第051話~ドーモ、聖王国軍=サン。ハーピィ爆撃隊です~
今日は更新しないと言ったな?
あれは嘘だ(゜ω゜)(がんばった
防壁の上からじっとメリナード王国領の方向、ハーピィ爆撃隊が飛び去った方向を見つめる。まだ俺の目には何も映らないこの星の大きさがわからないから地平線までの距離ははっきりとはわからないな。地球だと約5kmくらいだって聞いたことあるけど。高さによっても変わるんだったかな?
そんなことを考えながら旋回砲の機構を確認しておく。問題なし。ボルトアクションライフルも大丈夫。取り付けた四倍スコープは距離100mでゼロイン――照準を合わせてある。
これも実はインベントリ内でボルトアクションライフルに4倍スコープを取り付けた場合の特典のようなものだ。インベントリ内でスコープを付けると必ずほぼ誤差なしで100mにゼロインされる。その時の気温などのコンディションまで考慮して調整されるかどうかまでは検証してないけど。
「緊張しているようだな」
後ろから声をかけられてちょっとびっくりした。振り向くと、シルフィがいつもの革のボディスーツにペイルムーン、リボルバー、ククリナイフを二本にリボルバー用のスピードローダーが入ったベルトポーチという完全武装の状態で立っていた。他にも腰にポシェットのようなものを着けている。
「そりゃな。人を殺す……戦争なんて初めてだからな。何度も言うが、俺は元の世界でまともに喧嘩もしたことのない一般人なんだぞ」
「ギズマ相手には勇猛果敢に戦えていたじゃないか」
「アレは人間じゃないし」
「同じだよ。人間も、亜人も、ギズマも変わらない。どれも生命だ」
「そこまで簡単に割り切れたら楽なんだろうけどな」
俺はそこまで割り切れてない。多分。でもどうかな、なんかこの世界に来てからあまり現実感が無いんだよな。
森を彷徨って、シルフィにボコられて、暴徒と化したメリナード王国民にリンチされかけて、首輪嵌められて、シルフィと寝て、森を探索して、ギズマ対策のために色々動いて、皆ともなんとか仲良くなって、ギズマを撃退して、そしてメリナード王国奪還のために動き始めて……この世界に来てからどれくらいの日数を過ごしただろうか?
もう二ヶ月は越えただろうか。半年はまだ経ってないだろう。三ヶ月か、四ヶ月目くらいだろうか?
毎日が地球の生活とはかけ離れていて、刺激的で、夢のようだ。この世界では俺は唯一無二の特別な存在で、多くの人に必要とされている。この世界の俺は柴田康介という名前を持つその他大勢の一人ではなく、コースケという名のユニークな存在だ。
「どうした? 遠い目をして」
「いや、なんだろうな。戦いを前にしてナイーブになってるんだろう」
とりとめもない事が頭に浮かんでは消えていく。まともな精神状態じゃないのは間違いないようだ。ボルトアクションライフルをインベントリにしまい込み、ペットボトルに入った水を取り出して一口飲む。
「シルフィも飲むか?」
「ああ、貰おう」
シルフィはそう言って俺の手からボトルを受け取り、ぐいっと呷った。シルフィの喉がこくこくと音を立て、艶かしく動く。
「なんだ? そんなに見られると恥ずかしいぞ」
「悪い」
シルフィからボトルを受け取り、インベントリに入れる。そして再びハーピィ達の飛び去った方向へと視線を向けた。どれくらいの距離に居るのだろうか? ここから爆撃音は聞こえるものかな。
そんなことを考えていると、シルフィに後ろから抱き締められた。シルフィの両腕が俺の胴に回され、ピッタリとくっついてくる。
「コースケ、辛いなら無理をするな。こんなことに加担させている私が言うのも滑稽な話だがな。コースケは十分に私達を助けてくれている。いや、十分などという言葉では足りないな。頼り切っていると言うべきだ。その上更にその手を血で汚せなんて誰も言わない。私が言わせない。だからコースケ、無理はするな」
シルフィのその言葉はとても甘く、心に深く染み込んできた。確かにそうなんだろう。この戦いはあくまでもシルフィ達の、メリナード王国民の戦いだ。異世界の住人である俺の出る幕ではない。俺には戦うに足るだけの理想も、大義も無い。ただ、シルフィのためだけにこの戦いに加担しているのだ。
ドォーン、ドドドドーン……と、遠雷のような音が響いてきた。その音が意味することは明白だ。ついに始まったのだ。この世界初の航空爆撃が。敵の反撃を決して受けることのない位置から行われる一方的な虐殺が。
