第054話~ピョンピョンするんじゃぁ~
馬鹿な……何故皆完璧に隠していた筈の私の性癖を……もしや読者の皆さんはエスパーか何かなのでは?_(:3」∠)_
開発室で飯を食い、再び臨時砦に戻るためにダナンのいる待機所を訪れたのだが……俺とアイラの姿を見るなりピルナが震えながら振り絞るように声を出した。
「……どういう状況です?」
「コースケは私を受け入れてくれた」
俺にピッタリと抱きつきながら、アイラがすました声でピルナに返答する。それを聞いたピルナが愕然とした表情をする。またもや先を越された、とかなんとかブツブツつぶやいている。ちょっと怖い。
「コースケ、お前はどう動くのだ?」
そんなピルナとアイラのやり取りを完全に無視してダナンが俺の行動方針を聞き始めた。ダナンすげぇな……この状況をガン無視してその発言は尊敬するぞ。でも俺もそれに乗っかることにする。
「臨時砦に走って戻る。おっつけ解放民達も来るはずだから、受け入れと後送の準備は任せるぞ」
「それは任せろ。だが、一人で行くつもりか?」
「うーん、流石に危ないし、一人で行くのは避けたいんだよな。何か不測の事態が起こったらどうしようもなくなるし」
「わたしっ! 私が一緒に行きますっ!」
愕然としていたピルナが意識を取り戻し、両翼をパタパタさせながらピョンピョンする。擬音が多いが、そうとしか表現できない。なんというか必死さが伝わってくるな。
「確かに、ピルナに先行偵察して貰えると助かるな」
「そうでしょう!」
「でも、俺に随伴する人員も一人は欲しいんだよな……」
正直、ピルナと二人でというのは不安がある。お互いに単独行動+単独行動みたいな形になるし、何か不測の事態が起こると詰みかねない。ハーピィのピルナはいつもそんな感じだから平気かもしれないが、俺としてはかなり不安だ。
「それはそうですね。では、私達ハーピィ部隊が随伴するというのはどうでしょう。五名で同行して、二名が直掩に付き、三名で先行偵察と周辺警戒をすれば問題ないと思います。移動速度も早くなりますし、臨時砦に敵が迫った場合に備えて航空爆撃ができる人員は最前線に配置したほうが良いと思います」
ふむ……そう言われれば確かにそうか。不意打ちさえされなければ俺がギズマに負けることはほぼない。囲まれてもブロックジャンプで上に逃れて、一方的に銃で撃ち殺せるわけだし。ハーピィ達が警戒してくれれば、地上を走るのは俺一人でも確かに問題ないな。
ダナンに視線を向けると、彼もピルナの提案が妥当だと考えたらしく頷きを返してきた。そして、俺に抱きついたままのアイラだが。
「じー……」
「……」
ピルナをガン見していた。これでもかってレベルで。一方、アイラにガン見されているピルナはどことなく気まずそうな感じで目を逸らしている。これはアレだろうか、カラスが目の玉模様のバルーンを嫌がるみたいな。
「無理矢理はダメ」
「はい」
「姫殿下に了承を得てから」
「はい」
なんか目の前で、俺の意志の介在一切なしに俺の貞操についてやり取りされている気がするんですけど、気のせいですかね? ダナン? おい、露骨に目を逸らすな。
「……来るべき時が来たら腹を括れ」
「……その言葉を俺に吐いたことをお前自身も忘れるなよ?」
知ってるぞ、実はお前が未亡人の子持ちの奥様達から密かに迫られているのを。キュービがそう言ってた。あいつ自身はそういう話を全然聞かないししないんだけどな……よく子供達と遊んでるけど。ん? もしやあいつはロリコンなのでは……? 今度追求してみるか。
☆★☆
インベントリ内の余分な物資を最前線砦の倉庫に吐き出した俺はピルナ達ハーピィ斥候隊を引き連れて臨時砦への移動を開始した。
ちなみに、現在解放軍に所属しているハーピィの数は全部で十八名で、そのうち九名が臨時砦に駐留中、五名が俺に同行しており、最前線砦に一名、本拠点に二名、黒き森に一番近い第一拠点に一名駐留している。
最前線砦のハーピィが手薄になるが、恐らく解放民達の後送に何名かついてくるはずなので、その人員で各地への伝令をするつもりなのだそうだ。そもそも、最前線砦と本拠点との間ではゴーレム通信機での通信が確立できたので、伝令にハーピィを使う必要性がなくなったという話だけど。
「今日は地下シェルターを一つ飛ばして第二シェルターまで行くぞ」
「順調に進んでいれば、解放民達と合流するはずですね」
「その筈だな」
俺の二日遅れで解放民達が臨時砦を出発したのであれば、順調に行けば今日の日没前に第二シェルターに到着するはずなのだ。今晩の宿は窮屈かもしれないなぁ。まだすぐには俺を受け入れられない人も多いだろうし。
