第046話~俺のするべき仕事~
忙しくて書く時間が取れぬ……!_(:3」∠)_
男子会から三日の後、メリナード王国民を解放する任務を負った部隊が最前線の拠点から旅立っていった。一部隊の人員は十二名。土地勘のある者、斥候としての技能を持っている者、戦闘技能に優れる者などをバランス良く配置し、全員がクロスボウで武装している。
彼らの目的は第一に辺境の村の解放、第二に情報収集。聖王国軍との戦闘は極力控えるという方針だ。
六部隊七十二名が砦を出ていったので、最前線の砦は一気に閑散としてしまった。約半数の人員が出撃した形になるからね。レオナール卿とキュービ、ウォーグにインディも出撃した。ダナンとサイクスと俺は待機組である。
解放部隊が出撃した後も、残された俺達のやることはあまり変わらない。畑の世話をして、訓練して、新しいものを作り、周辺の偵察を行なってギズマがいれば駆除しておく。砦に近づいてきたらバリスタの良い的だ。当たりどころが良ければ一撃である。
俺は出撃しなくて良いのか? と皆に相談してみたのだが。
「コースケの力を使えば確かに作戦は捗るだろうな。だが、コースケしか使えない特別な力を使って作戦を成功させても、それはあくまでもイレギュラーなケースにしかならない。作戦遂行のノウハウを積み重ねることにはならん」
と、ダナンにはこう言われた。うーん、わかるようなわからないような。
「コースケの力は確かに便利というか、汎用性が高い。だが、解放作戦はコースケ以外の人員にも出来ることだ。コースケにはコースケにしかできないことをやってもらうべきだろうな」
「うーん、なるほど。でも、今できることなんて矢玉作りとか保存食作り、後は新アイテムの開発くらいだよな」
「豊富な物資を用意しておけばいざという時に必ず役に立ちますよ。どんな不測の事態が起こるかわかりませんからね。最悪、メリナード王国に駐留している聖王国軍がこの砦に攻めてくることだって考えられるわけですし。そうなれば矢玉と保存食はいくらあっても困りません」
「錬金術や魔法技術とコースケの能力は相性が良いことがわかってきた。こっち方面で能力を伸ばせば、コースケの能力だけでなくこの世界の技術が飛躍的に発展する可能性がある。ただでさえ私達は数が少ない。コースケは前線に出るよりも、技術的優位性を確保する方向に動くべき」
シルフィにも、メルティにも、アイラにもこう言われてしまった。うーん、俺としては前線で活躍するのも悪くないと思うんだけどな。
「こう言ってはなんだが、コースケは我々の要だ。正直に言えばその身の安全に関しては私よりも重要度が高い。いくらコースケが行きたいと言っても、前線に出すわけにはいかないぞ」
「んー、まぁ、そうなるか」
本拠点にもこの最前線拠点にもある程度の生産能力はあるが、両方合わせても俺のクラフト能力の方が生産力は遥かに上だ。確かにそんな俺を失うリスクを冒すわけにはいかないよな、シルフィやダナンとしては。俺が彼らの立場でもそうする。
「コースケの作った道具のおかげで解放部隊の装備は充実している。彼らを信じて、より良いものを作りながら待つのがコースケの仕事」
「そうですよ。皆の帰る場所を守るのがコースケさんの仕事です」
と、こんな感じで口々に後方で力を発揮すべし、と言われてしまった。なので、解放部隊が前線で戦っている間、俺はアイラやサイクスなどの技術者と顔を突き合わせて新しいアイテムの開発に没頭することになるのだった。
☆★☆
そういうわけで、解放部隊が出撃した翌日。
「ゴーレムって簡単に作れるものなのか?」
最前線拠点に作られた技術者達の工房で俺はそう切り出した。
この場にいるのは魔法にも錬金術にも詳しい元宮廷魔道士のアイラをはじめとして、錬金術師のサイクス他、魔法や錬金術、鍛冶師や木工職人、彫金師など専門技術を持つ人々が集まっている。俺とサイクス以外は全員女性だ。
「モノによる、としか言えない。どういう用途で使いたいのか教えて欲しい」
「いや、バリスタとかクロスボウの弦を引くのをゴーレム任せにできれば運用が楽になるんじゃないかと思ってな。ゴーレムってパワーがありそうなイメージがあるし、弦を引くだけなら命令も物凄く単純だろ? なんなら腕だけのゴーレムでもいいわけだし」
俺の提案に錬金術師達が唸る。
「斬新。普通、ゴーレムと言えば人型の人形を動かすもの。歩かせるだけでもバランスを取ったり、周りのものを認識して衝突しないようにしたりと色々と気を遣ってコアに術式を設定しなければならない。コースケの言う通り、ただ弦を引くだけ、何かを回すだけという用途に使うゴーレムならコアに書き込む術式は少なくて済む」