「いいや、シルフィ。それでも、俺には責任がある」
「なに?」
俺の胴に回されたシルフィの腕に触れ、軽く握る。
「戦いに使われるとわかっていて武器を作って、渡して、使わせて、僕は作っただけです、直接殺してないから無実です、なんてのは通らないだろ」
自分で自分の頬を張って気合を入れる。覚悟を決めろ、柴田康介。こうなったらとことん、やれるところまでやるんだ。
無慈悲に、圧倒的に、効率的に。屍山血河を造り上げてこの争いを終わらせる。
「やり始めた以上、筋は通さないとな。俺はやるよ」
「……そうか。ありがとう、コースケ」
シルフィの腕が俺を抱き竦める力が増す。遠雷のような炸裂音が再び聞こえてきた。戦いはもうすぐそこまで迫ってきている。
☆★☆
「爆撃成功です! 追撃部隊に大打撃を与えました!」
城壁へと降り立ったフロンテが興奮気味に捲し立てる。一緒に爆撃をしに行った他のハーピィ達も概ね同じような状態だった。興奮してるせいか全身の羽が逆立ってふわふわな感じになってるな。とりあえず、全員に蓋を開けた飲料水入りのペットボトルを渡して水を飲ませることにする。
「興奮するのもわかるけど、落ち着くんだ。そんな精神状態じゃ冷静に爆撃できないだろう」
俺の指摘にハーピィ達が全員恥ずかしそうな顔をする。俺に言われてはしゃぎすぎていたことに気づいたようだ。水をくぴくぴと飲んでいるうちに逆立っていた羽も元に戻ってくる。
「ピルナ達もお疲れ。水を飲んで一休みしてくれ。飯は?」
「食べてないです」
「なら簡単に食えるものを出す」
解放部隊に同行していたハーピィ達も臨時砦に帰還してきていた。その数五名。解放部隊一つにつき一人のハーピィ偵察員を随行させていたのだが、全員が戻ってきているということは全ての部隊が合流しているということなのだろう。
テーブルを出して濡らしたおしぼりとハンバーガーを出しておく。
「ピルナ達は飲んで食って一休みしてくれ。フロンテ達は飛べそうか?」
「はい、まだ行けます!」
「じゃあ再度爆装して出撃だ。爆撃目標は殿軍に攻撃を仕掛けている奴らが最優先、それが居ないなら敵の補給部隊、その次に敵本隊だ。あっちに爆弾の用意をしてあるから、取り付けてもらってくれ」
俺の指示を聞いてフロンテ達が爆装エリアに移動していく。その姿を目で追ってから、ピルナが真剣な表情を俺に向けてきた。
「なんだかフロンテ達と随分と仲良くなっていませんか?」
「何日か一緒に過ごしたからな。接する機会も多かったし、こんなもんだろ」
「……そうですかね?」
ピルナはなにか引っかかりを覚えているような微妙な表情でハンバーガーを口に運ぶ。良い食べっぷりだな。恐らく自分達の分の食料も極力解放民に回してたんだろう。
「ちょっと人数が多すぎたが、良い仕事をしたな。詳しい経緯は落ち着いてから聞くとして、フロンテ達の爆撃の効果はどうだった?」
「んっ、はい。お話しますね」
ピルナ達が聖王国軍に捕捉されたのは今朝のことだったらしい。
ビニスクの岩塩鉱山に駐留していた聖王国軍の兵士は残らず片付けたため、恐らく音信不通になったことを不審に思った近隣の街から岩塩鉱山へと人員が派遣され、それで行動がばれたのだろうとピルナは語った。
発覚してしまえば追跡は容易だ。何せ八〇〇人以上の移動痕である。隠せるはずもない。ましてや今となってはその人数は一〇〇〇人以上に膨れ上がっている。移動速度も遅く、追撃を受けるのは避けられないとレオナール卿は考えていた。
「当初の予定通りに先に帰還していた第五部隊以外の全部隊が合流し、第六部隊が解放民を先導、残りの四部隊が殿軍を務めたんです。食料や水のやりくりが大変でしたが、それもここに落ち延びるまでの辛抱だと言い聞かせてなんとか保たせました」
「その点は安心してくれて良い。水も食料も豊富に揃えたからな。全員に十分行き渡らせられる」
「それは良かったです……それで、追撃を受けた後の話なんですが」
最初に一当てしてきたのはやはり足の早い騎兵部隊だった。一〇〇騎ほどの騎兵が背後から一斉に突撃してきたのだ。それに対してレオナール卿の指揮の下、約四〇台の改良型クロスボウから矢が発射された。発射されたうちの半数以上が騎兵やその騎馬に命中し、初撃で二〇騎ほどが脱落した。