なんなら地表に頑丈な一戸建てを……いや、空中拠点を一個作ればそれでいいか。うん、そうしよう。その方がお互いに心休まるひと時を過ごせることだろうし。そう考えるとなんか気が楽になった。よし、頑張って走ろう。
そういうわけで、自前での走りとコマンドアクションによる移動や走り、ジャンプなどを駆使して飛ぶように走る。いや、どちらかと言うと飛ぶようにと言うより跳ぶように、か。
「コースケさんのその謎のジャンプ移動、物凄く早くないですか?」
「そうだろう。正直言ってちょっとキモいと自分で思っている」
コマンドアクションによる斜め移動とジャンプ加速、更に微妙な腰の捻りや自前でのジャンプなどをタイミング良く繰り返す事によって、明らかに異常な速度で荒野を跳ね回る俺。傍目から見ると絶対動きがキモいと思う。物理法則クソ食らえな速度になってるよ、これ。
「いや、そこまでは言いませんけど……どういう原理なんです?」
「俺にもわからん」
所謂バニホとかストレイフジャンプとか呼ばれる移動テクニックを再現できないかと先日から何度もやっている移動中に試していたのだが、ついに再現ができたのである。空中で微妙に向きを変えながら異常な速度でピョンピョンしていく俺……どう見ても異常である。
「私達が空を飛んでいるのと同じような感じなんですね」
「そうなのか?」
「私達もなんで空を飛べるんだ? って聞かれても飛べるから、としか答えられませんし」
ピョンピョン跳ねながら移動する俺の上を滑空しながらピルナがそう言う。確かに、身体の大きさからするとピルナ達ハーピィの翼の大きさじゃ飛べそうにないよな。多分風魔法的なものを併用しているんだろうと思っていたんだけど、本人達としては特に意識して何かしている意識はないらしい。
「このままだと予定より早く着けそうですね?」
「そうだな。快適な寝床を作ってゆっくり風呂にでも入るとするか」
「いいですね、おふろ。フロンテ達から聞きましたけど、気持ち良いらしいですね?」
「風呂は良いぞ」
是非入浴の習慣を皆に広めたいものだな。そういえば、本拠点は魔力を無尽蔵に使えるという話だったし、水も無尽蔵に使えるわけだから公衆浴場を作ったりするのも良いんじゃないだろうか? いいね、公衆浴場。是非作ろう。そして入浴の文化を全世界に広めるのだ。ああ、一刻も早く風呂に入りたくなってきたな。急ぐとしよう。
☆★☆
『コースケ、コースケ、聞こえる?』
「問題なく聞こえている。どうぞ」
『こっちも問題なし。やはりこれくらいの距離なら問題無さそう』
まだまだ日も高いうちに第二シェルターに着いた俺は、ピルナ達に周辺警戒と解放民達の探索を任せ、地上5mの位置に俺とピルナ達用の臨時宿泊施設を作り終えていた。
今はピルナ達を待ちながら、ゴーレム通信機のテスト中である。
「明日第三シェルターに着いた時点と、第四シェルターに着いた時点の二回で通信を試みることにするよ」
『うん。そうしてくれると嬉しい。理論上は臨時砦くらいまでなら届くはずだけど、実際にどれくらいまで問題なく通話できるのかは不明だから』
ゴーレム通信機に用いられている魔力波はかなり遠くまで届くように工夫された特別な波長のものであるらしいが、実際にどこまで届くのかは前例がないのでまだよくわかっていないらしい。出力と波長を考えると理論的にはどこまで届く、というのは推測できても実際にそうなるかどうかはわからないとのことだ。
「場合によって中継基地局なんかを併用すると良いかもしれないな」
『中継基地局? どういうこと?』
つまり、通信機と通信機の間に魔力波を受け取って再送信するだけの機能がある基地局を作って、到達範囲を広くしようというわけだ。受信用のアンテナを大型化したり、送信用のアンテナを高い位置に置いたりすれば更に魔力波の到達範囲を拡大することができるだろう。
「問題は稼働させ続けるための動力の確保と、メンテナンスだろうな。あと、専用のゴーレムコアが要るんじゃないか」
『うん、でもなんとかできそう。やっぱりコースケの発想は面白い。早速サイクス達とも相談して考えてみる』
「ああ、あまり根を詰めるなよ」
『うん。コースケも、気をつけて』
「わかった。それじゃあ、また明日な」
『うん、おやすみ。コースケ、大好き』
「お、おう……ありがとう」
通信が終わる。あーーーーーっ! いけません! いけませんお客様! そんなにストレートに好意をぶつけられると恥ずかしくてたまりませんから! あーーーーーっ!
