凡そ人の足で六時間から八時間ほどの距離が開いている。だいたい30kmから40kmくらいだ。昼前に着いたということは、六時間弱くらいで二区間を走り抜けたことになる。恐らくは本来歩きづらい荒野をジャンプ移動しているからというのも関係していそうだが……今度速度を計ってみようかな。
「音声はクリアに聞こえるな」
『ん、問題ないみたい。第四シェルターまで届けば上出来』
最前線砦から第四シェルターまでは普通に歩いて四日の距離だ。ゆうに100km以上は離れているはずである。この距離でクリアな通信ができるとなると、軍事的にもかなり有用な道具と言えると思う。
「魔力波の強度からお互いの距離がある程度わかれば……いや、お互いの現在地をちゃんと把握していれば必要ない機能だな」
『演算はできないこともないけど、コアの容量を相当食うと思う。基本機能の低下は免れない』
「それは今ひとつだな。俺達は小休止したら臨時砦まで足を伸ばすよ」
『ん、了解。気をつけて』
「ああ、わかった。それじゃあ」
アイラとのゴーレム通信を終えたらピルナ達と昼食を取る。
「コースケさんの出す食事はどれも美味しいですよね」
「ギズマ以外のお肉が食べられるのが嬉しいですね」
「ボクはギズマのお肉も嫌いじゃないけど」
今日の昼食はハニーローストチキンのサンドイッチとスライスしたピクルスである。ハーピィが鶏肉食って良いのか? と思って前に聞いてみたが、全然問題ないとのこと。むしろ、鳥の肉はハーピィ的には良く食べる食材であるらしい。
いや、まぁ確かに。地球でも鳥の天敵はだいたいより大きい肉食の鳥だものな。そんなもんか。
ちなみに、今俺と一緒に行動を共にしているのは随伴しているハーピィ五人のうちの三人だけだ。他の二人は先行して臨時砦まで飛んでもらっている。
恐らくまだ大丈夫だとは思うが、万が一聖王国の連中がもう臨時砦に攻撃を仕掛けていたりしたら無策で突っ込むのは危ないからな。この辺りはもうほとんどギズマがいないし、先に偵察をしてもらっているのだ。
なので、俺と一緒に飯を食っているのはピルナと茶色羽ハーピィのペッサー、緑羽ハーピィのトーチである。先行しているのは白羽ハーピィのイーグレットと茶褐色羽ハーピィのエイジャだ。実はハーピィも細かく区分すれば小鳥種と大鳥種の二種に分かれており、小鳥種は高速で小回りが効く、大鳥種は速度に劣る分長距離航行が得意で力が強いという差があるらしい。ここに残っているピルナ達は小鳥種で、先行してもらったイーグレットとエイジャは大鳥種なのだそうだ。
「今晩は私達とコースケさんだけでお風呂に入れるかと思って楽しみにしていたんですけどねー」
「ははは、残念だな。まぁ早く着くに越したことはないから」
「当初の日程は三日間でしたし、ゆっくりしていっても良いんじゃないですか?」
「そうだよ、ゆっくりしていこうよ」
「そういうわけにはいかないだろう」
苦笑いしながら首を横に振る。ペッサーは真面目そうに見えて実はぐうたら、トーチは甘えん坊って感じの性格だな。ここには居ないが、イーグレットはどこかお嬢様っぽいというか、貴族っぽい。エイジャは寡黙な子だった。
「そうですね。残念ですが、私達には遊んでいられる余裕なんてありませんし」
チキンサンドを食べ終わったピルナがそう言って席を立ち、翼の状態を確認し始める。その様子を見てペッサーとトーチも自分の翼の状態を確認し始めた。彼女達は飛び立つ前に必ず翼の点検をする。ちょっとした羽の乱れが飛んだ時に思わず事故を引き起こすことがあるからだという。羽の一枚一枚に何か飛ぶ秘密のようなものがあるのかもしれない。
「それじゃ、行くか」
『はい!』
臨時宿泊施設を解体し、俺達は再び移動を開始した。
☆★☆
「コースケ! よく戻った!」
「お、おう」
そして、臨時砦に着くなりシルフィに抱き締められた。ちょ、強い強い、ミシミシいってる!