次いで二十発の手榴弾による攻撃が行われた。次々に炸裂した手榴弾が騎兵に痛打を与え、それ以上に騎馬達を恐慌状態に陥れた。突然の爆音に驚いて棹立ちになり、騎手を振り落とす騎馬が続出したのだ。
そこに更に二〇発の手榴弾が投げ込まれた。この攻撃で騎兵部隊の半数以上が倒れ、士気が崩壊した騎兵部隊は壊乱して後退していった。その背にクロスボウの矢が撃ち込まれ、更に被害は拡大した。
「初撃で騎兵を撃退できたのは大きいな」
「はい、突撃を逆に粉砕できたのは大きかったですね。クロスボウと手榴弾の威力に脅威を覚えたのか、騎兵が突撃してこなくなったので。付かず離れずの距離を保って後を追ってくるだけになりました。解放民達の移動速度よりも敵の本隊の方が脚が速いので、本隊を待って数で押すつもりだったんだと思います」
「ちなみに、追撃してきてる敵軍の規模は?」
「騎兵が一〇〇、歩兵が六〇〇、弓兵が二〇〇ですね。おおよその数字ですけど」
「追いつかれたらひとたまりもなかったな」
いくらクロスボウと手榴弾で武装し、圧倒的な武力を持つレオナール卿とシュメルがいるとは言っても数の暴力には敵わない。五部隊合わせても精々六〇人弱の戦力では一当てでに擦り潰されるのがオチだろう。
「もう少しで追いつかれそう、というところでフロンテ達が現れました。追撃部隊と殿軍の距離はまだ少し距離があったので、フロンテ達は遠慮無しに敵軍の最前列付近に爆弾を投下したんです。正式版の威力は凄かったですよ。一撃で敵軍の主力が半壊しました」
「まぁ、鉄の鎧程度で防げるものじゃないものなぁ」
ハーピィ用航空爆弾の威力半径はおおよそ25mほどだ。五人で爆撃範囲が被らないように上手く爆撃すれば、密集陣形を取っている八〇〇人程度の軍勢なら一撃で半壊するだろうな。金属製の防具を身につけていても、爆心地近くだと即死は免れまい。
「突然の爆撃で混乱状態になった敵主力にもう一撃が入り、追撃軍はほぼ壊滅状態でしたよ」
「あれ? マジで? じゃあフロンテ達を再出撃させる意味って無かった?」
騎兵も敵主力も壊滅してるならもうこの砦まで攻め寄せてくるということは無さそうだな。
「いえ、意味がないということはないと思いますよ。聖王国軍の兵がもっと多く死ぬだけです」
「Oh……」
そういえばピルナさんはれっきとした軍属ですものね。敵兵にかける慈悲はないか。
「あー、捕虜とか取らないのかな?」
「メリナード王国軍に居た頃なら取りましたが、今はどうでしょうね。交戦や捕虜の扱いに関する条約も何もないわけですし」
ピルナが言うには捕虜を取って聖王国に何らかの取引を持ちかけようにも、現状で聖王国側が取引に応じるどころか、そもそも交渉の席に着くかどうかすら怪しい。今回解放した民を合わせても俺達の人数は精々一三〇〇人程度の少勢力でしかない。
実質的な戦闘能力や生産能力は別として、一三〇〇人というのはちょっとした町程度の人口である。広大な領土や多くの属国を持つ聖王国からすれば鼻くそみたいにちっぽけな勢力だ。対等なテーブルに着くとは思えないという。
「それに、あの攻撃を受けては生きているといっても虫の息とか、四肢のどこかを失っているとかそういう感じでしょうからね……我々にはそういった捕虜の面倒を見る余裕がないと思います。精々苦しむ時間を短くしてやるために逝かせてやるのが最大限の慈悲かなと」
「世知辛ぇ……」
「私達が頭を悩ませることじゃないですよ。そういうのは姫殿下とか、メルティ内政官とか、ダナン様とか、レオナール様の領分です」
「それもそうか」
ピルナの言葉を聞いて俺は素直に捕虜のことについて考えることを放棄した。薄情かもしれないが、これも一方的だったとはいえ戦った上の結果だ。兵として戦に参加した以上はどんなに過酷な運命でも受け容れて貰う他ない。
「さて、十分休憩も取れましたし、私も行ってきますね」
「え? 行くの?」
「当然です。聖王国の奴らに思い知らせてやるチャンスですから」
ピルナはそう言ってニッコリと笑うと、残っていたハーピィさん達と連れ立って爆装エリアへと移動していった。聖王国軍殺すべし、慈悲はないって感じだな……ピルナも怒らせないようにしよう。うん。
航空爆弾を抱えて嬉々として飛び立っていくピルナ達を見つめながら、俺はそう心に誓うのだった。
流石に明日18時更新は環境的に厳しいです……今日頑張ったからゆるして!!_(:3」∠)_