「ただいま戻り……コースケさん、どうしたんです?」
両手で顔を覆って悶えていたら、丁度戻ってきたピルナに変な顔をされた。よりによって何というタイミングで。
「どうしたんですか?」
「あ、コースケさん……」
「こっちについてきてよかった」
宿泊所が一気に姦しくなる。どうやら解放民の移動に着いてきたハーピィの皆さんも来たらしい。
「私とフィッチとレイの三人が後送の任務でこちらに来たんですよ」
碧羽ハーピィのフロンテがそう言ってニパっと眩しい笑顔を浮かべる。橙羽ハーピィのフィッチと漆黒羽ハーピィのレイもそれに頷いた。
「私達は解放民の皆さんを先導してきますね」
「わかった。俺は風呂と飯の用意をしておくよ」
「あ、お風呂ですか……あの、私達も入って良いですか?」
「いいぞ。いいよな?」
「そうですね、シェルターに解放民の皆さんを収容した後なら良いと思います」
「流石隊長、話がわかる」
許可を出したピルナにフロンテ達が抱きつく。一度風呂に入ったらもうやめられないよなぁ。うん、わかるわかる。やはり公衆浴場の建設は必須だな。
「では、行ってきますね」
「行ってきまーす」
再びピルナ達が飛び立っていく。それを見送った俺は空中宿泊施設に風呂を用意し、食事の準備をしてから少しだけ宿泊施設を拡張した。多分フロンテ達もこっちに泊まるだろうし。
そう言えば、眠りが浅かった件に関してはフロンテ達も関わってそうだったよな。シルフィを問いただす前に、彼女達の証言を得ておくべきだろうか?
いや、どうだろう。俺が想像した通りだったりすると、かえって地雷を踏むような結果になりかねないのでは……? でも、シルフィを問い詰めてもしらばっくれられるかもしれないしな。いや、シルフィに限ってそんなことないか? でもなぁ。
悶々と考えながら作業をしているうちに日が傾きかけてきた。解放民達は間に合うのかと心配になって外に出てみたら、丁度到着したところだった。流石に一〇〇〇人ともなると結構な人数だな。もうシェルターで過ごすのも三日目だからか、列を作ってスムーズにシェルターへと入っていく。顔色を見る限りは極端に士気が低いということも無さそうだ。というか、俺のいる宿泊所を見上げている人も多いな。
一応友好を示すために手を振ってみるが、子供くらいしか振り返してくれなかった。くっ、別に悲しくなんてないんだからな。
そうこうしているうちにピルナ達が戻ってきて、手を洗ってお食事タイムだ。ハーピィさん達はあまり手先というか、羽先? が器用ではないので、手掴みで食べられる食事が好まれる。フォークとスプーンくらいは問題なく使えるけど、フォークをくるくる回してパスタを食べるとか、フォークとナイフで肉を自分で切り分けて食べるのとかは苦手なのだ。
「今日はドネルケバブ風な感じで」
「野菜も新鮮で美味しいです!」
「ソースがお肉に合ってますね」
毎回毎回ハンバーガーでは芸がないので、今回は新鮮な野菜をたっぷり挟んだドネルケバブ風焼き肉サンドのようなものにした。せっかく時間もあったし、たまにはね? デザートには黒き森から運ばれてきた森の果物である。野いちごっぽいかな。
「このベリーもなんだか久しぶり」
「黒き森に居た頃には結構食べてたよね」
楽しそうにおしゃべりしながらハーピィさん達が食事を進めていく。うーん、こうしてみると皆可愛いんだよなぁ。この世界、美少女率というか、美女率が妙に高い気がする。男はどいつもこいつもイケメンだし。
まぁ、何が言いたいかというと可愛い女の子が楽しそうに、美味しそうにご飯を食べる姿は眼福だってことです。たくさん食べる君が好きってやつだね。
食事が済んだら次はお風呂である。
「じゃあ、先に入ってくれ。俺は後でいいから」
「いえいえ、そんな。やっぱりコースケさんから入ってください。私達は後で良いですから」
「そうです。一番はやっぱりコースケさんから入るべきだと思います」
一番風呂、という概念は教えてないんだけどな。何故かピルナ達は俺に先に入るように促してくる。うーん、残り湯に入られるのが嫌、とかそういうことだろうか?
「いや、気になるならお湯も張り替えるし。こういうのはレディファーストでどうぞ」
「それじゃあいっそのこと一緒に入ってしましょうか!」
フロンテがとんでもないことを言い始める。それはまずいですよ!
「いいですね! お背中も流しますよ」
「えっ、いや、それはちょっと」
ピルナも同意し、他のハーピィさん達も乗り気だ。いやいやいやいや。
「いいですからいいですから」
「れんこー」
「待て待て、君達もう少し恥じらいというものを――ちょ、思ったより力つよっ」
「日頃の感謝を込めてサービスしますから」
「本当に感謝してるんですよ、私達」
割と真面目に抵抗するが、総勢八人のハーピィ達は俺をズリズリと風呂場へと引きずっていく。いやっ! やめて! サービスとか言って私にいやらしいことするつもりでしょう!? 薄い本みたいに! 薄い本みたいに!
ハーピィさん達の羽を使った全身洗いとマッサージは大変気持ちよかったです。はい。これは一度味わったらアカンやつや……なお、貞操の心配はありませんでしたが、何もかもを見られてしまいました。
いやちょっとまって。そこはマッサージしないで。だめだから! それはアウト! アウトだから! 貞操の心配があるから! 本番じゃなければセーフとか欺瞞だから!
どこまでがセーフでどこまでがアウトなのか……彼女達はギリギリのラインを攻めていくのであった。
表現的にもこれくらいはR18にならない的な意味でセーフ。きっとセーフ_(:3」∠)_