「コースケ殿、ご苦労だったのである。解放民達は無事最前線砦に着いたのであるか?」
「今頃着いてるんじゃないかね。アイラと通信してみるか」
「通信?」
俺を解放したシルフィが聞き慣れない単語を聞いて首を傾げる。そうか、イーグレット達はゴーレム通信機について報告してなかったんだな。
「ほら、解放部隊が離れた他の部隊と情報をやり取りする手段が欲しいとか言ってただろ? それでアイラ達がゴーレム通信機ってのを作ったんだよ。第四シェルターの辺りだと問題なく通信できてたけど、ここだとどうかな?」
ゴーレム通信機を起動して呼びかけてみるが、反応がない。どうやら魔力波が届かないようだ。
「うーん、ここだと魔力波が届かないようだな。最前線拠点から第四シェルターまで届くから、徒歩四日くらいの距離までは大丈夫みたいなんだが」
「ほう、徒歩四日の距離であるか。それは凄いのであるな」
「中継局を設置すればもっと広範囲で通信できる筈だけどな。アイラ達が今開発に取り組んでる筈だ」
「ふむ、なるほど……戦というものが根底から変わりそうだな」
ゴーレム通信があれば囮を使っての待ち伏せ攻撃や挟撃なんかもやりたい放題だろうな。防御面でも敵が攻めてきたのを迅速に伝えることもできるだろうし。そのうちヘッドホンみたいなものを作って、小型化したゴーレム通信機をハーピィに持たせて飛ばすことができれば早期警戒管制機の出来上がりだ。
敵の動きが筒抜けな空から戦場全体を俯瞰して情報を共有……敵からすれば悪夢以外の何者でもないな。ハーピィは目も良いし、伏兵の位置なんかも筒抜けになるだろう。そして航空爆撃が敵を粉砕する……もうハーピィだけで良いんじゃないかな?
まぁ、俺が敵側だったら対空攻撃の充実に走るけどね。この世界には魔法があるんだから、対空特化の攻撃魔法とかがあってもおかしくない。今後、ハーピィを運用していくなら敵の対空能力の強化には神経を尖らせていくべきだろうな。
「とにかく、解放民に関しては昨日第二シェルターまでは無事に到着してることを確認したし、無事出発したようだから大丈夫だと思うぞ」
「なるほどなのである。ところで、コースケ殿は最前線砦からここまで二日で走り抜けたのであるか……? ケンタウロス並みの速度であるな」
「確かに速いな……いや、本当に速いな? しかもさして疲れた様子でもないし」
「ああ、それはな……」
レオナール卿とシルフィの疑問を解消してやるために、新しく習得した連続ジャンプ移動を実際に見せてやる。慣れると簡単なんだよな、これ。大事なのはリズムだ。
「面妖な動きであるな……」
「相変わらずコースケの能力はわけがわからんな……空中で不自然に加速していないか?」
アイラ辺りに見せたらまた目から光が消えるんだろうか? うーん、なんか是非見てもらいたくなってきたぞ。アイラをびっくりさせるのがいつの間にか俺の楽しみになりつつあるな。
「俺の方からの報告はこんなところだな。こっちでは変わったことはなかったのか?」
「うむ、それなんだがな」
オミット大荒野に接している領域境の砦に動きがあるらしい。どこからか大量の物資が運び込まれており、着々と戦の準備を進めているようだ。
「ハーピィ達の偵察によるとそんな感じだな。敵兵の数は五〇〇〇を越えそうな感じらしい。数日中に動き出しそうな感じだな」
「ほう、五〇〇〇……そりゃきついな」
それでも堅固な砦とクロスボウ、バリスタ、航空爆撃があればなんとでもできそうだけど。
「とは言え、まともに戦ってやる必要もない。罠だけ仕掛けて俺達はとっととおさらばしようか」
「罠?」
「そう、罠だ。やるからには徹底的にやるぞ、俺は」
ククク……この臨時砦を奴らの墓標にしてやるとしよう。ああいや、その前に奴らに宣戦布告をするのが先かな? 一応ね、俺達は野蛮人じゃなく文明的な人族という奴だからね。俺達の立場を明確にしておくべきだろうね。ま、話し合いの余地なんてないんだろうけども。
アサシンクリードオデッセイ始めました_(:3」∠)_(時代感が凄いマッチしそう