「素材の面でもかなりコストをカットできますね。単純な命令を書き込むだけなら安価な素材でもなんとかなるかもしれませんし、何かを引くだけ、回すだけというゴーレムなら大きさも抑えられるのではないでしょうか」
アイラとサイクスは俺の提案に前向きな意見を返してきた。
「実は、弦を引くのにテコの原理を利用したらどうかな? と思って設計図を書いてきたんだけど。これ、バリスタにも使えると思うんだよね」
ラミアの鍛冶師がそう言って一枚の設計図をテーブルの上に広げた。全員でその設計図を覗き込む。なるほど、クロスボウにレバーをつけて、テコの原理を使って弦を引っ張れるようにしてあるのか。レバーはクロスボウの上部につけることになるから、狙いづらくなるかな? でも照準器とかレバーの形状を工夫すればなんとでもなりそうだな。
「このレバー式のクロスボウはいいな。でも、個人の携行するクロスボウにゴーレム機構をつけるのはどうだ? できそうか?」
「流石に通常サイズのクロスボウにつけるのは無理だと思う。でもバリスタサイズなら問題ない」
「まずは今配備されているクロスボウやバリスタを改修する形で試作してみましょうか」
「資材に関しては鉄も木もまだまだ備蓄があるから、問題ないと思うぞ。ゴーレムのコアって何で作るんだ?」
「温熱器に使った銅とミスリルの合金で十分だと思う。ゴーレム本体の素材は魔力を付与した粘土と石材で試してみる」
鍛冶師と木工職人でテコの原理を使ったクロスボウの改修を、魔道士と錬金術師、彫金師でバリスタに取り付けるゴーレム機構の試作をすることになった。
試作品が問題なく使えるようなら、俺がアイテムクリエイションで量産を開始する。
例えば今回のケースであればクロスボウの改修キットや、彫金の済んだゴーレムコアの量産が俺の仕事になるわけだ。
元の世界やゲーム、アニメ、漫画で仕入れた知識を元に色々な新作アイテムの構想を提供するのも俺の仕事だな。
「コースケの発想は面白い。やっぱり私達とは視点が違う」
「確かに。今回のゴーレムの単純化というのも色々応用が効きそうですね」
「水車動力の代わりにゴーレム動力を使うってのも良いかもしれないな。問題は魔力のコストか?」
「うん。実際にどれくらいのコストで動かせるかというのも問題。本拠点なら脈穴から無尽蔵に魔力を汲み出せるけど、ここではそうもいかない」
「魔力を射撃手から提供したらいいんじゃないのか? 俺には使えなさそうだけど」
「なるほど、バリスタの弦を引くだけなら意外と消費も少なく済むかもしれませんね。吸収機構も考えてみましょう」
サイクスの言葉に全員が頷き、行動を開始する。まずはミスリルと銅の合金を球体に加工したゴーレムコアの素体(仮)をアイテムクリエイションでクラフト一覧に追加し、改良型作業台でいくつか作ってアイラ達に渡しておく。
俺は今回の改修案を持ってきたラミアの鍛冶師達のグループに加わって、改良型クロスボウの改修案の話し合いに参加することにする。魔法はさっぱりだが、こういう機械的な機構の話し合いならいくらかは役に立てるからな。
なんだかこっちのグループの皆さんから若干妖しい視線を感じる気がするが、気のせいだと思いたい。ラミアの鍛冶師さんの尻尾が他の人にばれないように俺の足をさすっているような気がするけど、きっと気のせい。他にも全体的に皆さんのボディタッチが多いような気がする。きっと気のせいだよな? そう自分に言い聞かせてふとサイクスへと視線を向ける。
彼は両脇を彫金師さんや錬金術師さんにしっかりと固められ、滅茶苦茶近い距離で話しかけられてタジタジになっていた。頑張れ……超頑張れ。俺はいざとなったらシルフィの名前を出せば大丈夫だけど、俺には君を助けるすべは無い。俺はなんて無力なんだ……。
話し合いと試作を重ね、クロスボウの改修はすぐに終わった。てこの原理を利用することによって連射性が上がり、威力は据え置き。機構も単純なので故障も少なく、レバーなどの部品も頑丈さ重視で作ったので今の所不具合は起きていない。
俺が使うにはちょっと重いし、そもそもコマンドアクションで簡単にリロード出来る分俺への恩恵は殆どなかったな。まぁ、それは仕方ないね。
バリスタ用のゴーレム機構は少し時間がかかったが、それでも五日ほどで試作品が完成した。こちらは効果覿面で、クロスボウと同じてこの原理を使った改修も組み合わせて驚異的な連射を行えるようになった。しかも一名で運用できるというおまけつきだ。
そんな感じで武装の改修が着々と進む中、ついに解放部隊の第一陣が最前線の砦に戻ってきた。メリナード王国の最新情報と共に。




